01年8月に読んだ本。   ←01年07月分へ 01年09月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「今度はマのつく最終兵器!」喬林知[角川ティーンズルビー文庫]438円(01/08/31) →【bk1】

「今日からマのつく自由業!」の続編。再び異世界に辿りついたユーリ。しかしそのとき眞魔国は他国と一触即発の危機にあった。戦争を回避するために、ユーリは魔王しか持つことができない伝説の剣を探しに行くが…
RPG的ファンタジーでのバカ話。前作にも増してハイテンションで楽しかったです。でもレーベルのせいか、なんだかほんの少しボーイズラブのかほりが…サービスですか?
ちなみにこの世界で位の高い魔族は美形が多いんですが、美的感覚がみんなおかしくて、平凡なはずの主人公がそこの世界では超絶美形で、モテモテに(しかも男ばっかり…)。主人公愛されまくりではありますが、甘やかされてはいないし、ちゃんと葛藤も成長もあって読後がさわやかなお話にしあがっています。それにしても長男…そういう趣味があったとは。教育係も前回からすこし壊れ気味でしたが、今回の暴走ぶりはなんとも。あと、がんばれ、三男(なにを?)
続きを読みたいけれどもでてくれるかなあ。


●「今日からマのつく自由業!」喬林知[角川ティーンズルビー文庫]438円(01/08/31) →【bk1】

ネットの一部で評判よかったので購入してみました。
高校1年生の渋谷有利は、ある日公衆便所に流されて気がつくと不思議な世界に来ていた。しかもなんと彼はその世界での新しい魔王なんだというが…
平凡な少年or少女が異世界での王様/お姫様で、その世界に召喚されて不思議な力を発揮して国を救う…というような物語は小説/マンガ/アニメ/ゲームと、数々のメディアで散々使われてきたフォーマットでありますが、それを踏まえた上でのノリのよいバカ話に仕上がっています。読んでて楽しかったです。
1人称なのにときおり三人称視点が混じっているのはご愛敬。
個人的には一見天使だけども高慢でプライドが高い三男坊がお気に入り。


●「池袋ウエストゲートパーク」石田衣良[文春文庫]514円(01/08/29) →【bk1】

長瀬智也主演でドラマ化された小説が文庫本化されたので読んでみました。
マコトは高校を卒業したあとは進学も就職もせず、実家の果物屋を手伝いながら、夜になると池袋西口公園でぶらつく日々。そんな彼がストリートを舞台に、なりゆきで池袋に棲息するワケアリな人々の「なんでも屋」になり、様々な事件に関わっていくのを描いた短編集。
ほろ苦い青春モノでありますが、ミステリとしてはもうひとつですがコンゲーム的な要素がなかなかにおもしろかったです。あと、タカシがカッコいいな〜。
ストリートに漂う今の若者たちを描くのであれば、もっと物語に尖がったところがほしかったなあ。大人の視点でのカメラワークになってるような印象を受けました。
続編や番外編もいくつかでてるようですが、文庫本化されたら読んでみたいものです。


●「ミドリノツキ 中」岩本隆雄[ソノラマ文庫]495円(01/08/28) →【bk1】

「星虫」シリーズで一部にカルト的な人気を誇る作者の新作「ミドリノツキ」の二作目。…本当はこれが「下」となるはずだったのに、「中」になっちゃて残念。
あらすじを書くと前刊のネタバレとなりそうなのでパスしますが、今回は風呂敷きを広げすぎたがゆえの軋みみたいなものが目についちゃいまして。ちゃんと風呂敷きを畳めるのかなあ。まだ何か裏がありそうだし、完結編を楽しみにしています。


