院生研修の帰り、飯島は3月一杯で6年に渡る院生生活を終えて大学受験に専念することを奈瀬に伝えた。プロ試験を外来で受けにくるつもりもないという。飯島が一度も勝てなかった伊角でさえ落ちつづけるほどプロ試験は厳しく、まぐれで合格できるようなものではないのだ。伊角の名前が出て、院生も九星会も辞めた伊角はどうしているだろうと奈瀬は呟いた。飯島は奈瀬に院生を辞めようと思ったことはないのか?と聞いてみる。奈瀬だってそう思うときはあるのだ。今回の院生試験合格者の和谷・越智・ヒカルはみんな奈瀬より年下。それに16歳の女の子だから遊びたい時だってある。「私も辞めちゃおうかなあ院生」と奈瀬の口からグチが出た。
次の日曜日、奈瀬は院生研修をサボった。飯島は奈瀬は今まで院生研修を休んだことはないのにと心配する。その頃奈瀬はてアイススケート場にいた。友達と友達の彼氏と、その友達の4人でのダブルデート。奈瀬に引き合わされた少年は、奈瀬がかわいいのですっかりその気に。奈瀬も少年は優しいし、ダメな相手ではない様子。友達のカップルは二人を気遣ってか、別行動をしようと言いだして奈瀬は少年と取り残された。スケートを切り上げて別のところに行こうと言いだす少年。映画やカラオケなど二人になれる場所に行きたがっていた少年だが、気が早すぎると思われては困るので、そういうのは次の日曜日でもいいし…と言いだす。奈瀬は来週もその次の日曜日もダメだと言う。脈がないのかとしょげる少年に「日曜日はいつも習い事があるから…」といい訳をする奈瀬。その習い事を聞かれて、「…碁」と言いにくそうに呟く。少年は奈瀬の機嫌をとるために、奈瀬が碁を打つところをみてみたいから打てるところに行こうと言いだした。繁華街の中の碁会所にやってきた二人。碁会所「道楽」の入っている雑居ビルの他の店舗は未成年は入れないいかがわしいところばかりだった。知りごみする少年に奈瀬は「繁華街の碁会所は雀荘と同じで大人の遊び場だから」と説明した。少年も「何かあったらオレが奈瀬ちゃんを守るから」と宣言をして碁会所に足を踏み入れる。
煙が充満している碁会所はコワモテのオヤジたちがたむろしていた。少年はすっかりビビっているが、奈瀬は平然と対局を始めた。奈瀬はなんとなく違和感を感じていた「日曜日」だったが碁を打ち始めるといつもの調子を取り戻す。いつも院生研修で碁を打ってる時間なのだ。めったにこないかわいい女の子をからかうような言葉をかけていたオヤジたちが、奈瀬が打ち始めると静まりかえってしまった。奈瀬を軽くみてあっさりとひねられてしまった土庄は次こそは本気でやると宣言する。一方、奈瀬は相手は楽勝だから自分のカッコいいところをみせちゃおうかな、とか考えていた。いかつい男たちが奈瀬の周りに集まってきて真剣に碁盤をみている。そんな中、平然と碁を打つ奈瀬。ひとりびびっている少年は、いたたまれなくなって帰ってしまった。
その夜、少年はダブルデートを設定してくれた友達からの電話を受ける。奈瀬は自分の付きあえる相手じゃない、大人の遊び場でも平然としていて手玉にとっているような少女なのだから。自分と同じ年なのにしっかりしてるよなあと関心はしながらも、少年がほしいのは日曜日に一緒に遊べるような女の子なのだ。
次の院生研修の日。飯島になぜ休んでたのか聞かれて「デートしていた」と素直に答える奈瀬。飯島は呆れてしまう。奈瀬はスケートのあと成り行きで碁会所にいって、いかついオッさんと打ったことを話したら、飯島は「……フラレたろ」と。「よくわかるね」と答えた奈瀬は、フツーの子と付きあうのは難しいし、当分院生でいると飯島に言った。
2週間ぶりの「ヒカルの碁」です。奈瀬ちゃんの話は最初に番外編の話が出たときに「今年の院生試験の補完となる話かなあ」と思ってたんですが、本編にはなんの影響も与えない話でしたねぇ。他の番外編もそうだったし、ほったさんは徹底して本編には影響のない話にするつもりなのかも。(アキラのは行間の補完という感じでしたが)
今回の奈瀬ちゃんの話は先週の予告「恋もしたい」をみたときに考えた展開からそれほど外れるようなものではなく、たわいもない話といえばそうなんですが、もうみれないと思っていた飯島くんを見れたのは嬉しかったです。話は作中で1年前の3月上旬〜中旬くらいかな? 伊角さんの行方はまだ不明だった時期ですね。
考えてみれば院生でいるということは学校が休みの時間を全部囲碁で潰されるわけで、友達ともロクに遊べないんだもんなあ… もっとも院生でいる子たちはそれを分かった上で選びとり、努力が実を結ばないことも覚悟しているはずですから。飯島くんにしても院生として囲碁に費やした時間は後悔していないようですし、これからは頑張って勉強して大学にいって、趣味として碁を楽しんでいってくれればなあ。
