このアルバムは、ザッパが20世紀終盤に世に放つ、最大の傑作&問題作であるといえましょう。 このアルバムでは、7曲目の"ST.ETIENNE"以外は、全てシンクラヴィアで作曲&アレンジ& 演奏されています。
シンクラヴィアとは、乱暴な言い方をすればDTM(Desk Top Music)の化け物でして、まぁ、 そんなようなものらしいです、私は見たことないですけど。ザッパにしてみれば、 己の頭の中で鳴っている音を、忠実に演奏するオーケストラみたいなものなのでしょう、きっと。
このアルバムで奏でられる音は、一般には非人間的であるとか、冷たい音であるとかの批判はあったようですが、 私にしてみれば、ロックであり、現代音楽であり、これらの融合であり、充分に刺激的なものでした。 言うなれば、ザッパそのものといえましょう。但し、エンターテインメントとは対極に位置するともいえます。
しかしながら、疑問もまた湧いてきます。つまり、「確かにシンクラヴィアを使うことで、 完全に作曲家の管理下におかれた音を作ることが可能になるだろう、だけど、 本当にそれでいいのか?作曲者の頭の中だけで完結してしまっていいのか?」 ということです。
言うまでもないことですが、音楽は、演奏されて初めて体験されるわけで、 ここが他のアートと大きく異なるところです。これは、とりもなおさず、 演奏者の人格や個性が音楽に大きく反映されると言うことで、これにより、音楽は、 さらなる力を得ることができるわけです。まぁ、これには、様々な異論も議論もあることですし、 今これ以上言及する気はないですが。
ただ、ザッパの最後のアルバムとなってしまった、"The Yellow Shark"における 数々の演奏が、この疑問に対する一つの答えとなっている気がします。
因みに、このアルバムは、88年にグラミー賞を獲得しているようです。