●「散りしかたみに」近藤史恵[角川文庫]457円(01/08/25) →【bk1】

「ねむりねずみ」に続く、歌舞伎の世界を舞台にしたミステリ。
演目「本朝廿四孝」の途中にどこからか現れて1枚だけ舞う花びら。その謎を突き止めた女形を待っていたのは、悲しい愛憎劇だった…
前作に引き続き、なかなかおもしろかったです。ミステリとしての部分よりも、袋小路に追い込まれたような恋の悲劇を見事に描いていて。
私は歌舞伎はよく知らないのですが、そういう初心者でも大丈夫なように描かれています。でもきっと今回に使用されている舞台を実際にみたことがある方が、より深く理解できるんだろうなあ。一度生の歌舞伎も見に行きたいものです。


●「魔術士オーフェンはぐれ旅 我が庭に響け銃声」秋田禎信[富士見ファンタジア文庫]480円(01/08/24) →【bk1】

人気シリーズ「魔術士オーフェンはぐれ旅」の新刊。聖域近くに居を構える謎めいた「近接領主」。彼の元に攫われたマジクとクリーオウを助けるために領主の館に乗り込もうとするが…
今回はシリアスで殺伐とした展開。地人の兄弟があまりに浮いています。あの人がいよいよ戻ってくるかもしれないようですし、そろそろ二部もクライマックスかなあ。ただ問題は、最近のストーリーの細かいところを覚えてないことかしら。できることなら、今までのあらすじと登場人物一覧表がほしいものです。
マジクに活躍の場がなくて寂しいなあ。→ドラゴン種族の血が濃くでてるためにオーフェンよりも魔術士としての素質がある←という設定はすでに消え失せてますか?


●「天剣王器」海羽超史郎[電撃文庫]570円(01/08/22) →【bk1】

第7回電撃ゲー小説大賞[選考委員奨励賞]受賞作。
ニ大国グランツァ、サルバーンとの戦争のために世界のバランスが狂い、暫定夏季が続いて8年。小国・台樹の片田舎に住む若葉とアユミは15歳となった。15歳になると、王都へ向かい兵役などに就く義務を生じる。またそれは「天剣王器」という重要な試験も兼ねていた。政務を統べる「王器」と軍務を統べる「天剣」。その次世代の指導者の候補生として、若葉とアユミも選ばれてしまったが…
いかにも新人らしい作品。語りたいことが山のようにあるけれども、作者の表現力が乏しいために読者には意味不明になってしまう。…特に終盤の展開の暴走気味なところとか。
魔法(この世界では魔導、魔術、魔法と色々とあるらしいが)で先人たちの機械文明のロスト兵器を動かしたり、スーパーパワーを持つ古代の人種の生き残りがでてきたりとか、骨組み自体はライトノベルでよく見かける設定でありますが、細かい部分のアレンジにはオリジナリティが感じられます。作者のスキルが低いために脳内設定をうまく見せることはできなかったのは残念。でも、そういうバランスの悪さはデビュー当時の川上稔を彷彿させるものがあります。あの人もデビュー作はヘタだったけれども、書いていくうちにメキメキ実力をつけていったもんなあ。「閉鎖都市 巴里」になると傑作ですし。…この作者も、キャラクターセンスとか筋は悪くないし、第ニの川上稔になれるように頑張ってもらいたいものです。
ただ固有名詞のごった煮はちょっと頂けない。和風なら和風、英語圏ならそれだけという風に統一した方がいいんじゃないかと思うけれども。


