01年7月に読んだ本。   ←01年06月分へ 01年08月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「ドミノ」恩田陸[角川書店]1400円(01/07/31) →【bk1】

楽しみにしてました!! 恩田陸の新刊です。
今回は、ゆだるような暑さのじめじめした7月の午後の東京駅を舞台に、なんのゆかりもない人たちの行動がほんのちょっとした「偶然」が積み重なってどんどん大きくなってゆく…という文字どおり「ドミノ倒し」のような、スピード感のあるシチュエーションコメディ。
いやあ、おもしろい!! なんの関係もなかったようなことがどんどん繋がっていく様は、見事。構成が決してうまいとは言えなかった恩田さんですが、こういう作品も書けるんだ。こういうのができるのだったら、「上と外」の終わり方も期待できそう。
個性的すぎるキャラや細かいエピソードの作り込みはこれだけで終わらせるのがもったいないくらいだなあ。
とにかく、これは一気読みすべし。ちまちまと読むと話がわかりにくくなるかもしれないので、まとめて時間がとれる時にノンストップで読んでください。
これ、2時間ドラマか、映画にでもしてくれたらすごく楽しいだろうなあ。
ただし、この作品はあの「青いすりガラスの向こうの世界を覗きこむような」恩田陸特有の空気とは縁遠い作品です。恩田陸にはそちらを求めてる人は、無理して読む必要はないと思います。
恩田陸をまだ読んだことのない人は、「光の帝国 常野物語」から読むのをオススメ。もしくは「三月は深き紅の淵を」が文庫本化したばかりなので、それから読むのもいいかも。


●「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」J.K.ローリング[静山社]1900円(01/07/30) →【bk1】

大人気「ハリー・ポッター」シリーズ最新作
脱出不可能であるはずのアズカバンから囚人ブラックが脱走。恐ろしい力を持つその男はハリーの命を狙っているというが…
読んでるときに「あれ?」とひっかかったことが伏線として最後にきれいにパタパタパズルにハマっていく様は見事。でもあの便利アイテムの存在は今後のストーリー上、諸刃の剣になりかねないと思うんですが。
ハリーパパのホグワーツ時代の話も番外編で読んでみたいなあ。


●「ロボット21世紀」瀬名秀明[文春新書]860円(01/07/28) →【bk1】

「パラサイト・イブ」でデビューを果たし、その後「BRAIN VALLEY」「八月の博物誌」などを発表した現役科学者の瀬名さんが書いた、現在のロボット技術についてまとめたノンフィクション。
ロボットに興味があったので、最新動向を知りたいなあ…程度で読んでみましたが、その程度に留まらない、日本の未来のあり方まで見据えた本でした。かなり読み応えあり。
話題のヒューマノイドロボットだけではなく、工業用ロボットから玩具まで様々なロボットが取り上げられています。
二足歩行を実現するための技術の話だけに留まらず、どうやって制御を行うかというソフトウェアの話が重要であるという指摘は興味深いです。また「BRAIN VALLEY」に通じるテーマである人間の知性とは何か…という問題もロボットに深い関わりがあること。日本人のロボット観はどうやって生まれてきたか? なんのためにヒューマノイド型ロボットが必要なのか? 将来、ロボット開発はどんな未来にむけて進んでいくべきか…を第一線の多数の研究者にインタビューを行い、多角的な方向から問題を考えてゆくようになっています。
瀬名さんに問題意識があるから、これだけおもしろい本になったんでしょう。
「どんな未来になってほしいか」。今の日本ではそう言われてもイメージを明確に思い描ける人がどれだけいるのでしょうか。どんなに今頑張っても未来が今より幸せになるとは限らない。そういう閉塞感が漂ってるような気がして。個々に頑張ってる人はいるだろうけれども、それをきちんとベクトルを揃えて大きな流れにしなきゃ効率が悪いからなあ。


