01年3月に読んだ本。   ←01年02月分へ 01年4月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「忌みしものの挽歌 封殺鬼シリーズ22」霜島ケイ[小学館キャンパス文庫]514円(01/03/31)

封殺鬼シリーズの待望の新作。千年を超えて生きる鬼たちを主人公にした、(広い意味での)陰陽師モノです。
夜刀神に取りつかれ、中央の術者を殺害してしまったために逃亡の身の上となった聖。そして躊躇無く聖を連れて逃げることを選んだ弓生。2人は高良の手引きでつかの間の隠れ家を得た。一方、本家ではこのたびの鬼の処置をめぐり三家が対立。三吾は当主後継ぎとしての立場と、2人の鬼への友情の狭間で苦しむが…
前回あんなラストでどうなるかと思いましたが、聖が復活。まあ彼らしいですなあ。三吾はまたしても不敏な役まわりで。頑張って乗り切ってほしいものです。達彦氏とにいちゃんの対決はみものでした。素敵。
高良の予言での亡くなる人って、桐子様なんでしょうか。うーん、そんな単純な展開ではないかなあ。
これからラゴウ編も怒涛の展開に突入しそうですが、早く続きがでることを祈ってます。


●「僕達の再出発 泉君シリーズ11」あさぎり夕[小学館パレット文庫]467円(01/03/30)

泉君シリーズ最新刊。ボーイズラブっす。今回の泉くんもすっごくヤな「女」でした。親友の子供を育てるために、こっぴどく振った元カレの元に転がりこんで、ヨリを戻すんだか戻さないんだか…で。でもさー、あんた伊達のことを責めるけれども泉くんだってそうとうイロイロとやってるじゃないですか。それなのに自分だけをみてほしいなんて都合よすぎ〜。…ってキャラにムカつくなら読まなきゃいいものを、なぜか気になってつい読んでしまうんですなあ…前作を読んだときには、ホモ小説をガンガン出してるこの作者もさすがに枯れてきたかと思ったものですが、なんか復活してる。ホームページも始めたそうだし、まだまだ元気なようです。


●「浪漫探偵・朱月宵三郎 屍天使学院は水没せり」新城カズマ[富士見ミステリー文庫]540円(01/03/30)

この作者の「蓬莱学園の初恋」がその筋(?)では名作と名高いので、いつかは読んでみたいと思ってたんですよ。というわけで購入。 かつて、夜には闇があった頃。帝都を騒がせていた怪人たちを、封印の鍵「アイアザーンの涙」を用いてあるミステリ作家が小説の中にに封じ込めてしまった。その作家の死後50年。封印が解け、蘇る「夕闇男爵」。彼の犯罪を阻止するために名探偵・朱月宵三郎も蘇り、「アイアザーンの涙」の継承者の真夜の前に現れる。一方、真夜の転校してきた全寮制の女子高・聖クラリッサ学院では奇怪な密室殺人が起こり、真夜もその怪事件に巻きこまれてしまうが…
バカミス。基本はテンポのよいコメディでありながら、幻想怪奇探偵小説への愛に満ちたオマージュであり(冒頭は乱歩のパスティーシュです)、なかなかに面白いメタなミステリとなってます。ミステリとしてあの解決を受け入れがたい人はたくさんいそうですが、あの非常に巨大な「密室」の概念は個人的にはいいなあと思います。あと「無限図書館」のイメージも素敵。
非常にクセのある話なのでなかなかオススメしづらいんですが、メフィスト賞受賞作によくある「なんじゃこりゃ〜〜〜」といいたくなるようなバカでメタなミステリが好きな人にはオススメです。


●「ウィーン薔薇の騎士物語」高野史緒[中央公論社C★NOVELS]900円(01/03/29)

「ウィーン薔薇の騎士物語」シリーズの新作。世紀末のウィーンを舞台に、ジルバーマン楽団のバイオリニスト・フランツとその仲間たち…薔薇の騎士四重奏団の物語です。前作で楽器が焼け出された薔薇の騎士四重奏団の面々にベルンシュタイン公爵は楽器をプレゼントした。しかしフランツだけには調整中のため公爵の城までとりにきてほしいとのこと。夏休みの避暑も兼ねてフランツはベルンシュタイン公国にでかけた。そこには、弾き手の魂を食らうという伝説のバイオリン「シレーヌ」があるという噂があって…
メインとなるエピソードが弱いものの、フランツの肉体的だけではなく精神的な成長もうまく描いていたのではないかと。音楽がらみの描写は素敵だなあ。
才能がないことを知るのは辛いことではあるけれども、才能がある場合もそれはそれで茨道だから。フランツくんには頑張ってもらいたいものです。