●「R.P.G.」宮部みゆき[集英社文庫]476円(01/08/22) →【bk1】

宮部みゆきの文庫書き下ろし新作。現代もののミステリです。ネット関係のネタがメイン。
女子大生と中年サラリーマン。一見無関係な二つの殺人に共通点がみつかった。そのふたりの関係から浮かび上がった容疑者についての捜査が行き詰まる一方で、サラリーマン側に別の理由からの人間関係の縺れが浮かび上がってきた。サラリーマンはネット上で優しい「おとうさん」を演じていた。お母さんと娘と息子もいた。…彼らの家族ごっこが殺人を呼び込んだのか? 被害者男性の娘がマジックミラーごしに見守る中、3人の擬似家族が警察の取調室に呼ばれた…
「理由」の系譜の作品かも。家族の絆とは何かについて考えさせられるものでした。
それにしても宮部みゆきはさすがにうまいなあ。キャラクターの描写、エピソードの展開、スキが全くない。ただミステリとしては少しフェアとは言えないかもなあとか、あれだと囮捜査ということで問題にならないのかな?と少し疑問が残ったのはありますが、プラスポイントに比べるとささやかなものに過ぎないですし。
犯人自体はスレたミステリ読者ならすぐに分かると思いますが、WHOよりもWHYの部分が秀逸で。
でもね、ちょっとだけ。どちらの顔もたぶん、嘘ではなくて本当なんですよ、きっと。ネットにあるものはまやかしばかりだけというわけではないから。(もちろん宮部さんはそれを分かった上でああいう描写をしてるんだろうけども)


●「わたしは虚夢を月に聴く」上遠野浩平[徳間デュアル文庫]590円(01/08/21) 

「ぼくらは虚空に夜を視る」の続編…というのはちょっと違うかな、同じ世界でのお話。
…すばらしい。「信者」だとか「厨房」だと言われてもいい!! 私は上遠野浩平の物語を、世界を、文章を愛しています。大好きです。とても。
このシリーズを一言でいうなら、「マトリックス」…で終わってしまうのですが。平凡な日常生活は実はプログラムのまやかしにすぎない。実際には虚空牙という正体不明の敵を相手に絶望的な戦いの日々を送っている…とストーリーだけ書くと陳腐に思えるかもしれませんが、でも上遠野浩平の現実と非現実のいつでも裏返りそうなバランスの危うさの描き方がすごくよくて。生も死も、日常も非日常もボーダレスで等価。ここではないどこか。無くしてしまった自分のなかのかけら。自分のいる世界に違和感を覚え、世界に尖った足場の上でかろうじてバランスをとってるようなモロさを感じてるような人間にはたまらないというか。
今回の話の舞台は月。謎の少女と、彼女のことを忘れてしまった平凡な少女の物語。細かい瑕はもちろんありますが、なんとも上遠野浩平らしい「とんがった」感じがとてもよいのです。前作もそうだったけど。このシリーズに対するその人の評価は、その人が上遠野浩平を「わかる」かどうかがはっきりする「踏み絵」になるんじゃないかなあ。「ブギーポップ」シリーズは別に上遠野浩平がわからなくても楽しめますから。「わかる」ことは別に偉いことではないけれども、ブギーポップがなぜライトノベルとして売れたのかを理解する上でのキーワードになるかなあと思います。あれが売れたのは、ティーンの子には上遠野浩平が「分かる」子が結構いたからではないかと私は考えています。若い子が持つ不安だとか希望だとか夢だとかそういう隙間と上遠野浩平の物語は共鳴しやすのでは。このあたりはもっと具体的な話をしてみたいんですが、どうも言語化しづらいんですよ。私の、形にならないものに名前を与える能力が低いという問題もありますが。
私には魂に共鳴するお話なんですが、一般的にオススメかというと難しいなあ。上遠野浩平をまだ読んだことのない人は「ブギーポップは笑わない」から。
ネタバレ感想→前作が裏「ブギーポップは笑わない」だとすれば、今回は裏「VSイマジネーター」(全然裏じゃない…) だとすれば三作目はぜひ裏「パンドラ」にしてくれっ!!…って無理だって。 ウサギロボットのイメージだとかはなかなかよいですな。月に降る雪とか、漂うピンク色の霧とか。あとこの物語の世界では、結局本当に生きているのは彼女ひとりで、あとは全部プログラムなんですよね… 心は何に宿るかとか、現実とは何かとかいう話になったらそうとは限らないけども。でもあの、なんだかよくわからないけれども取り返しのつかない失敗をしてしまった感じというのはとても「よくわかる」。…これだから私は上遠野浩平が好きなんだよなあ。


