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【ヒカルの碁 第134局「楊海(ヤンハオ)の助言」】 01/10/01

第134局「楊海(ヤンハオ)の助言」。朝。伊角は目覚ましの音で起きて、支度をしてでていった。楊海はまだベッドの中だったが、伊角に「あるものはなんでも使っていいぞ」と言う。扉の閉まる音を聞きながら、楊海は伊角の昨晩の碁を思い出していた。楽平と互角くらいの力あるし、センスも悪くない、と。一方、伊角は昨日出ていけといわれなかったことは、認められていたんだろうか?と考え込んでいた。しかし昨日楊海と打った一局は対局というよりは一流騎士による指導碁みたいな感じで…力のある楊海が自分と打ってくれるのはありがたいが、彼は楽平に何かこだわりがあるんだろうか?
そのとき李先生が伊角を見つけ、声をかけてきた。そのとき李と一緒にいたのは、中国ナンバーワン棋士の王星(ワンシン)だ。王星の方から持ちかけられて、伊角は一局打った。
その日の夜。楊海に今日のことを伊角は報告していた。王星の対局のあと、華松力(ホア ソンリィ)も検討に加わってくれた。ふたりとも伊角でさえ知ってるような中国のトップ棋士。そんな人たちがいきなり現れて対局してくれたことに伊角は驚きながらも喜びを隠せなかった。楊海によると、ふたりとも棋院の近くに家を持っていて、よく顔をみせにくるという。楊海は棋院での生活が気に入っているので出ていく気はないようだが。それにしても中国のトップ棋士は若い。それを楊海に告げると、楊海は教えてくれた。中国では30を過ぎたらもう年下に引き摺り下ろされてしまう。体力の衰えが勝負に影響するから。だからその分、十代では頑張らないとダメなのに、楽平は… 「楽平?」と彼の名前がここで出てきたことに伊角は疑問を持ったが、楊平と夜を徹しての対局を持ちかけられ、伊角は喜んでそれを受けたのでうやむやになってしまった。
翌朝は休日。さすがに棋院にも人は少ない。そこにふらりと趙がやってきた。趙は帰ったはずの伊角がまだいることに驚いていたが、伊角はなんとかもう一度趙と対局したいから残ったということを告げようとした。しかし言葉の壁は厚く、うまく伝わらない。それでもなんとか伝えようとしているときに楽平が帰ってきた趙をみつけ抱きついて、遊びに行こうと誘った。趙が伊角のことを楽平に聞くと、楽平は、伊角はここに残って勉強するらしいが弱いからやっても無駄だろう、それより遊びにいこう…と趙に言う。その時、楊海が遊んでばかりの楽平を見つけて咎めた。今度楽平と伊角が対局したら、楽平が負けるだろう、と。言い争いの末、楽平は「もう一度伊角さんに勝てば文句いわないか?」と楊海に問いかけ、楊海は「それじゃ負けたら少しはまじめにやれ」と言い返し、伊角と楽平の対局は一週間後に行なうことに決まった。…全部中国語だったので、もちろん伊角には一体なんの話だったのかさっぱり分かってなかった。
そのあと楊海の部屋で詳しい事情を伊角は聞いた。楊海と楽平は同じ雲南省の出身で、楊海が棋戦で雲南省に行ったときに楽平の両親から楽平のことを尋ねられたらしい。雲南省から中国棋院のある北京はあまりにも遠く二人とも仕事が忙しいから会いにくるわけにはいかないし、電話をかけても楽平は遊びにいってていない。そのため心配している…と。田舎からきた子供には北京は珍しくておもしろいのかもしれないが、楽平がこのままの成績では地方に帰されかねない。同郷の人間としても楊海はそんな楽平が心配なのだ。だからこそ、伊角が楽平に痛い目をあわせてみせれば、楽平も少しはマジメになるのでは…と楊海は期待したのだった。利用しているようで悪かった、と伊角に謝る楊海だったが、伊角は逆に楊海に碁を打ってもらう機会を作った楽平に感謝したいくらいだった。もちろん楊海の期待に答えるためにも伊角は楽平に勝たなければならないが…そう口に出した伊角に、楊海は伊角が楽平に勝てると思ったからこそ勝負を持ちかけたんだと答える。そして、楽平に負けたときの様子を楊海は伊角に聞いた。小さい子に負けたせいで逆に力み過ぎてしまった、と。プロ試験でも人の言葉で心が乱れてミスをしてしまい、それから立ち直るのに時間がかかった、ということを伊角は告白した。それを聞いて楊海はアドバイスする。心のコントロールが伊角は下手で周りを気にしすぎていると。周りは気にせず、碁石だけをみてればよい。それは生まれ持った性格ではなく、「習得できる技術」のひとつにすぎないのだ、と。心の弱さは変えられない性質ではなく、訓練次第で「習得できる技術」なんだと聞かされ、驚く伊角。「それができればキミの大きな武器になるぜ」
中国棋院の棋士の間には楽平と伊角の勝負の噂、楊海が伊角を鍛えていること、伊角が楊海の部屋にいるんじゃないかということが噂されるようになっていた。そして周りの伊角を見る目も変わっていく。伊角と対局した棋士は「弱いなんて言われていたけども、彼は楽平よりも強いんじゃ?」と。また別の棋士は「伊角くんは前よりもビクビクしなくなって、落ちついた」と。また伊角は陳怡(チェンイー)をリーグ戦で破ったらしい。そして…


今週もまたしても「伊角の碁」。でもひたすら伊角のダメさを描いていた前2回に比べると、今回は光明が見える分、読後感はいいかも。
楊海が楽平に抱いていたのは、歯がゆい気持ちだったんですね。プロの世界は甘いものではないから。同郷だから放っておけないっていうのはあるとしても。でも、子供ってそういうものだよねぇ。ああいう風に小さい頃にプロになって、自由に使えるお金ができたら余計楽な方向に流されちゃうでしょう。お金を貰うというのがどういうことなのか、その自覚を持つのって難しいよね。
まあこういう展開になったら、伊角さんが楽平を負かして、楽平も気持ちをいれかえるようになり、伊角も精神的な強さを得てプロ試験に臨むことができる、という感じかなあ。そういえば伊角くんの2か月の修行ですが、李先生にちゃんと伝えているのかどうか。途中でバレて、「30日以上滞在するには改めてビザが必要だから一度日本に戻れ」と言われて中断になるんじゃないかなあ、と思っております。
ただその程度だと順当すぎる展開だから、もう一ひねりあるかなあ?

