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●「きみにしか聞こえない CALLING YOU」乙一[角川スニーカー文庫]500円(01/05/31) →【bk1】

「夏と花火と私の死体」「石の目」でミステリ・ホラー方面で話題となった乙一の新作。今回はミステリ的要素はほとんどなしですが、「失踪HOLIDAY」に収録されていた「しあわせは子猫のかたち」が好みだった方にはたまらない、癒し系の中短編3つが収録されています。
「CALLING YOU」:友達がいないから、携帯電話を持ってない一人の孤独な少女。寂しさを紛らわすために頭の中で思い描いていた夢の携帯電話。そしてある日、そこに電話がかかってきた。同じく孤独を抱えた一人の少年から…
「傷―KIZ/KIDS―」:生い立ちゆえに精神的に不安定で、特殊学級に追いやられた乱暴ものの「オレ」が出会ったのは、大人しい少年アサト。アサトにはなぜか「人の傷を自分に移すことができる」能力があった。最初は少しずつ怪我人たちから傷を引きうけていたりしたが、やがて…
「華歌」:列車事故で恋人を失い、精神的痛手から入院していた私が、病院近くの森を散歩していたときに見つけた小さな花。その花から聞こえてきた歌声に惹かれて、鉢に植え替え、病室に持ち込む。その花がほころんで開いたとき、中に見えたのは小さな少女の顔だった…

参りました。もう、泣いた泣いた。傷ついた、不器用な人々をセンシティブに優しく描いた物語です。エピソードの見せ方や文章が非常にうまいのに、あざとさを感じさせないのは天性の部分も大きいんだろうなあ。
とにかくオススメ。シリーズものではなく独立した短編なので暇つぶしのつもりでいいから手にとってもらいたいです。羽住都氏のイラストも空気が柔らかくていいなあ。
あとがきによると、なりゆき専業作家(?)になってしまったようですが、これで執筆ペースは増えるかなあ。でもそのせいで磨耗されたらイヤだし。できれば社会と接点を持ちつつ、少しずつ話を紡いでいってほしい作家さんだったけど、とにかく飢えて荒むことのないように頑張ってほしいものです。あと、あとがきにこの作品がスニーカーというラインナップに合わないのではないかと心配していることがかいてありますが、どの作品もちゃんとライトノベルの魂を持っているから、大丈夫だと思うのです。「ブギーポップ」があれだけ売れたのは、ケレン味のある描写やパズルみたいな構成だけのせいではないと私は思っているので。描き方は全然違うけれども、この本もブギーポップも本質は同じところにあるのでは?
この物語がひとりでも多くの、生き辛さ/息苦しさを感じている少年・少女たちの手元にちゃんと届きますように。


●「理央の科学捜査ファイル2 赤い部屋の殺意」夏緑[富士見ミステリー文庫]500円(01/05/30) →【bk1】

「理央の科学捜査ファイル 静寂の森の殺人」シリーズ化おめでとうの、二作目です。
自分の書いた作品「恐怖の復讐」そのままに家族を虐殺し、自分も謎の死をとげた作家がいた。それから18年、彼の住んでいた館に幽霊がでるという噂があり、地方ローカルのテレビ局が取材にきた。理央はひょんなことからその撮影隊に参加。そしてその夜、しかけた赤外線カメラをチェックしていた彼らの目に映ったものは…
古びた洋館での殺人、開かれた密室、冒頭にある屋敷の見取り図…とミステリファンにはそれだけで嬉しくなる道具立てですが、解決にはさほど意外さはなかったなあ。あんまり今回は「科学」してなかったし。ああいう警視もかなり不自然だし(ストーリーのためにああいうキャラになったのだとは思いますが)。ミステリとしては瑕があるものの、ライトノベルとしてはそれほどマニアックには走らずにいいバランスなんじゃないかと思います。
それにしても!! 船戸明里さんのイラストによる冬騎がもうたまらんっっ!! メガネ美青年がすばらしすぎる!! もうすこし探偵役である彼の属性をはっきりさせると、白皙の美貌、理系で知的、無表情、クールというか物静かな感じ、白衣がとても似合いますあたりかな。今回の新キャラも方向性は違いますがまたしてもメガネ(イヤミくん)で船戸さんのイラストがこれまたステキだったのですが、前作の某メインキャラもメガネだったなあ……ひょっとしなくても作者はメガネ萌えですか?
ヒロインはちょっと病弱だけでも精神はパワフルな女の子。理央と由佳の友情も微笑ましくていいですな。


