02年05月に読んだ本。   ←02年04月分へ 02年06月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「太陽の簒奪者」野尻抱介[早川書房]1500円(02/05/29) →【bk1】

2006年、突然水星から大量の物質が浮かび上がり、やがて太陽を取り巻くリングを形成した。太陽からの日照がさえぎられるため、このままでは地球は寒冷化して滅びてしまう。人類を救うためにリング破壊のミッションが開始されたが…
ハード・SFで、ファーストコンタクトもの。数年前に雑誌で短編として発表されたときに話題になり、その年の星雲賞をとった作品。ずっと読みたかったので、単行本化を楽しみにしていました。
おもしろかったです。知的好奇心が刺激される作品。アイデアとその科学的肉付けはワクワクする楽しさなんですが、物語的肉付けは少しそれに比べて弱いのが残念ですが、アイデア主動のおもしろさを感じさせてくれる作品ですので、ぜひ読んでほしいものです。ハードSFといっても私レベルの知識でも大丈夫ですので、科学系の話にアレルギーがない人なら大丈夫かと。


●「レンズマン・シリーズ2 グレー・レンズマン」E.E.スミス 小隅黎・訳[創元SF文庫]880円(02/05/27) →【bk1】

スペース・オペラの金字塔である、E・E・ドク・スミスの「レンズマン・シリーズ」の新訳の二作目がやっとでました。
銀河を舞台に、宇宙犯罪を取り締まる「銀河パトロール」と中心的存在のレンズマンと、海賊組織ボスコーンの死闘を描いた作品。
私は旧訳で15年ほど前に読んだんですが、記憶が曖昧で、あのパワフルな面白さだけがかすかに記憶に残るばかりでした。
鉱夫に化けて潜入調査をするあたりとか、松果腺刺激だとか断片しか覚えていなかったところ、ちゃんと読むとおもしろいなあ。
内容的に古い部分はありますが、あのスケール感と物語のスピードは今も色褪せていません。
はやく「第二段階レンズマン」もでないかなあ。


●「ヒカルの碁勝利学」石倉昇[集英社インターナショナル刊]1300円(02/05/26) →【bk1】

タイトルは怪しい便乗本のようですが、発売が集英社なのでもちろんオフィシャル。表紙は小畑先生書下ろしの佐為・ヒカル・アキラのカラーイラストです。(残念ながら今回の絵は「どこかでみたことある」構図…)
マンガをその道の専門家が読み解く「勝利学」シリーズの三冊目で、執筆者は「白川七段」のモデル(?)というプロ棋士の石倉八段。彼は東大→大銀行就職とエリートコースを歩みながら、囲碁への情熱を押さえきれずにプロになったという経歴の持ち主です。色々な本を書いてる方だけあって、囲碁を知らない初心者向けにもわかりやすく、しかもその道のプロの深さも感じさせてくれるいい本に仕上がっています。私が「ヒカルの碁」にハマったときに、ちょうど読みたかったのがこういう本だったんです。
「ヒカルの碁」に何気なくでてくる会話…例えば、越智くんの家に初めて指導碁に行ったときの、アキラと越智くんとが検討するときの会話はどういう意味を持っているのか? マンガに登場する棋士たちのタイプ(棋風)はどんなのか? プロ棋士たちは盤面を「絵」のように覚えているらしい…などなど、原作の作品世界の背景についての理解が深まるのではないかと。少なくとも「キャラブック」よりはよほど。(あれはあれで楽しいのですが…)
この本を読むと、ほったさんが物語に息を吹き込むためにどれだけ取材して、その感覚を自分なりに消化してきたのかがよくわかります。ハードカバーゆえにちょっとお値段は高めですが、熱心なファンなら読んで損はない内容だと思います。