●「童話物語 大きなお話の終わり 下」向山貴彦[幻冬舎文庫]762円(01/08/17) →【bk1】

さて、下巻。あれから1年。やっと大都市パーパスで小さな幸せを手に入れたペチカ。一方、昔ペチカを苛めていたルージャンはペチカに一言謝りたい一心で町を飛びだして旅をしていた。アルテミファでえんとつ掃除夫をしていたが、ある日時計台の上で妖精と出会うが…
正当派の、少年と少女の成長物語。終盤のスペクタルな展開にドキドキし、ルージャンのセリフに涙し、一気読みでした。
こういう、前向きで強いメッセージは、あまりにもストレートすぎて眩しいけれども。でもそれが、読んでる人間のパワーに変わるから。…素敵な物語でした。
惜しむらくは、ハイ・ファンタジーとしては「借り物」の部分が多過ぎることかなあ。物語がおもしろいので瑕にはならないけれども。
頭の中で宮崎アニメで映像がぐるぐるまわってました。宮崎アニメでもラピュタとかが好きな人には特にオススメの作品です。


●「童話物語 大きなお話の始まり 上」向山貴彦[幻冬舎文庫]648円(01/08/16) →【bk1】

2年ほど前にハードカバーで出て、ネットを含む一部で高い評価を受けたハイ・ファンタジーの物語が文庫本化。文庫本化にあたり世界設定解説がプラスされています。
みなし児の上に周りにイジメを受けて育ったために人を信じることができず、荒んだ少女・ペチカ。彼女が釣り鐘塔の上であったのは、妖精のフィツだった。妖精は初めてあった人間を観察して勉強する義務があるのだ。しかしその世界では、妖精は「妖精の日」という滅びをもたらすものであると忌み嫌われていた。フィツと共にいる姿を見られたペチカは、それまで住んでいた町から逃げ出さなくてはいけないハメになってしまったが…
痛い。筆力があるだけに、ペチカの置かれた初期状態の悲惨さがストレートに伝わってくるのです。あらすじにはペチカのことを「極めて性格の悪い少女」とかかれてますが、あんな環境だったら多少ひねてしまうのも無理ないでしょう。
ただ痛いからこそ、人の優しさが余計染みる話ではあります。
まだ上しか読んでないので、今の段階での評価はできません。だよく話ができているだけに、世界の一部が「借り物」であるのは少し残念。もっと徹底して作り上げてくれた方がよかったんだけどなあ。ただそうなると一般の人が読みにくくなるから難しいか。
帯裏には「多くの新鮮なアイデアが無数にきらめく宝庫」となっていますが…コアとなるアイデア自体はこの手の小説(ライトノベル・ゲーム含む)ではそれほど珍しいものではないと思うのですが、でもエピソードの見せ方とかは抜群にうまいのは確か。とにかく下巻を読まなくては。