●「マンイーター」吉村夜[富士見ミステリー文庫]500円(01/05/29) →【bk1】

「魔魚戦記」「星に願いを」でバカ設定のSFラブコメをかいてる作者の新作は、オーソドックスなホラーでした。
武士の親友の真吾が自殺をした。どうやら原因は残忍なイジメらしい。友のために復讐を誓った武士は、誰が真吾をいじめていたのかをつきとめたが、復讐をすることで失うものの大きさを考えると手出しをすることができなかった。ある日、インターネットを検索していた武士は「マンイーター」という名前の怪しい雰囲気のサイトに辿りつく。そこには「復讐、請けおいます」というメッセージが。最後の手段と思い、武士は復讐依頼をしてしまうが、そこから惨劇は始まったのだった。
なかなか。わりとスプラッタよりのホラー。怖かった。特に斬新というわけではないですが、きちんと作りこまれていてなかなか読ませます。窮地からの脱出にもう一ひねり欲しかったものの、ホラー好きな人はチェックしても損はないかと。


●「閉鎖のシステム」秋田禎信[富士見ミステリー文庫]460円(01/05/28) →【bk1】

「魔術士オーフェン」シリーズの作者のミステリー初挑戦作。
鳴り物入りでオープンしたものの、すっかり寂れた地方の巨大ショッピングモール「ブラーザ」。その日の夜はいつもと違っていた。非常灯が消され、警備員の巡回もない。弊店時に帰りそびれて閉じ込められた少年と少女、店を閉めるのが手間取った男と女が、電池の切れかけた携帯電話の液晶の光だけを頼りに警備員室に辿りついたが、そこにあったのは倒れ臥していた警備員たちと、壁に記された呪いの言葉だった…
初期設定の雰囲気はなかなかいいんです。でもそのあとの展開もヌルいし、オチが…私は別にミステリ原理主義者ではないし、「富士見ミステリー文庫」というラインナップを必ずしもミステリーとして読んでるわけじゃないけど、あのオチはいくらなんでも。きっと最後までプロットを立てずに書きながら話を考えてたんだろうなあ。ミステリファンとしては、「プロットも立てずにミステリーを書くな!!」といいたいところではありますが、あとがきで先を考えずにミステリを書いたことを自慢するようなバカなマネをしないだけマシか。(あー、でも恩田陸だけはプロット立てずにミステリを書いても許します。あの人のは論理的整合性よりも雰囲気が魅力だから)
イラストは「キノの旅」でお馴染みの黒星紅白氏。なかなかよい感じです。


●「ヴァージン・ブラッディ ―妖しの女教師」霜越かほる[集英社スーパーダッシュ文庫]514円(01/05/27) →【bk1】

「高天原なリアル」「双色の瞳 ヘルズガルド戦史」「双色の瞳2 ヘルズガルド戦史」の霜越かほるの作品なので購入。でも表紙イラストをみただけでなんだかメゲてしまいました。…帯や全体の雰囲気がスーパーダッシュというよりはなんだかナポレオンぽい感じで。しかもイラスト、下手。
話は高校を舞台にした伝奇ホラー。プロローグを読めば大体何ネタかがわかると思います。話としては平凡なライトノベルで、悪い作品ではないけれども予測通りの展開でもうひとつ面白みに欠けるものでした。
あとがきを読むかぎりでは、今回の作品にはかなり担当さんの介入しているような感じで。学園モノを発注されたのは、「双色の瞳」が売れなかったからかな。おもしろかったのに。担当さんの介入は別に構わないのです、質さえよくなるのなら。でも今回の話では霜越かほるの魅力がうまく発揮されてません。方向性として向いてないんでしょう、こういうのは。
もちろん売れることは大切だけども、売れ線をただ狙うだけではなく作家さんそれぞれの個性に合わせた売り方を考えてもらいたいなあと思うのです。
とにかく、「双色の瞳2 ヘルズガルド戦史」の続きを読みたいけど、出してもらえるのかなあ…


