第21局「葉瀬中囲碁部」
ヒカルが囲碁部を辞める? あかりにはピンとこない。三谷はヒカルが自分を囲碁部に誘ったのに、自分から先に逃げるとはどういうことかとつめよった。その時、生活指導の先生に追われて加賀が理科室に逃げ込んできた。加賀は事情を聞いて、大会なんてどうでもいいじゃないか、より高い目標があるなら、と。ヒカルの目標は塔矢アキラ。それを聞いて、加賀はヒカルに覚悟を確認する。「どうでもいい」と言われたことに腹を立てて、三谷も囲碁部を辞めると言いだす。加賀はヒカルの背中を後押しするように、ヒカルに三面打ちをやれという。実力を筒井や三谷に見せつけてからでていけ、と。筒井はそんな加賀の気持ちも理解した上で、これから新しい道を歩むヒカルのためにも打とうと思った。
そして三面打ちが始まった。ヒカルひとりで加賀、筒井、三谷の三人を相手にする。三面打ちでは考える時間もなくセンスや閃きで打っていかなければいけない。それでも筒井はヒカルが強くなって自分では太刀打ちできないことを実感していた。
ヒカルも三谷も囲碁部を辞めてしまう。久美子はこれからどうしようか不安がっていたが、あかりは囲碁部を続けてゆく決心をしていた。
筒井は投了。三谷も終局したがコミをいれて6目半負け。ヒカルは残った加賀との対局に集中していた。ぼそりと三谷は「負けました」と呟いたが、それを聞いたのは佐為だけだった。
加賀とヒカルとの対局は加賀の6目半勝ち。三面打ちは普通の対局とは違うから、これだけできれば十分だろうと加賀はヒカルにいった。
ヒカルは筒井に棋譜の書き方を聞き、院生試験に持っていく棋譜三枚を先ほどの三面打ちの対局をスラスラと書いていった。三谷は棋譜を書いてるヒカルの背中をぼんやりと眺めていたが、「落ちればいいんだ」とぼそりと呟いたのを加賀が聞いてポカリとやった。
日本棋院、ヒカルは母親と共に院生試験を受けにきた。試験会場の近くでは院生達の研修が行われていた。入り口付近で和谷とすれ違う。ヒカルが院生たちをみて、「あそこから始まるんだ 打倒塔矢アキラへの第一歩が」と呟いたのを和谷は聞いて足を止める。
ヒカルは呼ばれて院生試験の会場に行った。ヒカルの持参した棋譜をみてヒカルの力をたいしたことないと院生師範は思った。そして実際に力をみるためにヒカルが三子置いて打つことに。
院生研修室の外の自動販売機前、伊角は和谷に今日は院生試験だったんだと話かける。和谷は今試験を受けてる少年は「受かると思うぜ」と言った。
ヒカルは次のステージへの階段を登ったわけですが、それには犠牲が伴って。せっかくあれだけいい雰囲気で囲碁部が活動していたのにね… でも三谷くんが怒るのはもっともですし。夢を共有していたはずの友達が…あれだけ人になつかない猫のような三谷くんが心を許したヒカルが、自分と違うものをみていたのですから。そんな意地っ張りな三谷くんだからこそ、「…負けました」が切ない。
どうしていいかわからない状況を打破したのは加賀くん。この前のジャンプで掲載された加賀くんの読みきりと合わせて考えると、加賀くんの優しさというのがよくわかります。言動は乱暴だけども。
加賀くんは部外者で、上を目指すことの厳しさもわかってるからこそ、ヒカルの背中をどんと押してあげることができるわけで。ヒカルの「アキラを追いかける」という決意を聞いたときに、それが大変なことをわかっているのか? 覚悟はあるのか? 何気にヒカルに確かめて、ヒカルの気持ちが固まっていることを知ったからこそ、ヒカルが一歩を踏み出せるように三面打ちを設定したんですよね。そして、ヒカルの甘え(院生と落ちたら囲碁部に戻る)も切り捨てて。自分がその道を選んだんだから…という自覚を促して。あの年頃では中々できることじゃないんですが。
筒井さんは加賀くんよりは「身内」だけに最初は囲碁部視点からみたせいで戸惑っていたけれども、加賀くんが何をしようとしているかを分かって、ヒカルの背中を押す手伝いをしてくれて。
この回で一番好きなのは、このときに囲碁部を続けていく決意をするあかりちゃんのシーンです。私にはそれまでのあかりちゃんは主人公の周りをうろつくオプション扱いのヒロインに思えて仕方なかったのでした。それが、原作でこの回を読んだときにこの決意に「あかりちゃんの意志」を感じられて、あかりちゃんというキャラを好きになったのでした。原作では静かに決意を語ってたんですが、アニメでは叫ぶかのように宣言しています。予告をみたときに「これはちょっと…」と思ったのですが、実際にみてみると悪くないですね。アニメという媒体ではこうやってメリハリをつけた感情表現が向いているのかも。
今回初登場キャラは伊角さん。しかも「整形後」…原作では顔が激しく変化しているので、アニメで初めてみた人は、5巻の最後を読んで「これが伊角さん?」とびっくりするんじゃないかなあ。声優さんが男性でよかったです。「ヒカルの碁」は登場キャラは男性の方が多いのに、声優さんは女性の方が多いですからねぇ。
原作との違いについて。加賀くんが理科室にやってきたのは、タバコを吸ってるところを先生にみつけられて追いかけられたからです。原作では加賀くんが初登場のシーンでは碁盤にタバコを押しつけてましたが、アニメではこれがガムになってました。TVアニメの方が公共性が高いために、未青年の喫煙シーンは見せないようにしてるんでしょうね。
あと、加賀くんと筒井くんが同じ高校を受けるというセリフもカット。ちなみに原作では
「加賀 3か月後の高校受験気合入れてる?」「いーや おまえとちがってオレは勉強なんかしなくても受かるからよ」「う…同じ高校受けるのにこの差…」
となっています。加賀くんの方が頭いい設定なんですねぇ。その後、原作では同じブレザーの制服を着た二人を原作者がちょこっと描いてますから、きっと同じところに受かったんでしょう。
それにしても、「ヒカルの碁」は主人公に都合のよい展開にはならないマンガだなあ、としみじみ思います。ヒカルの門出を囲碁部の皆も祝ってくれて…みたいな展開もできたというか、物語作る上ではそっちの方が楽でしょう。でもそれはキャラクターの気持ちから考えると「嘘」なんですよね… ヒカルは新しい道を歩むために囲碁部での夢を犠牲にしてしまったけれども、それが何を生み出すのか? また囲碁部の今後はどうなるかは気長にみてほしいなあと思います。ちゃんと物語上の意味がありますので。