03年12月に読んだ本。   ←03年11月分へ 04年01月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「失はれる物語」乙一[角川書店]1500円(03/12/31) →【bk1】【Amazon】

乙一の最新刊は、スニーカーで出していた泣かせ・癒し系の短篇の再録に、書き下ろし1本を加えた短篇集。楽譜に落ちたしずくを模した、美しく儚い装丁。でも、表面がコーティングされてないから簡単に汚れそうで、本屋のカバーを外すわけにはいかないのがちょっと困ります。
「きみにしか聞こえない CALLING YOU」から「Calling You」、 と「傷」、「失踪HOLIDAY」から「しあわせは小猫のかたち」、「さみしさの周波数」から「失はれる物語」(「失われた物語」改題)と「手を握る泥棒の物語」を収録。全部読んでいて、隅々まで記憶しているお話ばかりでしたが、「Calling You」は読み直してまた涙がでそうになりました。
書き下ろしの「マリアの指」。この話を読むためだけにこの本を購入しましたが、"乙一らしい"、繭の中で暗い夢を紡いでいるような、甘く冷たい死の香りがする美しい話で満足でした。他の"癒し系"の話からすると、この「マリアの指」だけはダークで異質ではありますが、同じ湖の上澄みと汚泥のように、出てきたものは違っていても根っこは同じなのではないかという気がします。
さて、この本を本屋で見つけたとき、複雑な気分になりました。あとがきを読むと乙一自身も再録でハードカバーで出版には微妙な思いがあるようです。
「GOTH リストカット事件」「ZOO」で多方面から注目を集めた乙一が、今回の本を読んで「乙一はこんな切ない話もかけたのか」と"エラいヒト" が驚いて褒めたりしたら、嫌だなあ…と勝手に想像して勝手に決め付けてひがんだ気持ちになっていたのでした。私にとっては昔から知ってる乙一作品なのに、文庫で、ライトノベルだから"文学"方面からすると存在してないことにされそうで。
スニーカー文庫での本も羽住都さんのイラストがやわらかくてきれいで素敵な本なのに。賞レースでエントリーされるのはハードカバーばかり、そこに出版業界のヒエラルキーを感じることがあるので。
あとは、「暗いところで待ち合わせ」で書いた感想が当たってたんだなあ、というのがちょっと嬉しかったです。


●「明日晴れても 毎日晴天!10」菅野彰[キャラ文庫]533円(03/12/25) →【bk1】【Amazon】

人気ボーイズラブシリーズ、「毎日晴天!」シリーズもいよいよ10冊目。今回は"ウオタツ"こと達也の番外編。このシリーズ本来は、東京の下町を舞台にした、帯刀四兄弟+2名の奇妙な同居生活での、ひとつ屋根の下の恋のお話。ホームコメディなノリと、どうしようもない切なさが混在する物語ですが、今回は毛色が違って、切ないを通り越して、なんともやるせないお話でした。
よりによってクリスマスイブに付き合っていた彼女にフラれてしまった達也。家を出て一人暮らしをしていた達也の部屋の前で待っていたのは、同級生の晴だった。不良ぽい達也には一見不釣合いな優等生の晴だったが、晴が男とうまくいかなくなるたびに達也は相談にのるような間柄だった。
晴の今の恋人・昴と偶然知り合った達也は、昴も晴も互いを大切に思っているのにうまくいかないのを知って…

何気なく描かれたエピソードのひとつひとつが眩しくてやるせなくて、ずっと泣きそうな気分で読んでました。菅野さんの描くカップリングは、片方がよりどころのない、幸薄い不器用なタイプというのが多いような気がしますが、今回の昴と晴は二人とも寂しさを抱えていて、お互いに相手を幸せにしたいのに「幸せ」を知らないためにどうすればいいのかわからない…という感じで。「屋上の暇人ども」シリーズの鴫も夏女の二人を思い出しました。でもあの二人には夏女の母親という信頼できる肉親がいるし…
昴と晴が、幸せになればいいなあと思います。あの年で、あの不器用な二人が生きてゆくのは辛いだろうけれども。
あと、達也には今度こそ初恋をふっきって、幸せな恋をしてほしいなあ。