●「パラサイトムーンII 鼠達の狂宴」渡瀬草一郎[電撃文庫]630円(01/08/14) →【bk1】

「陰陽ノ京」で第7回電撃ゲーム大賞金賞を受賞した作者の、第二作は現代を舞台にした伝奇小説「パラサイトムーン 風見鶏の巣」でした。これもなかなか物語の奥が深そうで先が楽しみだなあと思ってたら、シリーズ二作目でついにやってくれました。
異世界からやってきた不思議な生物である《迷宮神群》。彼らと関わった人類には特殊な能力が発動してしまうことがある。それら異能者たちを保護するために作られたのが《キャラバン》という組織だが、創立してから時代を経るにつれて組織は一枚岩ではなくなり、様々に分裂していった。そして現代。その神々のひとつである黄昏の墓守・レブルバハトの影響を押さえる研究を行なっていた水本美春は裏切りのため組織に消されてしまった。しかし彼女の死があまりにも不可解だったため、そんな事情を知らない妹の水本冬華にも《キャラバン》の魔の手が伸びてきて…
いやあ、これがおもしろい!! ストーリーそのものよりも、世界観によって励起されるものが想像を刺激するのです。神々のシステムもおもしろいけれども、《キャラバン》という裏世界の組織にも色々と派閥があったり、資金調達のための隠れ蓑があったりとか人間関係が複雑なところが好みだなあ。
前作の「風見鶏の巣」は一度処分をしてしまったのですが、もう一度購入。2冊目を読んでから1冊目を再読すると、意味不明だった話がよくわかってパズルのピースがパタパタハマっていくような快感に。
このシリーズ、SF畑の人が読めばどういう感想になるのかを是非聞いてみたいものです。まあいわばクトゥルフモノの一種なんですが、世界を借りずにきちんと1から作っているところが私には好感を持てますね。
2冊目のこの本から読んでも十分話は分かるし、こっちの方がおもしろいので興味があったらこの「パラサイトムーンII」から読んでみてください。結構オススメです。
誰かファンサイト作って、様々な用語や世界観をまとめてくれないかなあ。
キャラ的には誠二くんもいいですが、籤方萌え〜、です。あのむちゃくちゃ強いのにただの役立たずというアンバランスさがそそるというか。
ただ惜しむらくはイラストが……萌えな女の子はかわいいし、物語世界が特殊なだけにイラストでそっち方面の読者をとり込む戦略だというのは分かっていますが…イラストレーターが大人の男性キャラを描けないというのがあまりにも致命傷ですよ…華ヶ瀬とか狂気を秘めたカッコいいキャラなのに……このイラストでは…ううう。


●「グイン・サーガ80 ヤーンの翼」栗本薫[ハヤカワ文庫]540円(01/08/13) →【bk1】

「グイン・サーガ」シリーズ最新刊。
読まなくてもわかるネタバレあらすじ→ケイロニアを出奔したマリウスは淫魔のユリウスに拉致されそうになるが、《ドールに追われる男》イェライシャに助けられる。イシュトヴァーンは忽然と現れたタルー軍(?)に奇襲されたが難なく退ける。この襲撃になにか裏があるのではないかと思ったイシュトは色々と調査し、タルーを捕らえて拷問し情報を聞き出す。復讐の鬼となったタルーの前にサウルと名乗る老人がやってきて兵を貸したのだという。イシュトはタルーを処刑。さらに調べると、その傭兵たちは死人の軍隊らしい。さらなる情報を求めてイシュトはシュクの町に向かったが、そこで突如大群に囲まれた。一方グインはパロ国境近くまで南下し、ナリス側とレムス側両方と会談を持って判断をするつもりだった。さっそくやってきたヴァレリウスと直接話す機会を得、キタイの中原への侵略情報を交換行なった。
このまま行けばグインがレムスと戦うことになりそうなんですけども、正史どおりに話は進むことができるんでしょうか。私はホモ話好きですけども、このシリーズでやられるのはなあ…冒頭のやりとりだって、別に書かなくても構わないことなのに。


●「ファイアボール・ブルース2」桐野夏生[文集文庫]448円(01/08/10) →【bk1】

前作は女子プロ団体を舞台に、火渡抄子という「荒ぶる魂」を持つ女の生き様を付き人の近田の視点から描いたミステリだったのですが、この2冊目はその後の彼女達の生き方を描いた短編集となっています。
前作はミステリとしてはどんな話だったか全く記憶に残ってないんですが、火渡抄子というキャラクターの魂の輝きは忘れられない話でした。今回のは火渡抄子の占めるウェイトは減っているものの、格闘技とはいえショーとして成立させなければいけないプロレスの悲哀なども感じさせる深さがあります。語り部である近田が退場した以上、このシリーズはこれで終わりなのでしょうが、またいつか火渡抄子の物語を読んでみたいものです。


