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 私が唯一元気でいられる季節になりました。私は雪女なのかもしれない。時々そう思うことがあるくらいです。だって、それ以外の季節、私は寝込んでいるのです。いえ、この季節も本当は寝込んでいるのです。
 ただ、冬の間だけは、体を離れ自由に飛び回ることができるのです。
 私は、植物人間。三年前から、ただ機械で生きながらえてるだけの、抜け殻同前だと思われている植物人間です。でも、私には感覚もあるし、目も見えるし、声も聞こえるんです。ただ、それを表現するすべを忘れてしまっているだけなのです。
 
 両親もあきらめてしまった、二年前の冬の夜、私はあまりにもに悲しくて、ベットの上から離れたいと願いました。私が抜け殻ではないと、知らせることができないものかと。それができないのなら、もう生きていたくないと。その時、誰かが私に話し掛けてきたのです。冬の間だけなら、身体から離れいろいろなところへ行けるのだと。身体から離れる方法を教えてあげると。私はその声にすがってみることのしました。姿の見えないその声は、とても優しそうなすてきな青年を想像させてくれました。
 ベットから離れたいと思う気持ちが大事で、いったんベットに吸い込まれるような想像をして、その反動で飛び出すのだと。その声の指示通りにすると、
想像するより簡単に飛び出すことができました。ただ、十時間以上離れると二度と戻ることはできないから気をつけるように。そう言うと、その声は消えたのです。
 私はとにかく、家に帰りたいと思いました。家に帰ると、両親が、これから私をどうしたらいいかと、深刻に話し合ってる最中でした。私は意識があることを知らせたいと、母の耳もとで話し掛けてみました。
 「お母さん、私の声が聞こえる?」
 母はすぐに、私の声を聞き取ってくれましたが、幻聴だと思い込んでるみたいでした。
 「私よ。今、すぐ側にいるの。おかあさん、私ベッドの上で、意識はちゃんとあるのよ。だから諦めないで。」
 母は、半信半疑で私の声を聞いています。今度は父に話し掛けてみました。
 「お父さん、私よ。聞こえる。」
 父には、私の声が聞こえないのです。母が声がすると言うと、父は幻聴だと言って取り合わないのです。
 「ねえ、どうして、お父さんには私の声が聞こえないの?お母さんには聞こえるんでしょ?」
 母は、父に聞こえないことで、自分にしか聞こえないこの声は幻聴だと、自分に言い聞かせはじめました。どうして解ってくれないのでしょう。私は必死に母の耳元で話し掛けました。ノイローゼかも知れない。母はそう思い込みはじめていました。
 それからというもの、私は自分の身体から抜け出す度に、家に帰り、自分の存在を解らせようとし続けました。母は、本当にノイローゼのようになり、その冬の終わりに病院の屋上から身を投げました。即死でした。
 私が殺したのです。恐ろしいことに、私の中には悲しみや恐怖より、快感が残りました。自分で手をくだしてないにしても、人を殺したことに満足感すら覚えていたのです。
 春になると、身体から抜け出ることができなくなりました。私は、冬になるまでの間に、今度は、誰をどうやって殺そうか考えはじめました。なかなか退屈しのぎになる作業でした。もちろん、その時は、想像だけのつもりだったのですが、いざ冬が来て、身体から抜け出してみると、本当に実行してみたくなるのです。私に身体から抜け出す方法を教えてくれた声が、自分もそうだから仲間を作りたかったんだと言いました。

 この冬になるまでの間、私たちはある計画を立てました。今度はうまく殺して、適当な身体を乗っ取ってみようと。それがうまくいったら、デートできるねって。
 私はベットの上の私に別れを告げました。