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【ヒカルの碁 つぶやき。(3)〜伏線の話。】 03/03/31


「ヒカルの碁」を読んでて、特別におもしろいなあと思う時は… 何気なく打たれているように見えた石が、ある意外な一手によって突然つながってしまい、しかも一度打たれてみるとそれ以外の手は思い浮かばなくなってしまうような一手…そんな感じで伏線が思いもよらない形で、きれいにつながったことがわかった瞬間でしょうか。そんなときは、ミステリの解決編に驚かされた時と同じような気持ちを味わうことができたものでした。
でも「ヒカルの碁」自体は、どんでん返しが頻繁にあるような物語ではなくて、ほとんどは順当な展開が続いて、時折肩透かしを食らって、あっと驚く展開があるのは数巻に一度くらい。
昔の黄金期のジャンプマンガのように、「毎週クライマックス」がある作品ではないから、週刊誌で読むと順当なだけの展開に苛立つこともあります。私のような熱心なファンでさえも。「ヒカルの碁」自体はコミックスを意識したエピソード構成になっていますので、コミックスで読む方が適した物語だとは思うのですが、でも逆にコミックスではあまりに流れが美しすぎて、さらりと読み流してしまいそうなのがなんだかもったいないんですよね。

で、具体的に連載当時の展開で「がっかりした」ところと、「びっくりした」ところをあげてゆきます。
ちなみに私がジャンプでリアルタイムで読み出したのはアキラの「目隠し碁」あたりで、今から思えば最初の方をリアルタイムで味わえなくて残念でした。

まずはがっかりしたところ。時系列順に。
(1)中学囲碁大会
せっかく佐為とアキラの久しぶりの対局だっ!!と思ったら、ヒカルが途中から打ち出しちゃって、アキラには「ふざけるなっ」とか言われちゃうし。三谷くんも岸本さんに歯が立たないし、筒井さんも負けちゃって3タテでしょぼん、でした。
あのヒカルが打ち出した瞬間が、物語の重要な分岐点だったとは当時はまったく気がつきませんでした…
(2)夏休みとともにネット碁は終わり。
ネット碁のエピソードは読んでてワクワクしました。ヒカル以外に見えない佐為が、ネットを通じて「最強の謎の打ち手sai」として確かな存在感を持っている。世界中がsaiの噂をしている。そういう状況がおもしろかったんです。それが夏休みと共にネット碁はあっさりと終わり… もっと読みたかっただけに、当時はがっかりしたものでした。 …あのまま、ヒカルがネット碁を続けて、佐為にもずっと打たせてあげていれば、佐為は消えずにすんだのでしょうか。考えても仕方ないことですが。
(3)院生に入ったときのヒカルの失言。
あの、アキラが自分をおいかけて囲碁部の大会まで出た、とヒカルがうっかり口を滑らせたこと。当時のヒカルの実力からすると、あの言葉で逆にヒカルは悪い立場に追い込まれそうで、読んだときに「わー、なんてこというんだ!!」と思ったものでした。実際、必要以上に注目を集めて警戒を受けて、実力が判明したら逆に「嘘つき」扱いされて侮られて… それでもヒカルが人懐っこい性格のせいか、和谷くんの世話焼きのせいか、ヒカルはすんなり院生メンバーに溶け込めたのはよかったんですが。
でも、まさかあの一言が回りまわって伊角さんの「アテ間違い」につながるなんて、当時わかるわけがないじゃないですか。それ以外でも、今でもあの当時の「噂」というのが尾をひいてるところありますし、当時には思いもしなかった、息の長い伏線になっています。
(4)プロ試験予選。
ヒカルが全然冴えなくて、読んでてイライラしたものでした。当時のヒカルの経験の浅さからするとそれは無理のないことで、それがあったからこそプロ試験での快進撃が生きていたわけですが。
また、予選でもたついたからこそ、碁会所めぐりにつながったんですし。
(5)プロ試験終了。
伊角さんの落ち方があまりにひどかったので… あれじゃヒカルとの勝負においては納得のいかない結果のままなので、せめてプレーオフできっちりヒカルと伊角さんは白黒をつけてほしかった。次の週のヒカルの「あきらめちゃったかもしれないのに」発言にもムッとしたなあ。
今から思えば、あのときにすっきりしない結果だったからこそ、ヒカルが、佐為に戻ってきてほしいと願った「碁を打たない」という誓いを破ってでも、伊角さんと打つことを引き受けたんですよね。
(6)ヒカルの新初段戦。
夢の塔矢行洋対佐為が実現したのに、あっさりとわけのわからない終わり方をして当時はがっかりしたものでした。その前後のヒカルと佐為のケンカもイタいばかりでしたし。でも、この対局がああなったからこそ…
(7)ヒカルの最初の大手合、アキラとの対局がお流れ。
せっかく期待してたらあっさりと対局は流れてしまって… 名人が倒れたのにびっくりしたものの、それ以上にがっかりしたものでした。でも、ああやって早めに二人の対局の機会をつぶしておくことが必要だったのは今ではわかるんですけどね。
(8)緒方さんと佐為の一局
月明かりだけを頼りに、ひっそりと打たれる一局…というシチュエーションはよかったものの、あれだけいろいろと伏線があって期待させた緒方さんと佐為の一局は、緒方さんが酔っ払ってダメ碁になっちゃったという、残念な結果に。私は緒方ファンだっただけに、佐為がらみの緒方さんの伏線に過剰に期待しちゃったので… これは未だにどういう意味があったのかがわかりませんが、まだ作中であれ以来ヒカルと緒方さんは会ってませんから、二人が会ったときになんらかのエピソードに発展するのではないかとは期待してるんですけどね。

