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●「理央の科学捜査ファイル 静寂の森の殺人」夏緑[富士見ミステリー文庫]460円(00/11/30)

富士見の新レーベル・富士見ミステリー文庫の新刊。イラストが船戸明里さんの上、表紙のメガネの冷たそうな美形に目を奪われたので購入。
理央は中学2年生。親友の由佳が自由研究のために山にしかけておいたテープレコーダーに、人の足音が入っていた。それを調べるために山に行った二人は、キツネの糞の中にピアスを見つける。理央はそのピアスを大学の理学部の研究生・桐生に調べてもらったところ、人間の死体についてたものをキツネが食べたのではないかということが分かった。知りあいの刑事・伊達と共に山に向かった理央がみたものは…
この作品は結構まっとうなミステリにしあがってます。「音」をうまく使ったあたりはなかなか。科学系の知識も過剰にならない程度にうまくちりばめられているし、テーマ性がストレートすぎるものの、悪くない。ただティーンズ向けを意識しているせいか必要以上に漢字をカナに開いているのがひっかかったのと、枚数制限ゆえかあまりにも説明的すぎるセリフがマイナスポイント。
総合的にはあっさり読めるし、ミステリとしてわりとオススメです。
それと、桐生冬樹というキャラはよかったですね〜。メガネ・白衣のクールな美形で、でも一見死体にしか興味がないようにみえる変人なんですが、船戸さんのイラストがこれがもう萌え萌えで。これで彼のイラストがもっとあればっ!!
シリーズ化、熱烈希望。


●「サイケデリック・レスキュー クリムゾン・インフェルノ 前編」一条理希[集英社スーパーファンタジー文庫552円(00/11/30)

ハイパー・レスキューもの。水城財閥の特殊救助隊が危険に陥った人を勇気と知恵とハイテクで助けてゆくというシリーズものですが、一作目の「サイケデリック・レスキュー」はなかなかよかったものの、それから数冊は結構ヌルい状態が続いていたんですね。それが前作の「サイケデリック・レスキュー デッド・ライン」でかなり辛い状況となって、今回の話は…大地震、です。
失意状態の恭平の前に新しい水城財閥の秘書といううさんくさい男・綺堂が現れ、解散したはずの特殊救助舞台への強制参加が告げられる。そして藤木市に起こった大地震。町が崩壊し、目の前で人々があっけなく死んでゆく中、恭平は…
5年ほど前のこの作者の作品「ネットワーク・フォックス・ハンティング」(良作。探し出してでも読む価値り)と同じく大地震を扱っていますが、今回の作品の方が描写が5倍くらい、痛い。あまりに痛すぎて泣かずにいられない。苦しい。でもすごいよ。ここまで容赦なくやるか!!という感じ。
前編はかなりキツいところで終ってますが、続きはどうなるんだろう。後編をはやく読みたい。恭平がひとまわり大きくなって、前に進めるようになればいいんだけど。
このシリーズは一話完結方式ですが、ちゃんと順番に読んでいかないと意味不明なところもあるからなあ。レスキューの存在や対抗する悪の組織がアニメチックではありますが、極限状況とその打破の描写は見事です。興味があれば、前述の「ネットワーク〜」か、「サイケデリック・レスキュー」を読んでみて、この作者と相性が合うか試してみてください。


●「イーシャの舟」岩本隆雄[ソノラマ文庫]619円(00/11/29)

「星虫」「鵺姫真話」と同じ世界の物語。これも「星虫」と同じく、10年前に出された作品のリメイク出版です。こっちの作品は旧作は読んでないんですが、あとがきによるとかなり変更したみたいですね。
「人間」「神様」に続き、今度は「妖怪」の話。SFなんだけど雰囲気としてはおとぎ話に近いかも。
年輝は信じられないほど運の悪い男だった。貧乏暮らしの中、ひょんなことから小さな「妖怪・天邪鬼」にとりつかれてしまうが、いつしか年輝にとってその妖怪はかけがえのない存在になっていくが…
すこしひっかかるものはあるものの、どっぷりハマって読んでしまいました。まっすぐな人だよなあ、この作者。設定周りの消化不良やキャラ造詣の一部のバランスの悪さのせいで、世界観にぎこちなさを与えているのは残念。恋愛感情の処理もイマイチ。でも小説力は多少不自由なところもあるけれども、この作者のてらいもなく夢を語るストレートさは他の作家にはあまりない、得がたいものかもしれません。そこの部分に波長があえば、読者にとって特別な作家になるんでしょう。私とは少し波長がズレてるようですが。
時系列では「イーシャの舟」→「星虫」→「鵺姫真話」となります。登場人物も一部共通してますが、どれも独立した話として読むことができます。シリーズとして読むとしたら、「星虫」→「鵺姫真話」→「イーシャの舟」の順でしょうね。「イーシャの舟」が一番この世界のネタバレしてますから。
今度は10年も寝ずに次の作品を出してほしいものです。