●「マリア様がみてる バラエティギフト」今野緒雪[集英社コバルト文庫]419円(03/12/25) →【bk1】【Amazon】

いよいよアニメ開始、カトリック系お嬢様学校を舞台にした、ほんわかしたソフト百合なお話「マリア様がみてる」シリーズ最新刊。今回はコバルトに掲載された読みきり3本に、書き下ろし1本を加えた番外編的なお話でした。しかもコバルト掲載分のお話は全部読んでたので、読み応えがイマイチ。でも久々登場の前白薔薇さまと、前黄薔薇さまの会話は楽しかったです。
それにしても由乃さんの妹選びはどうなるのやら。祐巳ちゃんと妹候補達(?)の三角関係(??)の行方も気になるところです。


●「スノウ・グッピー」五條瑛[光文社文庫]952円(03/12/17) →【bk1】【Amazon】

信念のためなら汚れるとも厭わない男達の「夢」を描いた、国際謀略小説。
関東電子機器は電子戦機器の通称"グッピー"を開発し、自衛隊で運用テストを行っていた。その開発にかかわった関西電子機器の三津谷は、旧知の宇佐美二佐から緊急連絡を受けて金沢に向かった。"グッピー"を載せた戦闘機が事故で海中に没したという。そして、開発チームの山田が失踪し…
この作品はあくまでもフィクションです。でも、2001年にハードカバーで出版されたこの小説の状況が、現在の国際情勢を彷彿させてしまうだけに、色々と考えてしまいました。
たぶん、私がのほほんと過ごせるのは、様々なことを知らないからだけなのだ、ということを目の前に突きつけられたような気持ちになりました。単に怖いことが嫌いだから、「せんそうはんたい」とばかり言ってられる状況ではないのだ、と。
作者が情報アナリストの元プロだけに、「組織」や情勢の描き方が深く、見事でした。
五條瑛の作品では、「プラチナ・ビーズ」「スリー・アゲーツ 三つの瑪瑙」の鉱物シリーズもおもしろかったです。
それにしても…五條瑛の作品は鉱物シリーズにしても腐女子にとって萌えな作品ですが、今回のはあそこまでとは思いませんでした…以下、腐り話なので、→知的でクールに見えて炎の人な攻×けがれなき美人受←憎めないハイエナ男な話。名前の由来を聞くあたりとか、なんかもー、ボーイズラブ読んでるよりもこっぱずかしいものがありました。ロマンチックすぎです。ヒロのずうずうしさも憎めなくていいですな。


●「空ノ鐘の響く惑星で 1」渡瀬草一郎[電撃文庫]550円(03/12/12) →【bk1】【Amazon】

「パラサイト・ムーン」「陰陽ノ京」の渡瀬草一郎の新シリーズ。渡瀬さんは私にとって「新刊が待ち遠しい」作家さんの一人ということもあって、思いっきり期待して読みましたが、その期待を上回る満足度を得られました。先が知りたくて仕方ない物語を読むと、本当に幸せな気持ちになれます。
その世界の空には「3本の爪跡のあるジャガイモのような」月が浮かび、空からは1年に一度、鐘に似た音が降ってくるという。その世界には貴重な輝石(セレナイト)を産する「御柱(ピラー)」が宙に浮いているという。
アルセイフ王家の第四王子・フェリオは妾腹ということもあって、宮廷では邪険にされていた。フェリオは妙な野心を持っていないために、閑職であるフォルナム神殿の親善大使としてやるべき仕事のない日々に甘んじていた。しかし、その日々は「御柱」を通じて異世界からやっていた少女・リセリナと出会うことで終わりを告げるのだった…

中世ヨーロッパ風の世界にファンタックな要素が加わり、それにSFが加味された物語。シリーズものの一冊目ということで、まだまだ物語は始まったばかりですが、世界設定の妙味、魅力的なキャラクターとワクワクするような予感に満ちているお話でした。今後フェリオは自分の大切な人を守るために、不本意ながらも国取り合戦に参加さぜるをえない自体になりそうで、どう物語が転がってゆくかが楽しみです。
まだ名前ばかりで実際に出てきてないキャラもいますが、個人的には第三王子を早くみてみたいなあ。