次は「びっくりした」ことを。
(1)ブラックコーヒー。
本屋でヒカルが岸本くんと会ったときには驚きました。もう出番はないと思っていたので。結局的に彼がヒカルを院生試験に進めるきっかけになりましたが、さらに「ブラックコーヒー」の一件で彼が元院生、しかもずっと2組でくすぶっていたという二段落ちがきてびっくり。後から思えば、岸本くんはアキラと対局したときに「プロをあきらめて正解だったよ」と言っていたんですよね。ヒカルからみて強い存在だった岸本くんですら、一度1組にあがるのが精一杯だった、とヒカルが立ち向かわなければならない壁の高さを見事にみせたエピソードでした。でもそういう事情を考えると、岸本くんのアキラに対する複雑な思い、ヒカルに感じる苛立ちというのもよくわかるんですよね。
(2)オレの名は。
碁会所で秀英くんとヒカルの対局が始まったときは、「将来の日韓戦の伏線として、海外のライバルの顔見せかな」くらいにしか考えてませんでした。そこにユン先生がやってきて、「ユン先生経由でアキラにも対局内容を伝えるために、ユン先生は韓国人だという設定だったのか」と驚きました。でも、実際はもっと意外な展開に。ユン先生は今のヒカルが「佐為として打ったヒカル」と同じだと認めることで佐為の存在不安へのトリガーとなりました。コミックス2巻の時点でユン先生は韓国人だとわかりますが、あの当時からこれを考えて設定してたのか??と驚くばかりで。
しかもこの対局は、アキラを通じて越智くんに揺さぶりを与え、それが伊角さんにまわりまわってあの「アテ間違い」になるんですから…
(3)アテ間違い。
プロ試験の行方は、やはり伊角さんがどうなるかが一番気がかりでした。実力はあるのに気が弱いという描写が何度もされて、「今年も落ちそう」オーラが漂ってましたから。それに反して、どんどん美しくなっていく伊角さんがすごかったなあ…
中盤までは順調にきていた伊角さんが、突然落ちてしまった心の隙間。ヒカルが院生に入ったときの失言ゆえに、最初はヒカルを警戒して、そのあと反動で侮ったこと。それだけに、「あの噂は本当だったのか?」という気持ちで大きく揺れてしまいます。それを裏付けるような、秀英との対局でのヒカルの会心の一局。真正面からの戦いで負けるのではなくて、自滅に近い形になったのは「伊角さんらしい」のですが、まさかこういう展開になるとは思ってもみませんでした。
(4)名人引退。
いきなり引退を条件に持ち出した名人には、本当に驚きました。だって、もし名人が負けてしまえば、ラスボスだと思っていた名人が、いきなり勝負の場から消え去ることになってしまうじゃないですか。ヒカルやアキラの手がまだ届かない状態で退場させるわけないよね?と半信半疑で。
今から思うと、塔矢先生は引退して自由になったことで、世界の囲碁界を揺さぶる「天元」の働きをすることになるんですが。最初からほったさんは日本だけではなく、世界を舞台にすることを考えていたのかも。
(5)千年の答。
きっと連載終了ぎりぎりに行われると思っていた、佐為と名人の頂上対決が早々に実現したことをいぶかしく思ってたんですが、まさかそれにこういう意味があったとは。あの一瞬は、佐為にとっても世界の意味がひっくり返った瞬間だったのでしょう。それまで佐為や名人やアキラが圧倒的な強さを印象つけていたのに比べると、どうも当時のヒカルはもうひとつぱっとしませんでした。それが、このときに物語の中心はヒカルにあることを改めて思い知らされたものでした。
(6)さよなら。
佐為が消えることは、当時の連載状況から避けられないごとだとわかっていましたが、でも何も言わずに、夢から覚めるようにふっとかき消えるとは思いませんでした。せめて佐為がヒカルに気持ちを少しでも伝えていれば、ヒカルもあそこまで苦しむことはなかったのに。ヒカルの苦しみは物語上必要だったことはわかっていますが、それでも…
(7)キミの打つ碁がキミのすべてだ。
アキラがヒカルの謎の答えにたどり着いたとき。ヒカルはどう反応するのか、アキラはどうするのか、第147局を読んだ後でいろいろと考えましたが、まさかあのアキラが謎の追求を放り出して、そのままヒカルをまるごと受け入れることになるとは。そしてそのまま第一部完になるとは、思ってもみませんでした。一度物語を知ってしまうと、それしかありえないと思えるようになってしまうんですけどね。

思いつくままにあげてみました。当時、「がっかり」したことが後から振り返ってみると、もっと後のために必要な展開だったりしたんですよね。それなら、現在も残っている「がっかりポイント」の緒方さんと佐為の中途半端な対局も、これから先その意味がわかるようになればいいんですが。


「ヒカルの碁」関連情報。
ジャンプ公式サイトの今週の壁紙コーナーに「ヒカルの碁」のイラストが。コミックス19巻にポスターとしてついていた、海辺で遊ぶヒカルたちのイラストです。
コミックス21巻は4月4日発売ですが、表紙は永夏単独。ジャンプに表紙が小さく載っていましたが、あれをみるかぎりでは永夏も普通の人っぽい… 永夏といえば、睫ビシバシで、高慢な笑顔で見下ろすというイメージがあるだけに(そういうところが素敵なんですが)。コミックス21巻収録の話では、まだ永夏は本性(?)を見せていませんから、普通の表情になったのかもしれませんが… とにかく、書店で手に取るのが楽しみです。
5月7日発売の「赤マルジャンプ」に小畑先生書下ろしの「ヒカルの碁」ポスターがつくそうです。楽しみ。


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