04年02月に読んだ本。   ←04年01月分へ 04年03月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「旧石器遺跡捏造」河合信和[文春新書]680円(04/02/27) →【bk1】【Amazon】

これも旧石器捏造問題関連で。毎日新聞取材班の記事は、「神の手」の幻惑の影響を受けてない「外側」から取材したものですが、この本の作者は科学ジャーナリストで、過去に自著で藤村氏を賞賛したこともあった、「内側」の人。反省の意味も込めて、なぜ20年以上も考古学会やマスメディアが「捏造」に騙され続けていたのか…を掘り下げて描写しています。
これを読んでたときに頭に浮かんだのは、とある有名な国産ミステリ。あの小説を読んだときには、シリーズ一冊目ということもあってか、「こんなトリックあり?」と思ったものですが… 人というのは、信じたいことを信じてしまう弱い生き物なのかもしれません。「目に見えていても脳には見えていない…」「目に見えないはずのものが脳には見えてしまう…」それが20年も続いていたわけで。
あの捏造発覚直前には藤村氏の行動を疑問視する声が身近でもひそかに起こっていたようですし、考古学会の外では捏造の「噂」も流れていたそうです。もし、あそこで決定的な証拠が押さえられていなければ、あまりにも常識ハズレな「発見」を藤村氏は続けてゆき、やがて「いくらなんでも」と公然と非難されるようになっていたのでしょうか。もしそうなっても真実を探し出す作業は難航を強いられていたのは間違いないと思います。
実際の捏造がどういう方法で行われていたのか、それの検証はどうやって行われたかの詳しい解説も興味深かったですが、その嘘であることを暴くための検証作業を黙々と行った人達の気持ちを考えると…20年以上もコツコツと積み上げていった研究成果がガラガラと崩れていった人達はたまらなかったでしょう。特に、捏造は最近のものだけではないかもしれない…という疑惑が膨らんでいく過程では。そういうしっぺ返しも、心ある人からの批判に耳を貸さなかった報いだったのかもしれませんが… それにしても代償は大きすぎました。
それでも20年分の研究が灰になってしまっても、また一歩ずつ研究を積み重ねていこうとしている研究者の歩みも知ることができたのが救いでした。
前に「発掘捏造」の感想でも書きましたが、この件に興味を持ったきっかけは、私の関心が「情報」との付き合い方にあるからです。
「自分の信じたいもの」を裏付ける情報については検証が甘くなっていないか? 見たくないものに目を瞑っていないか? ほめられたいからといって「嘘」をついていないか?
そういうことを考えながら、読んでいました。


●「古代史捏造」毎日新聞旧石器遺跡取材班[新潮文庫]476円(04/02/24) →【bk1】【Amazon】

2000年11月5日の毎日新聞にスクープされた「旧石器発掘ねつ造」事件の取材を過程を描いた「発掘捏造」の続き。藤村氏の関与した遺跡の正当性を検証してゆき、この20年の旧石器遺跡がらみの成果が全て藤村氏の捏造によるものだったと暴かれるまでの過程を追ったレポートです。
既に終わったことではありますが…なんだかもう、やりきれない思いで読みました。少しずつ明らかになってゆく捏造の実態。「なぜ誰も気が付かなかったのか」という非難の中、自らの業績を否定するために検証作業を続ける考古学者たち。読んでるだけでもしんどい作業でした。当事者は相当辛かったとおもいますが、嘘をそのままにするよりも、あの段階ではっきりと捏造が暴かれたのはよかったことだったのかもしれません。
丁寧に作られたレポートですが、毎日新聞の記者達が元は「部外者」ということもあって、なぜマスコミだけではなく専門の考古学者までもが20年間も騙され続けてきたのだろうか、というものについてはもうひとつしっくりこないものがありました。この疑問はこの後読んだ「旧石器遺跡捏造」である程度埋めることができましたが…