●「A君(17)の戦争2 かえらざるとき」豪屋大介[富士見ファンタジア文庫]620円(02/05/22) →【bk1】

「A君(17)の戦争 1.まもるべきもの」の続編。あまりウケそうにないタイプの話だけに続きが出るか心配しましたが、ちゃんと出版されてなにより。
ちんちくりんでイジメられっ子タイプの剛士は、一見気が弱そうで追い詰められると底力を発揮するタイプ。そんな彼が時空を超えて異世界に召還された。人間たちに戦争をしかけられ、滅亡の淵にいる魔界の魔王として…
評価の高い某有名架空戦記作家が別名で書いたという噂もある小説。外側のコーティング剤はアイテムやキャラはいかにも「ライトノベル」的なんですが、一皮向けば「戦争」についての骨太なお話。今回は「戦争」に何より大切な準備、「お金をどうやって調達するか」の話がメインだったりします。戦争はあくまでも「経済行為」であるという話や、情報戦の話もなかなかおもしろかったです。でも「お金儲け」のために戦争をやるのはある意味「健全」な行為なんだなあと思ったり。…「信念」や「思想」「宗教」のために行なわれるものは、損得感情を越えたところで動くので「泥沼」になるから、怖い。
3巻が近日刊行とのことで楽しみです。


●「グイン・サーガ84 劫火」栗本薫[ハヤカワ文庫]540円(02/05/21) →【bk1】

「グイン・サーガ」シリーズ最新刊。なんとなく読むのが遅くなってしまいました。
あらすじ→ナリス軍を出てさ迷っていたリギアは辺境の町でイシュトとスカールの戦いがあったことを聞き、スカールを追いかけてゆく。リンダがマルガに戻ってきて、ナリスと対面。ナリスはリンダにサラミスに行って、グインに味方してくれるよう説得を頼んだ。リンダはナリスが視力を失ってしまったことに気がつき、嘆く。医者の話では過労の蓄積のために視力が極端に落ちているらしい。ナリスはこの戦いに勝ったら自分は退位して、リンダにパロの女王の座についてほしいと頼んだ。翌日、ヴァレリウスはリンダをサラミスに送るために旅立つ。
スカールを密かに探していたリギアはゴーラ軍を見つけ、彼らがマルガに侵略に向うことを知った。マルガに知らせようと焦ったリギアは迷子になってしまう。そこに突然マリウスが現れた。彼はグラチウスの手下に攫われそうになったところをイェライシャに助けられ、ゴーラ軍の動静をずっとうかがっていたのだ。自分のいうことだけだと兄たちには信じてもらえないだろうと思ったマリウスは、リギアにマルガまで同行してもらおうとしたがリギアはマリウスを信じられない。疑いつつも最後には同意して、ふたりはイェライシャの魔術でマルガまで飛んだ。
マルガについたが、マリウスは兄と会うことにしりごみしてしまう。リギアはゴーラ軍のことをナリスに知らせたが、ナリスは落ち延びることに同意せずにマルガに踏みとどまることにした。ナリスはイシュトの豹変には竜王が関わってるのだろうと見当をつけていた。ナリスはヴァレリウスと心話を行ない、ヴァレリウスはリンダをグインに預けてすぐに「閉じた空間」を使って帰ること、自分が帰るまでは毒は使わないでほしいとナリス頼んだ。
その頃マリウスはナリスに会う勇気を持てず、置手紙をしてグインの元に援軍になるよう説得するために旅立った。
マルガにゴーラ軍が攻めてくる。避難した子供以外、マルガ市民も武器を取って戦ったが、強いゴーラ軍には叶わず、あっさりと防衛線は破られ、イシュトはマルガ離宮に足を踏み入れた。ナリスとリンダは生きて捕らえることを厳命して。

ついにイシュトが。…前回の終わりからこうなったかなあ、とは思ってみたものの。
こうなってグインはどう動くんでしょうねぇ。グインとイシュトの対決はあるのか。グインに情報を伝えないままナリスが逝かないだろうとは思うものの…
話が大きく動いているから読みやすいものの、ナリスがますます「姫」化しているのはちょっと。
それにしても今回のあとがきが、また…