●「超クソゲー外伝 企画屋稼業」阿部広樹[太田出版]1480円(00/11/28)

「クソゲーハンター」としてお馴染みのABC氏こと阿部氏の書き下ろし。ゲーム業界の裏ネタである一方、真摯なゲームの企画書の作り方指南でもあります。
ホンネで書かれたHOWTOモノとして、読み応えがありました。それにしても、まーなんていうか、なんであんなどうしようもないゲームが世の中に……という裏にはこういうことがあったんですね。作者はもうにっちもさっちもいかなくなったゲームをなんとか形にするための外部からの雇われ企画屋(ヘル専)をやってるそうですが、様々な事情でボツになった実際の企画が載ってましたが、それも結構おもしろそう。ネットワークゲームとか、サバイバルゲームとかは実際にやってみたいな。


●「よろず電脳調査局ページ11 真夏のホーリーナイト」東野司[徳間デュアル文庫]790円(00/11/27)

未来ネット純愛(?)もの。ネットものということでとりあえずチェック。
電脳網が生活と切り離せないものとなった未来。ある日から自動販売機の失踪、公共施設でのトラブルなど不可思議な事件が多発しだした。そして電脳空間で目撃される「紫の竜」。電脳トラブルを解決する民間企業「ページ11」のメンバーが解析したところ、「聖夜に…」という謎めいたメッセージを発見した。それの意味するものは?
ネットものとしては、描き方は手馴れているものの表面だけをなでられてるような感じ。ネタとしてはわりと早い段階で先が読めてしまうのは残念なところ。でもラストの方はなかなか切なくてよかったです。ただ内容に比してボリュームが大きすぎるかなあ。もうすこしダイエットしてくれたらよかったのに。


●「スカーレット・ウィザード4」茅田砂胡[中央公論新社C★NOVELS]857円(00/11/25)

「スカーレット・ウィザード」シリーズ最新刊。パワフル宇宙恋愛小説(?)。今回は、囚われの王子様をお姫様が助けにいったお話。王子様がついにキレて大暴れです。
この人の作品って「デルフィニア戦記」もそうでしたけど、「超人」志向が強いんですよねぇ。でも、「こんなにすごいんだぞー」という形容がジャンプ格闘系マンガの末期みたいにインフレ化しちゃってるような気がするのは私だけ?
あと、SF属性のない私でも設定周りの説明は、読んでて苦しいものが。
でも、一気読みするくらいにはおもしろかったです。やっと敵が判明したので、あと少しで終わりかな?


●「Heaven's Game ゲームデザイナーは眠れない」高山浩[富士見ミステリー文庫]460円(00/11/24)

富士見からライトノベルス系のミステリーのラインナップが創刊。この本はゲーム業界ネタだったので買ってみました。作者はグループSNC所属のゲームデザイナーだそうです。
大は高校を中退してから小さなゲーム会社でアルバイトをしていた。彼には電気製品の中にある「記憶」を読むという特殊能力があった。飲み会の夜、ふとしたことで会社に戻った大が見たのは、開発中の新作ゲーム「ダイイイング・スクリプト」(ジャンル:アドベンチャー)の中での殺人事件と同じ状況で殺された、見知らぬ女性の姿だった…
ゲーム業界もので、ちょっとネットものでもあります。文章がアレ…というのはまあ「非常に読みやすい」ということにしても、ミステリとしては謎の解決のあたりが肩透かし程度ですし(わざわざ犯人にとってそうするメリットはないように思える)、ネットものやゲーム業界ものとしても食い足りない。いまいちでした。