今回は中国での若手棋士の台頭についての話がでてました。中国が韓国で碁のプロができたのは(日本に比べると)比較的最近のことですが、囲碁愛好者が幅広い分、若手に勢いがあり、国際棋戦では日本が劣勢であると聞いたことがあります。(「ヒカルの碁」本編でも触れられていますが) 日本では若い子供の間で碁が活発じゃないから、新しい血がどんどん入ってきて頑張らないと。…でも「ヒカルの碁」で囲碁に興味を持った子供が、何年か後にはプロになってマンガの世界のような活躍をみせてくれるかも。
さて、「ヒカルの碁」の世界では、日本はまだまだ年寄りが幅を利かせています。でも、緒方さんや倉田さん、そしてアキラのような若手も力を伸ばしてきています。緒方さんのいうところの「新しい波」ですね。ヒカルが立ち直ったら、その「新しい波」と旧勢力との対決や、国際棋戦に話題が移るのかなあ。早くそういう話を読みたいのですが、ヒカルが簡単に立ち直れるとは思えないし…

来週は巻頭カラー&表紙。伊角さんと楽平くんの対局ですが、「一方ヒカルは…!?」という予告からするとヒカルも見れるかな? 来週号は月曜日が祝日ということで土曜日発売です。
あと、コミックス14巻は10月4日発売。表紙がポップな感じでヒカルがかわいいです。この巻に収録されるのは佐為と名人とのネット対局後半戦ですが、なんかもう緒方さんが大活躍…というかほったさんと小畑先生に遊ばれてるような気がしますが、とにかく「緒方祭り」状態で連載当時どれだけ踊られされたことか…いやいや、楽しみであります。
アニメは10月10日よりスタートですが、その前に10月8日午前8時〜8時半に放映前の特番があります。いよいよアニメ開始ですねぇ。楽しみだなあ。


【ヒカルの碁 第135局「伊角vs楽平(レエピン)」】 01/10/06

第135局「伊角vs楽平(レエピン)」。いよいよ楽平と伊角の対局の日。対局室では楽平が時間になってもこない伊角をイライラしながら待っていた。対局室は休みの日のためか、この対局を見にきた数人以外には誰もいなく、がらんとしている。その頃、伊角は楊海の部屋にいた。時間を気にする伊角に、楊海はまだ時間があるから気にするなという。伊角をリラックスさせようとする楊海だが、伊角は相変わらず色々なプレッシャーを背負っている。世話になった楊海のためにも負けるわけにはいかないとか、負けたら中国棋院には金銭的にも気持ち的にもいられなくなるとか。しかし、伊角はそんな自分を外側から突き放してみることができるようになっていたのだった。
そして伊角と楊海は対局室に向かった。遅くて怒ってる楽平を尻目に、伊角に楽しげに話しかける楊海。これはジラして楽平を精神的に揺さぶるための楊海の作戦だったのだ。それを知った伊角は怒って、楽平に謝り、遅れた分の2倍持ち時間を減らして対局を始めた。作戦はバレてしまえば意味がない。逆に伊角を動揺させることになってしまったと頭を抱えた楊海。そこに趙が観戦にやってきた。伊角は楊海の心配とは裏腹に冷静に対局を進めていた。気持ちのコントロールは習得できる技術とはいっても、簡単にモノにすることはできない。しかし伊角はひとつの壁を超えたようだった。
勝負は、伊角のニ目半勝ちだった。
夜、楊海の部屋で伊角と楊海が話をしていたら、楽平がやってきて伊角に対局をせがんだ。あの対局の後も10秒碁を何局もやったが、それでも勝ったり負けたりの状態では楽平は満足できないらしい。あれだけ言っても碁の勉強をしなかった楽平がこれだけ執着をみせることに楊海は満足そうに笑いながら、伊角に「次は趙戦だからな」と告げる。伊角が勝てば趙の持ってる深キョンのストラップを楊海はゲットできて、逆に趙が負ければMDプレイヤーを渡さなければならないとか。すっかり賭けネタにされてる伊角であった。
中国棋院では、李先生が伊角にまとわりつくようにして熱心に碁を打ってる楽平に満足し、伊角に感謝していた。そのとき棋士たちの噂話で、伊角が勉強熱心なこと、そして楊海の部屋で寝泊りしていることもつい知ってしまったが、伊角のためにも聞かなかったことにするつもりだった。
その頃伊角は日本にいる父親に電話し、プロ試験への申し込みをお願いしていた。伊角の目はプロ試験を通り越して、プロになった仲間達を見据えていた。
一方、葉瀬中学校にヒカルの母親がきて、先生に相談していた。ヒカルがプロを辞めるつもりだと…ヒカルは教室の窓からぼんやりと空を眺めているだけだった。