●「天象儀の星」秋山完[ソノラマ文庫]533円(01/03/28)

「ラストリーフの伝説」「リバティ・ランドの鐘」 「ペリペティアの福音」「ファイアストーム 火の星の花嫁」の秋山完の「懐かしき未来」の系譜につながる新作短編集。デビュー作を改稿した作品や昔雑誌に載った話の他、書き下ろし新作も。
SFですがファンタジー属性が強いです。幻想的なイメージと光と音。物語自体は優しくもあり、ほろ苦くもあり。書き下ろしの「光響祭」が特によかったです。言葉の連なりがとてもきれいで。
結構オススメひととき、美しい夢を見せてくれるおとぎ話。このシリーズを一冊も読んだことなくても大丈夫です。
巻末に「懐かしき未来」シリーズの年表が載ってましたが、それによると「プリペティアの福音」にでてきたフレンのお話もあるようですね。とても楽しみ。秋山完さんは遅筆なので次の作品がいつ読めるかわからないけど、楽しみに待っています。


●「美術の解剖学講義」森村泰昌[ちくま学芸文庫]1000円(01/03/24)

「名画の場面」をそのまま演じたり、過去の「有名女優」に扮装したりするセルフポートレイトを中心に国際的に活躍しているアーティストの方の書いた本です。どうやら一番最初に書いた本の文庫本化のようですね。
この人の語り口ってサラサラしてて気持ちいいし、独特の視点もおもしろいんですが、今までに読んだこの作者の著書「踏みはずす美術史」「芸術家Mのできるまで」「空想主義的芸術化宣言」とネタ被ってるのもいくつかあって、「…あれ、これ読んだことあるや〜」になってしまったのが多かったのは残念でありました。
でもメディアの変遷と「見る←→見られる」の関係の変化の話はなかなかおしろかったです。あと「写真論」と。こういう構造解説の話は好みなんで。


●「バトル・ホームズ 誰がために名探偵は戦う」梶研吾[集英社スーパーダッシュ文庫]476円(01/03/23)

浅田弘幸さんの表紙と口絵ラストがとてもカッコよくて、つい購入してしまいました。
ホームズ贋作モノ。ただこの作品はミステリではなく、ホームズが若かった頃(大学出たて)の冒険談となります。本編でもホームズは柔術を取得していたこととなってますが、その部分を膨らませた話。元ボクサーの黒人・ガイとホームズの友情格闘青春小説でもあります。
作者がマンガ原作者として15年のキャリアを持つ人だけあって、話に澱みがなく、エンターティメントとして押さえるべき部分は押さえてありますから結構楽しめます。格闘シーンもなかなか。
私はシャーロキアンではないので、切り口がどうのこうの…とは言えないのですが、ここで描かれるホームズは強いだけでなくバイオリンの名手で、勇気もあり義にもあつい、文字通りの「いいヤツ」なんですが、あまりのスーパーマンゆえに個人的には物足りなさが残ります。大昔に読んだ、島田荘司のホームズと夏目漱石が出会うという話(タイトル忘れた…)のハタ迷惑なホームズぶりの方が私には好みだったなあ。


●「オーラバスター・インテグラル 月光人魚」若木未生[徳間デュアル文庫]505円(01/03/23)

コバルトの人気シリーズ「ハイクスール・オーラバスター」の枝となる話。二つの中編とひとつの短編。オーラバスターのキャラでは忍さまのみ出演します。
モラトリアム真っ只中の大学生たちを軸に、あちらとこちら、境界線上で揺らめく幻想奇談。学生ながらもかけだしの売れない作家である鳴木の視点から描かれてるせいか、最近の若木さんの作品にしては非常に文章も物語も「わかりやすい」です。表題作である「月光人魚」のイメージとかなかなか美しくていいなあ。悪くはない作品かも。ただいかにもライトノベル的な「青さ」がありますので、そういうのも含めて好きな人にはオススメかも。
ちなみに「ハイスクール・オーラバスター」本編を知らなくても大丈夫です。
イラストは末弥純さん。表紙イラストなどなかなかよいんですが、デュアルはブックデザインがイマイチだから、絵を完全に生かしきれてなくて、それがもったないなさすぎるのよね…