●「<柊の僧兵>記」菅浩江[徳間デュアル文庫]590円(00/11/23)

「永遠の森 博物館惑星」がSF方面で好評な(私も読みたいけどハードカバーは手が出しにくくて…)菅浩江さんの新刊なので、ゲット。
1990年に出された本の新装刊行。イラストは緒方剛志さん(ラブv…でも徳間デュアルで緒方さんのイラストみてると、鎌部さんのデザインのすごさというのがよくわかります。デザインで絵の見栄えはかわるんだねぇ。)
一面砂の惑星には、「聖域」と呼ばれるオアシスが点在し、人々はその周辺で細々と暮らしていた。ウシテケ村のミルンは、村に3人しかいない<白い子供>の1人だ。<白い子供>は頭はいいが、普通の人に比べて肉体的に圧倒的に劣るため、ミルンは密かに劣等感を抱いていた。ある日、「聖域」で行われる「光の矢」の儀式の日、空から不思議な物体が降りてきて、乗っていた人たちは村人を全滅させてしまった。かろうじて生き延びたミルンは、同じ<白い子>であるアジャーナと共に、大昔から生きてきた知恵を授けてくれる<柊の僧兵>たちを探すたびにでたが…
SF。そして少年の成長物語であります。ひ弱な存在が立ちあがり、圧倒的な力を持つものに立ち向かってゆく姿がいいなあ。おもしろかったです。10年前の作品でありながら古びたところは全く感じさせません。日記の最後の部分、じーんとしました。キャラ的にはトールがいいなあ。
「永遠の森 博物館惑星」も読みたくなってきました。どうしよ…


●「物語の体操 みるみる小説が書ける6つのレッスン」大塚英志[朝日新聞社]1400円(00/11/22)

「多重人格探偵サイコ」の作者による、小説講座。この本ではタイトルどおり「物語を作る」ことに主眼が置かれています。
小説を書く能力というのは一部の作家に恩寵として与えられた特別なことではなく、方法論さえ知っていれば誰にだって小説がかけるという考えのもと、具体的な方法論をわかりやすく説明してくれます。その一方で、物語の解体と再構築を通して「小説とは何か?」について書かれた文学論にもなっています。
「盗作のススメ」と二次創作の話は特に興味深かったです。
別に小説家志望でなくても、「物語」に魅了されている人はおもしろく読むことができると思います。この連載の続きは雑誌「The Sneaker」にて「キャラクター小説の書き方」として始まったばかり。これも先が楽しみ。


●「アルーマ」高瀬美穂[幻冬舎文庫]648円(00/11/21)

1998年にでた作品の文庫本化。この作者はうちのサイトの掲示板でオススメされてたので気にはなってたんですが、シリーズものには手を出しにくくて。元はホワイトハートで書いてた作者が書いた初めての一般小説。ホラーです。
カリスマ的な人気を誇っていた歌手・綾乃の死後、同じプロデューサー・碓井の元で似たような歌手として環姫が歌手デビュー、一躍人気者となる。彼女のデビュー曲「アルーマ」はどこの国のものとは知れない不思議な言葉でつづられていた。やがて、「アルーマ」を聞くと綾乃の幽霊が見えるという噂が流れ…
それほど怖くはないけど、異世界への誘いという意味ではちゃんとホラーではないかと。少女たちの境界線上にあるようなバランスの危うい気持ちをうまく描いた佳作。強烈な印象はないものの、品よくきれいにまとまっていて、後に残るイメージは悪くないですね。


●「フルメタル・パニック! 終わるデイ・バイ・デイ(上)」賀東招ニ[富士見ファンタジア文庫]420円(00/11/16)

人気シリーズ「フルメタル・パニック!」の待望の長編。学園ラブコメ・アクション巨大ロボット軍隊SFもの。
いやあ、おもしろい!! 緩急のつけ方が見事。冒頭のアクションシーンから、かなめやテッサと宗介とのあまりにもじれったすぎるやりとりとか、もうイッキ読みでした。今までの平和な日々に終わりの気配を感じてしまうのがちと辛い。
それにしてもこんなところで終わるなんて〜。早く続きでてくれないかなあ。…いや、早くでなくてもいいから、さらに面白い話を書いてほしいものです。
勢いがありおもしろいシリーズなので、興味のある方は「フルメタル・パニック 戦うボーイ・ミーツ・ガール」からどうぞ。