●「シックス・ボルトIII」神野オキナ[電撃文庫]670円(03/12/09) →【bk1】【Amazon】

極限状態の中で明日を信じきれないけれども必死で戦う少年・少女たちの物語である、「シックス・ボルト」シリーズ三作目。
「管理者」から地球人に押し付けられた戦争。選ばれた少年少女たちは、異星人である「権利者」から貸与された武器を用いて「権利者」たちの代用存在と一定のルール下で戦わけなればいけない。人類が勝利をおさめれば文明の仲間入りができるが、負けてしまえば滅ぼされてしまうのだ。
万が一亡くなっても"クローン"として蘇ることができる、数の上だけでは誰も死なない戦争。その「絶滅戦争」がついに日本でも始まってしまった。激しい戦いの末、圧倒的な力を持つ「聖痕者(スディグマズ)」として覚醒した由宇。しかし、「聖痕者」ゆえに軍部技術者の実験台として残酷な扱いをされ、精神的に大きなダメージを受けた由宇は基地を抜け出してしまう。そこで彼は死んだはずの、惚れた相手・氷香と出合った。由宇と氷香の二人の逃避行が始まった…

今回は物語世界のバックホーン、極限状態の世界での「世間」について多く描かれていることもあって、かなり物語が分かりやすくなりました。
ギリギリのバランスでなんとか「日常」を保っている世界が、今後どのように動いていくのか、先が楽しみです。
作者が完全に物語をコントロールしきれず、暴れ馬の手綱をとっているような印象があって、それが物語に勢いを生んでいるような感じがしました。
物語は第二ピリオドとなったものの、全然カタがついていないので、あまり間が開かないうちに次のお話を読みたいものです。


●「教科書でおぼえた名詩」文春ネスコ編[文春ネスコ]1400円(03/12/06) →【bk1】【Amazon】

国語の授業で、意味も分からずに暗誦させられた詩・短歌・俳句。その言葉が記憶の片隅に残っていて、ときおり懐かしく口にのせることもあります。でも、全部を覚えていなかったり、作者名は忘れていたりで、あの心に残る言葉を捜そうにも見つけるすべがなかったり。
この本には、中学・高校の教科書に載っていた詩・俳句・短歌・漢詩、全122人の260作品が収録されています。
正直、明治の頃の詩は意味がわからないものが多かったりしましたが、文字を目で追っていると、頭に声が浮かんでくる瞬間があって、懐かしい気持ちになりました。
当時はもうひとつわからなかった言葉の美しさや表現の凄さも、今になってやっと実感できたことも。
手元に置いておいて、たまにぱらぱらとめくっては読みたくなるような本です。
巻末には、記憶に残る一節からも調べることができる、「うろおぼえ索引」付きです。


●「黄金色の祈り」西澤保彦[文春文庫]657円(03/12/05) →【bk1】【Amazon】

1999年にハードカバーで出版された作品の文庫本化。発売当時、結構評判がよかったこともあって、文庫落ちを楽しみに待っていました。
人生というドラマで、主人公としてスポットライトを浴びたい…そう願う「僕」はひょんなことからブラスバンド部で花形パートのトランペットを任せらされることになった。しかし華やかな場での活躍を夢見ていた彼の期待とは裏腹に、周囲の彼への評価は不本意なものばかりだった…
ミステリとは少し違います。青春小説、というもズレているような。とにかく、苦く痛い物語でした。 自己顕示欲だけが強くてカラまわりしている主人公の姿が、私にとって他人事でないだけに、なおさら痛かったです。
主人公の軌跡が作者のプロフィールと重なる部分があり、帯でも「自伝的モチーフ」であることが書かれていることもあって、ついつい主人公の苦悩を作者本人と重ねて読んでしまいました。
西澤作品にかいま見えるフェミニズム的な部分って、ひょっとして昔の自分の悔恨の反動なのかなあ…とか邪推したり。あとは、西澤作品で幾度となく用いられるモチーフ、自己欺瞞による記憶の改ざんの「原点」はこれなのかなあ、とか。
単純に「オススメ作品」とはいえないけれども、私にとっては記憶に残る物語になりそうです。


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