●「人名の世界地図」21世紀研究会[文集新書]780円(01/03/22)

作者名(?)からすると怪しげな謎本みたいですが、結構マジメな研究本。世界各地の名前の由来が宗教に由来するもの、古代の文明や神話に由来するもの、などなどセクションに分けて詳しく説明。文化によって名前の意味やつけ方に差があるものなんですね。同じ由来でも地域によって呼び方がかわっていったり、美しい名隠された迫害の歴史や、なかなか興味深い話題が。おもしろかったです。オススメ。


●「鬼童来訪 起の章」一条理希[徳間デュアル文庫]562円(01/03/22)

「サイケデリック・レスキュー」「H.O.P.E」など横文字タイトルの作品を書いてた作者ががらりと方向性を変えた新シリーズは和風のダーク・ファンタジー。
鬼が跋扈していた昔。鬼たちは人を食らい、人々は鬼におびえながら暮らす日々だった。強力な生命力を持った鬼を殺せるのは、人でありながら人でなくなった「鬼童」。鬼童になれば力を得ることはできるものの、4年しか生きられなくなるという。真那は生き残った最後の鬼童で、死なせ屋の泰冥、身元不明の少女・あけびと友にあるものを探して旅を続けていたのだったが…
文章からキャラの見せ方から今までの一条理希とは違っていたけど、この容赦ない展開はまさに一条理希。人もサクサク死ぬし、何より主人公がいくら努力しても事態は好転せず、却って悪化したりして救いようがないのが素敵だなあ。甘くなくて。
なにやらサブキャラにも色々と秘密がありそうで、今後どういう展開になるか楽しみです。
世界観もキャラ立ちもしっかりしてて話もおもしろくてオススメですが、あまりにも内容が救いがなく暗いのでそういうのが好きじゃない人は避けた方がいいかも。
イラストは「十二国記」でお馴染みの山田章博さん。イラストはすばらしいのに〜、なんでこういうベタっとしたデザインにするかなあ。デュアル文庫のデザインってイマイチでイラストのよさを殺してるのが多すぎ。


●「微熱のダイヤモンド〜君の瞳で凍らせて〜」松本祐子[集英社スーパーファンタジー文庫]514円(01/03/21)

「天使たちのラプソディー」シリーズはわりと好きだったので、同じ作者の新作も購入してみました。しばらく積読になっちゃったけど。
なんとなくホモくさいタイトルと表紙ですが、別にボーイズラブじゃないです。
空手の有段者ながら家事も得意な世話焼き少年→睨むと人を殺す力があるといわれている、周りに冷たく人を寄せ付けない美貌の少年なすこし奇妙な友情物語。
サクサク読めますが、だからどうしたッって感じの話で。…まあそういことで。(何がだ)


●「エウリディケの娘」友谷蒼[EXノベルズ]800円(01/03/19)

「若草一家でいこう!」「デュアル・ムーン ―月光少年―」の作者の新作読みきり。学園ホラー。
景南高校は進学校で、生徒たちは高校特有の息苦しさを感じつつも青春を満喫していた。夏のある日、少女が学校の目の前で交通事故に会い、一度息をひきとるがなぜか奇跡的に回復した。…そして。「景南の生徒は死なない」という噂が流れ始めて…
この人の作品って筋はいいのにあと一歩物足りないところがあったんですが、今回は空気作りのうまさがうまくストーリーと絡み合ってすごくいい感じに仕上がっています。微妙な年頃の少年・少女たちをセンシティブにうまく描いていて。
恩田陸の学園ホラーが好きな人には結構オススメかも。
タイトルの意味が最初はわかんなかったけど、調べてみたところギリシャ神話が元ネタですね。オルフェウスの奥さんだと言えば、今回の話のネタも予想がつくかな?