●「ぼくはここにいる」ユール[集英社コバルト文庫]419円(01/07/27) →【bk1】

表紙が藤田貴美のイラスト。それに惹かれたんですが作者のペンネームの「ユール」に引いてしまい、購入を迷ったところ「あいつは男だけど俺のことを愛してくれている。」と栞に書かれてたので「ホモだっ」と思って買いました。ちなみにノベル大賞の佳作で読者大賞受賞作。
中性的な外見の基晴は小説家を目指してたまにバイトする程度で職にもつかずに夢を追っていた。基晴の友人の恵(男)は俳優を目指して今は売れないモデルをやってる日々。基晴は恵に恋愛感情で愛されてることを知りながら、友人付き合いを続けていた。日常生活はそのまま続くかに思われたが…
…。読者大賞をとったってことは、読者に支持されてるんでしょう。ただ私にはヌルいところが目につきすぎて。主人公である基晴のあまりの甘ちゃんぶり(優しくされる心地良さを得たいために、友達が自分に恋愛感情を抱いているのを知っていながら葛藤や罪悪感もなくただ甘えているだけって、かなり酷い行いだと思いますが)にめまいがしながら、「…これはきっと後半に主人公が改心したあとを効果的に見せるためにこんな風に描かれてるんだ!!」と思ってたら、なんと→恵はふと基晴に愛を告白したが基晴は露骨に嫌がる。その直後、コンビニに買い物にでかけた恵が交通事故で死亡。さすがに落ち込んで、恵の大切さに気がついた基晴。そんな彼の元に日本推理小説大賞(賞金1000万、映像化つき)受賞の知らせが届く。授賞式のあと、次回作を求める担当編集者に「恵が死んだせいで話がかけない」といったところ、「彼のことを小説にかいてみてはどうですか?」といわれ、基晴は恵との話を書き出した。←ということに。なんかこういう主人公に徹底的に甘い小説は、作者の自己愛を見せられてるような気分になってしまって、どうも居心地が悪いのです。ロクに捻らない死にネタ程度で泣けるほどピュアではなくなっちゃったから。
小説自体は下手ではありませんが、うまくもないレベル。


●「マリア様がみてる チェリーブロッサム」今野緒雪[集英社コバルト文庫]476円(01/07/27) →【bk1】

「マリア様がみてる」シリーズ最新作。
カトリック系のお嬢様学校を舞台にした、ソフトレズの優しいお話です。
今回は雑誌「コバルト」に掲載された幻の作品と、山百合会の皆様のお話と二本立て。
キャラ紹介のイラストをみて少し寂しくなりました。前作で薔薇様たちが卒業して、代替わりしたんだなあと改めて実感して。でもあの祐巳ちゃんがなんと「紅薔薇のつぼみ」ですよっ!! いやはや… それにしても今回の祐巳ちゃんはライバル登場ってことでわたわたしてて、かわいいなあ。
以前から匂わさせていた「志摩子の秘密」についてのお話ですが…こういうことだったんですか。たしかに他人から見たらなんでもないことでも、本人にとってとても大きなことはよくある話で。若い時っていうのはそういうものだよね。
新キャラもなかなかいい感じで、これからの山百合会がどういう方向に進んでいくのかが楽しみであります。


●「キル・ゾーン 地上より永遠に」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]533円(01/07/27) →【bk1】

未来世界SFミリタリーアクション陰険漫才ラブロマンス(?)「キル・ゾーン」シリーズついに完結。
前作を読んだときに「あと1冊て話にカタがつくのか?」と心配しましたが、見事に風呂敷をたたんでくれました。あまりに展開が早過ぎるために、「もうすこしゆっくりじっくり書いてほしかったなあ」と思わないでもないですが、とにかく作者には「長いことごくろうさまでした。途中からですが発売を待ち焦がれながらリアルタイムで楽しんできました。楽しい時間をありがとうございました」と伝えたい気分です。
みんなみんなハッピーエンドとはいえないけれども、それぞれのキャラが乗り越えるべきところはちゃんと乗り越えてくれたのでよかったです。
もう番外編もないのかなあ…前にコバルトに書いてた「ブルーブラッド」シリーズの短編、あれは収録されないんでしょうか。
このシリーズを読むなら一作目「キル・ゾーン」から「ブルーブラッド」も含めて発刊順に。最初の方は作者もデビューしたてで正直いって下手なんですが…「ブルー・ブラッド 虚無編 上」「下」あたりの深さは読むだけの価値があると思います。全部でシリーズ24冊あるので今から読むのはなにかと辛いですが…
さて、ネタバレ感想。→ユージィン様がヴィクトールの死に行く様を見守るシーンが色っぽいです。この二人の、愛も憎しみも越えたところにある深い絆がとても好きでした。
エイゼンの置手紙が最高です。彼も自分を縛る過去を乗り越えることができたようでなにより。ラファとキャッスルは……残念といえば残念。でもラファの心の傷のことを考えるとこれでいいのかなあ、とも思います。幸せになってほしいものです。あと、モニカの将来が楽しみ。