●「餓狼伝 最強格闘技作法」夢枕獏/板垣恵介[講談社]819円(01/05/25) →【bk1】

「バキ」でお馴染みの板垣恵介氏がアッパーズで連載しているもうひとつの格闘技マンガ「餓狼伝」。そのムック第二弾です。原作の夢枕獏氏、板垣氏と関根勤の対談他、武道家へのインタビューに作品に出てきた技の図解実践講座。…ととにかく格闘技方面にとても濃い一冊でした。
「餓狼伝」は原作は読んでません。夢枕獏氏のは陰陽師シリーズくらいしか読んでないので。マンガの方はついこの前全巻一気に読破しました。おもしろいのはもちろんおもしろかったんですが、全編に溢れてくる作者の「狂気」に飲み込まれるかのような心地がしました。得に巽vsサクラ。あんなのかけるなんて、まともな人間じゃないよ、絶対に。
私は格闘技属性はないので何を言ってるんだかさっぱりわからなかったものの、何気なくみえた戦闘シーンひとつをとっても非常に深い意味があったんだなあ、ということはわかりました。さすが作者が格闘技やってただけのことはありますな。
あとはつまんないツッコミなんですが…主役の文七って人気あるんですか? マンガを読む限りでは象山だとか巽だとかの方がよっぽど魅力的なんですけれども。そういえば「バキ」でもバキは影薄いもんなあ。今人気投票をやったらバキってドリアンさんにまで負けそうな気がするんですけども、あのマンガは過去に人気投票ってやったことないですかねぇ?
あと鞍馬彦一は女性人気を狙って出してみたキャラだそうですが…板垣さんはそっち方面に色気を出さずにいつまでも男くさいマンガを書いていた方がいいかと思います。あのキャラじゃ同人女は萌えないっすよ。分かってないなあ。でも「同人女の気持ちがよくわかる板垣恵介」ってすっごくイヤだからそれでいいんだけど。
とかいいつつも、板垣さんってインタビューを読む限りは同人女に近い気質があるかも。日々是妄想って感じ。同人女は何をみてもついそれにホモフィルターをかぶせてしまいますが、板垣さんも何をみても格闘技に結びつけて妄想してそうだなあ。インターネット殺人事件で板垣氏のことを「職業妄想家」と言ってたのがよくわかります。


●「「科学者の楽園」を作った男」宮田親平[日経ビジネス人文庫]745円(01/05/24) →【bk1】

サイコドクターあばれ旅読冊日記 5/17にて「「プロジェクトX」が好きな人には強力にお薦めします。」とかかれていたので購入しました。明治〜昭和を舞台にした科学ドキュメント。
時は明治。開国した日本は西洋文明とのあまりのレヘルの差に愕然としていた。なんとか追いつこうと留学生が海外で悪戦苦闘して、応用科学は学んで工業化をすすめてゆくも、サルマネだけではやがて袋小路に入ってしまう。それを危惧した科学者たちが努力して、基礎研究を行うための組織を作った。それが「理化学研究所」。しかし運営が難航していた頃、大正10年に三代目所長として就任した大河内正敏。貴族院の議員にして科学者としての素質もあり、そして風流人な大河内は理想とする「科学者の楽園」を作ろうとした。そこではどんな研究をしても自由、予算も使い放題、上下の垣根もなく自由に意見を述べ合うことができる。その世界から生まれてきたいつもの発明と、それをいかに商売に結びつけてゆくかの大河内の努力、そしてどんどん大きくなってきた理化学研究所。しかし戦争はやがて彼らも飲みこんでしまい、戦争のための開発や原爆の製作にも駆り出され…と楽園もいつしか終焉を迎えることに。
なかなかおもしろかったです。実は私はこの時代や日本の科学者には全然詳しくなかったので、驚くことばかり。ここに描かれた大河内氏のなんと魅力的なこと。彼の語る色々なビジョンは時代を経ても輝きを放っています。
戦争や軍国主義というイメージが強いせいで息苦しい時代じゃないかと思ってたあの頃に、こんな闊達とした世界があったとは。
「プロジェクトX」のテーマ曲である中島みゆきの歌を頭の中で流しながら読むと感動も倍増かと。
ただ唯一の問題は、密度を高くするために細かい説明までないこと。理系属性のない人には固有名詞が意味不明で辛いじゃないかと。高校で理系程度だったら大体知ってる科学者や定理、物質などがこうやってできてきたのか〜と感動できます。
資源の少ない日本の身をたててゆくには技術しかない。そのためには基礎研究もしっかりやらなければいけない…と考え、努力してきた先人たちのおかげで今の私たちの生活があるんですね。感謝を。…でも、恵まれすぎたために今の人たちが何かを失ったのは確か。円周率を3としてしまうこの国の20年先は一体どうなっているのでしょうか。読了後、それを考えて寒いものを感じてしまいました。