●「チェンジリング 赤の誓約」妹尾ゆふ子[ハルキ文庫]780円(01/03/18)

「魔法の庭」「NAGA 蛇神の巫」など上質のファンタジーを書ける作家・妹尾ゆふ子さんの新作なので発売を楽しみにしておりました。新シリーズスタートです。
美前は小さい頃から「妖精」をみる力があった。それをひた隠しに、目立たないように生きてきた美前だったが、作り物のような金髪の美貌の少年とであったことから、今までの生活が少しずつ崩壊していった…
居心地の悪さや違和感をおぼえて生きてきた主人公が実は異世界の特別な存在で、異世界から美貌の使者が迎えにくる……というモチーフはライトノベルに限らず少女マンガなどでもよく使われはしますが、この小説ではそれを力のある作家さんが書いてるために夢と現実が溶け合うような美しい調べの物語となりました。ケルト神話を異世界のベースにしてますが、よく調べこんでいるようで作りがしっかりしてて、「向こうの世界」が本当に魅力的。いかにもありそうな「現実世界」をしっかり描いているからこそその対比が際立ちます。妹尾さんの文章は、言葉が音楽のようで、とてもきれいなんですよ。作品でも「音」が重要な役割ででてきてますが、異世界を舞台にしたらますますそのあたりが際立ちそうで楽しみです。
物語の空気に触れるのが好きな人にはとにかくオススメな作品です。ただしストーリー的にはそれほど進んでないので、ストーリー中心で読む方は7月発刊の次回作を待ってからイッキ読みした方がいいかもしれません。


●「煩悩ゲームの世界」鈴木淳平[キルタイムコミュニケーション]950円(01/03/16)

サブタイトルが「女のコにしか見えないゲームワールド」。女子向けゲーム系同人世界の解説本です。作者はこのジャンルに興味がある男性であるために、自らの内側からでてきた「萌え」について語るのではなく、外側からみた「萌え」の解説なんで少しズレてるところはあるけれども、揶揄するわけではなく「こういう楽しみ方もあるよ」という紹介なのはよかったです。できれば「超クソゲー」あたりのようにそれ単体でコラムとして楽しめるほどのものであればよかったんですが。
いくつかのゲームについて、ゲームの萌えポイントのために簡単なあらすじ、キャラ紹介、カップリングの萌えどころ説明があります。そのために、かなり致命的なネタバレもしているので注意。
とりあげられたゲームは、数ページ分紹介があるのが「FF7」「幻水1,2」「魔人」「メガテン(サマナー、ペルソナ1)」「ゼノ」「KOF」「アンジェ」で、2ページ分での紹介が「FF6」「FF8」「FF9」「クロノクロス」「エラン」「サーカディア」「ガンパレ」「サイキックフォース」「ギルティギアX」「いつか、重なりあう未来へ シロウ編」「FE」「オウガ」となっています。
私もゲーム系女子向け同人とかも読んでたりするんで大体のゲームの名前は聞いたことあったけど、「いつか、重なりあう未来へ」は初めてみたなあ……でもPSでもモロにやおいなゲーム(えっちシーンこそないものの)がでてたんですねぇ。ちょっとやってみたいかも。


●「トイボーイ・ゴースト」上領彩[角川ティンーズルビー文庫]419円(01/03/15)

「ハニームーン・ゴースト」の続編。霊媒師兼、美貌の推理作家・光一郎と、霊を実態化させちゃう特殊体質の元気高校生・真理(少年)の観光グルメ悪霊払いコミカルストーリー。
今回の舞台は京都。人気若手俳優の直人には「十七になったら死んでしまう」という呪いがかかっているという。光一郎の仕事はそれを防ぐことだが、直人と共に京都に向かった真理の前に現れたのは耳しっぽつきの手のひらサイズの少年だった?
読んでると、京都で遊びたいなー、オイシイもの食べたいなあという気になってきますな。マリちゃんが前向きに元気なので、気楽に楽しむにはいい話となっています。それにしてもほんと美味しそうに食べるなあ、マリちゃん…
次はどこの観光地かしらん。


●「双星記3 遠すぎた夏」荻野目悠樹[角川スニーカー文庫]571円(01/03/14)

「双星記」シリーズ三作目。軽めのスペースオペラ。
今回はまあまあおもしろかったです。こういう終わり方だと次の展開が気になりますなあ。今まで出てきた意味のないキャラがピースとしてパズルのどこに当てはまるかわかって好感度アップ。でも荻野目作品にしてはこの程度のイジメ方がヌルすぎると思っちゃうんですよ。作者は路線を変えたんだろうけど、私がこの人の作品で好きだったのは、主人公に容赦ない試練が降りかかるからだったんで。
世界の謎めいたものに言及があったけども、どういうオチをみせてくれるのかを楽しみにしてましょう。


