ヒカルが中1だった夏。囲碁部の大会が終わって夏休み前の時、ヒカルは三谷に連敗して悔しいので囲碁部をさぼろうとしていた。そのとき、野球の球がヒカルに当る。野球部に怒鳴りこんで、自分ならうまくできると言い出したヒカルが打った球は将棋部の部室へ。冷たく怒りを顕わにしている加賀のところに謝りにいったところ、ヒカルの打った球が割った加賀愛用の湯呑を弁償しろといわれた。
町に出て通りかかった店で佐為が見つけたのはヒカルの手の届かない値段だった。その古美術商の店の外で立ち尽くしていたヒカルと佐為は、店の中から聞こえてきた「慶長の花器」という言葉に佐為が反応し、ヒカルも店に入った。店主らしき男が客に江戸時代初期に天才陶芸家・弥衛門によって作られた花器…俗に「慶長の花器」と呼ばれるが、それを客の男に勧めていた。店主は心の中で客をバカにしながら、笑顔で商談を進めている。佐為はその花器をみて、それは作が悪いニセモノであることを見ぬいた。虎次郎が慶長の花器には詳しく、佐為もよく見知っていたのだ。それが150万であると聞き、ヒカルもつい反応してしまう。そしてニセモノなのにそんな値段で売るのはひどいと店主に言った。自分にもみせてほしいと花器を手に取ったヒカルだったが、うっかり手から滑らせて落として割ってしまった。弁償を迫る店主にニセモノだからと、ホンモノはどうであったか佐為の言うとおりにヒカルは告げると、店主は子供のクセに目利きだと感心してニヤリと笑う。その毒々しい笑いは佐為の嫌いなガマ蛙そっくりで、佐為はブルブル震えた。その店主の言葉を聞いて客はニセモノだったと声を荒げる。店主は客をカモ呼ばわりし、この世には「目の利く奴」と「目の利かないマヌケ」の2種類しかいなく、自分は目の利く奴は好きだという。今回花器を割ったことはヒカルの目利きに免じて許してやると店主は言った。そのとき、店に他の客から怒りの電話が入ってくる。20万出して買った壷がよそでみてもらったら千円の価値しかないと言われたらしい。店主は納得して買ったのは客で、見る目がないのに骨董に手を出すのが分不応相だと冷たくあしらう。そこにひとりの少女がやってきて、店に飾ってあった花器を「おじいちゃんのだ」と手に取った。それは半年前に盗まれたものらしい。店主は自分は売りにきたものを買っただけだと言い張る。佐為はその花器を目にして驚いた。それは昔、宮中に虎次郎と共に一度だけ囲碁指南に赴いたときに見かけた「慶長の花器」だったのだ。
「返して」という少女に、安物だろうかタダで返すつもりはない、10万持ってこいといい放つ。店主は安物といったが、それはその慶長の花器の秘密に気がついていないからなのだと佐為は言う。店主に突き飛ばされた少女が店の茶碗を割ってしまい、5万円の弁償を迫る店主に佐為の怒りが爆発。奥の部屋に碁盤をみつけた佐為は、ヒカルに店主に囲碁勝負を持ちかけて5万をチャラにしようと言い出す。ヒカルはそれをダシに自分が打ちたいだけだろ…と見ぬいていたが。
5万円かけての囲碁勝負をヒカルは持ちかけ、店主は快く引き受けた。店主は5段の免除を持っている強豪。店主の毒々しい笑いに怯える佐為を心配したヒカルだったが「この男にはニヤリともさせません」と冷たくいい放つ佐為。対局は店主が黒を持って始まった。佐為と店主の力の差はあまりにも圧倒的で、中盤で大差となり店主は投了した。佐為は打ちながら、宮中にあった花器がなぜこんなところにあるのか、財政が苦しかったために誰かが処分したんだろうか…と寂しく思う。佐為も虎次郎も、あの花器をみたときにはあまりの美しさにその後の碁では気もそぞろになったものだったのだ… 佐為はあの花器の秘密をこっそりヒカルに伝え、この男にあの花器を渡したくないためさらに勝負を挑む。石の色もアゲハマも交換し、この大差の状況から逆転してみせようというのだ。逆転したらあの花器を少女に返してほしいというヒカルに、店主はそんなことできるわけないと勝負を引きうけた。そして見事に佐為は逆転勝ちをおさめた。「あんな花器返してやる」と捨てセリフを吐く店主に、ヒカルは花器の種明かしをした。客に頼んで、花瓶の水をこの花器に注いだ。おじいちゃんは大切にしまっていたと水が注がれているのをみて不思議そうに言う。佐為は、長い時を経て再びめぐり合った花器に感慨を覚えていた。