●「ペルソナ探偵」黒田研ニ[講談社ノベルス]780円(00/11/15)

メフィスト賞を受賞した、「ウエディング・ドレス」は結構おもしろかったので、新作も買いました。
インターネットで、作家予備軍の仲間が集うクローズドなサイト<星の海>。そこでメンバーたちは互いのハンドル名以外の情報は、住所・名前はおろかメールアドレスも知らないで交流をしていた。プライベートを知らないがゆえにいい距離を保ててた彼らの結束に傷がついたのは、ある事件が起こってからだった…
連作短編で、最後の一編で話が収束するタイプのお話でした。うーむ。前作ほどはおもしろくなかったです。ミステリとしては伏線がちょっと分かりやすすぎたのと、謎に魅力が感じられず、動機に説得力がなかったために、真相が判明しても「だからどうした」って気分になってしまったんですね。大技はイマイチでしたが、第二話はおもしろかったし、小技は悪くなかったかな。
お話としては、ここでは複数の人による作中作という形がとられているんですが、文章のリズムが同じために別の人が書いた感じがしなかったのもマイナスポイント。
匿名でのコミュニケーションを描いた「ネットモノ」としてはもうひとつ刺激が足りなかったかも。でもそれは、インターネットが特別ではなくごく当たり前の存在になったからなのかもしれない。


●「若草野球部狂想曲2 クイーン・オブ・クイーン」一色銀河[電撃文庫]590円(00/11/14)

電撃ゲーム大銀賞受賞作「若草野球部狂想曲 サブマリンガール」の続編。コミカル野球小説です。
甲子園で活躍した捕手がよんどころない事情で転校した若草高校にあったのは、男女混合の弱小野球部。前作では部の存続をかけて甲子園優勝校と戦いましたが、今回の対戦相手は全国大会優勝の女子野球部。軽くサクサクと読めました。頭脳ゲームとしての野球の楽しさを教えてくれる作品。野球好きなら楽しめるんじゃないでしょうか。


●「遠きに目ありて」天童真[創元推理文庫]700円(00/11/14)

安楽椅子探偵ならぬ車椅子探偵モノの短編集。探偵役は脳性マヒの少年でありますが、ワトソン役である警部と彼の心の交流がなかなかいいですね。作品としてでたのがもう20年以上前のことで、風俗の古さとかやはり気になりますけど、ミステリとしてはそれほど古びていないかと。最後の二つの話はなかなかおもしろかったです。


●「屋上の暇人ども3 恋の季節」菅野彰[新書館ウィングス文庫]620円(00/11/11)

「屋上の暇人ども」シリーズの続編。サザンの音楽をバックに、湘南の田舎にある高校での、どこか不器用な4人のナイーブな青春物語。ボーイズラブではないです。
冬のお話。譲が妖精のような女の子に恋をした。未来だけでなく、鴫も夏女もちょっと複雑。ところが、事態は思わぬ方向に…
むちゃ重かったですなあ…中盤でのあの夏女のセリフ、まだ胃の底に溜まってるような。…彼の気持ちもわからなくもないんだよね。ただ夏女も天文部で過ごすようになってから何かが変わってきたかと思ってただけに、これは辛い。
案外、未来×夏女のカップリングもいいかもしれない。夏女にはこれくらいしっかりした子の方がいいでしょう。問題は、これが恋愛に発展できるかってところかしら。…まあ結婚は恋愛感情がなくてもできるものではありますし。あ、でも未来ちゃんはあれでちゃんとした女の子だから、恋をしたいだろうね。うーん。
願わくば、冬の気配が緩んで春になる頃には、彼らのかじかんだ心もほろこんできますように。


●「ブルースター・ロマンス 宙からの求婚者」岩佐まもる[角川スニーカー文庫]590円(00/11/09)

