01年6月に読んだ本。   ←01年05月分へ 01年7月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「富士見二丁目交響団シリーズ第4部 バッコスの民」秋月こお[角川ルビー文庫]533円(01/06/30) →【bk1】

超人気音楽モノボーイズラブ富士見二丁目交響楽団シリーズの新作。海外留学から久しぶりにフジミの定期演奏会のために帰ってきた圭と悠季。フジミは参加者が増えたものの、圭目当てに入ってきた音大の女の子たちが雰囲気を乱していて…という感じの話。
こうやって、フジミでわいわいやる話はいいなあ。ヘタでも音楽好きな人たちで一緒に作り上げるハーモニー。その楽しさが伝わってくるようなエピソードでした。フジミの原点を確認したような。
ちなみにこの方、別ペンネームで児童文学を書いてるんですが、そっちの方の名前も最近は読書系でよくみるようになりましたなあ。


●「僕らがもう大人だとしても 毎日晴天!7」菅野彰[キャラ文庫]514円(01/06/29) →【bk1】

「毎日晴天!」シリーズ1年ぶりの新作。これは東京の下町を舞台にした、帯刀四兄弟+2名の奇妙な同居生活での、ひとつ屋根の下の恋。ボーイズラブもの。
今回は作者もちょっと避けていた(?)大河と秀のカップルのお話。しめきりを守らない秀への苛立ちから、実は甘い出し巻き卵が嫌いだったとぶちまけてしまった大河。一緒に暮らし始めて2年、そんなことさえ打ち明けてくれなかったことで秀は落ち込んで…
と、発端はいつものようにコメディなんですが、中盤からの展開がやはり重い。血の繋がらない家族である秀と勇太がお互いを思いやるがゆえに傷つけてしまうこと、不器用な愛し方しかできない秀の気持ちにもう泣くしか。
ボーイズラブというよりは、人と人の絆、家族の物語。キャラが立ってて、コミカルなやり取りもうまいけれどもなかなかに切ないお話となっています。とてもお気に入りのシリーズ。読むなら、一作目の「毎日晴天!」から。


●「ミドリノツキ 上」岩本隆雄[ソノラマ文庫]560円(01/06/28) →【bk1】

「星虫」シリーズの作者の新作。正統派ジュブナイル。今度の話は「星虫」の世界とは繋がっていません。
ぶっぎらぼうでガンコな高校生・尚顕は、自習時間中に不思議な夢をみた。しかもその夢はそのとき眠りについていた世界中の人たちもみてたらしい。それからしばらくして、空から不思議な物体が降ってきた。杖状のソレは、誰が力を込めても引きぬくことはできない。しかもその杖は世界中のあちこちに出現していた。それらは先人類の遺産で、それが世界に送ったメッセージは…
初期設定から「こういう話かな?」と思っていたのがいい意味で裏切られてゆく展開で、なかなかにおもしろかったです。早く下巻も読みたい。あれらの伏線がどう収拾されるのか。
この人の作品ってライトノベルというよりはジュブナイルの雰囲気がするんですが、それって話がまっすぐということと、あと今時のキャラ萌えには無縁なところからそんな感じがするのかなあ。それにしてもこの人の書くヒロインってなんでいつも才色兼備(どころが天才)でスポーツ万能のスーパーヒロインばかりになっちゃうんだろう。それが少し不思議です。


●「ルー=ガルー 忌避すべき狼」京極夏彦[徳間書店]1800円(01/06/27) →【bk1】

最強のライトノベル作家・京極夏彦の新作長編。帯には「近未来少女武侠小説」となっております。
21世紀になって数十年が経った頃。ネットワークの発達により、子供たちはモニターを通じて学習やささやかな交流をする程度ほとんど引きこもり状態だった。直接「リアル」に接して交流を持つのは週に1度のコミュニケーション研修くらい。そんな清潔で安全だが常に監視されて渇いた世界に起こり続ける連続殺人事件。顔程度しか知らない同級生が失踪した事件に関わったせいで、いつの間にやら大きな力に追い詰められていく少女たち。そして本当の敵の正体が分かったときに、少女たちのとった行動は…
分厚い。とにかく厚い。750ページ。文字が大きいし段組ないからそれほどの分量ではないけれども、通勤の友にするにはちと辛いサイズでした。物語は前半が世界設定の説明にページを割き過ぎてるためかもうひとつ吸引力が感じられませんが、終盤に解明される謎、そしてスペクタルな展開はさすが筆力がありますねぇ。ぐいぐい引き込む力があります。
でも「京極夏彦の近未来SF」だと過剰に期待して読むともうひとつ満足できないかも。今までの京極夏彦氏の作品に比べると、テーマとエピソードと設定とキャラの部分の噛み合わせがもうひとつ具合がよくなくて効果的に発動していない。今回の作品の設定部分についてはアニメ誌などをはじめとする若者向け雑誌で募集をしたんだそうですが、あれだけ設定周りの説明が多かったのはそれらを生かそうとしたせいもあるのかなあ。
あと、エンターティメイントとしての道を踏み外している、今回の作品は。憑き物が残ってしまうのです。生きることとは、死ぬこととは、殺すこととは一体何か…という今回のテーマからするとすっきりとした回答なんてでないとは思うけれども。
こういう話は、発売中の「SFマガジン」のインタビューに興味深い話が載っています。
ミステリとしては終盤で明かされる謎はなかなか面白い。SFとしては「想像しやすい標準的な未来」なために新味ないです(京極氏はわざと狙ってSF的面白みをつけなかったようです) 京極夏彦の熱心なファン以外は文庫本化を待ってもいいかも。


