今週のダイジェスト。
・一局打ってくれと頼む伊角。しかし、自分が打つと佐為が戻ってこなくなるのではないかと思うヒカルは「打たねぇ」と首をふり、謝るばかり。
・しかし伊角の静かな説得に負け、ヒカルは対局を引きうけた。自分が打ちたいと思っているわけではなくて伊角のためなのだ…と心の中で佐為にいいわけをしながら。
・一方、荻原雅彦九段と本因坊戦三次予選決勝で対局中のアキラ。7年ぶりの本因坊リーグ入りに向けて、ここは絶対に譲れない萩原。一方のアキラは心の中でヒカルの名を呼んでいた。
・ヒカルは「ワクワクしちゃいけない」と自分を押さえようとしていたが、次第に対局に夢中になってゆく。伊角もヒカルも、相手が強くなっていたことを実感した。
・対局も佳境に入った頃、ヒカルは一手を打ったときに、扇子を持った手が自分の手に重なるように、盤上を指さす幻をみた。慌ててヒカルは後ろを振りかえったが、誰もいない。しかしヒカルは、気が付いたのだ。
・伊角がふと顔を上げると、ヒカルの頬から一筋の涙が伝わっていた。ヒカルは誰ともなしに呟く。「この打ち方… アイツが打ってたんだ こんな風に」探しまわったけれどもどこにもいなかった佐為がいたのだ、自分の中に。
・ヒカルは泣いていた。自分の碁の中に佐為はいたのだ。碁を打つことは、佐為に会うためのたったひとつの方法だったのだ。「佐為、オレ― 打ってもいいのかな」
・これから打ち続けるのだという決心を告げたヒカルに、伊角は立ち入ったことは聞かずに「ああ オレも同じ道を歩きたい」とだけ答えた。涙をぬぐったヒカルの目に強い光が蘇る。そして、ヒカルと伊角の対局は続けられた。
・その日の夜。ヒカルは日本棋院に急いだ。玄関でヒカルをみつけた事務員の坂巻は、今まで無断欠席をしていたヒカルを叱咤しようとしたが、一緒にいた桑原本因坊は「もう いいんじゃ」と止め、「おまえのライバルなら5階におるぞ」とヒカルを促した。目をみてヒカルが完全に立ち直ったことを知ったのだ。
・ヒカルは全速力で駆けのぼっていった。5階を目指して。アキラに決意を告げるために。
・一方、荻原雅彦九段とアキラの本因坊戦三次予選決勝は、アキラが勝利をおさめ、中学生にしてリーグ入りという快挙を成し遂げた。「さすが塔矢先生の息子ですね」とアキラをほめる関係者を荻原がそれは失礼だと咎める。すごいのは塔矢アキラ自体であって、塔矢名人とは関係ない…と。そんな荻原に頭を下げるアキラだった。
・荻原たちがエレベーターで降りていった直後、アキラは息を荒げたヒカルを見つけた。ヒカルはまっすぐな目でアキラを見据えた。天野が持っていた棋譜をみつけ、奪い取ったヒカルはアキラが勝ったことを知った。戸惑いながら「何しにきた?」と尋ねるアキラに、碁をやめないことを宣言する。アキラも、自分を射抜くかのようなヒカルの強い瞳をみて答えがわかったのか、「追ってこい」とだけ告げた。
・桑原はいぶかしがる坂巻に諭すように言う。碁はひとりでは打てない。二人いる。才能が等しくたけた二人でいてはじめて、神の一手に近づくことができるのだ… 若い二人を微笑ましく思いつつも、桑原はまだまだ一線を退くつもりはなかった。
長い長い夜がついに明けました。ヒカルは「神の一手」への遥かなる道の途中で、佐為からバトンを受け取ったことがようやくわかりました。ずいぶん長くかかりましたが、かすかな希望をじわじわと絶望が侵食してゆき、心がマヒしてしまって初めて大事なものは自分の中にあるということを実感できるのかもしれません。
ヒカルには全部分かったはず。「友達としての佐為」との永久の決別と、佐為の夢や思いをきちんと自分が引き継いでいることを。全部分かった上で、碁の道を歩くことをヒカルは選んだのです。
佐為を失った傷自体は癒えてはいないだろうけども、でもヒカルならそれを糧にして強くなれる。そう思わせてくれる、いい目をしてました。
そして、これまで「誤解と思い込みとすれ違い」を続けてきたヒカルとアキラの思いが、真正面から向きあうことになりました。長かったけれども、待っただけのとはある、名シーンです。
ヒカルとアキラの関係は、今までは「追いかけっこ」と「すれ違い」に終始していて、「二人ともプロという同じ土俵に上がってしまった以上、対局を避けることはできないし、今後どうするんだろう」と連載当時に思ってたんですが… 「すれ違い」はこれで終止符を打たれました。ズレてたものがパチンとはまった感じ。佐為がいなくなって、初めて二人は直接向き合うことができたんだなあ。アキラはこれからはヒカルの「謎」で悩むよりも目の前のヒカルの一手をみるだろうし、ヒカルも「アキラは本当は佐為と対局したいはずだ」というコンプレックスに悩まされることもないでしょう。ふたりの間にあったごちゃごちゃしたものは、互いに正面から見据えることで簡単にふきとんでしまったようで。ここに辿りつくために今までのすれ違いがあったのか、と思えるほどです。
それにしても桑原先生おいしいすぎます。ヒカルが対局を休み続けていると聞いたことがあるだけで、実際の半死状態のヒカルをみたわけでもないのに、何もかもお見通しのようで。4分の3世紀は生きてそうな御仁ですから、人生におけるヨミも深いということなのかも。若い二人を見守りつつも、食えないジイさんぶりを発揮するあたり、さすがです。いいキャラですなあ…
今回の話は、原作の中でも指折りの名シーンだけに、アニメでどうなるか、楽しみな一方で心配でもありました。特に原作でのこのあたりの作画は神技なだけに、あれが再現できるのか?と心配で。
アニメの作画は全体的によかったです。ただ一部「うむむ」と思ってしまうシーンもありましたが、声優さんの演技や演出のよさもあって、とにかく泣けました。アニメオリジナルの演出も効化をあげていましたし。ただ、伊角さんとヒカルの対局シーンでの音楽がいまひとつしっくりきません。今回は特別の話なんですから、できることならそのためだけに一局用意してほしかったな。
アニメと原作との違い。
(1)打たねぇ!
アニメでは、そう言ったあとに、ヒカルは「ごめん」と謝ってヒザを抱えていました。ヒカルの迷いや苦しみをうまく表現していたと思います。
(2)ヒカルと伊角さんの対局
対局自体は原作と同じですが、勢いよく打たれた碁石がガタガタとまだ動いているのに次々と打たれてゆくという、動きが表現できるアニメならではの演出が光っていました。早碁の迫力がよくでていました。
(3)佐為がいた。
石を打つヒカルの手が、扇子で碁盤を指す佐為の手の幻と重なり、思わずヒカルが後ろを振り向くシーンは、アニメオリジナルです。ここの演出はすばらしい!! あのヒカルが後ろを向いたシーンは、原作でもあった広島での周平さんとの対局の後のシーンを踏まえたものなのでしょうが、つい背中に佐為を探してしまうヒカルが切ない… 佐為はずっと、ヒカルの背中を見守ってくれてたんですものね。
今回も後ろには佐為はいなかったけれども、でもすぐに佐為がいたのは自分の中だったと分かったんですよね…