●「グイン・サーガ78 ルノリアの奇跡」栗本薫[ハヤカワ文庫]540円(01/03/11)

グインサーガシリーズ最新刊。タイトルだけで話の内容は全部分かるのではないかと。というわけであらすじ→ヴァレリウスが帰還して、このたびのナリスの自害は実は自軍のスパイをあぶりだすための芝居で、イェライシャの魔術で仮死状態になっていることが判明する。イェライシャはナリス軍に力を貸すことに。騙されたスカールはナリスへの協力を拒みナリス軍から離れる。スカールに置いてゆかれたリギアはナリスとヴァレリウスにぬぐい去りがたい不信感を抱き出奔。途中竜王からの妨害は受けるが、カレニアに辿りつきナリスは息をふき返す。そして自らがパロの聖王になったと布告。レムス陣営とはまだ膠着状態だが、グインはナリス支持を明きからにするも不干渉を宣言。イシュトは一見無反応。
……はあ。まあこういう展開だろうとは思ってましたが。栗本さんは無意識で小説を書けることを自慢しておりますが、ここしばらくのグインはプロットを立てないことによる行き当たりばったりな展開の弊害が目立ちすぎますよねぇ。それと辻褄あわせのための説明的なセリフにはうんざり。でも惰性でつい読んでしまうんだよねぇ…
とにかくパロはもういいから、他のところの話にしてくれないかなあ。グインだせ、グインを。
それにしても栗本さんって本当にナリスをきちんと殺せるんですかね? 自キャラに愛情注ぐことでキャラクターに魅力がでたりすることもあるだろうけど、それがストーリーを殺しだしたら終わりだと思うんですが。


●「板垣恵介の激闘達人烈伝」板垣恵介[徳間書店]1400円(01/03/10)

これまた「バキ」の作者の著作。武術の達人・4人について綴った本です。おもしろい!!
スポーツではない、リアルな実践を体験してきた達人たちのエピソードが深いですなあ。手刀で材木をチーズのように切ったり、相手の身体の力の流れさえ完全に操れたり、1対50(しかも相手は武器持ち)を戦い抜いたり、修羅場の中で生きる忍者だったり、マンガの中にだけ存在するような神業を繰りだす生きた伝説を体現した達人たち。…こんな世界が本当に存在するんですね。凄い。強くあろうとすること。そのための修行は苦しいだけではなく、達人たちにとっては喜びですらあったりするわけで。…それに平和な世の中であっても力だけがモノをいう世界もあって、武術はそういうところでも必要とされているんですね。スポーツならともかく、武術というのは普通の人の目には付きにくいところに存在しますから。
武道モノのノンフィクションとして読むのもいいですが、ひとつの道を極めた「達人」ものとして、武術に興味がなくてもおもしろく読むことができます。
各達人たちの似顔絵を板垣氏が書いてるんですが、写真でみるかぎり似てるようには思えなませんが、とにかくみんな迫力と一筋縄ではいかないような深遠さを感じさせてくれるイラストになってます。きっと対面したときの印象がこういう感じだったんだろうね。そういうのがストレートに伝わってくるなあ。


●「板垣恵介の格闘士列伝」板垣恵介[徳間書店]1400円(01/03/10)

チャンピオン連載中の格闘マンガ「バキ」がおもしろかったのでその作者が書いた本を購入しました。
「最強の男」に憧れ、実際に格闘技を学び、「休み時間に身体を鍛えていても文句の言われない職場」ということで自衛隊に入った…という逸話まで持つ板垣氏が古今東西の格闘家について愛情たっぷりに熱く語っています。これがもう、「好き!!」って気持ちがビンビン伝わってきて、引きこまれます。いやもう、おもしろい。私は格闘技属性は持ってませんが、そういう人間にも十分わかる話です。
またバキの元ネタ明かしになっているので、「バキ」が好きだとよりいっそうおもしろくなります。
印象に残った話は、「バキ」に出てくる達人・渋川剛気のモデルとなった塩田剛三のエピソード。155センチ、45キロの小柄な老人が、ほんのわずかな力で大きな男を倒してしまう。…そんな人が実在するんですね。マンガだけの世界じゃなかったんだ。「バキ」にでてくる二大ジジィの剛気も独歩も非常に存在感のある魅力的なキャラでありますが、それは作者のあれだけの思いをこめられていたからなんですね。
「バキ」を知らない格闘技素人でもおもしろく読めますが、「バキ」を読んでからの方がよりいっそう楽しめます。「バキ」は現在シリーズで50冊ほどでてますが、マンガ喫茶で集中して読めば5時間くらいで読破できますので、興味を持ったらぜひ。あまりに表現がゆきすぎるゆえに笑えることすらありますが、魂のこもった作品です。