水が入った花器からは、花模様が浮かび上がってきた。花器は花を生けてこその花器、これは弥衛門最後の傑作だという。貴重な品だと知った店主はそれは自分の物だといい張ろうとするが、ヒカルは店主のさきほどの言葉を反撃。この世には目利きと目の利かないマヌケがいる。店主はそのマヌケの方だったのだ、と。
帰宅したあと、湯呑のことを思い出したヒカルは家の湯呑を母親に頼んでもらった。翌日、加賀にその魚の描かれた湯のみを渡したヒカルは得々と来歴を語っていたが、疑わしそうな加賀がひっくり返して裏をみたところ、寿司屋の名前が。「ふざけんじゃねー」と加賀は怒った。
この話、熱心なファンなら当然知ってるし、ジャンプを毎週読んでる人なら気がついたと思うんですが… 2001年のジャンプフェスタで上映され、この前全員プレゼントとなったアニメ「ヒカルの碁特別編 裁きの一局! いにしえの華よ咲け!!」の話そのものなんですね。(細部は微妙に違ってはいますが) このアニメの原案はほったさんだったそうですが、元々どの程度のアイデアを出されて、それをアニメスタッフがどうアレンジし、そしてほったさんは今回のマンガ化にあたってどういう変更をしたんでしょうか。アニメ→マンガの部分は見比べてみればわかりますが、それでもほったさんの初期アイデアがアニメにどの程度反映していたはわからないしなあ。
正直いうと、これが最後の佐為なんだから、私の知らない物語を読みたかったという気持ちはあります。でも、あの扉絵で満足したからもういいです。私はほったさんは読者のためにあえて「物語の隙間をわざと埋めなかった」のではないかとかんぐっておりますが、そうでなくても佐為について語るべきことは(6月発売予定の)16巻までで語り終わってるのは確かなのですから。あとの隙間の埋め方は読者それぞれの想像に任されているんでしょう。
それにしても扉絵は美しいですねぇ… ジャンプ公式サイトの予告で小さい画像をみたときから泣けて仕方ありませんでした。15巻の表紙で、一人舞う佐為と対となる絵なのでしょうか。佐為の顔が優しくて、ヒカルの笑顔が無邪気で、148局の夢での再会のシーンを思い出してしまいました。…美しいなあ。
本編の絵の方は、アクの強いオヤジ顔には力が入っていたものの、佐為やヒカル、他のキャラもいつもと比べると「小畑さん疲れてるのかなあ?」と思ったのは私だけでしょうか? 細かいことですが、ヒカルの顔がある程度の大きさ以上で描かれるときには瞳の下側のハイライトが必ず入れられているんですが、今回はベタで済ませている部分が多いんです。あと描線が全体的に太くて一本調子、いつもの微妙なニュアンスが消えているような。…うーん、これはタッチを少し変えてかいたのかもしれませんが。昔の方がアニメ絵的な太い描線で描いてましたから、それに合わせたのかも。
ヒカルの顔がちゃんと幼くなってますね。仁王立ちの加賀くんがカッコいいな〜。それにしてもあの学校で将棋部にもかかわらず、加賀くんは「怖い人」として名が通っているわけですか。
まずはアニメと今回のマンガとの違いから。(アニメ版の記憶があやふやなので間違いがあるかもしれません。すみません。)
(1)囲碁部での話
アニメでは囲碁部で三谷とヒカルが対局、ヒカルが惨敗のあと筒井、あかりを巻きこんでのトランプ対決となっていました。囲碁部がとてもいい雰囲気だった頃の話なので、このエピソードは嬉しかったのでした。その囲碁部に野球部のボールがとんできて…と、アニメではそういう展開でした。
(2)将棋部と加賀
アニメではヒカルが将棋部に打ちこんでしまったボールを追いかけていったところ、そこには人はいなくて、たくさんあるトロフィーの名前が「加賀ばかり」というのを見つけます。そのときに加賀が入ってきてヒカルに声をかけて…という感じでした。
加賀くんの恐ろしさ(?)は原作の方が静かな怒りが感じられて、いいですねぇ。
(3)「ガマカエル」
佐為がガマカエルを彷彿とさせる店主の笑顔に怯える描写はマンガだけです。キャラブックでの佐為の覧で「苦手なもの」に「ガマガエル」とかかれていたのはこの話のせいだったんでしょうか?