●「オーデュボンの祈り」伊坂幸太郎[新潮文庫]629円(04/02/21) →【bk1】【Amazon】

「重力ピエロ」で話題になった作家さん。ずっと興味があったのですが、読んだことのない作家さんのハードカバーには手が出し辛かったので、デビュー作の文庫本化を機会に読んでみることに。
人生に行き詰まり、ヤケになった伊藤はコンビニに包丁を持って押し入った。強盗に失敗した伊藤は、逃げるうちになぜか不思議な島にたどり着いた。その「荻島」は江戸時代の終わり、日本が鎖国を解いた頃に外部との交渉を断絶しており、そのためどこか微妙に外の世界とはズレていた。未来が見える喋るカカシ、殺人を許されている男、嘘しかいわない画家…
どこかのんびりとした空気のある荻島には「大切なものが欠けていてる」という古くからの言い伝えがあった。そして「島の外から来た奴が、欠けているものを置いてゆく」とも。
そして伊藤が島にやってきた次の日に、喋るカカシが殺されてしまった。なぜ未来を見通せるはずのカカシは自分の死を避けることができなかったのだろうか…

読んでる間中、この作品の微妙な、距離のあるリアリティに既視感をおぼえていたのですが、最後の方で、「あ、これは舞台なのだ」とストンと胸に落ちてきました。
目の前でリアルな肉体を持っている役者さんたちは、舞台の上では向こうの、異質な世界の法則に縛られている。小劇団の舞台を見てるような、そんな感じで。
この作品を読んだ限りでは、私はこの作家さんとはあまり波長が合いそうにないなあと思いましたが、それでも終盤の表向きの「奇妙なルール」がはがれていって真実が現れてくるあたりからの展開はおもしろかったです。ラストの終わり方も素敵でした。


●「銀盤カレイドスコープvol.3 ペアプログラム:So shy too-too princess」海原零[集英社スーパーダッシュ文庫]590円(04/02/12) →【bk1】【Amazon】

フィギュアスケートをモチーフにした作品、「銀盤カレイドスコープ」の続編がでました。
オリンピックから2年、順調にキャリアアップしていったタズサは、拠点をアメリカに移して活躍していた。アメリカでも有名人になったタズサは、息抜きに仮面をつけて氷上仮面舞踏会に参加、そこでひとりの青年と出会う。その後、タズサの所属するリングに偶然その青年・オスカーは移籍してきた。オスカーはペアスケーターで、オスカーのパートナーのシンディとタズサは仲良くなるが、ある日シンディは大きな怪我を負ってしまう。1年は活動できないシンディにかわり、タズサはオスカーとペアを組むと言い出すが…
気位の高くて口が悪いタズサというキャラはどうも好きにはなれません。前作ではピートがタズサの毒を和やわらげてくれたのですが… それで、彼女の一人称は読んでて辛かったです。前作はまだしも、今回タズサが受けた「誤解」はどうみても自業自得でしかないですし。
スケートのシーンは相変わらず読んでて気持ちよかったのですが。
もし続きがでるとしたら、→行き場をなくしたタズサがリアのところに転がり込む←という展開を希望。


●「絶叫城殺人事件」有栖川有栖[新潮文庫]590円(04/02/08) →【bk1】【Amazon】

火村&作家アリスシリーズの短編集。屋敷名+「殺人事件」の6つの話が収録されています。
ファンの方には申し訳ないのですが、このシリーズはキャラクターは魅力的ですが、「ペルシャ猫」を読んだときに「ミステリとして、これはいくらなんでも…」となってしまって、そのあとは読んでなかったのでした。今回買ったのは、タイトルと「屋敷モノ」ということに惹かれたので。目次の字面が本当にきれいです。
ベテラン作家らしい味わいのある屋敷の描写に満足でした。特に「月宮殿」が素敵。
今回の6つの話の中では、タイトルにもなっている「絶叫城殺人事件」が一番おもしろかったです。若い女が背中からナイフで刺され、口内に奇妙なメモが残されるという連続殺人事件が起こった。この事件はホラーゲーム「絶叫城」に出てくる殺人鬼「NIGHT PROWLER」を模したものらしいが… 火村とアリスは警察に要請され、事件解決のために動くが…
ホラーゲームを模した「連続殺人事件」といえば、バーチャルと現実の境界だとか、心の闇とか、そういう展開になるかと思いながら読んでいたら、あのラストで描かれた「動機」。背筋が寒くなりました。


