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【ヒカルの碁 つぶやき。(4)〜「北斗杯編」雑感】 03/05/26


「北斗杯編」についてあれこれ考えたことを箇条書きに。疑問ばかりで結論がないです、すみません。

その前に。連載終了して1か月が経ちます。ヒカルは自力で佐為と同じ答えにたどりつき、終わりなき道を進む覚悟を見せてくれたのですから、それでいいのかもしれない…とやっと思えるようになってきました。それでもまだ…「残念」という言葉は「念を残す」と書くのだと今更ながらに気がついたのですが、「あれから先を見たかったなあ」という思いはまだ残っています。


■おそらく、あらかじめ決まっていたこと。

テーマに関する流れ:「十九路の闇」→「神様の百万年計画」→「遠い過去と遠い未来を繋ぐために」
ストーリーライン:誤訳→永夏に噛み付くヒカル→自分より格上の相手の、勝てそうにない相手に負けられない戦いを挑む→負けて悔しい思いをする

第二部連載が始まったときには、上記の構想はわりと細部まであったのではないでしょうか。「週刊碁」の記者が天野さんから古瀬村さんに代わったのは、天野さんではあのような誤訳に基づく誤解を起こさないからでしょうし。
北斗杯以降の話…三星火災杯に関する具体的な話や、塔矢行洋の「天元としての役割」のことなども、ある程度構想があったのではないかと私は考えていますが、最初から北斗杯で話を終わらせるつもりだったかどうかはやはりよくわかりません。

■天元としての塔矢行洋
「北斗杯編」で物語が完結するのであれば、ずいぶんとエピソードのバランスが悪い話となります。その原因は、「北斗杯以降」の展開に深くかかわる塔矢行洋の動向…天元としての彼の動きが囲碁界を波立たせる、その序章部分しか描かれていないエピソードのウェイトが大きすぎることではないでしょうか。もしあの先に物語があるのなら、このエピソードは日本の囲碁界の「国際化」と「オープン化」にいずれは繋がる重要なエピソードになっていたと思います。
「北斗杯編」ですっきり完結させるために、「北斗杯」と「新しい波」だけに話をしぼるのであれば、塔矢先生の動向についてのエピードを減らしたり、伝聞形(アキラや囲碁記者からの)で済ますこともできたはず。
もちろん塔矢先生のエピソードは「北斗杯」本編にも関わっています。「強さだけが存在の証」はヒカルの佐為の強さを証明しようとする行動と響きあっていますし、楊海さんの「(saiは)なんのためにこの世に現れたのだろう」という疑問によって読者に佐為が消えたときに考えたことを思い出させ、ヒカルの「答え」が佐為の「答え」と同じものであったと分からせる…というつながりはあります。でもその役割に対しても、エピソードのボリューム・強さが大きすぎるんですよね。
そのアンバランスさの理由は、
・物語のバランスを崩してでも、どうしても書きたいエピソードだった。
・この時点ではもっと先まで連載を続けるつもりだった。
・「物語を閉じたくなかった」ためにわざと広がりのあるエピソードを追加。
あたりが私が考えた理由ですが、実際はどうなのかはわかりません。いずれご本人の口から語られることがあるかもしれないし、ないかもしれません。

■saiの謎
あそこまで「ほぼ正解」のネタが振られて、その後の展開がないまま終わったのは残念でした。
アキラが無理矢理封じ込めた疑問。ああやって一度沈んだはずの謎がもう一度浮上して、結局どこにも繋がらないまま。物語の先があるとすれば、大きな意味を持った疑問だと思うんですが。
そのsaiの謎を求めるアキラの行動も、saiとの対局を期する名人の行動も、「過去と未来を繋げる」行動の一つであるのは確かとはいえ…
謎の答えがでるのは、作中で少なくとも数年後でしょうから、この段階で結論を知ることができないのは仕方ないんですけどね。
ヒカルが佐為の答えに自分の力でたどり着いた、それが「北斗杯編」で大切なことであって、saiの謎自体はメインの要素ではないのかもしれません。