●「フロン 結婚生活・19の絶対法則」岡田斗司夫[海拓社]1500円(01/06/22) →【bk1】

「アーヴ」方式の恋愛・結婚・子育て生活を勧める本。
各所で話題になっている本。帯の文句が「家庭から夫をリストラせよ!」というものであるせいもあって、読む前は内容を誤解してましたし、あんまり興味を持てませんでした。で、なんとなくbk1で申し込みしちゃって、読んでみたら…あれれ? これってそんな過激? 別に普通のことを言ってるだけじゃん? と思ってしまいました。…そう思ってしまう私の感覚が元々ドライなのかなあ。恋愛体質じゃないことは確かなんですが。
今の30までの人たちは、「自分の気持ち至上主義」のため、従来の恋愛→結婚→子育てというルートが幸せの道とは限らなくなっている。家庭とは「安らぎの場」ではすでにない。「愛情」に縛られることが結婚生活を逆に不幸にしている。「家族」というのは「子育て」をするためにあるプロジェクトチームにすぎない。またそのプロジェクトのリーダーは母親であり、命令系統を一本化するために父親は家庭のことについては母親の指揮下に入るべきだ。「オンリーユー・フォーエバー」幻想に囚われるのではなく、役割に応じて頼る相手を決めるリスク分散型にシステムを切り替えた方がよい…
…と、列記しただけでは受け入れがたいものはあるかもしれませんが、実際に本を読めば、豊富で分かりやすい例示と筋の通った文章でもっと言いたいことを理解できるんじゃないかと思います。
「家庭から夫をリストラせよ!」というのは物理的に別居に踏み切れというよくとりあげられる部分ではなく、どちらかというと妻も精神的・経済的自立をして、誰かひとりに人生すべてを預けるべきじゃないということの方が重要な指摘ではないでしょうか。別に他の人と浮気しろとかそういうのではなく、大切な趣味なり、友達なり、自分の世界をちゃんと持って、精神的に夫にべったりしない、と。いつでもひとりで歩ける覚悟を持つべきだと。私もこれは賛成ですね。…というか、今でもダンナべったりな奥さんとかいるのかなあ。と思ってしまうけれども、それは私の周りがいい年しても結婚せずに、自分の欲望に忠実に遊びまわってる人が多いせいでしょうか?
感想の一番最初にも書いたように、ここで示される「21世紀の幸福な家庭」に、「これってアーヴじゃ?」って思ったのでした。(念のためフォロー。アーヴはSF「星界の紋章」(森岡浩之 ハヤカワ文庫)に出てくる種族のことです) でもアーヴがあのシステムでやっていけるのは、女性も経済的に自立しているというのもあるけれども、なにより子供は欲しいと思った側が(男女に関わりなく)生み育てるというシステムになってるからじゃないかなあ。自分の遺伝子に他の人の遺伝子を混ぜたりして、人工的に子供を作るのでそれが可能。今の人間のシステムだと、どうしても女の人が子供を産み、育てていかなきゃいけなくなるわけです。生物的にも、社会的にも。そういう意味では、人間の繁殖というのは、女性に対して負担をかけてるシステムだなあと思います。川原泉のマンガであったけども、「男女関係なく運の悪い方が妊娠」すればおもしろいのに。もしくは子供は里木になるとか。…と夢みたいなことを言っても仕方がない、もっと現実的になんとかするシステムを考えなくては。
これを読んでると子育てについてはかなりネガティブなイメージを抱いてしまうんですよねぇ。愛してるから、というような漠然とした理由で生んでは苦労する、みたいな。私自身、今はあんまり子供欲しいとは思えないんですよ… だからこの本読むと、「おー、子供を作ると損ばっかり!!」というマイナスイメージがさらに付加されて、ますます意欲減退。個々の幸せを考えるなら、生む・生まないは個人の決断に委ねられるべきですが、日本の未来というので考えるなら、そういうのはマズいんでしょうね。それを避けるためには、「生むことで得をする」ことを社会的に明示しなきゃダメかもなあ。難しいところです。
私自身は結婚して10か月、まだまだラブラブ状態です。うちのダンナは家事もよく手伝ってくれるし(休みの日や早く帰ってきた日は料理を一緒に作ります)、一人でいるときよりも二人でいる方が安らげるし、幸せです。…今のところは。ただ「職人」タイプのダンナは自分の価値観を私に押し付けるようなところがあって、それで何度かケンカしましたけど。(そのたびに私も完全キレちゃって、泣いたり怒ったりしたので、そのあたり踏み込むのはマズいことも向こうも認識しだしたよう。) 今のところはなんとなくあいまいに過ごしてきたけども、将来のビジョンとかもっとちゃんと話し合うべきなんだろうなあ。…この本、ダンナに読ませるべきなのかなあ。今のところうまくいってるから波風立てたくない、とつい守りにはいった考え方になっちゃうので。これを読んだ奥様たちはどうしてます? 教えてもらえると嬉しいなあ。
極論な部分もあるけれども、結婚にふわふわしただけの夢を持ってる殿方には一度読んでもらいたい本ではあります。
ちなみにフロン感想リンクはこちら


