05年01月に読んだ本。   ←04年12月分へ 05年02月分へ→ ↑Indexへ ↓高永麻弥へのメール
●「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」桜庭一樹[富士見ミステリー文庫]500円(05/01/28) →【bk1】【Amazon】

山田なぎさの通う、地方の小さな町の中学に変わった転校生がきた。かつての人気歌手・海野雅愛を父親に持つ少女・海野藻屑は、転校早々「ぼくはですね、人魚なんです」と不思議な自己紹介をした。
その後も所をわきまわない、奇妙な言動をする藻屑に振り回されながらも、なぎさはなぜか藻屑を放っておけなかったが…

かわいいイラストとは裏腹に、救いのないダークなお話です。
地方都市の「どこにもいけない」という閉塞感、子供ゆえの無力感と、それでも世界に異議をとなえ続ける矜持と。それらが入り混じる切なさもうまくて、この作品に魂吸い取られちゃう人がいるのはよくわかります。でも、どうやら私には波長があわないようで。藻屑の電波の方向性が苦手。彼女がそうやって、すぐに溶けちゃうようなヤワい、甘い嘘で身を守らざるをえなかったのは分かるんですが、その彼女の痛みが自分の奥底まで響いてこずに、なんか外側から見てるだけのような気分のまま終わってしまいました。
あと、読みながらゲーム「ひぐらしのなく頃に」のことを思い出していました。アレの電波ぶりはまた違う方向性ですが。悟史くんが振ってたバットは何を砕くためのものだったのかなあ、とかふと考えてしまいました。


●「ゼノサーガエピソードII 善悪の彼岸(上)」愛沢匡[ファミ通文庫]640円(05/01/25) →【bk1】【Amazon】

ネットではモッコスばかりが有名となってしまった「ゼノサーガエピソードII」。「ゼノギアス」の頃からのファンゆえ、私はこのゲームももちろん購入しました。でも、実は未クリア…どころか序盤で挫折。体調がよくないときに戦闘で全滅→元気になってからやろう→ネットでの「つまらなかった」感想を聞いてやる気を無くす…という流れになってしまいまして。別にゲーム部分はどうでもいいけどストーリーだけは知りたいので、シナリオブックでも買おうかなあ…と思っていたら、ノベライズが出たので嬉しかったです。
「ノベライズ」ということで小説としてはさほど期待してなかったのですが、「小説」としても面白い作品でした。
理解不能な固有名詞がなんの説明もなく連発されたり、やたらと大仰な言い回しをする登場人物がいたりと、元のゲームは非常に電波度の高い作品ですが、そういうところが「ゼノギアス」の魅力でもあるわけで。
この小説では「電波度の高さ」と「わかりやすさ」をうまいバランスで成立させています。もちろん、「わかりやすい」と言っても、エピソードIをプレイしていないと意味不明度が高いと思いますが…
2月に発売される下巻が楽しみです。この作者で「エピソードI」の方もぜひノベライズしてもらいたいです。本当に読みたいのは、この作者の手による「ゼノギアス」のノベライズだったりしますが…


●「禁涙境事件」上遠野浩平[講談社ノベルス]920円(05/01/14) →【bk1】【Amazon】

「海賊島事件」に続く、仮面の戦地調停士・エドのシリーズ4作目。魔法ありのファンタジー世界を舞台にしたミステリのシリーズです。
戦争地帯の近くに存在する「禁涙境」は、エルウィンド・リーチの張った魔法により、その地区では魔法効力が1/4…実質的には魔法がほとんど効かないという特殊な環境。そのため、中古魔導装置の取引市場や歓楽街として発展してきた。しかし年に一度の月光祭の日、謎の怪人「残酷号」が現れ、町は破壊されてしまう。町のその後の身のふり方に七海連合の戦地調停士がかかわってきて…
前作の「海賊島事件」がよかったから、シリーズ新作もかなり期待して、過去の作品を再読した上で読んだのですが… 少々、物足りなかったです。
今回はエドが解決(?)する事件自体は小粒で、連作短篇という趣だったせいかも。今回の大ネタはブラックボックスのままで終わってしまいましたが、次巻のタイトルからすると、今作はこの世界を大きく揺り動かす「彼」の紹介という意味が大きいのかもしれません。
キャラ萌え的には、戦地調停士たちが一通りでてきたし、EDの過去やらEDとヒースのエピソードがおもしろかったので満足でした。でもEDが「仮面を外す」というのがどういう意味を持つのかはもうひとつよくわからなかったりします… →刺青には特に魔法効果があるわけではないようですし。「オピオンの子供たち」自体に、本質を見抜く能力みたいなのがあって、それが飛びぬけているEDは仮面が心理的な抑止力になっていて、それを外すと相手を追い込みすぎてしまう…ということなのでしょうか。