コンビニでジャンプの表紙をみた瞬間、涙腺にどわっとこみ上げてくるものが。紅葉の舞い散る中、盤面を挟んで楽しそうに対局しているヒカルと佐為が一休み。…もうこんな情景はみれないんですよね。佐為がでてくるだけでもアレですが、ヒカルと碁を通じて対話している図ですから余計、胸が痛いです。これで思い出したのが、第38局「千年のワガママ」(5巻収録)。ヒカルがおじいちゃんにねだって碁盤を買ってもらい、初めて佐為と対局したときの話です。連載当時に読んだときには、バタバタして微笑ましい話ではあるものの、エピソードとしての繋がりが乏しく、なんでああいう話がここにくるのかなあ、箸休めかなあ…と思ってたんですが。今にして思うと、これは「千年の答え」〜「さよなら」の佐為消失と対を為すエピソードになっているわけで。…それで久しぶりにこのあたりの話を読み返したら、泣けて仕方ありませんでした。葉瀬中囲碁部もいい感じの時期だったから余計。ヒカルはこの時から何をなくして、そして代わりに何を得たか…とかつい考えちゃって。
でもこの「千年のワガママ」のネームを作ったときには佐為消失はああいう形になるとか考えてたのかなあ、ほったさん…佐為自体を消すつもりはこの時点で既にあったのだと思うのですが。

さて、今回はアニメ化がもうすぐってことで表紙&巻頭カラー。本編の扉絵はハロウィン。ヒカルがドラキュラ、和谷くんが狼男、越智くんがミイラ、伊角さんがフランケンシュタイン。コスプレって感じですごくかわいいです。
これで中国編も一段落かなあ。伊角さんは自信をつけることができてよかったね。最初はバカにされていたものの、結局中国棋院のみなさんにも愛されてるようですし。(ルール違反の滞在をしていることをしりながらも、みんな黙っていたわけですから) 楽平のようなやんちゃな子供は懐くとかわいいだろうなあ。 さて、伊角さんも今年のプロ試験はここまできたら大丈夫でしょうね。…あと門脇さんも受かるだろうし、するとあとひとり。個人的には片桐さんを希望。物語に華を添えるという意味では奈瀬ちゃんが頑張るのが一番いいかもしれないけどなあ。
キャラとしては、この中国編では楊海さんがよかったですな。いい人です。それにしても日本語流暢すぎるのが怪しいんですけども。この中国サイドの話は今後国際棋戦で当然関わってくるだろうし、あと楊海くんがネット好き(らしい?)とのことでsaiがらみの話にもでてくるかなあ、と期待しています。結構好きなキャラなので。
あと、趙くんがなんかもうかわいすぎるんですけども……こういうタイプに弱くて。
あー、でも伊角さんのビザの問題はどうなったんでしょうか…

一方、ヒカル。プロを辞める…ここで辞めたら去年ぎりぎりでプロ試験に落ちてしまった伊角さんの立場は一体。(まあその挫折があったからこそ、さらに強くなることができたとも言えますが…) ヒカルがプロを引退するかもしれないなあ、というのは私の予想の中にありました。この物語の軸となるアキラとヒカルのライバル関係が「すれ違い」と「追いかけっこ」に徹底している以上、ふたりがずっと同じ土俵でいつづけることはできないのではないかと。ということで、私の今後の予想(というより妄想)。ヒカルは一度プロを辞めてしまったものの、佐為を取り戻すための祈りが「碁を辞めること」から「saiを蘇らせること」になって、ネットでsaiの名前で強敵を撃破していくヒカル、とか。でもいくら新生saiが強くても、かつて対局したことのある人は「あれはsaiではない」と思ったり。ヒカルはこの前の旅行でお金を使いきったのでパソコンを買うお金がないから、相変わらずネットカフェからネット碁で、その姿を誰かがみつけて… うーむ。
もうひとつ、ヒカルが「日本で一体プロを辞めてしまったから、今度は中国or韓国でプロになる」展開も考えてみましたが、昔コミックスのおまけで「日本にも外国人のプロ棋士がいるのですが、敢えてこの話では日本の棋士は日本人ということにしました」みたいなことを書いてたから、そういうことはないだろうなあ。
予告によると次回は三谷くんがでてくるそうで、気落ちしたヒカルにカツを入れるのは彼になるのでしょうか? ヒカルは自分の夢を追うために、三谷くんの夢(団体戦で海王に勝つ)を踏みにじったんですよね。ただ三谷くんがそれをヒカルにつきつけた位では、ヒカルが立ち直れるとは思えないし…どうなるんだろ。

コミックスの14巻が発売されました。表紙がポップでキュートなヒカル。背表紙が名人です。ネームの日々はアニメの裏話とか。そっか、小畑先生、緒方さんの髪の色とか決めてなかったんですね。それでなんかコロコロ変わっちゃうわけだ。顔にしても、あまり深く考えずに描いてたりして。それであれだけ出てくるたびに別人になっていたのかも。
それにしても14巻は緒方祭で、連載当事は緒方さんの一挙一動に踊ったものです。メガネ外した姿もすごかったですが、やはり白眉は「オレにも打たせろ」ですか。あのページをみた瞬間、倒れるかと思いました。すばらしい。67ページの振り向いたヒカルの顔は、いやもうすばらしいデキなんですが……コミックスになったら縮小される分、線の微妙なニュアンスも消えてしまうのが残念すぎです。せめてワイド版でみたかった。そのジャンプにしても紙や印刷精度はよくないんだし。このシーン、一度生原稿か、それがダメなら複製原稿でみたいなあ。原画展やってくれないかしら。ジャンプフェスタにちょろっと、じゃなくてもっと大規模に。