●「人生テスト 人を動かす4つの力」岡田斗司夫[ダイヤモンド社]1500円(01/06/22) →【bk1】

ものすごく今更ながら読んでみました。いや、なかなかおもしろかった。人生を生きやすくするための、攻略本です。
人間の分類の仕方を「内向的」←→「外向的」という軸と、「抽象的」←→「具体的」という二つのパラメータにわけ、その組み合わせで人間の本来の欲求の方向性を4つのパターンにわけます。
「王様」(外向的・抽象的)目立ちたい! 無視されたくない!
「軍人」(外向的・具体的)勝ちたい! 負けたくない!
「学者」(内向的・具体的)知りたい! わかりたい!
「職人」(内向的・抽象的)許せない! ←この表現だと分かりにくいですが、自分の価値にこだわりを持つタイプということです
私はこの分け方を聞いたときに、自分をてっきり「学者」かと思ってましたが、テストしてみると「職人」に。で色々と読んでみると、たしかに職人気質はあるよなあ。この6月下旬の日記の批判についての話などは、いかに自分独自の価値を持っていて、それを自分で守るかという話になってるし。でも学者気質も結構強いんですよ。色んなことを「知る」のは私にとって大きな快感ですし。逆に上昇志向はないから、軍人属性はあんまり理解できないかもなあ。
実際問題として人間をそう簡単に分類できるわけじゃなし、誰もが色々な属性を持っているとは思うけれども、「明るく誰にでも好かれ、しっかりとした自分になる」ようなムチャな目標を目指して挫折するよりは、自分の欲求の方向性を見極めて、自分にとって気持ちのいい状態になるように努力した方がいいよ、というのには賛成。あと、その人にとって一番大切な価値は様々である、という話かな。つい自分を基準に考えてしまうけれども、自分と違う価値観を持った人がいるという視点は、人間関係において幅広い対応法が生むことができるんじゃないかと。
でも対角線の法則だとか優位・劣位の法則だとかはちょっと強引かなあ、という気がします。示される事例も恣意的に思えるし。それにしてもこの属性相性表もどきやレベル進化の話あたりがポケモンの攻略本みたいでおもしろい。みんながみんなミュウツーを目指さなくてもいい、とそういうことですね。
この本は「SPA!」の連載分に加筆したそうですが、連載分は岡田さんのサイトに載っていますので、とりあえず興味があったら読んでみては?


●「月長石の魔犬」秋月涼介[講談社NOVELS]760円(01/06/21) →【bk1】

第20回メフィスト賞受賞作。あらすじを読んで、気になったので購入。
その町では、残虐な殺人事件が頻繁に起こっていた。連続人肉嗜食殺人事件に連続少女絞殺事件。しかしこれらの事件の最後だけはいつもと違っていた。左手を切り取られた、それまでとは趣の違う異質な被害者。しかもそのあと、連続殺人事件はぱったりと止むのだ。最後に殺されたのは、実は連続殺人鬼だったと主張するものもいた。シリアルキラーばかりを殺していく「見えざる左手切断魔」がいるのだろうか? ……石細工屋の青紫と彼を慕う女子大生の静流が、ひょんなことから関わりをもった女性が新たな殺人事件の被害者となった。その彼女は首を切られ、かわりに犬の首が縫い付けられた姿で発見されたが…
…メフィスト賞だからなあ。あの賞はたまに当たりもあるけれども、ハズレの割合も高いからなあ。まあこんなものでしょう。
やりたかったことはなんとなくわかるし、ところどころのイメージ作りも光るものはあるんだけれども、ヘタだ… 作者の力量と小説の方向性があってないせいで、余計スカスカに見えちゃうんですよね。そのスカスカの空間もこちらの想像なり妄想なりを注ぐ器になるならまだいいんだけども、底にも穴があいてるからなあ。シリアルキラーの描き方も、作者に狂気が感じられないのがマイナスポイント。
ミステリとして特筆するべきものはなし。あの動機にしても、唐突すぎて。もうすこし話全体が「時代の空気」をとり込むことに成功していたら、その動機も効果的に発動したんだろうけども。
キャラの作り方がライトノベルの文法で行われるのは個人的には許容範囲なんですが、あの女警視のバカぶりだけは勘弁してください。
クライマックスの「裁き」の場面は悪くないとは思うんですが、オススメするにはもうひとつパンチが足りない作品なのは確か。
ちなみに「境界線ミステリ」を書かせたらピカイチなのが「EDGE」(とみなが貴和)シリーズ。日常と地続きの狂気の描写が見事。こちらは文句なしにオススメです。
あと微妙にネタバレ→で、結局意味ありげに描かれた石細工屋さんはただのミスディレクションだったというわけ? でも左右で目の色が違うのに物語上の意味がないせいで、「ありがちライトノベル」雰囲気が漂っちゃうんですよ。まあ他にも色々と原因はあるけれども。


●「センチメンタル・ブルー 蒼の四つの冒険」篠田真由美[講談社NOVELS]1000円(01/06/20) →【bk1】

「建築探偵桜井京介の事件簿」シリーズ最新刊は、蒼メインの4つの中編からなる番外編です。
ミステリとしてのデキは普通だけども、青春小説としては切なくてすごくよかった。あの蒼に同い年くらいの友達ができたっていうだけで感涙ですもの。…本当によかったなあ。
生きることのしんどさと、でもそれを乗り越えた先にあるものをうまく描いているんじゃないかと。
いつか蒼がカゲリに全部話せる日がくるのを待っています。その話も読むことができるかなあ。
このシリーズは由緒ある屋敷を舞台に事件か起こり、建物来歴の探索と共に事件の解決を行うというパターンのミステリです。シリーズの最初の方はあんまりデキもよくないんですが、4作目の「灰色の砦」が秀作、5作目の「原罪の庭」は傑作。一応それぞれの話は独立していますから、「灰色の砦」あたりから読むのをオススメします。それか最初の方はすでに文庫本化されてるからそれから読むのもいいけど……あの、あんまりおもしろくないからと投げ出さずにせめて4作目までは判断を保留してもらえたら、と。
本編8作目の「月蝕の窓」も近日刊行予定のようで楽しみです。