●「僕達の誕生日 泉君シリーズ12」あさぎり夕[小学館パレット文庫]467円(01/07/25)

人気ボーイズラブ泉君シリーズ最新刊。泉くんが伊達とヨリを戻しまして。それでまあ伊達の自立とか色々あったりしましたが、なんかやおい小説でよくあるパターン(ハマったジャンルで必ず1度は見る)結婚&養子を迎えて家族にパターンではないですか…ボーイズラブというジャンルは少女マンガの裏返しみたいなところはあるから、話はこういう方向にいっちゃうんだろうけど。
話はちょうどキリがいいところになってるし、このまま終わってもいいんじゃないかなあ。もしくは10年後の話をちょろっと書いて、終わりにするとか。


●「ハッピーロンリーウォーリーソング」枡野浩一[角川文庫]680円(01/07/25) →【bk1】

特殊歌人、枡野浩一の初めての文庫本。「てのりくじら」「ドレミふぁんくしょんドロップ」をまとめてデザインしなおしたもの。前回はキャラクター絵本ぽかったですが、今回は写真を豊富に使っていて。デザインで同じ言葉でもイメージが変わるものだなあ。
「ほぼ日刊イトイ新聞」で「あしたには消える歌」を連載してたので、知ってる方もいるのではないかと。
この人の歌は、五七五七七のリズムがありながら散文みたいで。シニカルだけども中身はピュアな感じ。個人的にはとても好きです。
とりあえずマスノ入門として文庫本だしお手軽かと。個人的に一番お気に入りなのは、エッセイ集(?)の「君の鳥は歌を歌える」です。


●「プラチナ・ビーズ」五條瑛[集英社文庫]1048円(01/07/24) →【bk1】

発売された当時から大評判をとった傑作が、ついに文庫本化に。五條瑛さんは前に「冬に来た依頼人」を読んだときに「うまい作家だなあ」と思ったし、各方面でこの「鉱物シリーズ」の評判は聞いていたので読んでみたかったんですよ。期待以上の物語でした。
葉山は在日米軍関係の会社の下請け情報アナリスト。ある日、上司のエディから絞り粕のような仕事を任された。それを調べるうちに、大きな事件に巻き込まれてゆくが…
極東情勢をメインに扱った国際謀略小説。作者は大学で政治学を学んだあと、自衛隊の情報専門職についていたそうです。その後フリーライターを経て「プラチナ・ビーズ」でデビューし作家に。情報アナリストの元プロが書いた小説だけに、奥行きが深くリアリティがすばらしい。それだけでなく、見事な構成とストーリーにエピソード、魅力的なキャラクター、深いテーマとまさにパーフェクトな出来栄え。ラストの方は「ごめんなさい」と呟きながら涙を流してしまいました。魂に深く突き刺さる物語です。
北朝鮮問題を主軸に扱っているのですが、逆に日本というものを深く考えさせる話になっています。民族と国家と。普段気が付いてないふりをしている問題を目の前に突きつけられたような。あと、「情報」とはどういうものかの考えが興味深かったです。
とにかく傑作ですので、ぜひ読んでみてくださいませ。テーマは深いですが、国際問題の素人にも分かりやすく書かれていますので、高村薫ファンあたりだけではなく京極夏彦ファンあたりにもオススメ。
この続編もすごく読みたいけど、文庫本化まで待てるかなあ。
さて。ここまでの紹介文だとずいぶん重い話のように思えますが、この「鉱物シリーズ」が「活字倶楽部」でも大人気を博しているだけありまして、キャラクターが個性的でかなり萌え。 メインキャラを紹介しますと、
葉山:下請けアナリスト。日本生まれの日本育ちだがハーフのような外見(茶髪、白い肌、童顔)で日本国籍を持たず、そのため「国家」というものへの想いは複雑。家庭的にはかなり不幸。イジメテくん。
エディ:元アメリカ軍のお偉いさんで、現在は葉山の上司。典型的なWASPで自信に満ち溢れている。葉山をイジめるのが趣味。
坂下:日系アメリカ人で、駐日海軍の情報部所属。アメリカ国家と海軍をこよなく愛している。傍若無人な筋肉男。
あとは謎めいた、出会った人を虜にしてゆく神秘的な男もでてきます。
つい掛け算したくなるような互いの関係がこれまた魅力的でして。キャラ萌えな方もぜひ読んでみてください。