アニメはいよいよ10月10日19時27分からテレビ東京系で。10月8日の朝からアニメ化前の特番をやるようですが、大阪では放映ないようです。残念。そうそう、番組には梅沢さん出演の囲碁コーナーがつくとか。梅沢さんかわいいし、楽しみですね。
あとはゲームとかカードとかの関連グッズ。三谷くん、山猫かい。かわいいのう。


【ヒカルの碁 第136局「不戦敗、不戦敗…】 01/10/15

第136局「不戦敗、不戦敗…」。葉瀬中で担任の先生にヒカルの母は相談をしていた。ヒカルの口から直接「プロを辞める」までは聞いていないものの、ヒカルは手合いを休んで学校に行き、性格が変わったかのように塞ぎこんでしまっている。プロになった以上いろいろなことがあるだろうし、とりあえずは様子を見よう…と父親とは相談したが、そうなると心配なのはヒカルの進路だ。進学するかどうかは本人に任せるつもりだったが、プロにならないなら真剣に進学を考えないと…と言い出したヒカル母の言葉に担任が顔を青くするのをみて、ヒカル母はヒカルが進学できるような高校はないのかと驚いた。
ヒカルは相変わらず浮かない顔をしていた。そこに週刊碁を手にしたあかりがやってきて、なぜ不戦敗になっているのか問い詰めた。ヒカルは「もう打たない」というだけであったが、あかりは以前に言われたその言葉はてっきり「ヘボな自分とは打たない」という意味だと思っていただけに戸惑ってしまった。「プロやめるの?」とつめ寄るあかりにヒカルは「やめるかも」と答えたが、そこに現れた三谷はヒカルのその言葉に「勝手だな」と怒りを顕わにする。ヒカルは囲碁部を捨ててプロになったのだから。これからのヒカルのことを心配したあかりに、ヒカルは「受験勉強しなきゃヤバいだろうから教えてよ」とあかりにいうが、それを三谷が「もうじき大会があるからヒマじゃねーよ!」と怒鳴った。「大会か」とぼそりと呟いて顔をそらしたヒカルに、バカにされたと感じたのか三谷は「打倒海王を目指していたオマエは今よりずっと熱かったじゃねーか!」という。その勢いのまま、三谷は「今度の大会にはオレも出るぜ 夏目と小池と3人でもう一度海王と勝負するんだ」と。いきなりの大会参加宣言はあかりにも初耳だったようだ。「うらやましくても二度といれてやらねーよ!!」との言葉を残して、三谷は去っていった。
三谷の言葉から、ヒカルは囲碁を始めたばかりで、打倒海王を掲げて、夢中で碁を打ってた日々を思い出していた。しかし、その熱い記憶は、自分が打ちたいばかりに佐為には全然打たせてやらなかった「身勝手な自分」を思い出さざるを得ない痛い記憶でもあったのだ…
とある工事現場で昼食をとっている作業員の中に椿の姿があった。椿は「週刊碁」を苛立たしく丸め、「どうしたってんだ アイツ!!」と怒っていた。ヒカルの不戦敗に苛立ちを隠しきれない。社長に呼ばれて一局打つためにブツブツ文句をいいながらも出て行く椿。
碁会所「道玄坂」。河合はヒカルが不戦敗を続けていることにすっかり腹を立てていた。碁会所の面々も、不戦敗続きでは応援したくてもできないと不満な様子。唯一碁会所のマスターの奥さんは「もうちょっと気長にみてやれないのかい」というが、常連のひとりは「気長にいっていっても、棋士は休み続けてクビにならないのかい?」と言い出す。しかしそんなことは誰もわからない。河合はクビなんて冗談じゃない、自分は1万円貸したままになってるんだ、踏み倒させやしなぇぜ!!」とビリビリに新聞を破く。
日本棋院の廊下、なんとか勝ち星を拾って安堵しながらポカリスエットを飲む和谷。そこに越智がトイレからでて通りかかった。「負けてトイレにこもってたか?」と和谷に聞かれた越智は、ただの生理現象で自分は連勝を続けていると切り返す。そこでふたりの話題はヒカルのことに。日本棋院の棋士会会長である室田九段がヒカルの家に電話して問い合わせしたが、休んでいる理由をヒカルははっきりとはいわなかったらしい。和谷は「あのバカ」と吐き捨てる。越智は「プロやめるのかな? 塔矢のライバルみたいなこと言われていたのに」と言うと、和谷は「打たなきゃ才能なんてなんのイミもねェぜ」と答えた。
夜。ヒカルは寝付けないまま、昼間の三谷との会話を懐かしく思い出していた。2年前の囲碁部の大会、大将は三谷、副将が筒井、ヒカルは一番ヘボだったから三将だった。あのときのことは今でもはっきりと思い出すことができる… 部屋の片隅にどけられてひっそりと置かれた碁盤に目をやる。ヒカルの頭に浮かぶのは、佐為のことだけであった。つい佐為を探しまわってしまうのが、どこにもいない。いないのだ。


今週もヒカルの表情が切ないですなあ。三谷くんが登場!!と予告でみて、それがヒカル復活のきっかけになるかなあ…と思いましたが、その程度ではヒカルの心の穴を埋めることはできなかった様子。ただ、ヒカルの失意ももう底は打ったんじゃないかという気がします。まわりの人たちは苛立ちながらも、ヒカルのことを心配している。ヒカルも、佐為がいなくなったショックで心がマヒしちゃってるだろうけども、囲碁を打つ楽しさを、情熱をいつかは取り戻せるはず。…ただ、今のヒカルにとっては「打たない」ことは佐為を取り戻すための唯一の祈りですから、ヒカルがもう一度碁石を手にとるには、ヒカルが佐為の消失を受け入れ、それを乗り越えてゆく覚悟を持つようにならないと…それのきっかけになるのは一体誰なんでしょうか?

