第152局「相手は七段」。
年が明けて。名人の経営する碁会所に北島がやってきた。北島は市河に、ヒカルが来なくなってからアキラが顔をみせなくなったがどうしているのかを聞いた。アキラはこの日、中国語教室の帰りに寄るらしいといった。アキラは中国語だけでなく、韓国語も勉強しているそうだ。ちょうどそのときアキラがやってきた。アキラは日中韓Jr.杯のためというよりは、これから先役に立つだろうと思って中国語や韓国語を習っているのだ。それから話題は北斗杯に移った。自信満々だったヒカルの態度を思い出しては腹を立てる北島。もうひとりの客が、あれは棋士としての意気込みからでた言葉でしょうとフォローすると、アキラも「そうですね。ボクもがんばらないと。気を抜いたら彼に置いていかれそうだ。」と答えた。「若先生」ファンの北島としてはそういう言葉は聞きたくなかったが、アキラは大丈夫、ヒカルと同じように自分も歩みを止めるつもりはないから、と落ちついた顔で答えたのだった。それでも北島はおさまらない。今週ヒカルは七段との手合いがあるが、北島はどんなものだかお手並み拝見するつもりだった。北島にはヒカルが北斗杯の代表になれるかどうかさえ怪しく思えるのだった。
木曜日の日本棋院。高段者の手合いは木曜に行なわれるが、初めて木曜日にやってきたヒカルは白川七段、篠田先生、森下九段などの知り合いをその中に見つけた。もちろん、アキラもいる。アキラはすでに木曜日の常連なのだ。ヒカルは四段以下で行なわれる一次予選を勝ち抜いて、やっと五段以上と戦えるようになったが、その楽しみにしていた初対局の相手がよりによってあの御器曽七段だったのだ。ヒカルの悪意のこもった視線に、御器曽は対局相手が1年前のあのトラブルのあった相手だったことを思い出した。御器曽も、あのときは油断していたからヤラれただけだと、「初段」相手に言いかえした。ヒカルは七段だからといって強いわけじゃないと言い放つ。段位はあがることはあっても落ちることはないのだ。いくら目上の相手でも、あんなサギを働いてる相手を敬う気にはなれない。「よく秀策のニセの字を見破ったな」とうそぶく御器曽に、ヒカルは今でも同じことをやっているのか?と問い詰め、御器曽は言葉を濁す。それを聞いて、ヒカルは「あんただけには負けねェ!!」と闘志を剥き出しにした。
北斗杯を主催する北斗通信システムにて。女子社員が室長に何気ない疑問をなげてかけていた。折角上場記念のイベントなのに、地味な囲碁の大会なんてみんなに興味を持ってもらえるのだろうか?と。室長は答えた。個人戦であれば囲碁ファンしか興味が持たないだろうから、団体戦にしたのだと。国同士が争う形になれば一般人にも興味を持ってもらえる、と。納得しかけた女子写真に、室長は日本が勝つ必要はない、むしろ勝たない方がいい、とまで言い放った。北斗通信システムはアジアへの進出を目指しているのだ。日本では人気がもうひとつの囲碁だが、中国や韓国では人気種目だから一般の注目度も高いのだ。そういう意図があって囲碁を選択した。社長も実行委員である室長も囲碁には全く興味はないのに。
ヒカルと御器曽の対局。御器曽は年をとってパワーで劣っても、テクニックでは負けるつもりはなかった。自分を舐めるな、あのときのオレは今のオレとは違う…という御器曽に、ヒカルの目の色がかわった。「…オレもあの時のオレとは違うんだ。ニセの署名で秀策を汚したアンタをあの時以上に今のオレは許せない」 盤上のケンカなら買ってやる、と。
物語中でもやっと2002年に。それにしても扉絵のバニーガールにはびっくりでした。あかりちゃんに胸の谷間が…成長したんだねぇ。あと四人それぞれタキシード姿はかわいかったです。いっそのこと、緒方さんのタキシード姿もみたかったな… それじゃ怪しくて青年誌になってしまうか。扉絵は塗りが大雑把だったのは少し残念でした。時間がとれなかったのかなあ。
先週の感想で、4か月も会えなくなって、アキラがヒカルのストーカーに戻ったりしないよね…?という失礼なことを書いてしまいましたが、そんな心配は無用でした。ちゃんと心通じているんだなあ… アキラはヒカルのいわんとしていたことがちゃんとわかっていて、そしてアキラは振りかえらなくても追いかけてきていることを知ってるから、前を向いて歩いているんだなあ、と。それにしてもヒカルが来なくなったらアキラも碁会所に顔をみせなくなったなんて、なんてわかりやすいんだ、アキラ… 北島さんはアキラの言ってることの表面的なことに納得しちゃってるけれども、読者にはアキラがもっと深いことをわかってるんだなあと伝わってくるあたりの描写がうまいなあ… ハデな展開はないものの、地道なエピソードの見せ方が抜群にうまくて、ついそういうのに感心してしまいます。でもこういう面白さはジャンプ読者の「少年」にはわかりにくいかもなあ、というのが少し心配だったりします。
アキラが中国語や韓国語を習い始めましたか。アキラは頭よさそうですから、すぐに日常会話レベルはできそう。で、正式な通訳はちゃんと別につくにしても、日本チームの面々の気持ちをちょっと伝える役割としての通訳はアキラになるのかな。これから国際棋戦での話がウェイトが重くなることからすると、それもなんらかの伏線になるんでしょうか?