●「天帝妖狐」乙一[集英社文庫]438円(01/07/19) →【bk1】

16才で「夏と花火と私の死体」で鮮烈なデビューを飾った作者の二作目がついに文庫本化。乙一は最近コンスタントに「石の目」「失踪HOLIDAY」「きみにしか聞こえない CALLING YOU」に出してどれも評判をとっています。
今回は二つの中編が収録されています。
「A MASKED BALL」:上村はタバコを学校でこっそり吸うのに便利な人の気配のないトイレをみつけ、それを利用しているとある日「ラクガキスルベカラズ」という落書きを壁に見つけた。それに返事をするうちに、誰だかわからない同士の5人は匿名で深いコミュニケーションをとってゆく。そんな奇妙な日々もある日を境にバランスを崩してしまう。「コノガッコウニハ アキカンガ オオスギル」というメッセージの後に学校中の自動販売機が壊されてしまった。そしてカタカナで書き込むソイツの静粛はエスカレートしていったが…
アイデアがいいなあ。閉鎖社会での匿名でのコミュニケーションの方法がトイレの落書きとは。この時期特有の息苦しさや登場人物同士のコミュニケーションのとり方の距離がなかなかにうまい。ストーリーの展開にしても技ありな作品です。ただヒロイン(?)がちょっと作りすぎかなあ、という感じは否めないですね。
「天帝妖狐」:友達と馴染めない少年がひとりでこっくりさん遊びを始めた。そのときに何かが彼にとりついたが、その見えない何かと少年は遊びつづけていた。そしてある日、その中が彼に告げた。「永遠の命をやろう」と。それを受け入れた彼の身に起こったのは…
中島敦の「山月記」を思わせるような話。(「山月記」にも元ネタはありますが)ホラーといえばホラーなんだけど、泣ける話にしあがっています。泣きツボ押すのがうまいですな、このお方は。
この本はデビューニ作目のためにまだこなれてない印象を受けますが、読んで損はない作品かと。「ホラー」と銘打たれてますが、別に怖くないです。というかそっちを期待するとスカされたような感じになるかも…
この作者のはどれも読みきり作品ですからどれから読んでも大丈夫。個人的には収録作品のバランスのとれた「失踪HOLIDAY」がオススメ。