●「人形はライブハウスで推理する」我孫子武丸[講談社ノベルス]780円(01/08/09) →【bk1】

久しぶり!! 本当に何年ぶりでしょうか、の腹話術師探偵シリーズの新作。短編集です。巻末に「いっこく堂」との対談付き。
内気な腹話術師・朝永の操る人形・鞠夫は、ただの腹話術を超えて自由に喋り出したりする、朝永の第二人格(??)。その鞠夫はやんちゃだが、どんな難事件にも鋭い閃きをみせて…という設定を聞くと、「これって『あやつり左近』?」と思った方もいるかもしれせんが、この鞠夫シリーズの方がはるかに先に始まってましたから、たぶんこのシリーズが「左近」のアイデア元になってるんじゃないかと。
ミステリとしては特筆するほどのものではありませんでした。ものすごくじれったい、ほのぼのとした恋愛モノとしてはなかなか楽しめるかも。
このシリーズは文庫本ですでに3冊ででいます。お気軽に楽しめる本としてはオススメ。


●「R.O.D 第四巻」倉田英之[集英社スーパーダッシュ文庫]514円(01/08/09) →【bk1】

アニメも好評の「R.O.D」シリーズ4冊目。紙を武器にして戦う、英国図書館特殊工作きエージマント、大の本好きのメガネ娘ドジっ娘のアクションモノ。
今回は「グーテンベルグペーパー」を巡ってのロンドンを舞台にスペクタルな戦い。本への愛情ネタがあんまり多くなかったのが残念だったかな。
新キャラは中身が悪魔な美少年(実年齢400歳)ですがもうちょっと押しが強くてもよかったかも。


●「クラシック批評こてんぱん」鈴木淳史[洋泉社]720円(01/08/09) →【bk1】

音楽関係も含めたフリーライターの方による、「クラシック」界での批評についておちょくった本。批評の斜めから(?)の楽しみ方の指南本で、クラシックの知識はほとんどなくても楽しめます。
批評というのは、対象を語ることで結局は「自分」を表してしまうこと。文字通り読むだけではなく、細かなニュアンスから裏事情を想像して楽しむ方法。批評方法のテクニックあれこれ。クラシック批評界の閉塞性の話。まあ色々と興味深く読めました。
ただ帯をみて期待していたネットでの批評の話は2ちゃんねるをちょっと書いただけで終わって残念。音楽業界ではタブー視されている(?)「批評家を批評すること」もネットではまだシステム的にフェアに行なうことができると思うんですね。それが実際にどう機能しているかの話とか読んでみたかったです。
あと、第五章の冒頭「日本人はモードが好き」は… なんで「ヘタレテキストサイト」のような浅い考察と強引な結論付けな話が唐突に出てくるんでしょうか。この本自体が「テキストをそのまま読むだけでなく邪推してみろ」と言外に主張していることからすると、「批評家のみなさん、こんなヘタレな作者の書いたことに怒るなよ〜」という逃げのためにかかれた一文なんでしょうか。
読んでて「批評はどうあるべきか」についてもやもやとしたものが残りましたが、この話はとりあえず自分の中で熟成させておこう。いつか形になるといいけど。