●「メビウス・レター」北森鴻[講談社文庫]619円(01/03/09)

作家・阿部龍一郎あてに過去からの手紙が届く。それは高校生の焼身自殺の件を追求する手紙だった。それに前後して、阿部はストーカーまがいの人妻につけまわされるようになる。そして身近で陰残な事件が続発するが…
1998年発売のハードカバーの文庫本化。この作者の「狐罠」はおもしろかったので購入。
途中まではなかなかいい。一件なんのつながりもなさそうに思えることが、どうやってパズルのピースがはまるかをみてるのは楽しかった。でも、ラストがな〜。…たしかに意外性はあったけれども、リアリティなさすぎ。登場人物たちが「なぜ」そういう行動をとったかが意味不明。特に阿部が自分の正体をあそこまで偽らなければいけない理由が全くわからない。トリックのためのストーリーになってしまっている。…なんだかなあ。


●「ヴェネチアに星降る」あくたむらさき[集英社コバルト文庫]495円(01/03/08)

中世イタリアを舞台にしたボーイズラブもの。口は悪いが情にあつい茶色長髪美形青年医師×子犬ぽい素直な金髪碧眼美少年な話です。
買おうかどうしようか迷ってたんですが、この作者が実はコバルトで歴史ファンタジーを書いている某さんだと知って購入。…作者の正体は本に載ってるURLにアクセスしたらわかります。作者名で検索かけてもわかるかも。
ヴェネチアに暮らす青年医師・ジャックの父親はよく病気の動物を拾ってきた。ある日彼が拾ってきたのは、親に捨てられた少年・ミケーレ。そしてミケーレは引き取られ、ジャックと暮らしだした。そして2年後、ヴェネチアのカーニバルに繰り出したミケーレは、ジャックとそっくりな男・バルトロメオに出会う。その男に不吉なものを感じたミケーレだったが…
うわー、惜しい。受がわりと好みのタイプなのでボーイズラブとしては満足したし、基本的に悪くない話ではありますが、構成がまずすぎ。なまじっか中世イタリアの描写がうまいし、キャラ描写もよいのでもったいない…
「直感だけで骨董品の真贋を見極めることができる」というミケーレの能力は一体なんだったんですか? 曰くありげな古文書や「ラオコーンの足の一部」とか、そのあたりの謎も最後には解明されると期待してたのに肩透かしでした。そういう骨董や美術品がらみのコンゲームのネタが好きなんで、ミケーレの能力とジャックの理論からでてくる食い違いを発端としたミステリーを読んでみたいものです。おもしろいエピソード作れる設定なのになあ、そのあたりを生かさないなんて本当にもったいない。続編、書いてくれないかなあ。マジで。


●「背中にはしまもよう」三鷹うい[角川ティーンズルビー文庫]438円(01/03/08)

…作者の方は5年以上前から一方的に存じ上げてるので、つい購入。「筆頭」はおもしろかったなあ。
第一回角川ルビー小説賞優秀賞受賞作。高校生の和樹は、天才科学者(でもマッド)の叔母・日菜からひとりの少年・トラを預かってくれといわれる。実はトラの正体は猫で、日菜の手によって人間に変身する能力を与えられたのだった。トラと暮らし出した和樹であったが、トラに使われた技術の軍事利用を狙う組織につけまわされることに…
拍子抜け。もっととんでもない本かと期待したんですが…印象としてはライトノベルの平均的な本という感じです。でもなんか小さなトゲが指に刺さったような異物感を感じる話ですなあ。設定自体はバカコメディなのに、話のトーンがシリアス志向(でも描写力不足)なあたりとか。それとキャラへのスポットのあたり方からすると主役は日菜になってて、トラは添え物。作者が自己投影しているのが日菜だからなのかなあ、という気がしますがどうなんでしょ。
初期設定を聞いただけで「こんな感じのストーリーかな〜」と想像できる範囲でしか展開しないのもマイナス要素。
トラまわりのぽやんとしたエピソードは悪くはない。むしろそっちを話のメインにするべきだったんじゃないかな。