●「チェンジリング 碧の聖所」妹尾ゆふ子[ハルキ文庫]820円(01/07/16) →【bk1】

「チェンジリング 赤の誓約」の続き。この2冊で話は完結します。
妖精をみる力を持っていたせいで、なかなか社会に溶けこめずに生き辛さを感じていた平凡なOLの美前。そんな彼女が実は異世界のお姫様で、異世界からの刺客に命を狙われ続けるが、自分を守ってくれる騎士(口ベタな少年。美形)と共に異世界に旅だった…のが前作までのお話。今度はケルト神話をベースにした異世界を中心に話は進みます。
「平凡な少女が実は…」は少女小説やマンガでの王道パターンではありますが、このお話が際立っているのは圧倒的な「いたたまれなさ」。前巻での日常生活で主人公が周りから浮いてる描写もリアルなだけに痛かったですが、「帰ってきた本来の世界」であるはずの《輝きの野》にも彼女が安らげる場所があるわけではなくて。《世継ぎの君》であっても皆から愛され、ちやほやされるわけではなく、むしろその力だけを目当てに色々な人たちに狙われ続ける日々。「自分のために誰か死ぬのは嫌だ」と思っても、それは逆に美前のために犠牲になる人の誇りを傷つけるだけのシロモノで。でもそれが、どこにも居場所がないだけではなく、逃げ場所すら存在しない美前が最後に選び取った答えは…という展開に結びつくわけですが。
また、きちんと話が構成されていて、《輝きの野》の真実がわかり価値観がひっくり返るところや、それまでの伏線が見事に収束していくあたりがなかなかに快感です。
それにしても、妹尾ゆふ子さんは異世界の描写がとてもうまい方なんですが、今回の《輝きの野》の作り方が2冊で終わるのにはもったいな過ぎるほど見事なでき映えで。こっちの世界とは確実に違う空気、世界の理と風土、文化、そして精神構造、信念。それらがきちんと筋が通っているから、世界がカキワリじゃなくて、ちゃんとした確かさを持っているのです。さすが。
ただし。女の子のヒロイズムを安易に満たして満足感を与えたりしないところは私の好みなんですが、そういうところが読者を選ぶのかもしれません。
キャラ自体は結構いいです。特にアェド。カッコいいオヤジ万歳。
異世界の空気を味わうのが何よりも好きな人にはかなりオススメです。あとオヤジ好きにも。読む場合は、必ず「チェンジリング 赤の誓約」から。
オマケ。なぜあんなマヌケとも思える誓約を交わしてる人がいるのかがすごく不思議なんですが…ひょっとして養い親の信念を子供に押し付けてるんですか??? 「出されたものは全部食べなきゃダメでしょっ!!」とか。


●「華胥の幽夢 十二国記」小野不由美[講談社文庫]684円(01/07/13) →【bk1】

十二国記シリーズ初の短編集。5つのお話があります。雑誌発表済の「華胥」「冬栄」の他、伝説(?)の同人誌掲載作品のリメイク作品も。これで発表されてて単行本収録されてないのは、ドラマCDに入ってる墓参りの話だけですね。
「乗月」は月渓の話、「書簡」は陽子と楽俊のお話、「帰山」は利広とあの人の夢の共演。どれもしみじみとした味わいがあってよかったです。惜しむらくは私の一番好きな恭の主従の話が直接出てこなかったことです。ううう。間接的でも話題に登っただけでもヨシとするか。
あれだけ人工的な十二国記のシステムでも、人がそれを運営する以上軋みは避けられないんだなあとしみじみ。この前の「黄昏の岸 暁の空」といい、中枢にいる人ほどシステムに対する不信感を抱いてるものなのかもしれません。物語全体の方向性としては、王―麒麟システムに頼らない国のあり方を模索し、現在の天帝支配のシステムを脱すること…まではいかないのかなあ。
とにかく楽俊がラブリーでよかった、と。
このシリーズは古代中国風の世界観での、この世界と隣り合わせにある別の世界での物語。非常に魅力的なお話です。本好きな方なら当然チェックいれてるシリーズだけども、万が一未読の方がいましたら「月の影 影の海」 →【bk1】からどうぞ。
ちなみにこの短編集の山田章博さんのイラストつきであるホワイトハート版は9月に発売されるそうです。イラスト待ちの方はそちらをどうぞ。私はもちろん両方購入。


●「三千世界の鴉を殺し(4)」津守時生[新書館ウィングス文庫]580円(01/07/12) →【bk1】

「三千世界の鴉を殺し」シリーズ1年ぶりの待望の新刊。
少しホモティストな、お笑い軍隊SF物語。今回のお話は今までとは違って、情報戦をメインにバトルに終始した一冊でした。いつもとはノリが違っていたものの、あいかわらずキャラ同士の会話とかが愉快で。話自体もおもしろかったです。でも前から間があきすぎてたせいでストーリー、すっかり忘れてしまったのですが…あらすじを書いてくれるといいんだけどなあ。
このシリーズを読むなら、スニーカー文庫からでている「喪神の碑」シリーズをみて「パパ」のスゴさを知ってからの方がいいかと。


