02年09月に読んだ本。   ←02年08月分へ 02年10月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「はじまりの骨の物語」五代ゆう[富士見ファンタジア文庫]580円(02/09/29) →【bk1】

いつからか、北の国・ヨトゥンヘイムから《冬》の軍勢の侵攻が始まり、大地に春が訪れなくなってしまった。女戦士・ゲルダは育ての親にして恋人の魔術師アルムリックと共に、《冬》の討伐に向ったゲルトロッド王の遠征軍に加わっていた。戦いは順調に進んでいたが、アルムリックの裏切りにより討伐軍は壊滅的な打撃を受けた。アルムリックに捨てられ、裏切り者の仲間として追われる身となったゲルダは自分を捨てたアルムリックへの復讐を誓ったが…
北欧神話をベースとした、ハイ・ファンタジー。
第四回ファンタジア長編小説大賞で大賞を受賞した、作者のデビュー作。評判が高い作品でありながら、今普通の本屋でまず見かけることがないこともあって、今まで読んだことがありませんでした。SF大会の会場でゲスト関係の本が売っていまして、そこで購入しました。
今から10年程前に作られた物語です。作者が大学生のときの作品ということもあって、ぎこちなさや青さを感じる部分もありますが、紡ぎ出される物語の美しさがすばらしく、読みながら匂いや風や、凍てつくような冷気まで感じました。
読み終わっても「魂が向こうに行ったまま、帰ってこれない感じ」に。いい物語を読むことができて幸せでした。
さて、次は傑作と名高い「《骨牌使い》の鏡」を読まなきゃいけないですが、買ってあった本をどこにおいたっけ… 引越しでバタバタしたときにどこにいったかわからなくなった本が結構あるので…


●「首断ち六地蔵」霞流一[光文社カッパ・ノベルス]819円(02/09/28) →【bk1】

豪凡寺の六地蔵の首が全て持ち去られてしまった。寺社捜査局の職員・魚間はその事件の調査のためにやってきたが、奇怪な殺人事件に巻き込まれてしまう。それから首が発見されるたびに奇妙な事件が起こり…
蔵の首は6つ、ゆえに6つの連作短編で、さらに最後にはその事件が全て繋がり、隠された事実が浮かび上がる…という由緒正しい(?)形式の本格ミステリ。
とにかく、奇怪な事件が起こったかと思えば、すぐにその解決が何通りも示され、そして最後にどんでん返しと「ミステリわんこそば」状態でせわしないんですが、個人的にはこういうのは大好きです。トリックも、一歩間違えればただのバカになりそうなムチャなものは多かったですが…中には一線越えちゃったものもありましたが…基本的には全盛期の島田荘司的な「バカバカしさ」(ホメ言葉)に留まっているので全然OK。というか、こういうの大好きです。
個人的にはとても楽しめました。10年くらい前の「新本格」が好きだった人にオススメ。


●「星の、バベル 上/下」新城カズマ[ハルキ文庫]上680円/下760円(02/09/25) →【bk1】(上)【bk1】(下)

2001年9月、長らく民族紛争が続いていた西太平洋のメソネシア共和国で、政府とゲリラ(TLF)側の和平が成り立とうとしていた。その仲介に尽力した日本人・高遠は本来「絶命危惧言語」の研究者で、最初は研究のためにメソネシアにやってきたのだった。高遠の元に日本からジャーナリストの萬田が訪ねてきた日、高遠の元にTLFの若きリーダー・チャーリィから不可解な電話がかかってきた。それが全ての始まりだったのだ…
上下巻出揃ったので一気読み。おもしろかったです。あの濃縮された物語のコクが最高。
様々なガジェットや、真相がわかったときの世界が変容するような感じもいいんですが、私には南の島の暑い空気が一番印象に残っています。あとは、民族と言語と文化と歴史とアイデンティティの話には色々と考えさせられました。
ジャンルとしてはSFですが、私のようなヌルいSF読みでも楽しめるようにうまく仕上られています。少しでも興味を持ったら、ぜひぜひ読んでみてください。