●「ぶたぶたの休日」矢島存美[徳間デュアル文庫]590円(01/05/22) →【bk1】

「ぶたぶた」シリーズの書き下ろし新作。
彼の名は山崎ぶたぶた。ピンク色のぬいぐるみのぶただけども、喋るしゴハンを食べるし歩くし、生きている。ぶたぶたとであった人たちの何気ないお話。中編三つ+αです。
ほのぼのして悪くはないと思うんですが、今回はそれほど印象に残るエピソードではなかったなあ。……正直いうと、前作でもちょっとひっかかったんだけども、作者のぶたぶた萌え光線に少しついて行けないものが。作者が自分の作ったキャラに惚れ込むことは悪くはないんですが、それがある線を越えちゃうと逆に読んでて冷めちゃうんですよね。今回のはそこまではいってないけども…


●「BIOME 新緑の魔女」伊東京一[ファミ通文庫]640円(01/05/21) →【bk1】

第二回ファミ通エンタテインメント大賞入賞作。イラストに惹かれて購入しましたが、これが意外とアタリ。
その星では、大地の96%を樹海が覆い、人々は樹海をわずかに切り開いてそこに細々と暮らしていた。ライカは女だてらにフォレストセイバー(森林保護者:自然の生態系を壊さないように環境を操り、人間の暮らせるようにコントロールしてゆく技能の持ち主)をやっていたが、ある日彼女が立ち寄ったパドゥーラは生態系が崩れ、バンクシアワームが大量発生して作物を食い荒らしていた。彼女はその駆除を依頼されたが、原因を探っていくと人為的な罠にぶち当たってしまって…
なかなかいい。世界描写がしっかりしていて、うっそうとした森の匂いが伝わってくるようなお話にしあがっています。食物連鎖の微妙なバランスがほんの少し狂うことで連鎖的に異常自体が発生する過程とか、それを補正するための自然との知恵比べなどがかなりおもしろいです。終盤のダイナミックな展開にもハラハラするし。
ただ作品の空気がメジャーじゃないので万人が楽しめるような娯楽作ではないのが残念。キャラ立てはしっかりしてるけど、キャラ萌えには縁遠い作品なので、ライトノベルとしてはそのあたりが問題かもなあ。個人的には毅然と戦うヒロインは好みでありますが。
あと重箱の隅つつきですが、成分の抽出にはもっと色々な道具がいるんじゃないかなあと思ったり、銃がこれだけ普及している文明レベルとしては違和感を感じてしまうとか、少し引っかかる部分はありますが、この話の面白みを損ねるほどのものではありませんし。
あらすじを読んで興味を持った方は読んでみてください。今後が期待できる新人さんのひとりですね。


●「黄昏の岸 暁の天 十二国記 上/下」小野不由美[講談社X文庫ホワイトハート]共に530円(01/05/17) →【bk1(上)】【bk1(下)】

講談社文庫版に遅れること一か月、ついにホワイトハート版がでました。あとがきはついてないし、内容はかわってないと思うけども、つい購入。だって、山田章博さんのイラストがあまりにもすばらしすぎたので。
「このシーンのイラストほしいなあ」というのがわりと全部入っていたので満足です。怒ってる延王がステキ〜。あと氾王&氾麟のイラストが嬉しかった。
でもこれから先、講談社文庫版もホワイトハート版も両方とも買ってしまいそうだなあ…
ちなみに、プレゼント企画の「ホワイトハート・スペシャルアンソロジー」には小野さんは書かないそうです。
 