でも店主の笑顔に怯える佐為と、「ニヤリともさせませんから」と冷たく冴え渡る表情をみせる佐為のギャップがいいですねぇ。
(4)「ちさと」と「葵の君」
今回のゲストキャラの少女はアニメでは「ちさと」という名前がちゃんと与えられています。また佐為は少女に平安の時代に自分に懐いてくれた「葵の君」を思い出す…という展開に。
(5)「佐為が打ちたいだけ」
もちろん義憤にかられた部分もあるでしょうが、佐為としてはとにかく碁が打ちたい…というのも本心なんでしょう。ヒカルはそのあたりちゃんとわかってるわけで。
(6)佐為が花器を店主から取り上げようとした理由。
アニメではどちらかというと、「佐為にとっての懐かしい人の面影を宿す少女を助けてあげるため」だったんですが、原作では時や運命を超えて再会した、美しくも儚い花器に「虎次郎との思い出」も重ね合わせて、不愉快な人物の手元から救い出してあげたいという気持ちからではないかと思います。
(7)流転する運命
御所にあったはずの花器が町の古美術商の店に並んでいること… 本因坊秀策…虎次郎が生きていた時代というのは、ちょうどペリーが黒船に乗ってやってきてそりゃもう日本中大変でしたから。そんな花器の運命に、佐為が魂となって生き長らえる自分を重ね合わせることで深みを感じさせてくれる表現だったと思います。
(8)対局の描かれ方。
実はアニメの方が対局はじっくりと描かれています。あと碁石の交換ではなく、立って場所をかわっていました。この方がわかりやすいですもんね。
(9)架空
アニメでは本編のあとに今回でてきた焼き物は架空です、という注意書きが。
ストーリーはほぼ同じでも、ちょっとしたエピソードの付け加えで物語に深みを感じるようになるものですねぇ…
さて、今回も番外編恒例(?)の「ダメ大人」が登場。悪徳商売人を佐為が碁で成敗という構図は、地方の囲碁イベントでの御器曽プロとの対局で一度やっているので「同じネタかなあ?」という印象が強いんですが… 今回のオジさん、悪徳古美術商ではありますが、「騙される方も悪い」というのは一面の真実でもあります。骨董品や美術品は素人が投資や虚栄心を満たすために買おうとしてもロクなことはないんですよ。自分が気に入ったものを「この値段ならいいや」と思える無理のない範囲で購入して、しまいこむのではなく愛用して楽しむのならいいんじゃないかと思います。花器は花を生けてこそ、花器なわけで。
これで番外編は終了。いよいよ5月28日発売の26号から新章スタートです。5月末だったらぎりぎり春と言えなくもないのかなあ。
気になるのは、物語の時間軸がいつから始まるかということ。私は2002年3月、葉瀬中卒業式あたりからじゃないかと予想していますが、あんまり時間が飛ばされてほしくはないなあ…