■成長の踊り場
「北斗杯編」の話について考えていたとき、海王中の囲碁部に勝てるかもしれない力を付けたときに、物語のステージが強制的に「院生」に移された時のことを思い出しました。あのときと同じように、強制的に"次のマップに飛ばされた"ヒカルは「北斗杯」で自分より格上の永夏と自らの矜持のために戦うハメになってしまいました。
「ヒカルの碁」での対局結果は実力どおり順当になるものがほとんどです。そうでなければ、伊角さんのアテ間違いのように、なんらかの理由が示されます。その中で番狂わせだったのはヒカルと秀英との対局くらいではないかと思うんですが、あの対局がその後に及ぼした影響は大きかったんですよね…
それを考えると、北斗杯はヒカルにとって「試練」の場で、悔しい思いをして、それを乗り越えて成長するのだろう…と予測していました。だからヒカルが永夏に負けること自体は納得がいくものなんですが、その後の成長した姿を見ることができないのが寂しいんですよね。

■ヒカルに足りないもの。
森下先生との対局の後に描かれていた、「ヒカルに足りないもの」は修羅場をくぐった経験の数なのではないかと思います。
佐為がいくらすばらしい先生であっても、佐為との対局だけではヒカルは強くなれませんでした。ヒカルが院生になったのはさまざまな対局で経験を積むため。また、プロ試験予選でヒカルが躓いたのも経験のなさからで、碁会所めぐりでその経験を積んだことでヒカルはプロ試験本選で自分の実力を発揮することができました。
今のヒカルに足りなかったものは、もっと上のレベルでの「経験」なんでしょう。自分より格上の一流棋士と、本気の勝負を行った経験がヒカルにはあまりありませんでした。北斗杯のたった二戦でも、ヒカルにとっては大きな糧になったはず。そして、日本のトップ棋士と堂々と渡り合えるようになったヒカルの姿がみたかったなあ…

■三星火災杯
17巻のネームの日々43で、ほったさんが三星火災杯の担当者に取材した話をしています。
作中では、第150局で倉田さんが安太善さんに負けた棋戦として三星火災杯が登場していますし、第168局で塔矢先生がシード権を得た話が出ています。で、この三星火災杯はオープン棋戦でして、段位の低いヒカルでも出場権があるわけです。だから、北斗杯のリベンジのためにヒカルが三星火災杯の予選に参加する話になるんじゃないかと予想してたんですが…
あれだけ棋戦の名前が出てきた以上、(描く気があったかどうかはともかく)「北斗杯」以降でのなんらかの構想はあったのかもしれません。

■親子関係の変化
「ヒカルの碁」ではあまり親子関係がクローズアップされることはありませんでしたが、この「北斗杯編」では日本代表の3人についての三者三様の親子関係のエピソードが出てきます。
「サラブレッド」として生まれたアキラは、この設定のキャラにしては珍しく「あまりにも偉大すぎる父親」の影に苦しむことなくすんなりと精神的な独立を果たしたわけですが、それでも父親から離れるために一人暮らしを考えたこともあったわけで。塔矢先生とアキラの場合は、親子である以前に互いを一人の棋士として認めているところがありますから、深刻な摩擦は起こりそうにありません。
社くんの場合は、親に棋士への道を反対されていますが、あえて家にとどまって長期的に説得を続けるというしんどい道を選ぶというのは偉いなあ、と。北斗杯では父親は会場にきたものの、考えを変えることなく帰ってしまいましたが、親もいい加減な気持ちで反対しているわけではないですし、社くんにしても親の説得は長期戦を考えているだろうし、今回の北斗杯編で解決しなかったのは仕方ないんですよね。
そして、ヒカル。美津子さんは囲碁のことは何もわかっていませんが、ヒカルのことを心配して、なんとか役に立ちたいけれども必要以上に踏み込んではいけないことも分かっています。ヒカルは美津子さんに甘えているんだけども、囲碁の部分については親に相談なく自分で突き進んでいって、それについては美津子さんの好意を邪険に扱っているところがありました。そんなヒカルも、社くんの話を聞くことで、美津子さんへの態度を微妙に変えます。いい感じに変化があったのに、美津子さんはいたたまれずに帰ってしまうハメに…
親子関係の変化については、劇的に変わるのではなくて、長期的にゆっくりと変化していくのでしょう。変わったその先もみてみたかったです。