それにしても、今回のエピソードの見せ方もうまい。キャラ本人がベラベラと告白することなく、何気ない台詞と情景描写で状況や人物の気持ちを伝えることができるんですから。
例えば、久しぶりに登場の椿さん。もう椿さんはストーリー上の役割を終えて退場したかと思ってましたが、この分だとまだ何かの役割はあるかも。そういえば彼も、ヒカルに夢を託して自分は舞台から降りた人間のひとりなんですよね。 プロ試験を受けるためにやむをえなく仕事をやめた椿さんでしたが、プロ試験が終わって再就職先を探したときに、たぶんその建築会社の社長が囲碁好きってことで気に入ってくれてなんとか就職を果たしたんでしょう。この不景気な世の中に30すぎで仕事を見つけるって大変ですもんね。 相変わらず蕎麦が好きなんだなあ…でも力仕事なのに蕎麦で大丈夫なのかしら?
そういう生活のにおいまで伝わるような、小畑先生の描写が見事です。もちろん、ほった先生のネームのレベルの高さもあるから、これだけの表現ができるわけで。
少年マンガ、特に「ジャンプ」では、より「強く」なることが一番の価値となることが多いですし、「ヒカルの碁」でもプロの世界では強さがすべてを支配するサバイバルな世界として描かれています。その一方で、今回のエピソードのように、ヘボでも碁を楽しみ、生活の一部にしている人たちを暖かく描く時もあって。誰もが佐為や名人、アキラやヒカルのような高みに到達することができるわけじゃない。でも、強いことだけがすべてじゃなくて、ヘボでも碁を楽しむ大勢の人たちがいるからこそ、プロの生活が支えられているんですよね。
ほったさんは「囲碁未来」で3コマ漫画を連載していましたが、そこにでてくるのは10級くらいのまだまだ下手な人たち。そんな人たちへの愛情が感じられるいい連載でした。あれ、単行本化してくれないのかなあ。
2年前のヒカルはヘボだったものの、楽しく碁をやっていた。そこからヒカルは今の位置まで来るのに、本当に多くのものを犠牲にして、たくさんの人を踏み越えてきたけれども… なんか、今週の「スピリッツ」に載っていた「昴」(曽田正人)の中のセリフがタイムリーに響きます。「ある一線を越えた人たちは、何ものか(神?)にやらされているような感じがある」というの。(記憶に頼ってますので細部が違ってます、すみません) 本当に才能があるのなら、本人の意志だけで勝手にやめることはできないのですから。 ただヒカルは佐為の人形になるのではなく、自分で碁を打つことを選び取ったこと、だからこそヒカルは打たなければいけないこと…をいつ分かるかなあ。

三谷くん、なんだか成り行きで大会にも出場することになりましたが、この囲碁大会がヒカルが自分を取り戻すきっかけになるんでしょうか? 予告では、「失意のヒカルは葉瀬中囲碁部の面々に会い…!?」となってますが、現囲碁部だけなかなあ。元囲碁部の人にも会いたいけれども。
あと、椿さんもこうやって出てきた以上、なんらかの関わりは持つかもしれないと思うし。それにお金のやりとりにはうるさいほったさんですから、ヒカルは河合さんに1万円を返す日は必ず来るでしょう。はやくその日になるといいのにね。

梅沢由香里さんがNIKKEI NETの囲碁のコーナーで連載をやっているんですが、その第1回 マンガ恐るべしに「ヒカルの碁」関係の話がでています。マンガのおかげで碁を始める子供たちが多くなってきたこと。そして何より驚くべきことは、マンガではヒカルが驚異的なスピードで強くなり、碁を始めて1年半程度でプロになってしまったが、マンガを読んでる子供たちはそれだけ強くなることが「当たり前だ」と思い込んでしまった。その思い込みの力で、どんどん強くなっていく子供もいるんだそうです。
きっと十年後には、「マンガがきっかけで碁を始めた」という若手のプロがたくさんでてきそうですね。


【ヒカルの碁 第137局「最後の大会】 01/10/22

第137局「最後の大会」。葉瀬中にて。放課後、ヒカルは金子に呼びとめられて、ヒマなら三谷の練習相手になってほしいと頼まれる。囲碁部には三谷の練習相手になれるようなレベルのメンバーがいないのだ。ヒカルが言葉を濁しているうちに通りかかった三谷がヒカルの力をいらないと怒鳴ったため、話はそこで終わってしまったが、ヒカルの去りぎわにあかりは「大会は日曜日だからせめて応援にはきてほしい」とだけ伝えた。大会を前にして囲碁部のメンバーは真剣に練習に励んでいる。しかも男子は今回の大会が最初で、最後になるだけに必死だった。そんな仲間を見ながら、あかりもヒカルはかつて燃えたのに…と考えていた。
日曜日。ヒカルは散々迷った末、大会の開かれる海王中に足を踏み入れた。「打たねェんだからオレは 佐為 みているだけだから」と言い訳するようにして。大会はすでに始まっていた。ヒカルの目に入ったのは、まず囲碁部女子の面々だった。手をとめて考えているあかりが気になって、つい近くに寄ってみてみる。ヒカルには一瞬でわかる簡単な死活問題だった。あかりがそれを乗りきったのをみてからヒカルが顔を上げると、三谷たち囲碁部男子が視線の先にいた。真剣に打っている三谷のとなりに、ヒカルは筒井、自分と並んで打っていたかつての大会の幻をみる。自分の力で勝利をものにして、3人で喜びあったこと。しかし、今のヒカルは…「思っちゃいけない 打ちたいと思っちゃいけない」と自分の中の何かを押さえつけようとするだけだった。その時、海王中の囲碁部顧問の尹(ユン)先生がヒカルをみつけ、声をかけようとしたのでヒカルは慌てて逃げ出した。ヒカルは自分の中の囲碁への思いを、封じ込めようとしていた。「オレが打ちたいって思ったりしたら もしオレがまた碁を打ったら 佐為は二度と戻ってこない そんな気がする」
季節はとんで、7月中旬。伊角は2か月ぶり日本に戻っていた。帰路につきながら、売店で購入した「週刊碁」を読んでいた。プロ試験予選まであと少し、今年のプロ試験には学生三冠王の門脇もでてくるらしい。伊角はさらに自分よりも一歩先ゆく仲間達の様子をしろうと紙面をくる。越智は真柴に勝った。和谷は手合いなし。ヒカルは…「不戦負?」