●「星界の紋章 フィルムブック1」ハヤカワ書房編集部[ハヤカワ文庫]620円(01/05/16) →【bk1】

「星界の紋章」シリーズのWOWOWで放映されたアニメの1〜4話を収録したフィルムブックです。ほぼオールカラー、森岡浩之さんの書き下ろし短編「星界の断章・嫉妬」付き。これはジントがデルクトゥーにいた頃の、ミンチウ仲間とのささいなお話です。
私はアニメの方は結局みてないんですけども……これって画像のとり込み方が極端に悪いだけ? なんか色が…それにボケてるように見えるし。そしてなによりも、ラフィールがちっともかわいくみえないのは私の気のせいでしょうか?
アーヴ語がたくさんでてきて、しかもふり仮名打ってあるのがステキです。
そういえば、ドゥサーニュ役は塩沢兼人さんだったんだよね…亡くなってからもう1年経つのか…今でも塩沢さんの声は耳について離れません。


●「ジェノサイド・エンジェル 叛逆の神々」吉田直[角川スニーカー文庫]580円(01/05/15) →【bk1】

「トリニティ・ブラッド ROM」「RAM」の吉田直のデビュー作にして第二回スニーカー大賞受賞作。97年の作品ですからかなり古いけれども、出た当時は結構評判よかったんですよ、この作品。
アイルランドで先ケルト文明遺跡を発掘していた大学の調査隊は、地下に不思議な遺跡をみつける。そこにいた何者かによって調査隊は惨殺されたが、唯一、祥平と彼が思いを寄せるイリアだったが…
アニメっぽい雰囲気の、古代神話をモチーフにした巨大ロボットバトルもの。
良くも悪くも新人らしい作品。書きたいという情熱を感じるし勢いはあるけれども、それをコントロールできず終盤大暴走。伏線回収してないし、全然完結してない。あと視点がウロウロしすぎなのが読んでて辛い。小説としては稚拙な部分もあるけれども、スニーカー大賞を受賞したのは勢いを買われてのことだったんでしょうね。
この作品に比べると「トリニティ・ブラッド」は小説としてかなりきちんとした形になってます。そのあたりは書いていくうちに上達するんですねぇ。


●「百年の満月1」鷹守諌也[新書館ウィングス文庫]580円(01/05/12) →【bk1】

あらすじを読んでなんとなく惹かれるものがあったので購入。19世紀末のパリを舞台にした吸血鬼モノ。
退廃的に盛り上がる19世紀末のパリでは、彷徨する連続殺人鬼によって何人もの犠牲者がでていた。カフェでピアノを弾いていたリュシアンに声をかけたてきた貴族の青年・ヴィクトル。彼はリュシアンに、バイオリンである曲を弾いてほしいと頼む。それからリュシアンは血なまぐさい事件に巻き込まれることになったが…

吸血鬼モノとしては可もなく不可もなくというところかなあ。19世紀末パリについてはよく勉強していると思うけど、知識に留まってるような印象を受けます。もっと空気まで描いてくれたらよかったんですが。
ストーリー展開にももうすこし意外性がほしかった。