●「煙か土か食い物」舞城王太郎[講談社NOVELS]1000円(02/05/18) →【bk1】

「世界は密室でできている。」に魅せられて、同じ作者のデビュー作を読んでみることに。
アメリカ・サンディエゴのERで働く奈津川四郎の元に、彼の母親が連続主婦殴打生き埋め事件の被害者となり、意識不明の重態だという知らせが届いた。日本に戻った四郎は、奈津川家の宿命的な物語に巻きこまれてゆくが…
第19回メフィスト賞受賞作。メフィスト賞受賞作は途中で嫌になって追わなくなったものの、なんだかんだで半分以上は読んでたりしますが、ダメ作品が受賞することもあればこういうとんでもない作品も受賞するという「なんでもあり」なところがあの賞の価値なんでしょうが。
「世界は密室でできている。」では狂気とくだらなさが、青春期特有の閉塞感とほろにがさに結びついて、ある意味さわやかな青春モノになってましたが、デビュー作のこれは空気の抜け道のない部屋で高濃度の悪臭物質がばら撒かれてしまったような、読了感最悪のパンチのききすぎた作品に仕上がっています。…読み終わっても頭がなかなかこっちに帰ってこれなくて、今でもダメージがじわじわと。
悲惨な事件を彩るあまりのくだらなさ、それはある意味では清涼院流水に通じるものがありますが、舞城王太郎の作品では流水作品とは全く逆で、「くだらなさ」が肉体的な負の感情とダイレクトに結びついていて、改行がほとんどないたたみかけるような文体と相俟って独特の世界を作り上げています。それに翻弄されっぱなしでした。特に中盤からは一気読み。
一般的には全くオススメできない作品ではありますが、とんがりすぎたものを求めてる人は、ぜひ。


●「三千世界の鴉を殺し(6)」津守時生[新書舘ウィングスノベル]590円(02/05/15) →【bk1】

「三千世界の鴉を殺し」シリーズ新刊。シリーズ最新作。お笑い軍隊SFもの。美形が沢山でてきて、かなりホモくさい話になってきました。
戦闘後の宴会の夜と次の1日の話なんですが、少し「敵」が見えてきたのと、サラディンが本気になったくらいであとはほとんど話が進んでません。このペースでいけば、完結までどれだけかかるのやら…
寂しいウザキ状態のカジャはキュートですが、これだけ長寿の少数種族、しかも超美形・天才の男ばかりがでてくるとさすがに食傷気味になってきました…
「カワランギ・サーガラ」にしても「喪神の碑」にしても、「萌え」はあっても物語が先行していたのになあ、今は…


●「戦略拠点32098楽園」長谷敏司[角川スニーカー文庫]419円(02/05/14) →【bk1】

第6回角川スニーカー大賞金賞受賞作。
千年以上続く氾銀河同盟と人類連合の戦争。体のほとんどが機械化された氾銀河同盟の戦士・ヴァロアは用途不明の敵の政略拠点の惑星に降下した。多大な犠牲を払い、彼一人がなんとか地上に辿りついたが、夢のような豊かな自然が広がるだけの惑星にいたのは、マリアという少女とガダルバという外見はほとんどロボットの人類連合の制御官だった。ヴァロアはマリアとガダルバとの原始的な共同生活を送るようになるが…
「ロボット」と少女の心の交流を描くおとぎばなしのような物語。新人さんにしてはうまく、きれいにまとまっていてちょっと切ない話に仕上がってはいるんですが… 個人的には新人さんの作品であれば、たとえいびつでも押さえきれない迸る情熱が伝わってくるような作品の方が好みなので、きれいにまとまりすぎてるこの作品には正直物足りないものがあります。
物語の密度が均一過ぎるのも物足りない原因かも。もっと設定を練り込んで濃くするか、逆にもっとスカスカにして読者の想像に任せるか、どっちかにした方がよかったかも。おそらく記憶をリセットされながら永遠に生きる少女と生きて行く切なさというのがメインであって、あの惑星の秘密はそれを成り立たせるための設定に過ぎないんだろうとは思うんですが、あの説明だけではあれだけコストをかけて惑星を製作し維持する意味がないように思えて。幻想として兵士の頭にすり込めばそれで済むような。