●「あなたは虚人と星に舞う」上遠野浩平[徳間デュアル文庫]590円(02/09/21) →【bk1】

「ぼくらは虚空に夜を視る」「わたしは虚夢を月に聴く」に続く、ナイトウォッチシリーズ三作目。
このシリーズって、上遠野浩平の作品の中では一番「とんがった」シリーズですが、三作目もエッジの尖り具合がすばらしく、「信者」としてはとても満足な作品でした。
それ以上の詳しい感想は、ちょっとかけないです。自分が感じた漠然としたいろんなものを、名前をつけてしまえば陳腐なものになって、大切なものがぽろぽろこぼれちゃいそうだから。…といいながら、読んでからこの感想を書くまでに一晩経ってしまったので、あのときの自分を包んでた色彩はもうおぼろげで、目が覚める直前に見ていた夢のような心地がするけれども。
微妙にネタバレ感想→「虚空」は明らかに裏「笑わない」、そして「虚夢」は明かに裏「VSイマジネーター」で、次は裏「パンドラ」になってくれないかなあと期待してましたが、今回の作品は、裏「パンドラ」と言えなくもないかも…と私は思いましたが。どこが、って説明するのは難しいけれども。
でも前向きでカッコいいなあ、キョウは。
今気がつきましたが、248ページにでてきた「〔鉄仮面〕マイロー・スタースクレイパー」って、NOVELS21「少年の時間」での「鉄仮面を巡る論議」のあの人だったんですね。そして、「虚夢」の177ページに出てくるのも彼らですね。「鉄仮面〜」を探し出して読みなおしたら… 切ない… あれは童話として描かれていますが、実際にあんなことがあったあとにひたすら戦い続けてきたのでしょうか…


●「ゴッホ殺人事件 上/下」高橋克彦[講談社]共に1700円(02/09/19) →【bk1】(上)/【bk1】(下)

高橋克彦さんの「写楽殺人事件」「北斎殺人事件」「広重殺人事件」はどれも大好きな作品で、私が浮世絵に興味を持つきっかけとなった作品でした。その中でも名探偵・塔馬双太郎は大好きなキャラで、「歌麿呂殺贋事件」は私の「心のベスト短編集」の上位に位置しています。その塔馬さんが久しぶりに出てくる作品!!ということで楽しみにしてたんですが、ハードカバー2冊組はさすがに高く手を出しにくかったんですが、関西でテオとも絡めたゴッホ展が行なわれるので読んでみようかなあ、と。
ヨーロッパと日本で起こった二人の老人の死を結ぶものは、ナチスが押収した後行方不明となっていた未発見のゴッホ作品のリストだった。その謎を追ううちに、ゴッホの自殺は実は殺人ではなかったのか?という説が浮上し…
おもしろかったです。浮世絵三部作と同じく、現代の殺人と画家の生涯の謎が絡み合って展開する物語で、現代の殺人がらみのところはイマイチですが、文献からゴッホの謎をみつけ、大胆な仮説を展開していくあたりがとにかくおもしろいです。それらが全て絡みあって、ラストの一番最後に明かされる「ゴッホを殺したのは誰か」に結びつくところがすごい。あれはあくまでも小説上での仮説にすぎませんが、もしあれが本当だとしたらあまりに悲しいよなあ…
久しぶりに会えた塔馬さんは年をとったものの、やはり魅力的でした。塔馬さんの活躍する作品、もっと書いてくれないかなあ。
「パンドラケース」とかも読みかえしたくなってきました…


●「ストーンエイジCOP 顔を盗まれた少年」藤崎慎吾[光文社カッパノベルス]848円(02/09/17) →【bk1】

「クリスタルサイレンス」の作者の長編三作目。
2030年代の東京は、ヒートアイランド現象が進んだために亜熱帯の気候になり、町の中に作られた公園に捨てられたペットのワニやヘビが増殖して町中の一部がジャングル化していた。バイオテクノロジーの発達で誰でも気楽に顔や体型が変えられる時代、大手コンビニ「4U」の警備員で民間警察官の滝田はコンビニ強盗を企てた少年の一人から不思議な話を聞いた。少年がゲームの人気キャラに顔を変えた日、少年の元の顔をしたニセモノが家にいた。ニセモノに追い出された少年の謎を追っていくと…
うむむ。設定とか細かく作られているなあと思うんですが、ストーリーの吸引力が弱いというのか、もうひとつ物語に浸れませんでした。キャラも弱い…というか、この人の描く子供は「大人がイメージした子供」になってるのがもうひとつでした。