■成就した予言、未だ成就してない予言
「彼がそれほどの打ち手なら遅かれ早かれいずれ我々棋士の前に現れることになる」→成就
「新しい波」→現在進行形
「夏には頭角を現してくるかもしれない」→成就
「いずれ囲碁界はアイツを中心に回り始めるじゃろ」→これはまだこれから。
「北斗杯に出て来る者達とはいずれ戦うことになるさ 必ずどこかで」→みたかった…
すぐに思いついたのはこれだけですが、他にも予言めいた言い回しはもっとあったはず。
永夏の「2年で世界のトップに立つ」という宣言も「予言」として成就するものだったのかな。

■高永夏という人。
永夏の名前は、第113局、塔矢名人とsaiの対局が行われているとき、アキラが参加していた若手の研究会で「中国の劉安と韓国の高永夏の一局を検討してた 春蘭杯の」という形で初めて登場しました。そのあと、第146局で「連勝記録を更新している」「16歳」であることが明かされています。
初めて名前が出たときには、キャラの詳細…あの容姿であの性格…はさすがに決まっていなかったと思いますが、韓国若手トップくらいの設定はあったのかもしれません。
永夏いえば「睫毛」というくらい、登場するたびに睫毛が増えていったものですが、ほったさんの最初のネームでは永夏はどんなキャラだったんでしょうか…

■社清春という人。
社くんの登場は、ある程度「噂」の形で先に出てきたものの、わりと唐突な印象がありました。北斗杯の予選は、現在の18歳以下のメンバーではヒカルが圧倒的すぎるので、その対抗馬としてのキャラ導入だったのかなあ、と。それに既出の18歳以下のキャラでは、テンパってるヒカルや「進藤進藤進藤」状態のアキラに食ってかかることができる人はいませんから… それでも北斗杯本番に入ってからの社くんはもうひとつ見せ場がなくてかわいそうでした…三将戦の対局風景ももう少し描いてほしかったです。

■便利な男。
倉田さんに「ベンリな楊海」といわれてましたが、楊海さんは「ヒカルの碁」という物語上で使い勝手のいい、一番便利な男ではないのでしょうか。
語学に堪能だけではなく、精神的なバランスの取れ方も「ヒカルの碁」のプロ棋士の中では随一ですし。楊海さんは気配りもできるだけでなく、相手の機敏を読んだ上で交渉ができる人。囲碁バカばかりでてくるあのマンガでは、一番精神的に「大人」です。
多くの能力が与えられているかわりに楊海さんには「圧倒的な棋力」は与えられていません。力のある棋士の一人ではあっても、「トップ棋士」ではないんですよね。(伊角さんは最初楊海さんのことを知らなかったし)
楊海さんに関しては、大きな心残りが一つ。囲碁プログラムの話は、結局どうなったんでしょうね…

■数ヶ国語を話せるプロ棋士(確定)
楊海(中日韓英)
塔矢アキラ(日中韓)←アキラなら英会話くらい大丈夫そうですが。
王星(中日)
徐彰元(韓日)←中国語は喋れません
緒方精次(日英)
李(中日)←篠田先生のように、プロ棋士だと思うのですが
洪秀英(韓日)
このうち、王星さんだけは日本語を喋れることの意味が全くありませんでした。それ以前に、出番自体が1ページしかありません… その王星さんが「中国No.1棋士」であるという設定からして、国際棋戦での活躍があると期待してたんですが。あのときに出番あったのは、「後で出すかどうかはわからないけれども、とりあえず顔見世しておくか」くらいだったのか、北斗杯編で出す予定だったのが変更になったのか、三星火災編で出すつもりだったけれども描かれることなく終わったのでしょうか?

■本格的な登場を期待させて、出てこなかった人(一部)。
・畑中さん。現名人なのになあ… 顔は出てきていますが、本格的な登場がなく残念でした。
・王星さん。中国のトッププロで、日本語も喋られるという設定があったのに…
・華松力さん。同じく若手で中国トップ棋士なんですよね。
・台湾の才能ある子。新キャラだろうと期待してたんですが。


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