●「世界は密室でできている。」舞城王太郎[講談社NOVELS]760円(02/05/12) →【bk1】

前から気になってはいたんですが、見下げ果てた日々の企てでの感想を読んで「これは読まねばっ!!」と思って購入。
隣の涼ちゃんが目の前で屋根から落ちて2年。「僕」は15歳、涼ちゃんの弟で名探偵の「ルンババ」は14歳になった。福島から東京に修学旅行にやってきた「僕」と「ルンババ」は奇妙な密室殺人事件に巻き込まれてしまって…
作者は「煙か土か食い物」で第19回のメフィスト賞を受賞。この作品は講談社ノベルス創刊20周年記念の「密室」をテーマにした書下ろしシリーズのひとつで、「煙か土か食い物か」にでてきた名探偵・ルンババ12の物語。物語は独立しているのでこれだけ読んでも大丈夫。
「世界は密室でできている。」かの「トリック芸者」シリーズに匹敵するようなバカバカしい世界が、地続きにある、リアルな世界。句読点や改行のほとんどないたたみかけるような文章と、理不尽な世界のバカバカしさ、それらが独特の空気をかもし出しています。まさに「密室」としか思えない世界の閉塞感と、子供であることのもどかしさ、それらがうまくミックスされてほろ苦い青春モノにしあがってます。物語を見つめる目の冷静な狂いっぷりが魅力的。
「現在」という生き物の臓物をナイフで切り取ったような物語、200ページ程度と薄い本ですし、興味を持ったらぜひ試してほしいです。ただし、「謎解き」としてのミステリの楽しみは求めない方がいいかと。


●「これで古典がよくわかる」橋本治[ちくま文庫]680円(02/05/11) →【bk1】

本屋で何気なく手にとってみたらおもしろかったので購入。
橋本治の古典の現代語訳ものでは、高校生の頃に「枕草紙」を、あと大学の頃に「窯変源氏物語」を読みました。両方ともおもしろかったです。
「わからない」「訳に立たない」と敬遠されがちの古典を、教養としてみるのではなく、楽しむための指南の本。中国から輸入された漢字からカタカナ、ひらがなが派生してきて、それがどういう過程を経て現代の「漢字かな混じり文」になったかの話がおもしろかったです。ひらがなだけでかかれた、平安時代の女流文学は「マンガ」みたいなものだった話とか。
「徒然草」は教科書で習った範囲のことしか知らなかったんですが、こうやって紹介されている文章を読むと、昔の人の感性も今の日本と地続きのところにあるんだなあというのを実感しました。第19段なんて、現代語訳でそのままWEB日記でありそうな内容ですもの。古典というのは昔の人の立派な業績というわけじゃなくて、喜んだり苦しんだりした等身大の人間の記録なんだなあ、と。


●「吹け、南の風 2.星界の襲撃者」秋山完[朝日ソノラマ文庫]457円(02/05/08) →【bk1】

「懐かしき未来」の新シリーズ「吹け、南の風」の二作目。「ペリペティアの福音」の数年後、あの《連邦》第三息女・ジルーネと、トランクィル廃帝政治体との間に起こる「無邪気な戦争」の話ですが… 話が二作目になってもほとんど進んでません。戦争と経済のシステムとか、トランクィル廃帝政治の発祥と展開とか読んでておもしろかったんですが、私はどちらかというと物語を読みたいので。このペースで刊行されたら、完結するまでどのくらいかかるかなあ…


HOMEへ