●「秘密」東野圭吾[文春文庫]590円(01/05/12) →【bk1】

98年にハードカバーで出て、かなり評判のよかった作品の文庫本化。広末涼子主演で映画にもなりましたね。当時、読もうかどうしようか迷って結局文庫本化を待ってたので、ゲット即読了しました。
平介は妻・直子と小学五年生の娘の藻奈美の三人でささやかながらも幸せに暮らしていた。ある日、実家に戻ろうとした直子と藻奈美がバスの転落事故にあってしまい、直子は多数の外傷を負い、藻奈美は肉体は無事だが意識が戻らなくなってしまった。そして直子が死亡し、藻奈美が目を覚ます。ところが彼女は自分は直子であると主張する。妻の心を持つ娘と二人で暮らしだした平介だったが…
この作品を読みながら北村薫の「スキップ」を思い出した人は多かったに違いないでしょう。「スキップ」は妻の心が若返り、「秘密」は妻の肉体が若返る。構造の相似とは裏腹に作品の印象は相当に違う。「スキップ」は御伽噺のようなほんわりとした綺麗な世界なのに、「秘密」は生々しい人間の醜さを見つめた作品。たしかどこかで「秘密」は「スキップ」のアンチテーゼとして書かれたというのを読んだような記憶が残ってるんだけど、どうだったかなあ。
両者の作品を比較しての書評については、ハードカバー発売時に語り尽くされた感があります。「スキップ」派の人、「秘密」派の人、両方ダメな人、両方好きな人様々いました。私は…私にとって「スキップ」は大好きな作品であります。そして、「秘密」はドロドロとした恋愛モノが苦手なこともあって、途中を読んでるときには気持ち悪くてムカついて。平八は妻を愛してるかもしれないけど、「愛」という檻で縛り付けて自分に隷属させてるだけにしか思えなかったのでした。奥さんも忙しくなったんだったら、料理や洗濯とか家事くらい手伝えよ〜、とかついツッコミいれてしまいたくなって。直子が人生をやり直してるかのように生き生きしてるところに嫉妬する気持ちや、その嫉妬からでた行動の気持ち悪さにムカムカしたものでした。…でもそれも作者がわざとやってたんでしょうね。その分、本当に大切なものが分かってからの展開が感動的。ということで、私は「スキップ」「秘密」も両方好き派です。心に響く物語の描き方は一つじゃない。いろんな構図、ライティング、演出があると思うから。両方とも読むに価する話です。未読の方は是非。
でも→直子の気持ちは読む人によって解釈が変わるんだろうけど、やっぱり長く連れ添っていてもくたびれた中年よりは若い子の方がいいよねー、ということでその道を選んだのでは? …というのはあまりにも邪道ですか? いや、私ならそっちを選びそうだ…私自身は結婚して1年もたってないから、夫婦の絆とかわかってないせいもあるだろうけども。


●「Hyper hybrid organization 01-01 運命の日」高畑京一郎[電撃文庫]510円(01/05/11) →【bk1】

映画化もされた「タイム・リープ あしたはきのう」でお馴染みの高畑京一郎の新シリーズ。ちょっとビターな「仮面ライダー」ネタのお話です。
黒尽くめの覆面の戦闘員が謎のテロ行為をみせる組織「ユニコーン」が暗躍していた東京。貴久はユニコーンの改造人間と、彼らと闘う「ガーディアン」の戦闘に巻きこまれ、恋人を喪ってしまう。復讐に燃えた貴久は、次にユニコーンが襲いそうなところを見当をつけ、そこで再びユニコーンとガーディアンの闘いの場に立ち会ったが…
悪の組織に改造人間。子供の頃、仮面ライダーシリーズをみて育った世代には無条件に燃える設定でありますな。そのフォーマットを踏まえた上で結構意外な展開になっていて「裏仮面ライダー」みたいでおもしろいです。
話の方向性はシリアスなダークヒーローものという感じですか。
悪の組織のあり方がわりとリアルな味付けをしているので、彼らの謎の解明が楽しみ。
ユニコーンの幹部の速水さん萌え。まだ話が始まったばかりで「プロローグ」で終わったようなところがありますが、とにかく次が楽しみ。問題は、高畑さんは遅筆だってことかしら。…この方って、デビューしてもう7年なのに、「クリス・クロス 混沌の魔王」「タイム・リープ あしたはきのう 上/下」「ダブル・キャスト」しか書いてなんですよ。ライトノベル系の作家だったら、このペースだと普通は干されるんだけどなあ。電撃はそのあたり寛容だから。さて、続きはいつ読めるかな〜。


●「パラサイトムーン 風見鶏の巣」渡瀬草一郎[電撃文庫]570円(01/05/10) →【bk1】

「陰陽ノ京」で第七回電撃ゲーム小説大賞《金賞》を受賞した作者の新作。前作とはうってかわって現代を舞台にした伝奇小説。
心弥は人の気持ちが「色」でみえるという不思議な能力があった。彼は幼馴染の弓が初めて徒帰島に里帰りするのに同行することとなった。その徒帰島には「波谷様」と呼ばれる神様がおり、村の人たちが信仰を捧げていた。そして村に怪しげな男たちが現れ…
イラストがギャルゲーって感じでありますが、中身は結構濃くていい感じ。「迷宮神群」や「キャラバン」、夢路や詩乃の件など、まだまだ謎が山積み。この世界での続編も読んでみたいです。
でもこのイラスト。女の子の顔がみんな同じだったり、大人が子供にヒゲを生やしただけみたいだったりするのはちょっとなあ。