●「月蝕の窓 建築探偵桜井京介の事件簿」篠田真由美[講談社ノベルス]1050円(01/08/08) →【bk1】

「建築探偵桜井京介の事件簿」シリーズほぼ1年半ぶりの長編新作。
那須高原にひっそりとたたずむ、呪いの噂がある明治時代の洋館「月映荘」。そこで起こった惨劇から15年、館の調査のために京介は地元の建築家と、その洋館の持ち主…惨劇で唯一生き残った少女と血の繋がらない兄と共に訪れた。館をみて少女は封印された記憶を取り戻す。15年前の惨劇の犯人は、自分の兄だと…それから2年半。館の解体前の調査の警備のために、京介は真冬に月映荘そばのバラック小屋に泊まり込むことになったが…
今回は京介視点のお話。前から仄めかされていた京介の「過去」の話もさわりだけでてきます。
どことなく退廃的な空気が美しい。そのあたりは篠田さんですな。今回はわりと通俗的な要素→幼児時代に虐待されたせいで二重人格、昔の記憶が突然蘇って…←を使っているものの、着地の仕方が見事。(もっともこれも、→最近の心理学あたりの流れを知っていたら予想のつく展開なんですが←)
こういう動機の描かれ方は、個人的には好みだったりします。趣味がよくないのは承知しているんですが。私もそっち側がなんとなくわかる人間ですから。向こうにはいかないけどね。
ただ動機を二重落ちにしなくても、と思いました。あと、京介につけられた傷はちゃんと治るんでしょうか? 折角の美形なのに傷が残ったらもったいない…それはそれで色っぽいかもしれせんが。
このシリーズは最近続々と文庫本化されてます。最初の方はイマイチ、4冊目の「灰色の砦」は佳作、五作目の「原罪の庭」は名作。読むならそこまでは読んでほしいなあ。


●「約束のキス」和泉桂[講談社X文庫ホワイトハート]570円(01/08/06) →【bk1】

不器用なシェフ(受)と華やかさのある証券アナリスト(攻)のボーイズラブ(…というよりリーマンもの?)「キス」シリーズ10冊目です。
愛しているからこそ、傷つけあってしまって。深く愛しているから、恋愛が夢の邪魔になる。そのために一度別れてしまった千冬と吉野。でも嫌いで別れたわけではない二人は…
今回はなかなか切なくてよかったです。
それにしても、吉野さんは前からクサいセリフを吐くお方でしたが、今回はいやあすごかったですねっ。あれを照れずに言えるなんて、それでこそ吉野さん。
まだまだ二人の行く先には苦難の連続が待ってるだろうけども、頑張って乗り越えてほしいなあ。


●「桐原家の人々4 特殊恋愛理論」茅田砂胡[中央公論社C★NOVELS]900円(01/08/04) →【bk1】

「デルフィニア戦記」「スカーレット・ウィザード」などで人気作家になった茅田さんが昔角川ルビー文庫で出した「桐原家の人々」シリーズをC★NOVELSで再出版。最初のレーベルがレーベルなのでごく微量ボーイズラブティストの入ってますが(それを期待して読むとスカされるレベルです)、基本的にはホームコメディ。出てくる女性陣のパワフルさが痛快であります。
私はルビー文庫版を読んだので、去年出されたC★NOVELS版は読んでませんでした。今回の「4」は書き下ろし新作ということで購入。
話自体は、番外編的な話。16年前の「桐原家で一番大変な日々」前後の話を、零を中心に描いてゆきます。コミカルな部分はあるものの、今回はかなりシリアスタッチ。タイトルに入ってる恋愛要素はかなり薄いものの(このシリーズ自体が恋愛モノとはちょっと違う)、「家族とは」「生きるとは」についてのお話で…終盤の方とか結構ボロ泣き。
で、ついC★NOVELS版の「桐原家の人々」の1-3も購入してイッキ読みしてしまいました。ルビー版を読んだのはもう何年も前のことなので記憶があやふやなんですが、全面改稿されたそうでその分今回の方がテンポがよくなっているような気がします。おもしろかった。
4だけ読んでも話はわかりますが、読むなら1巻から。