ドラゴンレースを描いた「翔竜伝説」シリーズの作者の新作だったので買いました。
辺境の村の近くに住む少年レトは声を出すことができなかったが、村の人たちに親切にしもらい、平穏な暮らしを送っていた。ある日突然守護神として崇められている護星大姫スーシャがやってきて、レトを夫にすると宣言したが…
SF設定がちょっと入ったファンタジー。
うーむ。前半のレトの村での平穏な生活の描写とかは味わいあってなかなかいいと思います。ただ、大ネタになると、安物の食品模型のようで食べる気にならないというか。いかにも「作られた」システムって感じがして、おもちゃみたい。話は続くようですが、それほど先を知りたいとも思えないんですよね…悪い作品ではないんだけども。


●「冬に来た依頼人」五條瑛[祥伝社文庫]381円(00/11/08)

祥伝社の書き下ろし中編シリーズ。全然知らない作者だったんですが、にしむらさんところの掲示板で話題になっていたので買うことに。
ハードボイルド。探偵事務所をやっている桜庭のところに、昔の恋人がやってきた。失踪した夫を探してほしいという。会社の金と共に、愛人と消えたはずであったが、調べてゆくと…
私はどうもハードボイルドというのが苦手なんです。作中の「私」の自意識が鼻につくというか。でもこの作品はよかった。いや、それより「この作者、うまいなー」という感想が先立ったかなあ。キャラクターバランスやさりげない描写、世界の構成力、あまりにも完璧すぎる。美しくまとまった中編でした。この作者の長編もぜひ読んでみたいですね。


●「蔦蔓奇談」椹野道流[講談社X文庫ホワイトハート]590円(00/11/08)

「奇談」シリーズ最新作。本業は小説家、裏稼業が霊障を扱う「組織」に属する追儺師(ついなし)の美形・天本森と、人間と植物の精霊のハーフの美少年・琴平敏生による、ゴーストバスターもののシリーズですが、今やすっかり湯煙紀行グルメ怨霊退治モノであります。
勘当され、もう縁は切ったはずの父親から密かに「会いたい」と告げられた敏生。父は末期ガンで余命いくばくもない状態だった。決心の末、父の待つ京都に向かった敏生だったが…
今回はしんみりとしていい話になったと思います。でも、またしても今回も本筋に関係のない描写が多すぎて、話が薄くなりすぎ。逆に本は分厚くなってるけど。もうちょっと話の濃度を上げるようにしてくれないかなあ…


●「奇憶」小林泰三[祥伝社文庫]381円(00/11/07)

祥伝社文庫中編書き下ろしシリーズのひとつ。今月はこればかり読んでるなあ。
「玩具修理者」を書いた方の作品です。ホラー。
大学を卒業してからもぶらぶらし、親にも見捨てられた惨めな生活を送っていた青年。彼の子供の頃の記憶の中には月が二つあった。それは夢だったのか、それとも現実か…
主人公のダメダメ生活ぶりの描写が丹念になされているせいで、「こんなうっとおしいヤツ、蹴っ飛ばしてやりたい!!」気分についなってしまいます。話自体は怖さというよりは、奇妙な揺らぎを感じるような。やはり筆力がある方ですね。魅せてくれます。中編としてうまくまとまっています。


●「文字禍の館」倉阪鬼一郎[祥伝社文庫]381円(00/11/02)

これも祥伝社文庫の書き下ろし中編。最初は買う気はなかったんですが、「なつこ、孤島に囚われ。」西澤保彦での「ミーコちゃん」が気になって買ってしまいました。著者近影、本当にいるよ、ミーコちゃんが…
ごく一部の人の噂にのぼるだけの「文字禍の館」。そこに入って消息を絶った人が何人もいるという…オカルト雑誌の編集部に館から招待状が届き、編集部から三人の人間がでかけた。彼らがそこでみたものは…
「文字」によるホラー。最初はバカホラーかと思ったんですが、これが結構怖い。なかなかおもしろかったです。


●「キスのためらい」和泉桂[講談社X文庫ホワイトハート]590円(00/11/02)

「キス」シリーズ最新作。経済アナリストと、無愛想なシェフの甘々でじれったいボーイズラブもの。
料理人として大成するという夢のため、恋を切り捨ててしまった佐々木。愛しあいながらも別れてしまった二人だが…
うわー、じれったい。なんでそう二者択一になっちゃうんだかっ。…まあ、ふたりはそういう不器用なキャラだからでしょうが。
このシリーズもかなり長くなってきましたが、レシピエ再開までの道のりはまだまだ遠そうですよね…ここまで読むとキャラが「他人」ではなく知り合いのような気分になってくるんですよ。だからこそ、登場人物みんなに幸せになってもらいたいなあ、と。続きも波瀾含みになりそうな予感がしますが、とりあえず楽しみに待ってます。


