第20局「プロへの道」
岸本はいきつけの碁会所にヒカルをつれてきた。岸本が知りたかったのはヒカルの「本当の実力」。岸本はヒカルに対局を持ちかけた。ヒカルもあの大会の頃とは違う、今の力をみてもらおうと気合いをいれて打った。しばらくしてまだ対局途中であるが、岸本はヒカルの対局の内容をほめた。海王中囲碁部の副将くらいの力はあるという。しかし、アキラがヒカルをライバル視していたほどのものはあるとは思えない、と岸本は言う。あれはアキラがヒカルの実力を勘違いして、勝手に幻滅しただけだ…とヒカルが言い訳すると、岸本は「それで幻滅されて終わりなのか?」と言い出す。「キミは塔矢を追わないのか?」
ヒカルにとってアキラはいつか追いつきたい遠い目標ではあった。しかし岸本からみると、ヒカルとアキラでは、目標に向かう意気込みがあまりにも違いすぎる。アキラは海王中囲碁部で、ヒカルと対局をするためになりふりかまわず必死だった。
岸本はヒカルにアキラがプロになったことを告げる。きょとんとするヒカル。ヒカルはアキラがプロになるのはずっと先の話だと思っていたのだ。そんなヒカルに、岸本は突き放すかのように「今死にもの狂いで追う気がなくて、彼に追いつけるはずがない」といい放つ。
そんなことを言われても、アキラが追ってたヒカルは「佐為」なのだ。ヒカルの実力は今の状態がやっとなのだ…
岸本が優勢のまま、対局はとりやめになった。岸本と碁会所のマスターとの会話で、アキラがプロ試験の初日、8月の最後の日曜日は不戦勝だったことをヒカルは知った。8月の最後の日曜日は、saiとakiraがネット対局を行なった日だ。回線の向こうに感じたアキラの気迫、そしてそのあとのネットカフェにアキラがやってきたときの出来事… アキラのあの情熱をヒカルは思い出した。そして、意気込んで碁会所のマスターにプロ試験の受け方を質問する。プロ試験は1年に一回、次は来年の夏だ。その前に力をつけるために、日本棋院で院生として修行を受けた方がいい。岸本は「今のキミでは院生だってとても無理だ。」と呟き、去って行った。
ヒカルは帰り道、アキラを必死でおいかけることを誓った。ダメと言われても諦めるつもりはない。アキラだって怖がりながらも必死で佐為をおいかけていた。だから自分も… アキラとの力の差、次の目標が見えてきた。今度はヒカルがアキラを追う番なのだ。そんなヒカルを佐為は優しく笑ってうけとめる。
一か月後、ヒカルは院生試験の受け方を聞くために日本棋院を訪れた。申しこみ期限が過ぎたからダメだと告げる事務員にヒカルは食い下がっていたが、そこにたまたま通りかかった緒方九段の口添えでなんとか受けることができるようになった。緒方もヒカルが何者であるか、それが気になっていたのだ。ヒカルは申しこみ手続きを聞いたが、必要とされる棋譜は名前すら聞いたことがない状態だった。
碁罫紙を買ったヒカルは、囲碁部で筒井か三谷に書き方を教えてもらおうと思っていた。放課後、囲碁部に三谷が嬉しそうにやってくる。囲碁部に新入部員の夏目がやってきたのだ。これで三人揃って大会に出られる。ヒカルも三谷も力をつけたから、ひょっとしたら海王中の囲碁部に勝てるかもしれない。あかりもバレー部の女子(金子)に協力してもらって、女子も大会にでるつもりだった。盛り上がっているところに筒井がやってくる。「碁ワールド」を読んでアキラがプロになったことを知り、それをヒカルに教えるつもりだった。ヒカルは岸本に会ったときにそのことを聞いたと話す。そして、ヒカルはアキラを追いかけるために「今度院生試験を受けるんだ」という。
その言葉を聞いて、三谷と筒井は動きを止めた。院生はアマの大会にはでることができないのだ。思いがけない話を聞いて、ヒカルは凍り付いてしまう。「受ける前に気がついてよかったじゃないか」という三谷の言葉にヒカルは答えることができない。
「囲碁部を辞めるっていうんじゃないんだろうな?」三谷はヒカルを問い詰めた。
楽園の終わり。そして次のステージへ。
夢をおいかけるためには何かを犠牲にしなきゃいけないかもしれませんが、原作の連載中に読んでいて、まさかいきなりこういう展開になるとは思ってなくて驚いたことを覚えています。だって、囲碁部ではあんなに和気藹々と雰囲気がよかったのに。
岸本くんももう出番ないと思っていたから、まさか彼がヒカルの背中を押す役割をするとは思ってもいませんでした。岸本くんはアキラと対局して負けたあとに「プロを諦めて正解だったよ」という言葉を呟いてます。一度はプロを夢見た彼だからこそ、ケタ外れに強く、プロは受かって当然なアキラへの思いも複雑なものがあったでしょう。しかもそんなアキラがたったひとりの少年をなりふりかまわず追いかけている。そんなアキラをみてたら、岸本くんもヒカルになんか一言いいたくなるのはよくわかります… でも本屋で偶然会わなければ、わざわざいう気にもならなかったんでしょうね。
この時の岸本くんの気持ちについては、次の次の週の感想でまた書く予定です。
ヒカルが街路樹で叫ぶように決意するシーンですが、ここは原作では自宅で佐為といつものように対局しながら静かに決意を語っています。アニメでああいう演出になったのはメリハリをつけてドラマティックに「わかりやすく」するためなんでしょうか。個人的には原作の方が、日常の延長線上に確固たる目標を据えた深い決意を感じさせてくれると思いますが。
それと、今回の話、特に日本棋院でのやりとりをみて、ヒカルを「礼儀知らずのお子様」だと思った方もいるんじゃないかと思います… いや、実は当時原作を読んでたときに私もついそう思ってしまったのですが。でもヒカルが「礼儀知らず」なのはちゃんと物語上に意味があってのことなので… ヒカルが囲碁のことを全然知らないのは、同じく知らない読者に対する説明の役割というのが大きいと思うのです。そしてヒカルが何も知らないから、怖いもの知らずだからこそアキラを追いかける気になったわけで。更に…これが一番意味が大きいと思うんですが…「ヒカルの碁」はヒカルの精神的な成長物語でもあるのです。
私自身は「ヒカルの碁」の物語には惹かれていたものの、途中までヒカルへの感情移入はもうひとつできないところがありました。でも、傷つき苦しみながらもそれを乗り越えて成長していくヒカルの姿をみていくうちに愛情がわいてきまして。ジャンプで次の人気投票があれば、ヒカルにも一票いれたいと思います。もちろん、私にとっての最愛のキャラが緒方さんなのはかわらないんですけどね。
ということで、物語はおもしろいと思うけれどもヒカルはあまり好きでない人も、気長にヒカルを見守ってもらいたいなあ、と思います。
あと、細かいツッコミ。日本棋院のスケール感はちょっとおかしいです。あんなに広くありません。私が日本棋院を訪れたのは2年くらい前の話ですが、「ニセモノの魚」もいて原作の光景そのまんまで興奮したものでした。現在は売店は二階に移動して、雰囲気が少し変わっているとは思いますが、今回でてきたのは原作が書かれた当時の風景ですね。
日本棋院は市ヶ谷駅から歩いてすぐですが、駅前の光景なども「ヒカルの碁」でみたそのままですから、機会があれば探検してみてください。おもしろいですよ。