●「ディジタル・ホームズ ミレニアム・ハッカー」野口幸一[ファミ通文庫]640円(01/03/07)

ネットもののミステリということと、イラストが結構いい感じなのでつい買ってしまいました。
1999年12月、「Ib」から全世界に犯行予告が出される。そして実際にサイバーテロにより様々なトラブルが噴出した。13歳の少年にして凄腕ハッカーのイブカは、自らのハンドル「Ib」を勝手に使われたことに腹を立て、サイバーテロを企むミレニアム・ハッカーたちをあぶり出し、追い詰めてゆくが…
今度プレステ2からゲームがでるし、あとWEBで企画があったり、マルチメディア展開しているシリーズだそうです。
文章がアレなのはライトノベルだからまだ許すとしても、キャラに魅力がなく、ネット関係の描写の中身がスカスカ、ストーリーの陳腐さがジャンプ十週打ちきりマンガレベルというのはなあ。表紙や口絵のイラストはまあまあなんだけども中の挿絵はイマイチ。


●「破妖の剣外伝6 呼ぶ声が聞こえる」前田珠子[集英社コバルト文庫]476円(01/03/07)

人気ファンタジーシリーズ「破妖の剣」の最新作。またしても番外編。
今回はサティンと鎖縛の話と、もうひとつが逃亡中のラスと赤の人の話。私はこのシリーズはそれほどいれ込んでるわけではないので、話も記憶が曖昧になってきてるし…そういえば本編ってもう何年でてないんだっけ?
お気に入りのリーヴィと邪羅の出番が少なかったのが残念。話としてはまあこんなものかなあという感じですが、2本目の最後の話って…これって、そういうことだよね? 父親は誰? あの人なの?


●「童子切奇談」椹野道流[講談社X文庫ホワイトハート]650円(01/03/06)

「奇談」シリーズの最新作。本業は小説家、裏稼業が霊障を扱う「組織」に属する追儺師(ついなし)の美形・天本森と、人間と植物の精霊のハーフの美少年・琴平敏生による、ゴーストバスターもののシリーズですが、今やすっかり湯煙紀行グルメ怨霊退治モノであります。今回の話の舞台は京都。グルメはあったけども珍しく(?)温泉はなかったですな。
天本と敏生はテレビで龍村そっくりの平安装束の謎の男が京都に出没したのを知る。元佑がこの時代に飛ばされたのではないかと見当をつけたふたりは、彼を助けるために京都に行ったのだが…
今回は第一部と第二部の間、閑話休題な話であります。ひたすらいちゃいちゃラブラブで、どうぞご勝手に…という感じになっちゃうなあ。今回は前作に比べるとスカスカ感がかなりマシになりました。でももうすこし短くできるんじゃないかなあ。
龍村さんはわりと好きだし、彼の出番が多かったからいいか。あと作者の本業が監察医だけあって、死体描写の生々しさはさすがです。


●「金のしらべ 蜜の音」紫宮葵[講談社X文庫ホワイトハート]530円(01/03/02)

第7回ホワイトハート大賞受賞作「とおの眠りのみなめさめ」の作者の二作目です。耽美で幻想的なお話。
鳳王朝が革命政権によって倒されてから四半世紀。王朝の末裔たちはかつての避暑地・南の孤島《地上天》にある離宮をホテルに改造し、そこで細々と暮らしていた。最後の皇帝の落し胤である少年・瑞麗は、ある日天上の調べのような少年の歌声を聞く。その歌声に誘われ、「近づいてはいけない」という沼に行った彼がみたものは…
とろりとして甘く感じられる空気、そんな退廃的な雰囲気は悪くない。…というか「落ちぶれた元王朝」という設定自体がかなり好みなんで、それだけでわりと満足でした。題材はおいしいのになあ、もうすこしエピソードやキャラを書き込めば特別な作品になりえたのに。惜しい。あとオチがちょっと尻すぼみな感じがするのが残念。
とりあえず次の作品に期待。
ちなみに少々ホモ入っております。


