プロ試験第12戦。伊角とヒカルは挨拶はしたものの、それ以上の言葉は変わさなかった。ピリピリするのも無理はない。全勝の伊角にとっても、一敗のヒカルにとっても大切な一局なのだ。このヒカルと伊角の対局を皮切りに、上位陣同士のつぶしあいが始まる。
ヒカルは「おまじない」として手の平に白星のハンコを押し、「白星を掴むんだ」と自分に言い聞かせていた。
そして対局開始。伊角はヒカルが強くなってきていることはもちろん分かっていたが、それでも自分の方が上だという自信はあった。
控え室では篠田先生と棋院の事務のおじさんがお茶を飲みながらあれこれ話をしていた。話題は今日の全勝vs一敗対決となった、伊角vsヒカル戦に。篠田は伊角は院生でも1,2位を争う実力の持ち主だというと、事務員は院生トップの子が必ずしも合格するというわけではないのでしょう?と聞いてきた。篠田は答える。たしかに力はあってもどこかで躓いてしまうこともあるのだ。逆にリズムに乗って、ひょいと壁を乗り越えてしまう子もいる。去年の真柴のように…とにかく弱気になるのが一番いけない、と。
そしてお昼になり、打ちかけに。伊角もヒカルも去った後、越智は二人の対局の盤面を覗きこむ。越智が見た限りでは、局面は伊角が押していた。しかし手数があまり進んでないことに気がついた越智が対局時計をみると、なんと伊角はすでに持ち時間の半分を使っていたのだ。
昼食、伊角は食べ残していた。和谷は和谷は休憩室の重い空気を避けるように外にでると、そこでヒカルが体操をしていた。ヒカルは佐為のアドバイスで、頭をリフレッシュするために体をほぐしていたのだ。強引な佐為に「かなわねぇなあ」とヒカルはボヤいたが、和谷はそれを聞いてヒカルは弱音を吐いているのかと勘違いした。和谷も緊張をほぐすように、体操をする。
休憩室では、越智が伊角に話しかけていた。越智は伊角に対局時計をみたといい、伊角が慎重に打っているのはヒカルを過大評価して恐れているのか?と問いただした。伊角は飯島や小宮が「進藤は強くなった」と言ってたことか?と聞くが、越智はそれを否定し、この前アキラと会ったことを話し出した。自分の祖父が指導碁にアキラを呼んでくれたが、アキラはなぜかやけにヒカルのことばかり聞き出そうとしていたという。まるでライバルの情報がほしいかのように…「伊角さん、どう思う?」越智の話を聞いて、伊角は固まってしまった。
ヒカルが院生になったばかりの頃、彼はアキラは自分を追いかけて囲碁部に入って大会にでたのだという話をしていた。その話を聞いて、あの塔矢アキラがライバル視する少年だからとてつもなく強いのであろうと身構えていたのに、当時のヒカルはそれほど大したことはなく、伊角はてっきり新入生の虚勢なのだろうと思っていたのだ。だから、若獅子戦でアキラがヒカルの後ろから盤面を見つめているのを見つけたときも、たまたま後ろの席の対局をみていたのだと思った。しかし、越智の話を聞くとアキラは本当にヒカルをライバル視しているらしい。伊角にとってそれは意外な衝撃だったが、同時に妙に納得できることでもあったのだ。ヒカルと秀英の一局、伊角はあの時のヒカルに勝つ自信はなかった。院生になったばかりのヒカルをみて、誰がヒカルがあそこまで成長すると考えることができただろうか… ひょっとして、塔矢アキラがみているのは未来のヒカルなんだろうか?と伊角は考えこんでしまう。越智があれこれ話しかけている言葉もまるで耳に入らずに、伊角の頭にはひとつの考えに囚われてしまっていた。
和谷の声に伊角は我にかえり、対局室に向った。弱気になるな、怯むな、と自分に言い聞かせながら。篠田は真剣な受験生たちをみながら、皆に頑張ってほしいが、合格者は3名なのだと思っていた。