●「空中鬼」高橋克彦[祥伝社文庫]381円(00/11/02)

これまた祥伝社文庫の書き下ろし中編。平安時代を舞台に陰陽師の弓削是雄が活躍する物語。たしか、数年前に安部清明ほか代々の陰陽師が登場する連作短編にでてきたキャラで、そのあと独立した長編もでてるんですよね。……かすかに読んだような記憶が。まあ、前作を知らなくてもなんなとく話はわかりますが。
ちょっと切ない話で、悪くはなかったです。


●「流血女神伝 砂の覇王3」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]495円(00/11/01)

もう、どれだけ楽しみに待ってたことか。「流血女神伝」の新作です。
期待に違わず、怒涛の展開、充実した一冊でありました。
前作のラストで貞操の危機に陥ったカリエ。どうなることかと心配してましたが…おおっ、こんな展開に!!
「がんばりますから続けてください」のカリエがかわいいっす〜。今回は砂漠の王子様・バルアンの魅力炸裂でした。織田信長系列というか、読んでで実は加賀くん(ヒカルの碁)を思い出してしまいしたが、ああいうワイルドでつかみ所がなく、生命力に溢れ、残酷だが惹かれずにはいられない、いいキャラに仕上がっています。私の好みのタイプではズレてるはずなのに、萌えますわ〜。
ドーン兄上も頑張っています。タイプこそ違えど、彼も覇王。夫婦揃って頑張ってほしいものであります。
待望のコルドの初イラストがっ。想像したより線が細い感じかな。70ページの最初のセリフとか、もう素敵!!
あと、ミュカ……がんばれ〜。
最後の方のエピソード、背中に氷を入れられちゃったような感じ。華やかに見えても皮一枚下はそういう世界だから。こういうどろっとしたところもきちんと描いてくれるからこそ、世界に深みが感じられるわけで。
とにかくどのキャラも立ちまくりの中、エドが影が薄い…次こそは活躍してくれるものと期待しています。
このシリーズは異世界ファンタジーですが、そのあたりのライトノベルのソレとは一線を画した、血肉をしっかりと感じさせる骨太な作りと魅力的なキャラ、とにかくオススメのシリーズです。方向性は少し違うけど、「十二国記」にハマったような人はぜひ読んでみてください。読むなら「流血女神伝 帝国の娘」から。現在でシリーズ5冊でてます。
年末に予定されてた「ブルー・ブラッド番外編」がなくなったのは残念ですが、須賀さんはちょっと働きすぎじゃないかと思うのでゆっくりと英気を養ってほしいものです。そして次も今回を更に越えるような充実した作品を書いてほしいな。


●「嗅覚異常」北川歩実[祥伝社文庫]381円(00/11/01)

祥伝社文庫書き下ろしの中編。「猿の証言」「僕を殺した女」「模造人格」など科学系ミステリを書く方です。
今回のネタは嗅覚。…なんか最近、ミステリの匂いネタって多くないですか? 私が思いつくだけで、これが三作目のような。
この話は、頭を打ったショックで匂いが感じられなくなった女性に絡んだ事件。中編だけあって、この人の作品の中でも小粒な印象は受けます。小技はきいていますが。


●「0番目の男」山之口洋[祥伝社文庫]381円(00/11/01)

祥伝社文庫中編書き下ろし。日本ファンタジーノベルズ大賞受賞作「オルガニスト」の作者のほぼ2年ぶりの新作。
2010年、環境問題解決のための人材を確保するために、優秀な学者であるマカロフのクローンが大量に作成された。その「親」となったマカロフは70年の人工冬眠を経て蘇る。そして彼は自分と同じ遺伝子を持つ「マカロフ」たちが集まるバーにでかけたが…
しんみりとした味わいの良品と仕上がっています。ただし細かいところが説明不足感があるかも。
とにかく、もっと作品を書いてほしい作者さんではありますね。


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