話戻して、遊べないのがかわいそうとは思うけれども、逆に考えるとダラダラ遊ぶよりも若い頃からすべてを犠牲にしてもいいと思えるほど打ちこめることがあるのは幸せなことかもしれません。
でも囲碁だけになると人間としての世界が狭くなっちゃうからなあ… アキラはもとより、名人とか緒方さんをみるとしみじみそう思います。まあバランスがとれてる人間ばかりじゃつまらないし、そういう尖がった人達もいてこそ世界はおもしろくなるわけで。…そういう人達ばかりでは困りますが…
奈瀬ちゃんにしても碁に対して真摯な気持ちを持ち続けるのも難しいのは無理ないことかと。「これでいいのかな?」と思ったときに友達のやってることがとても楽しそうなことに思えて。でも好きかどうかわからなくて「とりあえずカレシほしいなあ」程度で付きあうのは時間の結局は無駄なんですよね。(つきあい出してから好きになることもあるけれども) まあこれでよかったんでしょう。
予告をみたときに少し心配したのが既出の院生キャラとの恋愛を描かれるかもしれない…ということだったんですが、それはなくてよかったです。今まではっきりと描かれてないですから、キャラの恋愛感情は読者によってはそれを妄想補完しているので、原作で「後出しジャンケン」されると気持ちが萎えちゃいますから。
ジャンプ全体の傾向でもありますが、「ヒカルの碁」では恋愛要素は避けられているところがあります。わりとはっきりとしているのは、あかりちゃん→ヒカルと、市河さん→アキラくらいですし。緒方さんのあれはどうみても遊び。恋愛要素が少ないのはほったさんが苦手としているからなのか、それとも物語上必要ないからなのかははっきりとはわかりませんが。ただ恋愛感情を髣髴とさせる「どうしようもなく相手に惹かれる気持ち」はアキラとヒカルのライバル関係として描かれいて、それは物語の核ですから、場外で恋愛劇をすると焦点がボケるからかなあと思わなくもなかったり。
冒頭の飯島くんのセリフの「女だからか」には「女だったらいざとなったら結婚してダンナに養ってもらえればいいから気楽だよな」という女性蔑視な気持ちが透けて見えますが、これで原作者が男性だったら反感を買っちゃうかも。「女の子には自分より一歩後ろ下がっていてほしい」と思っている殿方は結構いますが、今回の奈瀬ちゃんのお相手の少年もそういうタイプかな。「守る」を連発するあたり、女の子は自分が庇護してあげなきゃという意識が見えます。ところが奈瀬ちゃんは守られるだけの女の子ではありませんから。でも奈瀬ちゃん自身はそのあたり無自覚なんじゃないかという気はします。囲碁は女流枠はあっても男性とも対等に打ちますし、しかもプロを目指すのであれば「女だから」といって甘くしてもらえる世界じゃないですもんね。しかも物語中では女流枠はシステムを単純にするためにないことになってるし。
男の子に混じって平気で行動できる奈瀬ちゃんだから、男の子と「対等」でいるのは当たり前。だからこそ「カッコいいところを見せよう」という発想になっちゃうんですが、「守りたいような女の子」が好きな男性には逆アピールになっちゃうんですよね。
飯島くんが冒頭の女性蔑視発言をしたのは、最後に「フラレたろ?」とすぐに見抜くことへ繋げるための前振りかも。飯島くんもあの少年と女性に対する見方は同じだからこそわかるんじゃないかということで。
奈瀬ちゃんは今後は出てこないんでしょうか。監修の梅澤先生もプロ試験に合格したのは成人後だし、夢を諦めないで頑張ってほしいものですが。
それにしても碁会所のゴツくて濃いオヤジたちの描写がすごかったです。さすがオヤジ描くのが好きなだけあるよ、小畑先生…
来週は三谷くんの話。「ヒカルと出会う前の衝撃事件」だそうですが、三谷くんのお姉さんはでてくるのかなあ?
情報関係。
4/4発売のキャラクターブックの表紙が載ってました。書き下ろしです。あの幻の「ワイルド塔矢」も掲載される様子。キャラクターの初期ラフとかも載るかも。楽しみです。また作中対局の棋譜や佐為の書き下ろしマンガも掲載。
ジャンプj-BOOKS「ヒカルの碁 Boy Meets Ghost」3月22日発売。表紙は小畑先生書き下ろしの佐為+ヒカル+あかりです。ヒカルと佐為の出会いから海王との対局まで本編のノベライズです。小説化するのはアニメの脚本も手がけている横手美智子さん。番外編的なエピソードの方が読みたかったので、本編そのままというのは少し残念でした。