越智は今回も勝利をおさめた。ヒカルと伊角の対局が気になった越智は、盤面を見に行った。局面は伊角が優勢、しかし伊角は持ち時間を使いきってすでに一手1分の秒読み体制に入っていた。越智は時間に追われる伊角がミスはしないのだろうかと思いつつも、いくらヒカルが強くなったといってもアキラがこだわるほどではないと判断した。越智は次に当る和谷の様子を見に移動した。
一手1分と時間に終われながらも、伊角にはゴールが見えてきていた。ここまでくるとヒカルには逆転は難しい。気持ちを落ち着かせてこのままでいけば大丈夫…と重いながらも秀英の顔や、アキラの顔がつい思い浮かんでしまう。気にするんじゃない…と自分に言いきかせていたが… 伊角はつい間違えた場所に打ってしまった。慌てた伊角は、つい1度打った碁石を取って、最初に打つつもりだったところにおいてしまった… そして対局時計を止めて、我に却って気がついてしまう。囲碁では1度置いた石は2度と打ちなおせない。指が離れたあとの打ちなおしはその場で反則負けなのだ。ヒカルは、今の伊角の一手は碁石から指が離れたあとに打ちなおしたのではないかと気がついていたが確信は持てなかった。伊角は強張った顔に汗を浮かべ、固まっていた。心臓の音だけがやけに大きく響く…
ついにこの「魔の一瞬」に。プロ試験前から伊角さんの弱気発言はありましたが、プロ試験始まってからも「バッカじゃねーのっ」(by飯島くん)やら、「連勝も良し悪し」やら「院生でいられる最後の年」やら「院生一位でもどこかで躓いてしまう」やら、なんだかやばそうな伏線がひいてあっただけにどこかで伊角さんは調子崩すのでは?と雑誌連載中にハラハラしながら読んでいたものです。それがまさかつい打ちなおし、「反則」をしてしまうとは。
今回回想シーンにもでてきた、ヒカルが院生になった当時の「アキラは自分をおいかけて囲碁部に入った」発言がここまで尾をひいてくるとは当時は全く想像もできませんでした。あのエピソードの当時は、それほどヒカルは好きではなかったものの、なんだかんだいって「主人公」に肩入れして読んでしまうものですから、あのヒカルの発言には「うわー、また失言しちゃって!!」って思ったものでした。実際、あのヒカルの発言のせいで警戒された分だけ逆にヒカルは侮られることになったわけですし。ヒカルは回りのそういう目にもへこたれなかったし、和谷くんたちもヒカルをその件でからかってはいたものの、カラリとしてたのでほっとしたのですが… 最初に警戒したのが「違う」と分かって侮ったこともあるからこそ、それが「本当かもしれない」と感じてしまうのは余計に衝撃が大きかったんでしょう。あの秀英とヒカルの一局も、アキラを経由して越智くんから伊角さんへの衝撃になるとはなあ… ひとつひとつのエピソードが積み重なってきたからこその今回の衝撃なわけで、本当に見事な物語構成です。まさに職人技。最初のヒカルの失言にしても、あの段階でこの「アテ間違い」まで想定して作成したエピソードなんだろうか?とつい考えてしまうほどに。もしこのエピソードの絡み方すべてが「後付けリンク」だったとしても、逆にその方が凄いかも。
今回はいくつかのセリフが前後してたものの、ほぼ原作と同じです。細かいところでアニメオリジナルな部分もありますが…
ヒカルが手にハンコを押すシーンはアニメオリジナル。原作ではそのシーンは飛ばして、ヒカルが手に押したハンコをじっと見つめるシーンだけになってます。
あとお弁当を半分残す伊角さん、話を聞いてない伊角さんにひたすら話し続ける越智くんとかそのあたりもアニメオリジナルです。回想シーンの髪が翻るアキラも。
原作でもプロ試験中盤のクライマックスになるエピソードですが、アニメも緊張感のあってよかったです。「音」がついていると、対局時計に急かされているのがよくわかりますし。
絵も総体的にきれいでした。特に回想シーンのアキラ。あの髪が翻る表現は見事。
来週は絵がいくつか崩れちゃってるところがあるのが残念ですが、ぜひ「あの」シーンだけは、力のこもったいい絵でみたいものです。