●「Missing 神隠しの物語」甲田学人[電撃文庫]570円(01/07/11) →【bk1】

電撃関係の新人さんってことで一応チェック。あらすじがおもしろそうだったので購入してみました。
現実の世界と隣り合わせに「異界」が存在している。両者の境界は強固なものではなく、たまに向うの世界に引きずり込まれて帰ってこれない人もいる。それは「神隠し」と呼ばれていた。
聖創学院大学付属高校の文芸部のカリスマ的存在の空目恭一は、魔王と渾名される冷たいが切れる男だった。そんな彼がある日「あやめ」という不思議な雰囲気の少女を見つけ、彼女として文芸部員に紹介してまった。そしてその翌日、恭一は失踪してしまう…
作者は電撃ゲーム大賞の最終選考に残った方だそうな。この作品は書き下ろしですが、標準的なライトノベルに仕上がっています。
物語の方向性としては「ブギーポップ」なんだろうけれども、バランス感覚や言語感性が優れている上遠野浩平と比較すると相当見劣りしちゃって。
「本当の物語で感染することで異世界に引きずり込まれやすいキャリアとなる」というアイデアやキャラの作り方はなかなかにいいのですが、こういう現実との対比としての異世界を表出させることができるだけの言葉のセンスがあれば。作中で引用されている大迫栄一郎の物語があまりに普通だったり、魔王や基城のセリフにケレン味が感じられなくてねぇ。そのあたりがクリアできていれば。言語感性というのは努力でどうにかなるものではないかもしれないけれども。
口絵デザインがCLAMP風ですが、電撃にしては珍しくデザイナーの名前が載ってないんですね。


●「硝子細工のマトリョーシカ」黒田研二[講談社ノベルス]940円(01/07/10) →【bk1】

「ウエディング・ドレス」でメフィスト賞を受賞し、「ペルソナ探偵」など構成の凝ったトリッキーな作品を送り出している作者の新作。
マトリョーシカはロシアの民族的なおもちゃで、木彫り細工の女の子のダルマのような人形の中にさらに小さな人形が入っていて、その中にさらに小さな人形が…と入れ子細工になっている、アレです。あんな風に、虚構と現実が何重にも層を成しているような構成の物語。
人気ミステリ作家かつ人気女優の歌織が脚本を書き、主演もこなす2時間ドラマ「マトリョーシカ」は生放送のサスペンスドラマ。ある監督の自殺と巡る謎を追いかけるニュース番組に脅迫が行われ、生放送の最中に次々と事件が…

このドラマ自体も劇中劇のような虚構の二重構成の上、さらに物語自体もどこまでが虚構でどこからが現実なのかがわからなくなるような構成で、その手の話が好きな人にはともかく、ダラっと読んでるとわからなくなりそうなので一気読みをオススメします。
こういう凝った構成は好きなので楽しみましたが、展開そのものはそれほど特異的なものではなく、ミステリを読みなれたスレてる人にはわりとあっさりと真相がわかってしまうんじゃないかなあ… もう少しパンチがほしかったかも。
物語中の現実と虚構が入り混じるようなミステリを読んだことがない人には刺激的な物語となると思います。あとは構成萌えな人にはオススメ。伏線がきれいに収束していくあたりが気持ちいい。


●「宇宙からオーロラは見えるの? 宇宙飛行士が答える380の質問」R.マイク.ミュレイン[ハヤカワ文庫]800円(01/07/05) →【bk1】

元NASAのスペースシャトルのパイロットで現プロの講演者・ライターの作者が、よくある質問への答えをまとめたエッセイ。物理的なことや機械的なことだけではなく、宇宙での「日常生活」の話やあげくには無重力でのトイレの仕方まで。
なかなか楽しかったです。短い質問&回答ですので、ちょっとした時間潰しに少しずつ読んでいくのに向いているかと。
…当たり前のことなんだろうけど、地球の表面を少し離れるだけでもこんなに大変なんですよねぇ。今はそれが精一杯なのに、ロクなコンピュータもなかった昔によく月まで行くことができたんだなあと不思議に思ってしまうけれども。そのあたりはノンフィクションを読んだり見たりしてみたいな。


