第125局「佐為が消えた?」。目の前に佐為がいない。少し怒りながら、佐為を探して部屋のあちこちを探すヒカル。いない。腹を立てて寝ようとしてしまうけれども、じっとしてられなくて、家のあちこちを探し出す。窓を開けていたから風で飛ばされたのかな?と日本棋院に。「棋院にいないならどこに行ったんだよ もーっ まさかあいつ消えたんじゃ…」と今度は慌てておじいちゃんちの蔵に。あの碁盤の前にも佐為はいなかった。そして盤面を覗いたヒカルは、シミが見えなくなっていて驚く。何が起きたのかわからなくて呆然とするヒカル。その時やっとヒカルは佐為が「自分はもうじき消えるのだ」と叫んでいたことを思い出した。鼓動が高まる。「あれはどういうことだ!? まさか…!? 本当に消えた!?」ずっと一緒にいた自分に何も言わずにそんなことになるはずはない。胸騒ぎを押さえて、懸命に考えるヒカルだった。幽霊が消えるのは思い残すことがなくなった時。佐為はまだ神の一手を極めてないのだから、消えるはずはない。だったら部屋のどこかにいるはずだと自分の部屋にヒカルは慌てて戻った。
部屋のドアを開けても、そこには風が吹き込んでいるだけで、誰もいない。高まる不安。それでも「最近ふてくされてたし、どこかに行ってるだけだ」とヒカルは自分に言い聞かせていた。どこに…ヒカルは祖父に電話で、幽霊だったら自分のお墓や思い出のある場所に行きたがるのではないかと聞いた。佐為にはお墓はない。自分との出会いの場所である蔵にはいなかった。すると…虎次郎。秀策がらみの思い出の場所じゃないかとヒカルは思った。佐為はヒカルには文句を言ってたけども、虎次郎のことは好きだったし。佐為と虎次郎が出会った因島は広島にあり、東京からは日帰りが大変な距離にある。しかしまだ連休は1日残っている。一晩たっても佐為が戻ってこなかったら、ヒカルは因島に朝イチで出かけるつもりだった。
「絶対につかまえてやる」「突然何も言わず消えるなんて そんなこといやだ!」「いやだからな! 佐為!」
翌朝。駅に向かうヒカルの前に一台のタクシーが止まる。ヒカル行きつけの碁会所の河合さんだった。乗せてってやろうか?という河合さんの言葉に甘え、タクシーに乗り、東京駅に向かう間に因島に出かけることを河合さんに話すと、河合さんは車を会社に戻して、ヒカルと一緒に行くと言い出す。GWは働きづめだったせいもあってちょうど旅行に行きたかったらしい。
表紙のヒカルの少し惚けた顔が、一瞬の時間を切り取ったようで見事。風の表現もこれまた素晴らしいし。
ヒカルはそれまでの(少し異常な)日常が永遠に続くと思ってたんですよね。絆は絶対だと。まだ子供でかけがえのないものを失った経験がないから、穏やかな日常なんて危ういバランスの上に立っているものだとは知らなくて。
ヒカルは、最初は佐為は隠れてるんだと思って苛立ちをおぼえて、それが少しずつ不安に変わりながらも「そんなことあってほしくない」から懸命に打ち消そうとあれこれ自分に納得させる言い訳を考える。そのあたりの気持ちの変化の仕方や不安の高め方などのネームでの手腕は毎度のことながらお見事。
ヒカルは佐為がいなくなって落ち込むかと思ったんですが、その前にまず行動。やれるだけのことをやってあがいてみる。そういうところが黙って消えていった佐為との対比になっているような感じがします。
「絶対につかまえてやる」。そう、その心意気で捕まえてほしい。ここまで何週もかけて佐為の消失をやった上であっさりと佐為が戻ってきたら拍子抜けするけれども、それでもいいから。…戻ってきてほしいな。
それにしても。今回のヒカルのセリフ、佐為が消える前に佐為に伝えてあげてほしかったよ… ヒカルにとって佐為は空気のような存在。大切だけどもいつも一緒にいるのが当たり前だったから。そういう気持ちは言葉にしなくてもそんなものわかってもらえると思ってたんだろうなあ。でもちゃんと言葉にしないとわからないことは沢山あるわけで、佐為はそれで思い悩んだし、ヒカルだって佐為の気持ちを誤解したままに。佐為は秀策のことが好きだったのはたしかだろうけども、ヒカルのことだって同じかそれ以上に好きだったのだから。物語を俯瞰できる読者にはわかってるだけにもどかしいんですよね。
なんか今回の状況って、いきなり家を出ていった妻(佐為)となんで出ていったのかわからない夫(ヒカル)みたいな感じ。夫は、妻が前の亡夫(秀策)のことを忘れらないんじゃないかとゆかりの地を尋ねて…ですか。
さて、これで話は因島に。1年前にほったさんが京都から山陰、因島まで取材してたことが生かされるけですね…というか、伊角さんの合否にハラハラしてた頃にほったさんはすでにここまでお話を仕込んでたんですね… 河合さんがタクシーの運転手(しかも不良社員)というのもちゃんと意味のあることだったんだなあ。見事な構成にうなりながらも、所詮は神様・ほったさんの手のひらで遊ばされてるだけじゃないかという無力感も味わってしまいます。連載開始時点でどのあたりまで構想を持っていたのか、ぜひ知りたいものです。連載終了したらどこかでインタビューをやってくれないかなあ。
さて。ヒカルが因島にいったことで何かがかわるんでしょうか。物語としては佐為の消失→ヒカルの自立と成長となるでしょうから、佐為は帰ってこないんじゃないかと思うけれども。ヒカルの気持ちの何かが変わるのかなあ。次回予告は「広島・因島で何かが起こる…!?」「佐為を探しまわるヒカルが見つけたものは…!?」大増23ページだそうです。ヒカルの碁はページ増が多くて小畑先生毎回大変だなあ。