少しずつ、光明が見えてきたかなあという気がした回でした。でも最初に言わせてください。…回想で出てくる筒井さんがなんかニセモノぽいんですけども〜。筒井さんはもっと丸い感じなのに。なんか精悍になっちゃって… コミックスでは書きなおしをしてほしいなあ。あれはちょっと…あと編集さん、金子さんに対して失礼ですよ、あのハシラは。
さて。ヒカルが乗り越えるべき問題がはっきりしました。囲碁のために大切なものを切り捨てなければいけないことを自覚をすること、なんでしょう。佐為が戻ることよりも、囲碁を打つことを選ぶこと。
ヒカルはかつて一度、選択したのです。中学の囲碁大会のとき、アキラの情熱にほだされてアキラと佐為を対局させてあげたけれども、途中から自分で打った時に。それは、ヒカルが佐為の影武者にならずに自分自身の力でアキラを追うことを選択した瞬間でした。そのときから本当の意味でこの物語は「ヒカルの碁」になったのです。
そして、今、ヒカルはまた自分の手で選ばなきゃけいない。佐為が戻るかもしれない一縷の可能性を潰してでも、碁を打ちたいという気持ちを選ぶことを。

ヒカルの神の一手への道は、多くの犠牲の上で成り立っています。三谷くんのささやかな夢はもちろんのこと、プロに夢をかけた伊角さん、椿さん、片桐さん、飯島くんに本田くん、多くの人のプロになるという夢を踏み越えてまずはプロの土俵にあがった。プロになっても、多くの人を乗り越え、叩き落していくのでしょう。
「ライジング・インパクト」でよく使われる「GIFT」という言葉があります。これには「プレゼント」という意味だけではなく、天賦の才という意味もあるそうです。きまぐれな神様からの贈り物。

さて、先ほど書いた、「最初におそらくヒカルが次のステップに進むためには、自分の進む道が誰かの犠牲の上でできていることに自覚的になることではないか」という話に戻ります。
「ジャンプ」に連載されている作品の主人公は、「天才型」であることが多いです。バトル中心のマンガが多い「ジャンプ」では、読者が感情移入をして爽快感を感じるためにはそれがベストな選択なのだと思います。(この逆方向のベクトルに存在しているのが「全然冴えない普通の主人公なのに、女の子にはモテまくる」というタイプの話なんじゃないかと思うのですが…)
で、天才型の主人公の性格はなぜか同じパターンが多いです。ずばり、「天然バカ」。翼も悟空も、花道もルフィもゴンもガウェンも。彼らは総じて自分の才能とそれによって生み出される犠牲に無自覚であります。もちろんそれは悪いことではありません。そのカラリとした部分が彼らの魅力なのでありますから。
「ヒカルの碁」におけるジャンプ的な天才に当てはまるのは佐為でしょう。彼は碁を打つことが楽しくて、それだけがすべてで、他のことにはあまり関心が持てません。たとえば秀策にとりついたときに、ずっと佐為が秀策のかわりに打っていたことを悪いとはあまり思っていなかったことからも伺えます。また自分が碁で容赦なく切り捨てた相手をさほど気遣いません。浮世離れしています。…まあ霊ですから。それは佐為が天然系の天才であっこと、そして碁への執着だけで霊(というより精霊かな?)となって蘇った以上、盤外のことに関心が向かないのも仕方のないことでしょう。(名人との対局のときも相手は「プロをやめる」とまで言ってるのに、プロをやめて生活はどうするんだとかそういう相手の今後のことを全く考慮にいれてなかったあたりが佐為らしいですね。)
さて。物語上、「才能」については佐為の方が華々しく描かれていたことと、ヒカルは壁にぶつかってモタモタしてたからヒカルが実は「ギフト」の持ち主であったことは本人、周りの人だけではなく、読者にすらわかりにくいものでした。特に初期なんて、ヒカルの才能については「記憶力と集中力がすごい」「一見悪手が好手に」「カンはいい」程度にしか描かれてなかったですし。佐為やアキラが圧倒的な力で強い相手を一刀両断する描写はあっても、ヒカルの場合はそういうのなかったですもんねぇ…
よく考えなくても、碁を始めて2年もたたないうちにプロになってしまうというのはとんでもないことなんですが、ヒカルの力の描かれ方ってなんか地味でしたから… 私がやっと「おや?」と思ったのが、ヒカルvs秀英戦の頃という遅さ。そういえばこの一局はある大きな節目でした。この一局が物語上で果たした役目についてはまた深く語りたいのですが(この一局への伏線の収拾のさせ方とこのエピソードのその後の波及の仕方があまりにも見事で)、ヒカルと佐為の関わり方についてだけ。この一局を境にヒカルと佐為の精神的なバランスの傾きが変わっているです。微妙に。ヒカルが無意識上で佐為に感じてたコンプレックス(アキラが元々はヒカルを通して佐為を見てたことに端を発しているのでしょう)を少し払拭することができ、佐為は自分の存在の危うさを自覚してしまう。
そして、決定打が訪れたのは、佐為と名人の対局が終わったあとでした。「千年の答」ですべての意味がひっくり返ってしまう瞬間の鮮やかさ。そして、囲碁の神様の寵愛を一身に受けていたのがヒカルであることが明示された以上、ヒカルの才能と佐為の才能は両立することはできない。だから佐為は消えるしかなかった。佐為を失ってヒカルははじめて犠牲に気がつく。
…今からすると、(一部ではかなり批判されていた)佐為の無邪気な残酷さも、ヒカルのワガママ部分も全部計算した上でほったさんはエピソード組み立てていたんじゃないかと思えて仕方ありません。それとも初期設定がそういう性格のキャラだったからこそ、話が転がってこうなったのか。連載が終了したら、ぜひともほったさんに話を伺ってみたいものです。