●「ホンモノの文章力」樋口裕一[集英社新書]660円(01/05/09) →【bk1】

有名予備校にて受験小論文の指導を行ってる人気講師が書いた文章読本。「文は人なり」ではなく、「文は自己演出なり」としていかに想定したとおりの自分に見せかけることができるかの実践的なテクニックの入門書。小論文にとどまらず、就職のための自己推薦書から作文・エッセイ・手紙・メールまで取り扱っています。
文章を構造的にどう書けばいいかを型を使って教えてくれるので、小説家になる気はないけれども文章を上達させたい一般人にとっては、大先生の文章読本などよりはよっぽど役に立ちます。自分のサイトを持ってて日記やエッセイをアップしている人には一読の価値があるかと。
文章を書く練習や、論理的思考をする訓練というのはもっと若いうちからやっておくべきだというのには大賛成。学校教育は押し付け・暗記なところがありますからねぇ…ただ問題はそれを教えられるレベルの教師がどれだけいるかってことだよなあ。


●「不思議現象の正体(トリック)を見破る」安斎育郎[KAWADE夢新書]667円(01/05/09) →【bk1】

タイトルどおりの本。超能力、心霊現象、予言、占い、ミステリーサークル…オカルトじみた不思議な現象を、ジャパン・スケプティックス会長でもある作者(ちなみに立命館大学の教授です)がそのからくりを暴いた本です。
バランスよく、この手の入門書としては最適かと。ただこの分野に興味のある人にとっては既出の知識がほとんどだったかなあ。
超能力とか幽霊とか本気で信じてる人には1度読んでみてほしい本です。あと動物占いとかマジに信じてる人とかもね。いや、遊びとして楽しむくらいならいいと思うんですよ。でも友達でもマジに信じてる人がいたんで…やっぱり色々なものがブラックボックス化されて分かりにくくなってきたせいですかねぇ、オカルトが流行るのは。


●「ネットユーザーの危ない現実」笠原毅彦[青春出版社]830円(01/05/08) →【bk1】

タイトルが扇情的ではありますが、中身はネットを肌身で知っている識者による、「インターネットの現在と今後を法制面と絡めて手際よくまとめた」ほぼベストに近い本。
タイトルとは違って、過剰に危機感を煽るわけではなく、盲目的に賛美するわけでもなく、実際にどんな問題があって法律はそれに対応するためにどう変わってゆくかとか、IT化のために日本ではどんな法律が制定され、どんな方向に向っていこうとしてるか、ネットがインフラのひとつとして当たり前になった場合に社会はどう変わっていくか…などの話があります。
手ごろな値段ですし、インターネットの行く末に興味のある方はぜひ読んで下さい。
でもこんなにいい本でも、一年後には陳腐化するんだろうなあ…それだけネットの流れは早いというわけで。


●「欲張りなブレス」和泉桂[講談社X文庫ホワイトハート]590円(01/05/07) →【bk1】

「束縛のルール」に続く、仁科さんと成見くんのシリーズ4冊目。クールでドライなフードプロデューサー×子犬みたいに健気なバーテンダーのボーイズラブです。
今回はシリーズ転機というか、ついに仁科さんが……あの手のプライドの高い男が恋のせいで自分をコントロールできなくなってゆく様が愉快ですな〜。ささいな誤解からすれ違っていく様や、終盤のあの手の展開など、恋愛モノの「お約束」ではありますがなかなか楽しかったです。今回は濃厚ですよねぇ、色々と…
次はキスシリーズですね。さて、どんな展開になるんだろ。


