02年07月に読んだ本。   ←02年06月分へ 02年08月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「閣下とマのつくトサ日記!?」喬林知[角川ビーンズ文庫]419円(02/07/29)

「明日はマのつく風が吹く!」に続くシリーズ最新作。
平凡な元気少年・有利が水洗便所で流された先はなんちゃってファンタジーな世界で、有利は実はその世界を治める「魔王」だった…という設定から始まるハチャメチャコメディシリーズです。文章のテンポのよさとか結構好きなシリーズでして。
今回は番外編的な短編集。全体的に練りが甘いなあとは思いますが、相変わらずのバカさでよかったです。
世界設定まわりの部分がちらりとでてきますが、うーんちょっとこっちの世界とのつながりや関係性が分かりにくいような…


●「流血女神伝 砂の覇王8」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]476円(02/07/29) →【bk1】

待ってました、「流血女神伝 砂の覇王」シリーズ最新刊。
毎回あらすじ書いちゃうとネタバレになってしまうジェットコースターノベルではありますが、今回はっっ!! うわぁぁぁん、須賀さん、鬼だっ!! まさかカリエちゃんがこういうことになろうとわっ!!
それにしても切ないよなあ。いくら聡明な王が努力しても、いい側近がいても、中まで腐った国を立て直すことはできない。人間として本当にいい人たちであっても、国を背負えば血で血を洗う戦いに追いこまれる。
須賀さんはそういう容赦のない展開を鮮やかに描くところが大きな魅力なんですよね。読者としては登場人物たちが運命に翻弄されるのをはらはらしながら、須賀さんが紡ぐ物語に一喜一憂するのみ、です。私にとってはこのシリーズは読み終わった次の瞬間には「はやく続きを〜」をじたばたしてしまう作品なのです。
このシリーズは架空歴史活劇寄りの異世界ファンタジー。疲弊した大国や、そこを虎視眈々と狙っている周辺国に様々な宗教も絡んで大きなうねりのある物語となっています。キャラ、ストーリー、世界観と三拍子揃った一級のエンターティメント。そして「戦う女の子」な物語。強烈にプッシュします。オススメ。
読むならば「流血女神伝 帝国の娘」から。
さて、ネタバレ感想→ミュカ、切ないぞっ!! ああ、でも本当にいい男になったよなあ…
私は結構サルベーンのファンですが、それでもカリエの最初が彼になるのは納得いかないというか… やっぱり女の子としては、一番最初は好きな人とであってほしいじゃないですか。それがああいう形で…だし、本当に好きな相手がいながら、体がつい「誰でもいいから」求めてしまって自分の思い通りにならないっていうのは辛いだろうなあ。記憶も残っちゃうしね。
「女神」のシステムも少し判明しましたが、カリエちゃんの生い立ちがアレということは、今回の白昼夢もなんらかの予知夢みたいなものなんでしょうか。オル神とシンクロしたり、カリエちゃんはそういう素質はありそうだし。でも、このまま「神」という「運命」と戦う物語になってくれたらいいのになあ。そういうの好きなので。
ドーン兄上もグラーシカも痛々しいよぅ。このままルトヴィアは滅びるしかないんでしょうか。
それにしてもエドはすっかり放置プレイになっちゃったよね… 「砂の覇王」が完結して次のエピソードになったらでてくるとのことなので、それを楽しみにしましょう。


●「ほしのこえ」新海誠原作/大場惑著[MF文庫]580円(02/07/26) →【bk1】

この冬くらいから評判を呼び、春にDVDまで発売されたアニメ「ほしのこえ」。私もDVDを購入してみたんですが、ほぼひとりで、たった1台のPCで、これだけのものを作ってしまったというのに驚嘆しました。物語には穴はたくさんありましたが、世界の「空気」がなかなかよくて。切ない話でした。
その作品のノベライズ版。アニメエンディングの後の後日談や、アニメ本編ではちらりとして出てこなかった世界設定がもう少し詳しく掘り下げられています。ノベライズとしてはデキのいい方に入る本だとは思いますが…
2047年、その頃の世界のエネルギーは火星で遭遇した異生命体・タルシアンの探索に向けられ、地上世界は昔のままから進歩のない状態にあった。田舎の中学に通うミカコとノボルは友達以上恋人未満の淡い関係だったが、ある日ノボルはミカコから国連軍のタルシアン選抜部隊に選ばれたという衝撃的な話を聞いた。国連軍のメンバーに入って地上から離れたミカコは、地上にいるノボルと携帯メールだけで繋がるようになった。そしてミカコはどんどん地球から離れてゆき、携帯メールが届くのに時間が経つようになって…
アニメをみてた人がついツッコミをいれたくなった部分…なぜミカコは制服のままトレーサーに乗っているのか、なぜ年端もいかない少女が選抜されのか、携帯メールで宇宙と地上でやりとりできるのか?…などなどについての答えがアニメよりは詳しくかかれています。うーん、でも個人的にはこのあたりは曖昧なままの方がよかったかも。アニメでは「なんだかよくわかんないけど、そのようにある世界」として描かれていたし、私もそれを受け入れることができましたから。詳しく語られてしまうと逆にもっとつっこみをしたくなります。
それにこうやって物語の骨組みだけを取り出すと「今のライトノベルだよなあ」という印象を受けてしまいました。あのアニメを魅力的にしてた空の色合い、風、坂道、雨のにおい、雪、そういう皮膚感覚が文字になったら薄れてしまったのが残念。そういうのは映像から文字には移しづらいから無理もないですが。
あの、「ずっと一緒にいるのに細い線だけで繋がってる感じ」がある携帯メールゆえの心細さと切なさが小説版ではもうひとつだったのが残念でした。