予告によると、「ヒカルの家に向かった伊角だが、予想外のヒカルの言葉に…!?」となってます。ほう、伊角さんもからんできますか。でもここまできて伊角さんでヒカルが立ち直るための決定打になるとも思えないけれども… ヒカルは誰かに答えを教えてもらうんじゃなくて自分で気がつかないといけないんだけども、伊角さんがそのきっかけになるのでしょうか。

話戻って。囲碁部の大会の結果はどうだったのでしょうか。三谷くんはともかく、他の面々からすると海王中には勝てないだろうけども、納得ができるような結果になってたらいいのになあ。そういえば小池くん以外はみんな三年生だから、先輩たちが卒業したら彼ひとりなんですけども…大丈夫なんでしょうか。心配。
プロサイドでは、やっと門脇さんが再登場ですね。佐為と対局したことのある彼がどう話に絡んでくるのか楽しみであります。また「週刊碁」の一面が「緒方先勝」ではないですかっ!! 碁聖は塔矢名人でしたから現在空位、おそらく乃木さんという方と緒方さんで争ってたんでしょう。今まで乃木さんの名前はでてきてないし、これはきっと緒方さんが二冠になるのではっ!! …と期待をしています。裏面は「桑原防衛」…とかいてあるように思えるんですがどうでしょ? そうだとすると、時期からしても本因坊戦。あら、倉田さん勝てなかったのね。でも桑原先生は緒方さんの獲物なので、来年ぜひ緒方さんが叩きのめてくれないかなあ。
それと、ユン先生がみたってことは、ヒカルが囲碁大会を覗きにきてたことはアキラにも伝わるでしょうね。それでアキラは動くのでしょうか?

オマケ。棋戦のタイトルは主なもので七つ(もしくは八つ)あります。それぞれのおよその開催時期と「ヒカルの碁」の中でのタイトルホルダーをまとめると、
名人 空位(塔矢行洋) 9-11月
本因坊 桑原仁 5〜7月
棋聖 一柳 1〜3月
十段 緒方精次 3〜4月
碁聖 空位(塔矢行洋) 7〜8月
天元 空位(塔矢行洋) 11〜12月
王座 空位(塔矢行洋) 10〜12月
(富士通杯世界選手権 ? 4〜8月)
となります。

検索していたら日本棋院のオンラインショッピングのページをみつけました。あの「幽玄の間」の掛け軸の複製なども販売されています。でもあの文字を書いたのは文豪・川端康成だったんですね。それは知りませんでした。


【ヒカルの碁 第138局「訪問者」】 01/10/28

第138局「訪問者」。日本に戻ってきた伊角は、和谷に電話をしていつものマクドナルドに呼び出す。久々の再開だったがふたりともそのブランクを感じずに和やかにお喋りしていた。伊角は中国棋院で小さい頃の和谷そっくりの楽平に懐かれたことや、プロの人たちと対局をいくつもこなして自信をつけたことを語った。(ちなみに例の賭は伊角さんが負けて楊海さんはMDを取られたらしい)そして本題に。伊角は帰国してからプロ試験にむけて最後のしこりを除くためにもヒカルと打ちたいと思っていたが、「週刊碁」でヒカルが不戦敗をしていたため病気か何かかと気になっていたのだ。伊角は和谷からヒカルは五月からずっと対局に来ず、理由はわからないがもう打つ気がないらしいと聞いて、ヒカルの家に向かった。
伊角はヒカルの母親にヒカルの部屋に通され、ヒカルが学校から帰ってくるまで待つことになった。伊角は碁盤にほこりが溜まってることで、本当に長いことヒカルが碁を打ってないことを知った。そして、慌てて帰ってきて扉をあわただしく開けて、ヒカルが帰ってきた。ヒカルは伊角をみたとたん、気落ちした顔をした。部屋に人の気配があったから、佐為が帰ってきたのかと思ってしまったのだ… 久しぶりに会った伊角を邪険に追い返すわけにはいかない。しかしヒカルは伊角の話題がヒカルが碁を打ってないことにいって困った。伊角はヒカルが打たなくなった原因は、ライバル視していたアキラが強くなって追いつけなくなったのかと言い出した。ヒカルはアキラは関係ないといいつつも、「追いつけない」とはどういうことかと気になって話を聞く。アキラはすでに三段に昇格、なんと本因坊戦の三次予選決勝まで進んでいた。
日本棋院。荻原雅彦九段と塔矢アキラ三段の本因坊戦三次予選決勝が行なわれていた。対局を観戦していた天野記者が控え室に戻ると、そこでは桑原本因坊が一服していた。桑原はアキラの対局の様子を天野に尋ねる。現在の対局は難しい情勢にあるが、もしアキラが勝てば15歳プロ2年目にして本因坊リーグ入りという快挙になるため、天野は興奮を隠せない。今年の本因坊戦では、倉田が桑原に破れたものの、アキラの台頭も含めて「新しい波」を感じていた。ただ。桑原、元名人、緒方といったトッププロが注目していたヒカルは不戦敗を続けたままである。どうしたのだろう?と訝しがる天野に、桑原は何も心配していないという。「迷いも苦しみも必要じゃ」 ヒカルをプロの世界にひきずりだしたアキラが上を向いているかぎり、ヒカルは自分の向き合うべき相手の前に戻ってくる、と。その言い方ではまるでヒカルがアキラの宿命のライバルではないか、桑原はヒカルを買かぶりすぎでは?…と天野はいうが、桑原は「買かぶりなもんか 塔矢アキラ自信がそう思っておるんじゃから」と言い残して去っていった。
戻って、ヒカルの部屋にて。アキラがもう頂上近くまで来ていることに驚きの色が隠せないヒカル。そんなヒカルをみて、伊角はヒカルが碁への情熱を失ってないことを見抜く。だったらなぜ碁を打たないのかを問い詰める伊角に、ヒカルは碁をやめるのは自分の勝手だといい放つ。伊角は碁盤を持ってきて、ヒカルに一局打とうと詰め寄った。放っておいてほしいというヒカルに、伊角は自分のために打ってほしいと頼む。「進藤 覚えているか 去年のプロ試験 オレとお前の一局」