●「科学と非科学の間」安斎育郎[ちくま文庫]700円(02/09/14) →【bk1】

作者は「超自然現象」を科学的・批判的に究明する「ジャパン・スケプティクス」会長。帯には「超能力からUFO、占いまでバッサリ切り捨て御免!」と書いてありますが、かといって「神様」や「前世」や「魂」を信じている人たちをばっさりと切り捨てるような「夢のない」本ではありません。科学によってえり分けることのできる範囲の「オカルト」について、本当はそれはどうなのか、またそういうものとどういう風に付き合っていけばいいのか?ということを(割合)穏やかに書かれている本でした。
収録されているエピソードはこの世界ではメジャーなものばかりですので、類似の本を読みなれている人には特に収穫はないと思いますが、小中学生くらいのお子様をお持ちの方で、「オカルト」関係の知識に詳しくない方は読んでみた方がいいと思います。子供がオカルトにはまったときにどう対処すべきかについても示唆がありますから。
オカルトの流行の根本原因は社会のひずみですから、簡単に解決するようなものじゃないんですよね… とにかく、自分の考えを「外から」検討するやり方と、それを支える情報を手にいる方法を皆が知って、実際に会得できればいいんですが…


●「虚無を心に蛇と唱えよ」上遠野浩平[電撃hp SPECIAL]980円(02/09/13)

八世紀にも渡って世界の大半を統治し続けてきた大帝国(ゴウク)を支えてきたのは徹底した官僚組織で、皇帝は帝国統治の象徴であるお飾りとしてしか存在できなかった。そんな第32代皇帝・ローティフェルドの唯一の趣味は骨董品コレクションを密かに鑑賞すること。彼の一番のお気に入りは、太古に世界を滅ぼそうとした、美しい女性の姿をした魔獣・エウレーダの封印された巨大な鉄球だった。カミング博士の力でそのエウレーダの封印を解いたのが、大帝国が「虚空に消え行く最期の日」の始まりだった…
雑誌「電撃hp SPECIAL」に上遠野浩平の新作長編書き下ろしが一挙掲載。おそらくいずれ文庫本でも出版されると思いますが、雑誌で読んだ感想をメモ。
ちなみに緒方剛志さんによる「ブギーポップ イラストノベル Girl's Life 彼女の生活」もオールカラー9ページ掲載。元ネタは上遠野さんがネタを書いたようで、これはすっごくいいです。あとは、竹泡対談もついていたり。
さて、「虚無を心に蛇と唱えよ」。上遠野さんの作品の中では一番読みやすいかも。独立した話で、あまり長くないですし。(ひょっとしたら他作品との世界の繋がりはあるかもしれませんが) しかも独特の「上遠野浩平」の匂いが薄いのですし。
世界観がライトノベルでお馴染みの「剣と魔法の世界+ロストテクノロジー」なのですが、それらの要素部分の設定や、キャラ設定・動かし方などが上遠野浩平らしい一ひねり効いていて、「ありがち初期設定」からも展開によってはこういう物語になり得るんですね… さすが。
でも、いい意味で上遠野浩平は「同じことばかり繰りかえし描いている」んだなあ、としみじみ。根っこはどの作品も同じなんですが、何度も語り口を変えて繰り返し物語ることで、ルオーの絵のように「塗った絵の具を限界まで削りながら、何度も塗り重ねることで得られる言いようがない美しい色」が浮かび上がってくるのが好きなのです。


●「イリヤの空 UFOの夏 その3」秋山瑞人[電撃文庫]570円(02/09/06) →【bk1】

「イリヤの空 UFOの夏」シリーズ三作目。
綾波な少女inUFOと普通の少年のボーイ・ミーツ・ガールな物語…なんですが、やはり秋山瑞人でした。もうすぐ、嵐がきます。強烈なGを感じるほどの急転直下。容赦のない過酷な物語こそ、秋山瑞人でしょう!! 浅羽くんのトイレでのシーンの描写がすばらしい。
「無銭飲食列伝」のパワフルなノリが楽しくて、イリヤも少しずつクラスメイトに馴染んできたところで、あの展開!! 肝が冷えました。切ないのを通り越して、痛すぎる…
私は「秋山瑞人信者」といってもいいくらい、秋山さんの作品には心酔しているんですが、正直イリヤの1&2は「描写は楽しいんだけども、物語がタルいなあ」という気持ちでいました。でも、あの幸せ描写があってこそ、これからの展開が際立つんですよね… これからの展開が楽しみです。
でも挿絵の萌え絵に釣られて購入した人で、ハッピーエンド主義の人には辛い展開になるでしょうねぇ…
前からイリヤの感想につい「イリヤはいいからはやくEGファイナルを」と書いていましたが、今回は「とにかくはやくイリヤを完結させて!! で、そのあとにEGファイナルを」という気持ちです。
ネタバレ感想→慌てて1,2を読みかえしてみたんですが、この世界での敵は「北軍」だけではないんですよね? 椎名先生や榎本さんが包まれている「絶望感」は人間相手の戦いではなさそうだし。「時間を稼ぎ続けるための戦争」「1947年から戦争ははじまっていた」という言葉から北軍との戦いは隠れ蓑で、本当の敵は異星からの侵略者なのかなあ、と。ブラックマンタはアメリカ軍が手に入れた宇宙船を元に改造したもので、それで対抗しているとか。
水前寺くんがみた「生き物」とは一体なんなのでしょうか…