●「ローゼンクロイツ 4つの変奏曲」志麻友利[角川ビーンズ文庫]457円(02/07/24)

「ローゼンクロイツ」シリーズの新刊は、4つの番外編。
オスカーとセシルの出会い、ピネが生い立ち、アルマンのオスカーへの複雑な思い、そしてオスカーとセシルの甘々な短編。ピネと話とアルマンの話はなかなかよかったです。でもアルマン→オスカーってなんだかホモくさい… (いや、主役カップル自体がアレですが…)
17世紀〜18世紀のヨーロッパを彷彿とさせる架空世界での冒険ロマンス物語。義賊のローゼンクロイツことセシルが、義妹の敵討ちのために性別を偽わって大国の宰相オスカーの元に嫁ぐが、やがてふたりはラブラブに…とボーイズラブのような設定ですがどっちかというと雰囲気は古きよき時代の「少女小説」な作品です。結構続きを楽しみにしてたりするんですが、最近はもうひとつ物足りないかも。もっと華やかでロマンな物語になるといいんだけどな。


●「A君(17)の戦争3 たたかいのさだめ」豪屋大介[富士見ファンタジア文庫]580円(02/07/19) →【bk1】

「A君(17)の戦争」のシリーズ三作目。
ちんちくりんでイジメられっ子タイプの剛士は、一見気が弱そうで追い詰められると底力を発揮するタイプ。そんな彼が時空を超えて異世界に召還された。人間たちに戦争をしかけられ、滅亡の淵にいる魔界の魔王として…
評価の高い某有名架空戦記作家が別名で書いたという噂もある小説。ライトノベルの皮を被ったハードな作品です。
今回はこの世界の「謎」の一部がちらりと見えました。単なる「平凡な少年が異世界に飛ばされて活躍」というようなライトノベルフォーマットに沿った設定だけではないということでしょうか。どういうしかけを用意してくれるのかが楽しみです。
ただ、ちょっとヲタクネタのあたりが滑っているような気がして、気になるなあ…


●「ネット社会の犯罪から身を守るためのセキュリティポリシー導入ガイド」ダニエル・S・ジェイナル 平松徹/坂井順行監修[翔泳社]2400円(02/07/19) →【bk1】

アメリカのコンサルタントの方による、ネット社会で様々な問題や犯罪…詐欺・ストーカー・誹謗中傷・著作権侵害などから身を守るためにどういう考えを持つべきか、豊富な事例を元にした詳しい解説書。個人向けの部分もありますが、どちらかというと会社や学校など、組織としてどうすればいいかの話のウェイトが大きいです。
本書が刊行されたのは2001年6月、原書が刊行されたのは(おそらく)1998年のために一部に古さは感じますが、でもなかなかに示唆に富んだ内容でした。
特に「クライシスコミュニケーション」関連がすばらしい。個人や組織などにおいて自分たちに不利な内容の情報が出まわったときにどういう対処をすればいいのか?という話とか。この分野も組織向けの話ではありますが、個人サイトを持つ人にも勉強になるのではないでしょうか。また「企業」側からみたファンサイトについての話が読めるのも参考になります。もっともアメリカと日本、1998年と今では状況が全然違うので、単純にあてはめることはできませんが。
お値段は高いものの、サイト持ちの人にはオススメです。