●「ミナミノミナミノ」秋山瑞人[電撃文庫]530円(05/01/09) →【bk1】【Amazon】

中学3年生の夏休みの間、正時は「落ち着いた環境で勉強するために」親戚の故郷の南の島を訪れた。かわった名前と不思議な風習が残る奇妙な島で、正時は不思議な少女と知り合って…
正直、物足りない話でした。
あらすじを聞いたときから、「イリヤっぽい話になるのかなあ」と思いましたが、「ぽい話」というよりも「そのまんま」という方が近いような。たしかに商業的にはウケる作品を書くのは正しいけれども…
今回はほんわりとした話に終始しましたが、続きはもっと過酷な話にはなりそうなので、秋山瑞人ならではの強烈な加速度を感じられる物語に期待します。
それにしても…デストロイの季節はもうこないのでしょうか…


●「虚剣」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]533円(05/01/07) →【bk1】【Amazon】

両親と引き離され、妹と2人三河で暮らしていた少年・連也は、剣の才能を見込まれて、尾張新陰流の宗家である父親の柳生兵庫助に呼び戻された。大切な妹と別れて暮らすことを余儀なくされた連也は、妹と再び暮らすことを夢見て、強くなるために修行に打ち込む。
やがて連也は「尾張の麒麟児」と呼ばれるほどに成長し、次期宗主を期待されるようになったが…

修羅に落ち、人を捨て、鬼となりて。
剣に魂を奪われ、剣のために己のすべてを賭けた、男たちのストイックな物語。続きものではなく、この一冊で完結しています。
短いながらも中身がぎゅっと濃縮されたおもしろさでした。
その優しさゆえに死を選ぶことになった、清厳兄上が切ない… あとは、まっすぐに剣に打ち込んでいる兵庫助に、自分の限界を知るが故に嫉妬を抑えきれない宗矩の心情がさらりと描かれながら奥が深くてよかったです。
「須賀しのぶ」という作家に興味があっても、「流血女神伝」シリーズは巻数が多いからお試しに読むのはちょっと…という人は、まずはこの作品から読んでみてはどうでしょうか。


●「星界の戦旗IV −軋む時空−」森岡浩之[ハヤカワ文庫]520円(05/01/02) →【bk1】【Amazon】

「星界の戦旗III 家族の食卓」以来、4年ぶりのシリーズ新作です。
7年目に突入したアーヴ帝国と三カ国連合による戦争は、アーヴ帝国に有利に展開していた。中立の立場で戦争には参加していなかったハニア連邦から、皇帝・ラマージュの元に戦争の行方を大きく左右する可能性のある、とある密約が申し込まれたが…
本当に久しぶりの新刊を本屋で手にしたときの最初の印象は「薄い… 文字が大きい…」でした。話も思いっきり途中で切れていて、オードブルだけで食事が終わってしまったような気分に。
記憶が薄れてしまっているので、シリーズの過去の全作品を読み直してから読んだのですが、それでも戦闘シーンの描写はSFレセプターがない自分にはちんぷかんぷんです。政治的な駆け引きの描写はなかなかにおもしろかったのですが、おもしろくなってきたところで終わりだったのが残念。
次は盛り上がる展開になるとのことで、次巻を楽しみにしています。早くでるといいのですが。


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