●「上と外6 みんなの国」恩田陸[冬幻舎文庫]457円(01/08/03) →【bk1】

「上と外」シリーズ、遂に完結。
夏休み、南米G国にいる父親の元にやってきた少年・少女と元妻。楽しいはずの夏休みは、突然始まったG国のクーデターで壊されてしまった。子供達は親と別れ別れとなってジャングルをさ迷うようになってしまったが…というのが一巻あたりのあらすじ。その後には思いもがけない方向に話は広がってゆきます。
最後もドキドキの連続、ジェットコースターのような展開。イッキ読み、おもしろかった!!
終わり方はともかく、理由付けの部分の弱さ(儀式の必要性など)は相変わらず恩田さんだなあとは思いましたが、でも昔に比べたら確実に進歩していますし。どこまで成長してくれるのか、楽しみな作家さんです。
文字が大きいし、1冊ごとには薄いので(30分程度かな)ボリュームに対する割高感はありますが、話はおもしろいので読んで損はないシリーズです。読むならもちろん1冊目の「上と外 (1)素晴らしき休日」から。


●「トリニティ・ブラッド Reborn on the MarsII 熱砂の天使」吉田直[角川スニーカー文庫]533円(01/08/03) →【bk1】

今度は長編「トリニティ・ブラッド Reborn on the Mars 嘆きの星」の続編。ヘルシング(60%)+トライガン(30%)+ラグナロク(10%)ぽい、吸血鬼vs人類(古代文明のロストテクノロジーアリ)のカトリック風世界をバックにしたバトルファンタジー。ちなみに「トリニティ・ブラッド Rage Against the Moons」は長編の3年前を舞台にした連作短編です。
今回は、夏のカルタゴを訪問中のヴァチカンの枢機卿・ミラノ公のところに、吸血鬼の国である真人類帝国の皇帝より少年吸血鬼が使者として派遣されたところから話は始まります。アベルとエステルは会見を実現させるために奔走しますが、ニ勢力を対立させようとする第三の勢力からの妨害がはいり…と。
設定や展開はどこかでみたことあるような…アニメやゲームや先行ライトノベルのつぎはぎという印象を受けますが、わりと筆力ある人だし、まとめ方としては悪くはないかな。読者にウケそうな展開を無理なく織りこんでいるあたりがうまいし。ただエンターティメントに徹するにしては、書き落とし(ペテロのその後は? やはり告発するの?)がいくかあるのがマイナスポイント。
でも今回の話で、謎の核となる部分がほとんど推測がつくようになってしまうんですが…あれはフェイクで真相は多重構造となっているのか、思ったよりもシリーズの長さが短いのか。でも今回の話から分かる部分は、一作目とタイトルからでもある程度想像がつく範囲の話だったのでもうひとつ意外性には欠けたなあ。やはりフェイク?
もう個人的にはトレス萌え〜なんでトレスがでてきたらそれでいいです、はい。今回もカッコよかったし。なぜ彼がカテリーナに忠誠を誓うようになったかのエピソードを読んでみたいものです。
カラーイラストは色使いがイマイチですが、モノクロのはいい感じ。


●「KLAN クラン[I]」田中芳樹[集英社スーパーダッシュ文庫]476円(01/08/01) →【bk1】

現代東京を舞台にした獣人バトルもの。…また新シリーズ?と思ったのですが、6年前に「Jump novel」で連載されたものをまとめた本です。一応一段落はしているけれども、思いっきり序章です。
これ自体はアニメ化を前提とした、キャラ中心のお話だそうで、諸般の事情で今までお蔵入りになっていたとか。で、今後はこの設定で別の人がこのシリーズの続きを書くそうです。一応シメは田中芳樹がやる予定だそうですけども。
設定やストーリー展開は特に際だったものはないですが、やはり手馴れた感じがありますね。ヒロインが頭よくてちょっとキツそうなタイプなんだけどももうひとつ薄っぺらい。男キャラはわりといい感じなんですが。まあ田中芳樹は女性キャラの作り方が下手だからなあ。
新シリーズを作っては先が続かない田中先生のことだから、初期設定だけ作って別の人に話は書いてもらう方がいいかもしれません。●「野望円舞曲」(荻野目悠樹)のように。
それしてもアルスラーンはいつ続きがでるかなあ。


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