●「機甲都市 伯林4 パンツァーポリス1943」川上稔[電撃文庫]650円(01/06/18) →【bk1】

「機甲都市 伯林」シリーズ4冊目。物語はついに佳境に。
ついに超大型言詞加圧炉「トリスタン」が完成し、ベルリンは機甲都市としての姿をあらわした。予言に詠われた世界の破滅の時が近づく中、世界を救うためにG機関長レーヴェンツァーンと、反独隊のヘイゼルはそれそれの道で世界を救おうと努力をするが…
あいかわらずのカッとばし方。重機(人型ロボット)同士の戦闘シーンがとてもカッコいいです。この話、設定がかなり特殊だし、キャラも多いし、思わせぶりな伏線も色々とあったために、実は今回の話も半分くらいしかわかってなかったりしますが…ううう、ちゃんと最初から読みなおさないとさっぱりわかんないだろうなあ。
今回は今までの分を一気に謎解き。世界の破滅とは何か、救世主はどうやって世界を救うのか、パンツァーポリス計画の真の目的などが一気にわかりました。でもこれって、構造が少し「閉鎖都市 巴里」に似てませんか? …と書くと一部ネタバレになっちゃうかな?
とにかく、次でいよいよ最終回。この閉塞状況にどんな形でケリをつけてくれるのかを楽しみに待ちましょう。
この人のトンガリ方が私は結構お気に入りだったりしますが、あまりにもクセが強過ぎるので一般的にオススメできる作家さんではないんですよねぇ…「閉鎖都市 巴里」はなかなかおもしろかったので、興味があるならこのあたりからどうぞ。


●「教養としての<まんが・アニメ>」大塚英志/ササキバラ・ゴウ[講談社現代新書]700円(01/06/14) →【bk1】

「多重人格探偵サイコ」シリーズでメジャーになった大塚さんと、元編集者のササキバラさんによる、タイトル通りの本です。でも通史的なものではなく、マンガやアニメの「テーマ」がどのように受け継がれて発展していったかを書いたもの。大塚さんがマンガ、ササキバラさんがアニメについて語っています。範囲としては戦後から現代までですが、やはり古いネタが多いですねぇ。とりあげられたのは、手塚治虫、梶原一騎、萩尾望都、吾妻ひでお、岡崎京子、宮崎駿&高畑勲、出崎統、富野由悠季、ガイナックス、石ノ森章太郎であります。なかなか興味深く、イッキ読みさせられました。ただし新書一冊ゆえに物足りなさがあるんですよ。この人ならばこの作品にも言及すべきであるとか、関連であの人も取り上げるべきだっ!!…とかつい思ってしまって。
あと、大塚さんの論理展開はおもしろいかったのですが少々強引な気がします。おもしろかったからいいけど。
こういうピックアップではなく、もっとボリュームのある「通史」も読んでみたいものです。


●「過敏症」榎田尤利[クリスタル文庫]495円(01/06/13) →【bk1】

魚住くんシリーズ4冊目。ボーイズラブというよりはJUNE。豪快タイプ×植物ぽい心身ともに虚弱美形のじれったい恋物語です。4冊目にして、いよいよ!! ……今回はラブ度高し。
魚住くんの固く閉じていた蕾が徐々にほころびだしていったかのように、世界と打ち解け、色んな感覚を取戻してゆく様が、なんだかほわんとするようで。前回の作品がああいう内容だっただけに、余計。
収録されている話のうちのひとつ「マスカラの距離」が番外編で、マリが主役の話です。家族と折り合いがつかず飛び出してきた、女装の家出少年を拾ったマリの話。これがとてもよいデキで。この話だけ取り出して、トレンディ(死語)な恋愛小説として出しても、恋愛ものが好きな普通の読者に結構ウケるんじゃないでしょうか。とにかくマリがいいキャラです。背筋がシャンとしていて、まっすぐ前を見据えていて。媚びていない。こういうナチュラルな、しなやかな強さを持ったキャラをイヤミじゃなくさらりと描けるあたりが榎田さんのウマさでしょう。あいかわらずキャラと作者の距離のとり方が、べたつき過ぎず、つき放しすぎず、絶妙。このバランス感覚は見事です。
このシリーズはボーイズラブですが、小説としてデキがいいし、それほどホモ度が高くないので一般人にもオススメです。読むなら最初の「夏の塩」から。


●「関西ブックマップ」関西ブックマップ編集委員会[創元社]880円(01/06/12) →【bk1】

関西ニ府四県の本屋、専門書店、古本屋、公共図書館、専門図書館などの簡単ガイドブック(地図つき)。インターネットでの本がらみのサイトも紹介されてます。携帯性を第一としてるようで、多くの情報をコンパクトにまとめています。でも反面一軒ごとの紹介文が物足りなさを感じたり。でも本好きにはこういう本はとにかくありがたいです。私の知らない本屋も結構あったので、また探検しにいかなくては。