●「十二国記 アニメ脚本集2」會川昇[講談社X文庫ホワイトハート]580円(02/09/05) →【bk1】

BS2でアニメ化された分の脚本集「十二国記 アニメ脚本集」第二弾です。今回は【月の影 影の海】8章から終章まで。
私は原作のファンなためにアニメ版はどうしてもアラが見えてしまって、アニメはあまり熱心にみてなかったんですが(何度も録画失敗してたし)、それでもこうやって本来の脚本を読むと「こういう意図でやりたかったんだなあ」というのがよくわかります。ちなみに終章は2バージョン収録されていまして、最初のが様々な理由でボツになって放映されたバージョンの方にも作ったそうですが、最初のバージョンの方がおもしろいですね。でも夕方6時半のアニメとしては問題はありそうですが… でもこの原作を語る上では、そういうあたりは避けて通れないからなあ。
アニメ脚本の方が原作者の小野不由美さんのアドバイスを色々と受けてたようで、そのあたりのやりとりが脚注に書かれていまして、原作ファンにはかなり興味深いものではないかと思います。特に「月の影〜」のラストの方で当初構想にいれていたけれどもうまくかけずに泣く泣くきった部分の話や、舒栄の心理状態についての構想など。なるほど、彼女にそういう気持ちがあったのなら、あの行動には納得がいきますねぇ。
そういう意味で、熱心な原作ファンにはオススメです。


●「ジェスターズ・ギャラクシー1 天のほとりの愚神ども」新城カズマ[富士見ファンダジア文庫]580円(02/09/05) →【bk1】

9万8千年に渡って宇宙に君臨してきた銀河帝国末期、タガのゆるんだ帝国の統治を埋めるべく復活した[鮮血の天使]制度。歴史には非情な暗殺者集団として名の残す彼らの本当の姿は、気がよくて陽気な「誇り高き莫迦ども」だった…
新城カズマの新シリーズ、「星間史劇もの」です。テンポがノリがよく、また世界設定も練りこまれていてなかなかに面白かったです。
今回の話はまだ設定部分は表層しか出てこないので、もっと深いところではどういう風になっているのか、続きに出てくるかなあ。記憶が薄れないうちにガンガン続きが出てくればいいんですが。


●「つばさ」鷲田旌刀[集英社コバルト文庫]514円(02/09/05) →【bk1】

「放課後戦役」の作家の、2001年度ロマン大賞入選作の文庫本化。
地方の名門中学校・天門学院中等学校は町を見下ろすかのように丘の上にそびえたっていた。その学校には、夏休み前の一週間は、学生も教師もすぐに帰宅しなければいけないという不思議な「伝統」があった。その帰宅日二日目の朝、優等生の翔は、校庭の真ん中でクラスメイトの翼が転落死しているのを発見した。翔は前日の夕方に翼に校庭に呼び出されていったのだが、その日の記憶が彼にはなかったのだ… 翔は翼の死の原因を探るうちに、14歳にしか挑戦できない「天門学院七不思議」の存在を知ったが…
最初は学園ホラーかと思ったんですが、着地点は違うところでした。初期設定は結構おもしろいんですが、オチの部分への物語のバイパスが弱いのがちょっと。でもこれが実質のデビュー作だったら仕方ないか。
青春ものとしてのほろ苦さはわりといい感じに描かれています。


●「KLAN IV 野望編」田中芳樹/霜越かほる[集英社スーパーダッシュ文庫]457円(02/09/03) →【bk1】

田中芳樹が昔書きかけで放り出したアニメ化前提企画小説を「双色の瞳 ヘルズガルド戦史」の霜越かほるが続けて小説化した、KLANシリーズ三作目。
初期設定の「獣化する血統同士の争いの物語」やキャラ設定がイマイチなので、霜越さんも物語を動かすのが辛いだろうなあというのが前作の「迷走編」の感想だったりしますが、今回は舞台を海外―インドに移して話に動きがでてきました。持ちなおしてよかったです。
はっきりいってお荷物だったヒロイン(田中さんが好きそうな勝気・美形・知能は高いがまっすぐ過ぎて実践ではあまり役に立たない・色気なし)も、あの困った性格がどういう過去に基いてなったのかが書かれることで深みがでてきましたし。キャラに深みが出てきたのは敵方にも言えることですが。
続きが楽しみになりました。


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