●「テキストサイト大全」釜本雪男 くぼうちのぶゆき[ソフトマジック]1300円(02/07/12) →【bk1】

いただきもの。アンケート依頼がありましてそれに答えたのですが、インターネット殺人事件という大好きなサイトのすぐ横に載せてもらって、しかも答えの内容がなんとなく「シンクロニティ」してたのが嬉しかったです。
さて、この本の公式サイトはこちら(作中で出てきたサイトへのリンクもあり)。「テキストサイト」の成り立ちや流れ、そしてキーパーソンへのインタビュー、コラムなどをまとめた本です。
一読した感想は…なんだか「内側」から「内側」に向けて語られているように見えるのが気になりました。世界の内側にいるときには外からは何かわかって何が理解不能なのかがわからないものですし。そういう「通訳」をした上で内側の人にも面白いものを作るのは難しいし、それをしたからといってセールスが伸びるとも思えないから、この本の編集方針の方が正解かも。
以下、今回の本にはあまり関係ない雑感ですが。「何か」伝えたいものがあるとき、どの表現方法をとるか。私の場合は絵が書けないとか、曲を作ったり演奏したりができないとか、自分の字が強烈にヘタだというのもあって「テキスト」を選択していますが、これからブロードバンド時代になるともっと複合的なメディアを一般人でも使うようになるんじゃないかなあ、と個人的には思います。個人でネットラジオやるのも珍しくなくなったように。ただ、情報と知識の蓄積と検索性ではテキストが一番扱いやすいのは確か。
製作ソフトも今は充実しているので、「とりあえず」文章だけのサイトを作るのは簡単だし、「表現」を通して自分を見つめなおす機会を持つのはいいことだと思うので、ちょっとでも興味のある方は「テキストサイト」作成に挑戦してみるのもいいんじゃないでしょうか。ただし、誰かの目に触れることは「何について」「どう語るのか」を(無言のうちに)厳しく問われることにもなりますので、最初は友達などの狭い範囲で公開して、ゆっくりと色々な力をつけていった方がいいんじゃないかなあと思います。
「侍魂」の健さんやちゆちゃんのインタビューもありますので、そのあたり興味ある方はどうぞ。ネットサブカルチャー関係に強い本屋か、ネット書店じゃないと手に入れにくいかもしれません。


●「黄金の拍車」駒崎優[講談社X文庫ホワイトハート]550円(02/07/06) →【bk1】

「足のない獅子」シリーズが騎士編となって帰ってきました。
ストックブリッジの領主となったリチャードだが、処理されてない書類の山に頭を痛めるだけでなく、城内から身元不明の白骨死体もでてきた。さらに人探しにやってきた母子のうちの母親が突然姿を消して…
騎士になってもリチャードはリチャードで、ギルフォードもまんまギルフォードな感じが嬉しかったです。もちろん最愛のジョナサン司祭は「あいかわらず」で素敵でした。
物語自体の展開や処理はスマートではないなあと思いつつも、このまったりとした世界でのどたばた騒動というのは読んでて楽しかったです。
新シリーズの最初なのでこの巻から読んでも問題はありませんが、前シリーズの「足のない獅子」から読んだ方が楽しいと思います。中世イギリスの田舎を舞台にした、ふたりの成年騎士(前シリーズでは騎士見習い)の日常の冒険談。剣はでてきてもちょろっと、魔法はまったくない世界のお話ですが、まったりとした雰囲気で個人的にはとても楽しみにしているシリーズです。


●「GOTH リストカット事件」乙一[角川書店]1500円(02/07/04) →【bk1】

乙一の新刊にして初めての単行本はホラー寄り…というか、「暗黒系」の連作短編集。
雑誌「The Sneaker」に掲載された作品2編に書き下ろし4編が加えられています。
「平凡な高校生」の「僕」には人とズレたところがあった。それは残虐な殺人事件など、普通の人が顔をしかめるような無残なエピソードを好んで求めてしまうところ。冷たい自分の心を普段は笑顔で隠している「僕」にはその趣味を唯一共有できる少女・森野がいた。ある日、森野は偶然連続殺人鬼の手帳を拾った。「僕」と森野はそれを警察に知らせることなく、まだ死体が発見されてない最新の殺人現場に手帳の記述に従って向ってみるが…
今回は基本的に「切ない系」の話ではないですが、こういう暗黒部分も乙一なんだなあ、と。湖の底の汚泥も、澄んだ湖面もあわせてひとつの世界を形作っているというか。
物語は「ミステリ」であることを意識してかいたそうですが、ミステリとしては飛びぬけたものはないような… でも細かいニュアンスや心理描写はいいなあ。個人的には手首だけを収集する犯人と、地面を掘っては埋めるシーンの心理描写が好きです。
今回はライトノベルではなくて一般向けだから挿絵は一切ありませんが、雑誌掲載時の緒方剛志さんのイラストがよかったからなくなったのは残念。緒方さんの描く森野は神秘的だったのになあ。
乙一未読の方であれば、切ない系→「きみにしか聞こえない CALLING YOU」、ホラーで切ない系→「ミステリ・アンソロジーII」の「SEVEN ROOMS」、ホラー→「夏と花火と私の死体」あたりをオススメです。


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