●「ストレイト・ジャケット2 ツミビトのキオク〜THE ATTACHMENT〜」榊一郎[富士見ファンタジア文庫]660円(01/05/06) →【bk1】

「ストレイト・ジャケット」の続編。今回はかなり分厚いですねぇ。
町に無許可で粗悪品なモールドが出まわり始めたらしい。また一方、魔法士に頼らずに魔族を倒すための方策を模索する勢力が存在した。
様々な思惑が絡み、トリスタン市で過去にない異常事態が発生してしまうが…

なかなかおもしろかったです。話、派手だったし。ただ世界観に間しては、なんかアンバランスさを感じてしまうんですよね…とにかく魔族が圧倒的に強すぎる。30年前の災厄で世界はボロボロになったようですが、なんでこの災害が収束したのかが疑問。魔族が自然消滅するとも思えないし。敵を強く設定しすぎてパワーバランスが崩れてるような気がする。
この世界は前作を読んでたときには1960年代程度の文明レベルを想定してるかと思ったんですが、今回を読む限りではもっと発展しているようですね。文明がそこまできてたら、別に魔力に頼らなくてもやっていけるような気がするんですが…
あと、今はモールドが壊れたり拘束数を超えて使用したら簡単に魔族化するような危ういバランスとなってますが、30年前の災厄までは人々はモールドに頼ることなしに魔力をガンガン使ってたんですよね? なんでそれで平気だったのかが不思議で… 空中にばら撒かれた「呪素」が30年前に閾値を越えた、ということなんでしょうか? 30年前に一気に魔族化してしまったのも、誰かからの干渉があったということ? そういうのってこれから先にはっきりしてくれるのかなあ。


●「ストレイト・ジャケット1 ニンゲンのカタチ〜THE MOLD〜」榊一郎[富士見ファンタジア文庫]520円(01/05/04) →【bk1】

MURAJIさんのサイトで誉められてたので、購入。
1899年。グレコ教授によって「魔法」が発見され、原理はよくわからないままではあったが経験則から様々に応用され、夢のエネルギーとして人々の生活を豊かにしていった。それから25年。魔法を使いつづけた人が突然魔族化し、彼らの暴走のために文明はほとんど滅びかけた。その事件から30年たち、魔法は忌み嫌われながらも文明復興のためには欠くことのできない存在となっていた。
アルマデウス帝国のトリスタン市で魔法医師が突然魔族化する事件が発生。現場近くにいた無免許の戦術魔法士・レイオットに鎮圧が要請されたが…

なんだかダークな雰囲気がいいですな。MURAJIさんも書いてたけど、この世界での魔法というのは原子力みたいなもので、有害だと分かっていても使わざるをえなく、しかもその魔法の影響が少しずつ人に溜まり、人を蝕んでいく…という設定がなかなかおもしろいです。魔法士は強い力を持ってはいるものの、魔法力を外に逃がさず、魔族化を防ぐ鎧―モルド―を着て戦うために1度に使える魔法の量に制限があり、そのあたりの駆け引きとか工夫をすればかなりおもしろくみせられるじゃないかなあ。でも主人公側はこんなに制限があるのに、相手の魔族はほぼ無制限に魔法が使えというのは、1度暴走し始めたら手におえなくなりそうに思えるけど、大丈夫なのかなあ。
アクションシーンも見栄えがするし、世界の見せ方もいい感じ。ダークな話が好みの方はどうぞ。わりと先が楽しみなシリーズです。


●「龍の黙示録」篠田真由美[祥伝社NONノベル]876円(01/05/04) →【bk1】

「建築家探偵」シリーズでお馴染みの篠田真由美の伝奇小説。吸血鬼モノをキリスト教を軸に再構成し、東洋風のスパイスをかけた作品。
透子の元に割のいい秘書のアルバイトの話が舞い込んだ。作家の龍緋比古の蔵書の整理を手伝うという話だった。しかし、明治時代にも同じ名前の作家がいて、その顔が今の彼と全く同じだという。年をとらないまま生き続けるという噂がある緋比古の元に通うことになった透子は、不思議な出来事に巻き込まれてゆくが…
悪くはない小説だとは思うけども、手垢のついた吸血鬼ネタに新風を吹き込むほどではなかったというか。伝奇モノとしては、アクションとかもうひとつ弱いしなあ。怖くないし、キャラも弱いかも。


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