●「英国妖異譚」篠原美季[講談社X文庫ホワイトハート]550円(01/07/06) →【bk1】

第8回ホワイトハート大賞《優秀賞》受賞作。イギリスの田舎のパブリックスクールを舞台にした幽霊談。パブリックスクールものということでとりあえず読んでみました。
夏の夜、寮生たちは好奇心から百物語簡略バージョンを行っていた。そして最後の物語が終えてから異変が始まった。ひとりの生徒が姿を消し、そして幽霊が学校をうろつくようになって… あらざるものがみえてしまうユウリと、彼のルームメイトのシモンと原因を探し始めるが…
可もなく不可もなく。うまくまとまっているけれども、新人であるならヘタでも潜在パワーを見せてくれる方が個人的には好みなんだけども。レーベルから考えるとユウリとシモンの関係をもう少しボーイズラブくさくしてシリーズ化すればそこそこファンはつくかなあとは思います。


●「BLOODLINK 獣と神と人」山下卓[ファミ通文庫]640円(01/07/04) →【bk1】

表紙に惹かれて購入。
怠惰な高校生活を送っていた和志の生活は、隣に天使のような美貌を持つ小悪魔な少女・カンナが引越してきてから少しずつ変わっていった。ある日、和志は駅で突然見知らぬ美女からボストンバックを押しつけられた。その中には機関銃と無線機が入っていた。無線から流れる物騒な言葉が気になって夜の小学校に偲び込んだ和志とカンナがみたものは…
シリーズが始まったばかりで、キャラの顔見せ+ワンエピソードで終わってしまったので少し物足りないかも。今の段階では、平均よりちょっと上のライトノベルという感じかなあ。でも悪い作品ではないので、とりあえず続きがでたら読むつもり。
謎の美女の正体がバレバレな気がするのはミスディレクションなのでしょうか。
ヒロインは非常に気が強いプチ女王様な9歳(銀髪碧眼)なのでそういうのがお好みの方はどうぞ。


●「ラグナロク9 背神の遺産」安井健太郎[角川スニーカー文庫]590円(01/07/04) →【bk1】

「ラグナロク」シリーズ最新作。FF7ティストのファンタジー系バトル小説。今度の舞台は湖上の移動都市・イスファール。そこでリロイはカイルたちと再会する。久しぶりにのんびりとした時間を過ごしていたリロイたちだが、ウィルヘルム派から放たれた刺客がリロイたちに襲いかかり…
本編は1年ぶりですね。期間があいちゃうと前の話を忘れてしまうからなあ。それにしてもこのシリーズは敵対勢力関係がかなりややこしいことになってるんですが、物語が事情を知り得ないラグナロクの一人称となってるためにさっぱりわからなくなってるんですよ。外伝と本編を読みながら引き比べてみればかなりわかるのでしょうが…そこまでする気にはなれないので。幸い、ガイドブックが夏に発売されるそうなので、そこで詳しい解説を読めばわかるかな。
外伝に出てた軟弱体質の《闇の種族》テーゼの本編出場、今後の活躍が楽しみです。
それにしても、最近は敵も味方も(いろんな意味で)人間止めちゃった方ばかりのパワーインフレとなってる今、生身の人間として一番強いのはレナなんでしょうか。あ、今回のレナとリロイのやり取りはなかなか楽しかったです。


●「愚か者の盟約」佐々木譲[講談社文庫]620円(01/07/03)