●「グイン・サーガ79 ルアーの角笛」栗本薫[ハヤカワ文庫]540円(01/06/12) →【bk1】

「グイン・サーガ」シリーズ最新刊。読まなくてもわかる内容ダイジェスト→マリウスの出奔に対してオクタヴィアはある程度予感があり、諦めている。新婚なのに自分を省みないグインに腹をたて、癇癪を起こすシルヴィア。グインはケイロニア軍を中原に出兵させる。しかしグインはレムスにキタイ介入の可能性を感じつつも、完全にナリス派ではなく自分でナリスと会談をして見極めるつもりであり、イシュトがパロの戦乱をきっかけに介入してパロを乗っ取ろうとするのではないかと警戒していた。またその頃にイシュトもパロへ出兵。ナリスは魔導士たちを通じてそれらの情報を手に入れている。ヴァレリウスとヨナはイシュトとの密約が今発覚するとナリスのイメージダウンに繋がり、ケイロニアを敵に回す可能性が高くなると考え、いざというときにはイシュトを敵に回すつもりでいた。レムス軍が動きはじめる。ナリス軍との戦闘は膠着状態。進軍したイシュトは街道の途中で敵襲を予感して野営する。そして責め込んでいたのは、クムのタルー一味だった。
グインがメインだと話に安定性が増して読みやすくはなるなあ。でも…この話、本当に「史実」通りに進むのかしらん。というか、ナリスをちゃんと殺せるのかしら…ともあれ、グインとナリスの顔合わせはぜひ見てみたいなあ。
イシュト、グインにもヨナにもああ思われてかわいそうっす。まあ身からでたサビとはいえ。それでもグインサーガにおいては、メインどころの男キャラはまだ扱いいいからね。女キャラの扱いのひどさに比べたら。アムネリスやシルヴィアはいうに及ばず、正ヒロインであるはずのリンダは捕まってるのに放ったらかしだし。女の幸せを掴んだはずのオクタヴィアもこれだし。ナリス、イシュト、グインといった男キャラの場合は側にちゃんと自分を一番愛してくれる人(でも男だねぇ)がいますから。うーん、男女での扱いの差は作者の無意識なのかなあ、やっぱり。


●「たけしの誰でもビカソ THEアートバトル」テレビ東京編[徳間書店]2100円(01/06/09) →【bk1】

テレビ東京の人気番組「たけしの誰でもピカソ」、そのコーナー「勝ちぬきアートバトル」を本にまとめたもの。
この番組は昔は結構みてたんですが、結婚してからテレビみる時間が減っちゃって、ご無沙汰してました。で、ふと手にとってパラパラみると…結構おもしろいので購入。
美術館でみる「現代美術」にはどうもピンと来ないのが多かったんだけど(アメリカ抽象表現主義あたりはわりと好きなんだけど、それも今からすると「古くさい」ものなんでしょう)、この本に載ってる作品にはなかなか刺激されるものがありました。こういうのに参加するのは現代美術の中でもわりと分かりやすい、テレビ映えのする人たちだからというのもあるんだろうけど。でも、カラーページに載ってるような作品は結構レベル高い。生で作品をみてみたいなあ。
人によってアートのとらえ方が違うのはなかなかにおもしろい。その中で印象に残ったのをいくつか引用。
「そもそも、アートはかならずしも「おもしろい」必要はない。それどころか、誰が見てもおもしろいようなものはアートとはいえないのだ。欧米の美術界を見ればたちどころにわかることだが、アートは一握りのエリートたちが、金に糸目をつけず知的な変態度を競い合う高度な密室のゲームなのであって、そこでは誰がみても楽しめる大衆的な娯楽は軽蔑の対象でしかない。」(椹木野衣 P159)
「現代アーティスト達の視点は10年20年先を見据えて製作しているのだから、作品がどうしても同時代(お茶の間の人々)に受け入れられにくいかもしれない。世の中に迎合しているアートなんて信じられない。だからといって現代アートに大衆性がないのは当然だとする態度は考えものだ。いつまでもアバンギャルドの言葉に甘えて、独り善がりに陥ってしまっていては、ますます存在意義が薄れてしまうのではないだろうか。」(三潴末雄 P179)
アートってなんだろうね? 私は作る方じゃなくて、専ら見るだけだから何も言う資格はないのかもしれないけれども。何よりも、作らざるを得ない内的衝動が大切なのでしょうが、他人に伝えることもきちんと考えなきゃいけないんじゃないかなあ。自己完結だけでは広がりがないから。共鳴するものがあってこそ、意味があるんじゃないかなあ。そのためにはデッサン力なり、技術なりがあった方がいいとは思うのです。ヘタだから、抽象に逃げるのは何か違うような気がする。
オマケ。検索しててみつけたページ。88―89ページで紹介されている宮島浩一氏のサイトで、プチロボットの携帯ストラップが通販されてるんですけども〜かっ、かわいすぎ〜。ほ、欲しい…


●「上と外5 楔が抜ける時」恩田陸[幻冬舎文庫]457円(01/06/09) →【bk1】

「上と外」シリーズ最新作。いやあ、待ってましたよっ!! …でも今回では完結してませんので、完結してから一気読み予定の方は気をつけてくださいませ。
夏休み、考古学者の父に会うために中南米の某国に出かけた中学生の練とその義母の千鶴子、妹の千華子。その先でとんでもないトラブルに巻き込まれるが…
そのトラブルの内容は今までの内容のネタバレになるので省略。それにしても今回の展開にはドキドキしましたよぅ。読んでて、「王」の息遣いが近くで聞こえるような感じで。
それにしても、あと一冊で本当に終わるのかしらん。長編では途中の展開は抜群におもしろいけど、結末はいつも尻すぼみな感じになっちゃう恩田陸のことですから、あんまり期待しない方がいいとは思いつつも…今までの展開がいいだけになあ。
とにかく、次巻を首を長くして待つことにします。
非常におもしろいサバイバルホラーですが、ここまできたら完結するのを待って一気読みした方がいいかも。