それにしても。北斗通信システム、そういう意図があっての大会主催だったんですね。たしかに考えたなあ、若手の大会であれば賞金額はそれほど大きくなくてもかまわないし、韓国や中国では若手でも実力派が既に活躍してますから、知名度の高い「人気棋士」が出場することで話題になるし。ターゲットに応じた最大の費用効果を得られる手段を選ぶというのは企業としては正しい行動ではありますが… でも愛が全くないというのは… 「子供からみた大人社会の汚さ」じゃなくて、「リアルな大人社会の汚さ」を「ヒカルの碁」では何気に繰りかえし描いていますが、こういうスポンサーサイドの事情って「リアルな背景説明」というよりは今後の展開への伏線なんでしょうか。スポンサーが日本にはむしろ負けてほしいと思っていることがなにかのキーに? たとえば手合いのサボリのことのような態度が問題にされて、ヒカルの出場が危うくなるとか? いくらスポンサーはそうでも日本棋院にも意地はあるから強い人を代表選出するでしょうが、今回のヒカルと碁器曽との対局も、ひょっとしたらなにか悪い方向にいってしまうきっかけになるんでしょうか。考えすぎだといいんですが。
ヒカルの対局相手、先週予想として名前があげた中のひとりが的中はしたものの、それが物語にどういう意味を与えるのかがもうひとつ今の段階ではわからないんです。
囲碁は将棋に比べるとまだ年齢が高くても若い人と戦えるそうですが、それでも年と共に弱くなってゆくだけの「九段」も現実の日本囲碁界でもいて、それを問題視する人もいるとか。「段位と強さは比例しない」というのは二部に入ってから繰りかえし言われてることではありますが、こうはっきり「弱い高段者」のことを書いちゃって日本棋院の人は気を悪くしないんでしょうか… 話戻って。ヒカルが「最強の初段」であることはそういう従来の価値観が崩れていることの象徴の一つではないかと思います。「新しい波」は従来のランクつけをまさに覆すものですから。ただ「ヒカルの碁」のオヤジたちは一癖もニ癖もありますから、簡単にはやられちゃったりしないでしょうけど。
で、御器曽とヒカルとの対局。あの1年前の事件では、ヒカル自体はそれほど怒ってないんですよね。怒ってたのは佐為で、ヒカルは佐為の気持ちを大切にするために筋を通した、という方が近いのではないかと。佐為がいなくなった今となっては「秀策」は佐為に繋がる大切な思い出ですから。「…オレもあの時のオレとは違うんだ。」というヒカルに、自負だけではなく癒しきれない痛みまでも感じたのは私だけでしょうか。あの時打ったのは佐為で、もう佐為はいないのですから。
この対局自体はヒカルが勝つのではないかと思います。問題はそれが物語にどう影響を与えるかということ。負けた御器曽が挑発、ヒカルが手を出してしまい、謹慎処分→北斗杯の予選に出場できなくなるかも?、とか。北斗杯の主催者側の温度の低さからすると、それ絡みの話になりそうな気はしますが。…そういえば、北斗杯が5/4-5って、佐為が消えてちょうど1年になる日ではないですか。なんだかしんみりとした気持ちになりました。
でも北斗杯がこの日程だったら、アキラもヒカルも若獅子戦に出場できますね。若獅子戦は5月の連休の次の週末に開催されますから。二人の公式戦での2度目の対局がそのときに実現するんでしょうか。