第139局「この一局から」。伊角の告白は続いた。去年のプロ試験、ヒカルとの対局で伊角は一度打った手を打ちなおすという「ハガシ」の反則をした。伊角が自分を許せないのは、その違反をしたときにすぐに負けを認められなかったこと、「ごまかせないか?」と一瞬でも考えてしまった心の弱さだった。それが苦い記憶となって今でも心に残っている。ヒカルとはあの一局が最後の対局となってしまった。だからこそ、プロ試験が始まる前にヒカルと一局を最後まで打ちたいのだ、と。伊角は中国で1日中囲碁漬けの若手プロたちと過ごして、あの中に入りたいという思いを一層強くした。プロ合格は目標だがゴールではない。「道」はずっと続いているのだ。トッププロたちも、ヒカルたちも… 戸惑い、「打たねェ」と繰りかすヒカルに伊角は穏やかに言葉を続ける。ヒカルがリタイヤするなら残念ではあるが、ヒカルの人生だから仕方がない。でも自分のために一局打ってほしい、と。
伊角の情熱にヒカルは対局をひきうける。「伊角さんのためなんだよ オレが打ちたいわけじゃないんだから」と心の中で佐為に言い訳しながら。もちろん、佐為からの返事はない。
一方、荻原雅彦九段と本因坊戦三次予選決勝で対局中のアキラ。7年ぶりの本因坊リーグ入りに向けて、ここは絶対に譲れない萩原。一方のアキラの心の中にいるのは…「進藤来い! ボクはここにいる!!」
伊角とヒカルの対局は、ヒカルは最初は「ワクワクしちゃいけない」と自分を押さえようと思いつつも、いつの間にか頭の中は盤上のことでいっぱいになってしまった。互いに死力を尽くした応手が続く中、共に相手が強くなったことを実感した。対局も佳境に入った頃、ヒカルが打った一手に伊角は苦い顔になった。そのとき、ヒカルは気づいてしまった。
伊角がふと顔を上げると、ヒカルの頬から一筋の涙が伝わっていた。ヒカルは誰ともなしに呟く。
「この打ち方… アイツが打ってたんだ こんな風に」
探しまわったけれどもどこにもいなかった佐為がいたのだ、自分の中に。
なんでかはうまく説明できないけれども、最後の方、泣けてしまいました…
ヒカルは自分が「神の一手」への遥かなる道で、佐為からバトンを受け取ったことがようやくわかりました。ずいぶん長くかかりましたが、かすかな希望をじわじわと絶望が侵食してゆき、心がマヒしてしまって初めて大事なものは自分の中にあるということを実感できるのかもしれません。
ヒカルの打つ一手が佐為に似ている、というのはヒカルが「佐為ならどう打つか?」というのを考えながら打つことがある、というエピソードからですね。それは第89局、そして第91局というプロ試験での和谷戦で描写されていますが、これが今回への布石であったわけで。…でもこの89局のサブタイトルって、「いつもいっしょ」なんですよ。今からするとタイトルだけでも泣ける… この時は佐為が未来にかすかな不安を感じるという逆説的なタイトルでありましたが、今週を読むと佐為の血はヒカルにも受け継がれてるという意味で「いつもいっしょ」とも思えるわけで。そういう二重の効果を狙ってのサブタイトルだったのかなあ。
これでヒカルはもう一度碁の道を歩くことになるでしょう。とりあえずは一段階はクリアです。でも、これでヒカルが救われたわけじゃないですから… だって、ヒカルが本当に求めているのは棋士として佐為ではなく、人格として…友達としての佐為なんです。佐為の新しい棋譜さえ見れればいいのではなく、佐為と一緒にいたいという思いが一番なんですから。大切な友達の切羽詰った気持ちを分かってやれなかった、相手の喜ぶようなことをやらせてあげなかった、ひどい言葉をぶつけてしまった…という苦い思いが消えるわけではないから。佐為と過ごした時間が自分の中にちゃんと残っているということがわかったとしても、笑顔を見たり声を聞いたりはもうできないのだもの。これについては、「時間」の解決を待つしかないのかなあ。時間さえたてば、ヒカルも昔のように無邪気に笑えるのでしょうか。
自分が「天才」碁打ちであるために佐為を消してしまったことは、ヒカルは分かってないんですよね。(自分が天才である、という部分について。なまじ周りにいるのが佐為やアキラ、名人などという抜きん出た人ばかりだから佐為と自分を比べて「オレなんかいらない」と思っちゃったんだろうなあ、と。) でも自分が碁打ちであるために佐為を消してしまったことは薄々は気がついてるんですよね… その上で、佐為の夢を自分が引き継ぐためにも碁を道を歩んでいく、となるのかなあ。
碁を通して佐為と近づけるということで、今までとは逆にヒカルが碁にのめり込みすぎないかと心配です。ヒカルが佐為に囚われたままだといずれまたその歪みがヒカルを苛むでしょうし、次のヒカルの成長は真の意味で「佐為からの卒業」になるかも。でもこれはずっと先の話でしょうね。
こうして、歩みをとめていたヒカルも、アキラの背中を追うことになりそうです。アキラもむやみにヒカルを追いまわすよりも、自分が全力で走ることの方がヒカルをひきつけることになるのだというのが分かってきたんだねぇ。
「ヒカルの碁」のゲームをやりだして少しは碁のことがわかるかと思いましたが…今回も私には実際に何をやっているのか、全くわかりません。それでもスピード感と緊迫感が感じられます。「強くなった――――」のあたりがシビれる。あとはヒカルの泣き顔が、気持ちがひしひしと伝わってきます。