●「開かれぬ鍵 抜かれぬ剣 上 足のない獅子」駒崎優[講談社X文庫ホワイトハート]530円(01/03/02)

めちゃお気に入りの「足のない獅子」シリーズの最新刊は上下巻。うわぁ、こんなところで終わるとわっ。下巻が来月発売ということでそれまで我慢しますが。
中世のイギリスを舞台に、沈着で頭脳派ながら優しさのあるリチャードと、豪胆で気のいいギルフォードのやんちゃな騎士見習いの二人の青年の、剣も魔法もでてこないささやかな日常の冒険談……だったんですが今回は激動の展開。お隣の腹黒さんはまたしてもとんでもないことをやってくださるし、トビーの叔父が突然現れるし、国王の従兄弟がシェルフィールドにやってくるし、ジョナサン暗躍するし(あ、これはいつものことか)。今までの平穏な日々の終わりを感じさせる展開が、すこし痛い。縺れたエピソードは下巻でうまく解きほぐしてくれるのかなあ。
血沸き肉踊る展開とは無縁なシリーズなんですが、このまったり感がなんとも好きなんですよ。興味がある方は手にとってみてください。


●「トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars 嘆きの星」吉田直[角川スニーカー文庫]514円(01/03/01)

雑誌「The Sneaker」での連載で、中身は読んでないものの華麗なイラストが気になっていたんで購入。この作者の第一作「ジェノサイド・エンジェル」(第二回スニーカー大賞受賞)も読んではいないものの、その筋(?)ではわりと評判高かったし。
【大災厄】で人類が滅びかけてから数百年。忽然と現れた【吸血鬼】たちと人類は争いを繰り返し、人類は西に汎人類機関ヴァチカンを中心にまとまり、吸血鬼たちは東に帝国を築き上げ、危ういバランスをとっていた。二つの勢力圏の境にある街・イシュトヴァーンで吸血公爵ジェラはロストテクノロジー兵器の【嘆きの星】を用いてある計画をたてていた。それを阻止するためにヴァチカンが送り込んできたエージェントが…
ノイエ・バロック・オペラ、なんだそうです。最初の方を読んだ印象は、「ヘルシング(60%)+トライガン(30%)+ラグナロク(10%)ぽい?」というものでした。吸血鬼を殺す吸血鬼というのがヘルシングだし、主人公の性格がなんかバッシュぽいし。読み進めるにつれてその印象は薄れてきたけど。まだまだ明かされてない設定や、世界観など結構作り込んでそうですね。世界の謎関係、案外おもしろい展開になるかも。キャラ立ちもきちんとできてるし。個人的には、トレスにすこし萌え。209ページのイラストがすっごいカッコいいです。イラストはビジュアル系ですが、結構いいですな〜。
特別オススメするほどではないけど、悪くはない作品に仕上がっています。イラストに惹かれるなら買ってもいいんじゃないかな。あと吸血鬼モノや戦う神父が好きな人にはオススメ。
ちなみに雑誌の方では番外編(?)の短編シリーズ「R.A.M.」が連載されているそうですが、それも今年中には文庫になるとか。とりあえずそれを楽しみに待ってます。


●「エヴァリオットの剣 わが王に告ぐ」高殿円[角川ティーンズルビー文庫]438円(01/03/01)

架空歴史活劇「マグダミリア 三つの星」の続編。本編から2年あとの話。
前作では少年たちの成長物語でダイナミックな話でしたが、今回はラブコメ。キャラがしっかりしてるし、ほのぼのしてていいんじゃないかと。
前作の感想に「風俗や学問レベルからすると近世風なのに剣の伝説の中世ぽい世界で整合性が感じられなくて落ちつかない」と書いたけど、どうやらこの作品世界は中世の終わり頃のようです。作品冒頭でそれを示してくれたので、「中世なんだな」と思って読んだから今回はそれほど違和感は感じませんでした。(細かいツッコミいれだすと、いろいろあるけどね〜。)
ちなみに侍従長×若き王なのでそういう主従ラブな話(ボーイズラブではありません)が好きな方はどうぞ。読む場合は前作から。


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