●「空ノ鐘の響く惑星で 2」渡瀬草一郎[電撃文庫]570円(04/02/07) →【bk1】【Amazon】

●「空ノ鐘の響く惑星で」のシリーズ二冊目。中世ヨーロッパ風の世界にファンタックな要素が加わり、それにSFが加味された物語。1巻を読んだときの「これはおもしろい物語になりそうだ」という予感は間違ってませんでした。むさぼるように一気読み。本当に、おもしろかったです。
「3本の爪跡のあるジャガイモのような」月から年に一度鐘の音が響き、貴重な輝石(セレナイト)を産する「御柱(ピラー)」が宙に浮いている世界での物語。妾腹のため宮廷で無視されているアルセイフ王家の第四王子・フェリオは、フォルナム神殿で「御柱」を通じて異世界からやっていた少女・リセリナと出会った。馴染みのない世界に戸惑うリセリナをサポートしてゆくフェリオ。そのふたりの穏やかな日々は、リセリナを追ってきた"来訪者"たちによって引き起こされた惨劇を幕を閉じるのだが…
今回はアルセイフ王国をめぐる政治・経済状況、また王国の中での権力バランスの話、そして国王と皇太子の突然の死去に伴う、貴族たちがそれぞれめぐらす陰謀…と今回は"世界の内側"の話に終始していましたが、この部分が私には非常におもしろかったです。今回は新キャラが数多く登場しましたが、国の中枢を支える食えないオヤジたちが魅力的で。そういう部分は、「アルスラーン戦記」が好きだった人にオススメかも。
期待の第三王子はイマイチでしたが、第二王子は「放蕩王族」という事前のインプレッションだけではおさまらない、おもしろそうなキャラになりそうです。でも彼にはあんまり活躍してもらいたくないですが、きっと色々なことをしでかすんだろうなあ… 新キャラ初登場シーンではクラウスが好感度高かったのですが、→これから彼が落ちてゆく闇を思うと… いい人だけに、痛々しいです。← だからこそ、物語の先を読むのが楽しみになるわけですが。
作者のサイトによると3巻は既に脱稿していて、今4巻に取りかかっているとのこと。続きが待ち遠しいです。


●「花嫁の立つ場所 黄金の拍車」駒崎優[講談社ホワイトハート]580円(04/02/03) →【bk1】【Amazon】

「黄金の拍車」シリーズ最新刊。
リチャードの館で新しく雇った書記・オーソンは、なぜか夜毎ふらふら出歩いているという。その頃、無口な店主ピートがしきっていた"赤い鹿"亭に若い女が働きだすという椿事が起こっていた。彼女は行き倒れ同然でピートに拾われたという。実は大きな秘密を抱えていた彼女は、町である男をみかけて気絶してしまい…
いつもながらの、というまったりとした展開を楽しみました。背後では結構血なまぐさい事件が起こっているのに、このまったり感は一体どこからくるのか、不思議になるくらいです。
このシリーズは、中世イギリスの田舎を舞台にした、ふたりの成年騎士(前シリーズでは騎士見習い)の日常の冒険談。剣はでてきてもちょろっと、魔法はまったくない世界のお話ですが、まったりとしていて、息抜き読書にオススメのシリーズです。


●「運命は剣を差し出す1」駒崎優[中央公論社C★NOVELS]900円(04/02/01) →【bk1】【Amazon】

「足のない獅子」シリーズの駒崎優の新シリーズです。あとがきによると3冊で完結する予定だとか。
医者のヴァルベルドは、戦場跡で足の負傷のために置き去りにされた男と、彼を守るようにしていた白い狼に出会って手当てをした。彼は有名な傭兵団《バンダル・アード=ケナード》の隊長ジア・シャーリスだった。患者の夫の逆恨みで追われていたヴェルベルドは、自分の傭兵団を探しにゆくシャーリスを傭兵として雇った。しかし、ヴァルベルドだけでなくシャーリスも何者かに命を狙われていて…
魔法がない中世風世界での物語です。私は駒崎さんの作品の「まったり」感がとても好きなのですが、今回のような主人公たちが追われていてピンチの連続のような作品だと、その「まったり」した感じが物語の勢いだとか緊迫感をそいでしまうようで、もうひとつ楽しめませんでした。キャラは今回は30男でオヤジくさくて素敵なんですが…
ひとつ気になったのは、作中での金銭感覚。傭兵をひとり雇う相場は3日で1オウルだそうですが、一方で300オウルは労働者たちの1年の稼ぎくらいだとか… 後者から1オウル=1万円としたら、傭兵は日給3000円に。傭兵はそんなに儲からない仕事なんですか? それとも1年は100日程度しかない世界なのでしょうか。駒崎さんのことだから、おそらく細かいところまで決めてなかったのかな…


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