●「紫骸城事件」上遠野浩平[講談社ノベルス]880円(01/06/08) →【bk1】

「殺竜事件」の続編。今度は、前作で少しだけ名前の出てきた双子の戦地調停士メインのお話。前作登場の仮面の戦地調停士・エドと風の騎士・ヒースロゥも、出番は少ないながらもオイシイ役で出演。
ファンタジー世界でのミステリ。300年前、魔女リ・カーズが作り上げた紫骸城。リ・カーズは宿敵オリセ・クォルトとの戦いで共に姿を消したが、城はそのままの姿で残り続けた。そして今、そこでは5年に一度「限定魔導決定戦」が開かれており、フローレイド大佐は審査員としてそこに招かれていた。紫骸城の壁は魔法をすべて吸収するために、特定の転送呪符を使用しなくては中に入れず、入った大会関係者も1週間しなくては外にでることはできない。そんな環境で大会は始まったが、次々と魔導士たちが惨殺されて…
いやあ、堪能しました。前作は過剰に期待していたせいで期待外れ感が結構ありましたが、今回はそれほど意気込んでなかったので楽しめました。その要素を抜いても、一作目よりはいいデキかと思います。色々な要素が繋がってきて、世界観にも広がりがでてるし。ミステリとしては特殊ルールでの殺人となりますが、何ができて何ができないかのルールの明示があやふやですからミステリとしてはフェアではないと思います。解決もそれほど驚愕というわけでもないし。でも雰囲気が好きなんだなあ。あのケレン味があるところとか。青くさいんだけども、それがファンにはたまらんのです。
双子の超性悪戦地調停士(でも美形)も期待どおりで。金子さんのイラストも色気があって素敵だし。
それにしても上遠野さんってキャラクターのバランスや関係性のつけ方がうまいですな。ヒーウロゥなようなヒーロー属性を持った欠点のないまっすぐなキャラというのは普通はうさんくさくなりがちなものですが、それをこれだけ魅力的に描けるし。一方で底意地の悪いキャラの描写もうまいし。
キャラ萌え的には、七海連合内部の人間関係が気になります。ヒースロゥ×エドもいいんですが、ヒースロゥ×キラルなんか好みなんだけどなあ。性格の悪い美少年受で互いを非常に嫌ってるところとか、好みなんですが。


●「昔、火星のあった場所」北野勇作[徳間デュアル文庫]619円(01/06/07) →【bk1】

「かめくん」の作者のデビュー作のリニューアル文庫本化。ちなみにこの作品は、1992年に第4回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞しています。
確率的に存在し観測によって始めて確定されるという、量子力学的な話をマクロな世界に持ち込んだお話。あの有名なシュレーディンガーの猫の話、アレです。なんだかぼんやりとした夢をみているような、SFというよりは御伽噺かなあ。
雰囲気としては悪くないんですが、私にはSFのレセプターがないせいか、イマイチ「よさ」がわからないんです。作者の処女作だから、まだ書きなれてない部分もあって。これと比べると、「かめくん」はテーマの見せ方や雰囲気作りがうまくなってたんだなあ。
好きな人はとことん好きだろうけど、読む人を選ぶ話なので、SF属性のない方にはあんまりオススメできないなあ。


●「続巷説百物語」京極夏彦[角川書店]2000円(01/06/06) →【bk1】

WOWOWでドラマ化もされた、「巷説百物語」の続編にして(おそらく)完結編。
江戸時代を舞台にした、「必殺」なケレン味のある話。「必殺」とは言っても、ただ悪いヤツを暗殺して終わりではなく、にっちもさっちもいかなくなった状況をすべて妖怪の仕業にしたてて丸く治める…という仕掛けを毎回行います。それが仕掛けだとわかっていても、一体どうやるのか、それでどう状況が変わるのか、色々先読みしながらやっててもさらに(いい方向に)裏切られる感じで。おもしろかったです。
連作中編でありますが、今回はそれがシリーズクライマックスに大ネタとして繋がってゆきます。「死神」はスペクタルでよかった。
でも、これで終わりというのは残念だなあ。最後に語られる「2年前の戦い」もちゃんと読んでみたかった。なんかもったいないなあ…
おもしろいですがお値段もそれなりにするので、京極マニア以外は文庫本化を待ってもいいかもしれません。