ホモミステリがすごい!で紹介されてるのをみてすごく読みたくなったんですよ。キーワードはなんたって「若い政治家とその秘書」ですもの。文庫本が発売されたのが1993年なのですが、もう現在はリアル書店でもネット書店でもゲットできない状態となっていました。それがたまたま行った図書館で発見!!
東京で弁護士をしていた寺久保は父の急死のため、地元北海道に戻り父親の地盤を引き継いで社会党から衆議院に立候補し、なんとか当選した。党から彼にあてがわれた第一秘書の野崎は非常に頭はキレるがどこか暗い情熱を持った男で、寺久保は反発を覚えた。しかしやがて野崎は寺久保の野望に自らの夢を重ね、寺久保は野崎に全幅の信頼を置くようになった。そして彼らは野望のために権謀術数渦巻く泥の中に足を踏み入れるようになるが…
いやあ、おもしろかったです。1980年代から90年代の実際の政治舞台をバックホーンにフィクションを絡めつつスリリングにストーリーは展開してゆきます。甘っちょろいお題目を唱えるだけの政治家とは違って、寺久保は現実的で行動力があって。そして野崎が生ぐさい部分もサポート。閉塞した政治の世界に風穴を明けてゆくのが痛快。
まっとうな政治モノとしてもおもしろいですが、男同士の熱過ぎる友情や執着に萌える人にはさらにオイシイ話。なんたって、切れ者の秘書×若き情熱のある政治家なんですから〜。この設定だけでそそられた人はぜひぜひ読んでみてください。図書館か古本屋にしかありませんが。
私はあんまり政治に興味を持ってなかったせいで、「…そういえばこんな名前の総理がいたよなあ」とかぼんやりと思い出したりしてた位ですが、あの頃をよく知ってる人であれば現実と二重うつしになってる部分を楽しめるのではないかと思います。
この本が出版されたのが10年ほど前ですが、それがそれほど古びてないのは喜ぶべきことなのか。…政党の名前が一部変わったりはしたけれども、政治も官僚体質も10年前から何も変わったようには思えないのは喜ぶべきことじゃないのはたしかだろうなあ。


●「コンビネーション」谷山由紀[ソノラマ文庫]480円(01/07/01)

「こんなに緑の森の中」「天夢航海」などセンシティブで素敵な話を書く谷山さんのデビュー作。ずっと読みたかったのですが、すでに絶版(?)なのかもう本屋では購入できず。ずっと探していましたが…ふと寄った中央図書館に見つけました!!
万年最下位の弱小プロ野球チームの不器用でいつも真剣な男・名倉について、色々な人の視点から描いた7つの物語。
いやもうなんていうか…言葉にならない。魂の深いところで共鳴するような、充実感を得ました。素晴らしい。
透明感がありながら、深い味わいも持っている、稀有な作品です。
この方、野球が「頭脳ゲーム」であることをちゃんと分かった上で、プロ野球という非常に残酷な世界を様々な角度から描いています。脇役ひとりひとりにもちゃんと人生があって。やるせなさと、それを包み込むような優しさに泣きました。私が今年読んだ中で、ベストワンです。
野球を好きな人にはもちろん、野球になんてまるで興味のない方にもオススメ。…といいたいんですが、これもう本屋では手に入らないんですよ。古本屋ではまれに売ってることもあるそうですが。
ライトノベルが充実している大きな図書館だったら置いてる可能性はあります。それにしても、この本の発売、95年3月ですよ。私が探し出したのは去年ですから、発売して5年の段階ですでに絶版。なんでこれだけいい本が本屋に並ばなくて、内容がスカスカの本がベストセラーになったりするのはなんだか納得がいかない…物語の寿命は長いのに、賞品としての本の鮮度は生鮮食品並になってしまった今の業界体質が問題なのでしょうか。どうにもならないのかなあ。
それにしてもこの表紙……売る気あるのか?と疑いたくなる、20年前のジュブナイルだってもっとマシだよー、ってシロモノ。ただでさえライトノベルで野球モノだし、これじゃ売れるものも売れないです…ううう。
谷山さんの作品では「天夢航路」もオススメですが、現在手に入れにくくなっています。それでも探して読むだけの価値はある作品ですので、ぜひ。
新作、もう2年もでてないけど…でも次を信じて待ってますから。いつまでも。


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