これで「伊角の碁」がうまく「ヒカルの碁」にリンクしました。数回にわたって丁寧に伊角さんの中国編を書いたのは、まずはこういう形で本筋に繋がったわけです。たぶんこれだけじゃなくて、もっと後で色々と関わってくるとは思いますが。…いや、「伊角の碁」を「展開に行き詰まった挙句、人気とりのために書いたエピソード」だと言ってる人もいたんですよ。「それは違う〜〜〜」といいたくて仕方なかったんですが、まあなんとも… 伊角さんメインのエピソードはヒカル中心の展開からすると異質なものではありましたが、今までの「ヒカルの碁」からすると、一見意味不明な布石が、後で別の手筋で重要な役割を果たしていることに後から気がつくことも多いわけです。そういう立体的な構成を自然に分かりやすくできるのがほったさんのすごさなんですよね。
私の場合は「ほったゆみ信者」というよりは、「ほったさんならこれだけで終わるわけがないっ!! 絶対何か後で関わりがあるんだっ」と思うあたり、「ほったゆみ陰謀論者」かもしれません… 小畑先生については信者状態かなあ。でもあれだけ美しい線をみせられたら… 今回も伊角をみつけたあとの気落ちしたヒカルの表情とか、うまいです。あと表紙もいいねぇ。

それにしても。ヒカルはまだ佐為のことを諦めきれないんだなあ… 部屋に戻るたびに、「ひょっとして」という希望を捨てきれないのかなあ、今でも。
伊角さんが眠りかけていたヒカルの「アキラへの情熱」を刺激してきましたが、うーん、これだけでは正直いってヒカルが立ち直るにはまだ決定打に欠けるかあ、と。だって、その直前にはヒカルの頭を「佐為が戻ってきたかも!!」という望みが一瞬占めてたんですよ。まだこの段階では「佐為が戻ってこなくてもいいから碁を打ちたい」とまでは思えないかと。しかも、あの伊角さんのアテ間違いの一局、ヒカルも納得しきれなくて佐為と一緒に打ちなおしをしたわけで。佐為との思い出に繋がるわけだから… まあヒカルにとっては碁はどんなものでも佐為と結びつく記憶といえばそうでしょうが。予告では「伊角との会話の先に見え始めたヒカルの明日とは!?」となっていますが。
ただ、この伊角さんの押しが決定的な何かに繋げる役割を果たすのではないかと思います。きっと、夜明けは近い。

ヒカルが立ち直るための決定打は…これが過ぎたら、次のポイントは8月のアマ碁世界大会じゃないかと思っています。因島編ででてきた周平さんの他、saiとtoya koyoの対局を観戦した人たちがまた一同に会するのですから。佐為は消え、ヒカルは佐為を失った悲しみを誰とも共有することができない。でも、囲碁を通して、saiのことは多くの人が知っている。そのことをヒカルが知ることで、なんらかの救いにならないかなあ…
もしくは、saiとヒカルが深い関わりを持つことを知り、対局を通じて深い世界を佐為と共有できた名人。あの人なら、バカバカしいとしか思えない「囲碁の霊」の話もそのまま受け入れてくれるんじゃないかと思うんですが。

それにしても桑原先生、おいしいです。生き様がしっかり皺に刻まれてるなあ、という感じがします。遠くから本質を見極める力を持っているような。さらに大きくなるためには苦しみ、迷うことも必要。戻ってくるまでじっと待てばいいだけ。
名人は引退したものの、桑原先生はまだまだ元気なようです。若い者とは貫禄が違うし、なんか緒方さんまだまだ勝てそうにないよ、このままでは…

私が心配していた伊角さんのビザは、中国で書きかえたそうです。やはり後でフォローがありましたか。
それにしても楊海さん、MDプレイヤー残念でしたね〜。楽平くんはすっかり伊角さんに懐いたようですが、お別れのときには寂しがったのかなあ。いずれ国際棋戦で和谷くんと楽平くんの顔合わせとかもありそうですが、楽平くん和谷くんを敵愾心燃やしたりして。だって、伊角さんはなんだかんだいって、自分の向こうにいつも別の人の姿をみてたんですから、それに気がついてたらいい気はしないでしょうとも。はやくそういう話も読みたいなあ。

おまけ。囲碁データベース日刊囲碁822に依田名人が自分の棋譜が「ヒカルの碁」に使われたことについての話が載っています。「ヒカルの碁」で使われている棋譜はストーリーに合わせて日本棋院編集関係者で用意するんだとか。


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