それにしても、佐為は消えてから本編にも表紙にも一度も顔が出てきてないんですよね。ジャンプの表紙にはなっているけれども。いつか佐為の顔を本編でもみれることができたらいいんですが。回想シーンでもいいから。
短期的には。まず次週、ヒカルが呟いた「アイツ」というのが誰のことか、伊角さんは聞くのかどうか。まあ聞いてもヒカルが喋るとは思えないし。予告では「伊角との対決の先にヒカルは何を見るか!?」となっているということは、まだ伊角さんの話は続くようですが。
ヒカルがプロ復帰とはいえ、ここまで無断欠席を続けたからにはそれなりにペナルティがあるんじゃないかという気がします。そのあたり、どうなるのかなあ。
長期的には。これで物語の3/5位は終わったんじゃないかと。中盤戦も佳境、もうすぐ大ヨセ?というあたりでしょうか。
ここでいったん整理ということで、現在のところ残っている伏線を上げてゆきます。
・アキラとヒカルの追いかけっこ。
このふたりのライバル関係はすれちがいとおいかけっこに終始しています。ところがアキラもヒカルもプロという同じ土俵に上がった以上、対局は避けられないんですよね。とりあえずはアキラが4段に昇格すれば来年の大手合は初段(?)のヒカルとは対局はないでしょうし、タイトル戦の予選でも直接あたる可能性は低そうです。アキラが来年5月までに5段に昇格すれば、若獅子戦の出場資格は失うから、ヒカルとの対局はないでしょうし。
ちなみに昇段システムは囲碁アラカルトに詳しいことが載っています。アキラが大手合ほぼ全勝状態だったら、規定対局数にさえ到達すれば昇段できそうですし、物理的に来年若獅子戦まで五段昇格は可能じゃないかと思うんですが。…そうなると芦原さんはアキラにさっさと抜かれることになるか? かわいそうに。
これでまた1年は対局はないかも。
・saiの謎
sai関係は佐為が消滅した今、どうにも収拾はつかないんじゃないかと思いますが… ヒカルとしかコンタクトがとれない曖昧な存在である佐為が唯一リアリティを持つことができたのはネット上だけであるわけで、その佐為の痕跡がそのまま話からフェードアウトということにはならないと思います。ヒカルがsaiと繋がりがあるということを、名人も緒方さんもアキラも知ってるわけだし。ネット碁関係ももう一展開ほしいものです。そうなると、パソコン持ってて日本語ペラペラの楊海さんも絡んでくるかなあ。
・新しい波
旧勢力と新勢力の攻めぎあいは物語中で1〜2年のうちに描かれるかと。今も始まっていますもんね。ただ引退した名人がなんだかんだとラスボス状態でいるので、この部分のクリアをどうさせるか、だよなあ。
・佐為とヒカル
これは今回の話の感想で詳しく書きましたが。ヒカルが本当の意味で救われるためにはもうすこし何かがいるかなあ、と。最終回あたりで、ヒカルに弟子入りした才能のある子供が佐為の生まれ変わりだったとヒカルが気がつく…というようなベタな展開でもいいから、なんらかの救いがほしいものです。
・国際棋戦
日本が韓国や中国に押されている…ということが物語でも描かれているので、そのふがいない現状を「新しい波」が打ち破る、というエピソードはでてきそうです。秀英くんとか、あと中国棋院の面々とかも再登場はもちろんあるでしょうし。
・アマ碁世界大会
周平さんと言うキャラがいる以上、今年のアマ碁世界大会は話にでてくるでしょう。今回はtoya koyoとsaiの対局観戦者もたくさんくるだろうし、それが何かが繋がるんでしょうか? 物語中では8月中旬の予定。
・ヒカルと三谷くんの仲直り
ヒカルはこの分では進学しなさそうですから、卒業までになんらかの形での決着はつくと思います。
・門脇さん
今年のプロ試験挑戦者として名前が挙がってますし、物語に深く関わってくるのは間違いないでしょう。saiジャンクション状態のヒカルと対面で打ったことのある数少ないひとりとして、どういう関わり方になるのでしょうか?
・サブキャラ同士の因縁
名人と佐為は佐為の消失でとりあえずは終わり、ですか?
桑原先生と緒方さんですが、人間としての格が違い過ぎるので緒方さんが倒すのはまだ先かなあ、という気がします。
伊角さんについては、真柴くんと越智くんですか? 真柴くんは弱そうだからおいといて、越智くんは密かに快進撃を続けてるので、彼も物語に結構深く関わるキャラなのかも… アキラからヒカルの秘密(佐為とアキラの対局)も聞いてるしなあ。
とりあえずはざっと思いついたことを。これだけで描くのでもコミックスにして10冊はいるかなあ。作中で書かれる話はこれから2〜3年くらいまでじゃないかと思うんですが…アキラなら10代のうちにタイトルホルダーになってもおかしくないし。で、そのタイトルホルダーのアキラにヒカルが挑戦をして、勝つというあたりで終わりとか。
ほったさんのことですから、まだまだ波瀾はありそうな気がしますが、終局して「美しい一局だった」といえるような展開になってほしいものです。
今週のジャンプで、日本棋院主催の「ヒカルの碁 ジュニア入門教室」の参加者募集をしています。参加は無料だし(ただし交通費は自己負担)、オマケにグッズはもらえるようですし、梅沢由香里さんもくるみたいだし、参加したいけどなあ… 参加資格は18才以下。全然ダメダメです。ただし付き添いはOKのようですので、子供で申し込みして付き添いで参加するというのは可能のようです。