●「恋愛前夜〜キレイなキス〜」深谷晶子[集英社コバルト文庫]419円(01/06/02) →【bk1】

…なんでこの本を買ったのかはよくわからないんだけど、この作者名が頭に残っていたので。読み終わったあと考えてみたら、「少年のカケラ」の作者だったんですね。
イマドキの高校生、月夜は人目を惹く容姿をしているし、お金に不自由はしてないし、ケータイでメールをやりとりする大勢の友達だけではなく本当に心配してくれる友達もいるし、オシャレなカッコでオシャレなところで気ままに遊んでいるし、何不自由ない生活を送っているはず、だった。でもいつもなんだか満たされなくて。ある日、月夜のケータイに「キレイナモノサガシ」という言葉で始まるメールが届く。あるアドレスのサイトの掲示板にキレイナモノの画像を送って、それが千個溜まると何かが起きるというのだ。最初はそれに興味を惹かれなかった月夜だったが…
青臭い。小説としては稚拙。でもライトノベルとしては正しい。コバルトというレーベルにはこういう話は絶対にあった方がいい。
「少年のカケラ」のときに「若木未生のデッドコピーぽい文章だなあ」と思いましたが、あのときは「イズミ」と「オーラバスター」での文章をまぜた感じに近かったけど、今回は「グラスハート」を思わせますね。でも「グラスハート」自体は気持ちが言葉に、言葉が音楽になっている傑作ですが、この作品では体言止めの乱用や主語の過剰なまでの欠落、(複数)一人称みたいな三人称も、音の連なりや字面の選択のベクトルの方向が乱れているせいで効果的に発動していなく、濁った水のよう。キャラ配置やエピソードの連鎖の仕方もうまいとは言えない。…と色々と書いてしまいましたが、でも悪い話ではないんですよ。嘘の気持ちは書いてないから、ちゃんと伝わってくるものがある。光るところはあるので、感性に頼るだけではなく、きちんと小説としてのテクニックを身に付ければ、もっと上に行ける作家ではないかと思います。
「月夜は私だ」と思うような子が、ちゃんと本を読んでくれればいいけど。そういう普段は本を読みそうもない層の心にも届くようなお話を、コバルトには作り続けてほしいものです。


●「秋天の陽炎」金子達仁[文芸春秋]1000円(01/06/02) →【bk1】

金子さんは、フランスワールドカップアジア予選でヒデにハマった過程で「28年目のハーフタイム」を読んで、一時期夢中になった作家さんでした。いつしか私のサッカー熱も冷めて、それとともに金子さんの本にも疎遠になってしまったけれども…なんだか今回は惹かれるものがあって購入してしまいました。
1999年、J2での大分トリニータのJ1昇格をかけたモンテディオ山形との最終戦。テレビの全国中継もなかった注目されない一戦であったが、劇的な記憶に残る試合であった。監督・選手・審判に取材を行い、多数のインタビューからそれを浮かび上がらせたサッカードキュメントです。雑誌「Number」に連載されたものに最終章が付け加えられてます。
久しぶりの金子達仁の文章は、ドラマティックな描写を押さえた表現になってたものの、臨場感のある空気の流れを感じさせるものでした。この人の読ませる力は強いなあ。一気読みでした。
ほんの偶然のできごとが生んだ誤解が増幅され、そしてもつれにもつれた糸。なんだかやるせない。
あとがきに、今回の試合について取材をして、色々な視点を知ったあとの感慨が書かれています。
「無知は、怖い。公平さを装った無知はもっと怖い。」と。
ワールドカップ出場を決めた、あのイラク戦の直後に発表された「Number」に書かれた金子さんの記事は、そのドラマティックな筆致で多くの人を酔わせ、金子さんを一躍超メジャーライターに押し上げる原動力となりました。でもあの当時、サッカーマニアが集まっていたNIFTY-SERVEのフォーラムでは、金子さんの記事は主観的で公正さに欠けるとの批判が噴出していました。その頃の私は熱に浮かされていたような感じで、サッカー歴の浅さゆえに金子さんの信望者になってしまって、自分にとって耳ざわりな意見はどうしても受け入れられなかったのでした。気持ちの距離があいた今であれば、あのときの批判にもちゃんと耳を傾けることができるのにな。
イラン戦の直後はマスコミはカズ・ゴンばかりをプッシュしていたのに、しばらくたってからヒデ賞賛・カズパッシングに完全に切り替わりました。ヒデの世界代表召集もきっかけだったけども、それには金子さんが書いたあの記事も少なからず後押ししたのは間違いないかと。で、無知の怖さを知った今の金子さんは、あの記事を振り返ってどう考えるのでしょうか。
私にとっては色々と感慨深い作品となりましたが、このページ数で1000円はコストパフォーマンスはあまりいいとは言えないだろうなあ。


●「浮世絵博覧会」高橋克彦[角川文庫]600円(01/06/02) →【bk1】

高橋克彦のエッセイや対談関係をまとめた「高橋克彦迷宮コレクション」シリーズの第一弾は、浮世絵関係の話。私が「写楽殺人事件」「北斎殺人事件」「広重殺人事件」の三部作を読んだのは、もう10年近く前のことになります。今回の話を読んでて、あの頃本を読んでワクワクした気持ちを思い出したなあ。
高橋克彦氏の作品からは最近縁遠くなってるんですが、「ゴッホ殺人事件」に塔馬双太郎がでてると知ってびっくり。「歌麿呂殺贋事件」は私の短編ベスト10には確実に入る大好きな作品なんですよ。これはぜひ読まなくては〜。
高橋克彦氏は、宇宙人がらみとかでは少々電波の入った人として一部に知られてたりしますが、初期の作品はなかなかよいです。特に浮世絵三部作はオススメ。これのせいで、北斎の天井画を見に小布施までいったもんなあ。北斎美術館に飾ってある肉筆画もすばらしい出来栄えだし、天井画の迫力はすごいし、小布施という町のたたずまいもとても素敵なので、本を読んで興味をもったら行ってみてくださいませ。私ももう一度行きたい町であります。
あと高橋氏では、伝奇モノの「竜のひつぎ」や「総門谷」の初期もパワーがあっておもしろいですよ。


●「ランブルフィッシュ (1)新学期乱入編」三雲岳斗[角川スニーカー文庫]590円(01/06/01) →【bk1】

「コールド・ゲヘナ」で第5回電撃ゲーム大賞《金賞》受賞、その後も「アース・リバース」で第5回スニーカー大賞特別賞受賞作を受賞したり、「M.G.H.」で第1回日本SF新人賞を受賞したりと勢力的な活動をしている三雲氏の新シリーズ。
三雲氏は筆の達者な作家さんではありますが、私にとってはそれほど魅力的ではないんです。話にソツはないものの、バランスが取れすぎてて。私の好みは何かが非常に過剰な、尖がった作家さんだから。で、この新シリーズも最初は読む気がなかったんですけど、設定がなかなか好みだったので手をとってみることに。
1990年初頭、湾岸戦争に忽然と現れた人型兵器レイド・フレーム(通称RF)は圧倒的な力を持っていた。…それから月日は流れ、RF同士を闘わせて勝者を予測させる公営ギャンブルが発展していた。そのトーナメントを支える技師やパイロットを養成する専門学校「恵理谷闘専」。そこでは実技として生徒達が全16チームに分かれてのトーナメントバトルが行われていた。瞳子の所属するD班はあまり強いとはいえず、ライダーの欠員に悩まされていた。ある日瞳子の新しいルームメイトとしてやってきたのは、ヤンキーで、新米ライダーで、乱暴な男の沙樹だった。
あいかわらずバランスのとれて危うさのない作品を書くなあ、とは思います。設定や話の基本展開は悪くないし、いろんな要素を盛り込もうとしているのはわかるんだけど…細かい部分がひっかかるというか、いや、なによりこの人って私にとっては川の向こう側の人だという感じがますます強くなったな。大人が子供の視点で物語を作ろうとしたんだけども、根本の空気が何かがズレてみたいに思えて。同じ高さの視点からではなく、大人が上から見下ろしてとったロボコンのドキュメントみたいだ。
この作品への失望感は私があらすじを読んで過剰に期待してしまった部分のせいだというのが大きいと思うのですが、具体的な話は微妙にネタバレを含むし、重箱の隅つつきと言えなくもないので後述。
キャラクター小説としてはいろんなタイプを出して頑張っているのはわかるけれども、もうひとつ魅力を感じられない。エピソードとキャラがうまく融合してないし、文中で「美形」を連呼されるだけという感じがしちゃって。三雲氏ってソツがないけど、今までの作品を読んできたかぎりではそのキャラ立て部分があんまりうまくないんだよねぇ。
とあれこれ書いちゃいましたが、これがもっと文章ヘタクソな新人の作品なら逆に誉めていたかもしれません。なまじ三雲氏は筆が達者なだけに、線はきれいなのに背景真っ白なマンガのように見えて、気になってしまうのかもしれないなあ。なんだかんだいいつつもとにかく次も読むつもり。
以下、微妙にネタバレ。→あとがきにも書かれてますが、現代日本を舞台に、RFという異物を持ちこむことでリアルとファンタジーの境界をあいまいにさせる効果を狙ったようですが、それが逆効果にでて、ぎくしゃくした印象を与えてしまっている。三雲氏のSFミステリ関係は読んでないんですが、それ以外の作品について、「コールドゲヘナ」や「アースリバース」のような架空の舞台はルールや世界観も「そんなものだろう」と受け入れられるし、「レベリオン」は超能力だから多少現実と合わなくても「そういうものだ」と納得できるんですが、今回の「ランブルフィッシュ」は「超テクノロジー」すなわち科学という、リアルと同系色の素材をパッチワークしたために、逆に接ぎ当ての部分が嘘っぽく見えちゃうんです。作中でRFはいわゆる「ロストテクノロジー」であることを示唆されていますが、この世界では技術自体はブラックボックスではなく、解析・再現もできるんですよ。しかも軍事技術として密閉されてないということは民間にもオープンにされてるはずで、だとしたらあれだけの圧倒的な技術がもっと生活にフィードバックされてるのでは?と思うのです。従来の兵器にももちろん強くなるわけで、そうすればRFの物理的な優位性はかなり薄れてるんじゃないかと。それでだと「なぜ人型兵器なのか」の説得力がイマイチに。そのあたりもカバーできるほど嘘をきっちり作ってほしかったなあ。
大体、たかがギャンブルで機体が大破しかねないようなバトルをするのは採算があわないような気がするんですけれども。ロボットが普及して汎用品になったならともかく、ここではまだ研究開発中のF1じゃないですか。F1同士をぶつけて壊すような競技は成立しづらいんじゃないかなあ。そのあたりルールをポイント制のようなものにして大破はめったなことではおこらないようにするとか、そういう工夫が必要だったんじゃないかと。
せっかくヒロインがバックヤード、設計士という物を作る人にしてるんだからそのあたりを活かすエピソードを盛り込んでほしかったな。というか、私が特に落ち着かないものを感じたのがこの舞台裏についてで、まず何より整備士の数があまりにも少なすぎやしませんか?ということ。出来上がった製品のメンテだけならまたしも(それであっても全長9メートルの精密兵器にあの人数では全然足りません)、自分達で新しい兵器の開発をしたり、1から設計図をひいて製造しているようなんですが。…部材の手配や下請けへの発注やその掌握(加工や組み立てはあの人数では不可能です)、品質保証検査とかどうなってるのかしら。RF開発の余波から恐ろしくそのあたりの自動化・無人化が進んでいるのかなあ。そのあたりがからっぽなので、モノ作りの息吹というのが感じられない。あらすじ読んだときにそういうモノ作り小説としての部分に過剰に期待しちゃったために、失望感が大きいのかもしれないなあ。


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