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【ヒカルの碁 第117局「発覚」】 01/05/21

第117局「発覚」。名人が投了を宣言しsaiに負けたこと、そしてsaiの強さに驚く世界中の観戦者たち。アキラが行ってた若手の研究会ではさっそく今回の碁の検討を始め、「saiはアマじゃないよ」などと話しあっていた。アキラはひとり食い入るようにパソコンをみつめながら、父親のことを思っていた。緒方九段は、saiの名前を呟きながら、タバコの箱を握り潰していた。
その日の夜、自宅で佐為に話しかけるヒカル。前に佐為は「打ってる者にしか一番深いところは見えない」って言ってたが、今回の対局ではヒカルは名人と佐為のちょうど真ん中にいたような感じで、ふたり共の考えが分かっていたのだと。そのときになってやっと、ヒカルは名人の「負けたら引退する」という言葉を思い出して青ざめる。
翌日の日曜早朝、ヒカルは名人の入院する病院を訪ねた。なんだか上の空の佐為に文句をいうヒカル。病室には名人と夫人がいたが、名人は夫人に席を外してもらうようにお願いする。ヒカルは今回の名人引退宣言をなんとか冗談としてごまかしてもらおうとするが、それに対しての名人の言葉は「saiはキミか?」という鋭いものだった。慌てて否定するヒカルに、saiとの対局中に感じたものは、新初段戦のときのヒカルと向かいあったときに感じたものと同じだったと伝える名人。だからといって名人はsaiの正体を詮索するつもりはなく、ただsaiとネットでいいからもう一度打ちたい、と。その言葉を聞いて、ヒカルは名人がネットを続けるならそれができるし、saiに打たせて喜ばせてあげることができると考えていた。しかし佐為にとってすでにそれは喜びではない。「…もう遅い! おそらく私には 私にそんな時間は残っていまい! 感じる私の中で 有無を言わさず情容赦なく 止まっていた時の砂が滑り落ち始めた」のだから。
なんとか引退発言を撤回させようと、「もう一度勝ったら引退とかナシにしてくれます?」というヒカルに、名人は落ちついて「一度口にしたことは守る」と、今度の十段戦が終わったら引退する意思を告げたのだった。名人にとっては引退自体は重要なことではない。逆に棋士としてついてまわるつまらない取材などの義務から解放され、碁に専念することができるのだから。「碁が打てなくなるわけじゃないんだ 私にはこの身があるのだから」 タイトル戦でなくても本気の一局は打てる。相手が誰だかわからなくても。…だからこそ、もう一度saiとの対局を、ヒカルにお願いするのだった。
その時、saiの正体を探るために緒方九段も病院にやってきた。病室に入ろうとして、中から聞こえてくる声にノックの手を止める。その声がヒカルのものであることに気がついた緒方九段は、こっそりと病室に入る。そこでヒカルの口から「saiとまた打ちたいんでしょ!? 先生」という言葉を聞いて、ヒカルに「やはりお前がsaiと関係あるんだな!?」と緒方九段は問い詰める。パニックになったヒカルは、慌てて逃げ出すが、緒方は名人の静止を振りきってヒカルを追いかけ、ついに捕まえる。壁際に追い詰め、乱暴に襟首を掴みながら緒方九段は、「おまえがsaiを知ってるならオレにも打たせろっ」と。


うわぁぁぁぁ、緒方さんっ!! …というキャラ萌えな感想は後にして。
表紙に、「佐為の千年は、すべてヒカルのためなのか…。」というアオリ文句がついていますが。一点集約的な話もそれはそれでおもしろいのですが、私的には「誰かのための人生」より「それぞれ自分のための人生」であってほしいので、このアオリ文句はフェイクで、本当の答はさらにもうひとつあった…という二重しかけになってほしい。だって、この答では佐為自身が満足できるものではなさそうですもの。ほったさんは今までの展開でもミスディレクションを行って意外な展開をみせてることもありますから、可能性はあると思うんですが。このまま佐為は早い段階で物語から姿を消しそうですが、その最後のときに佐為が納得できるような本当の答が見つかるといいのだけれども。

冒頭でヒカルが「名人の考えも佐為の考えも分かっていた」と話してますが、ヒカルが佐為の憑坐になって、今回の対局を内側でみてたからこそそういう感覚になったのでしょう。佐為の力を借りることで、今のヒカルではなし得なかった深いところまで到達できたのかもしれません。だからこそ、佐為が「神はこの一局をヒカルにみせるために私に千年の時を永らえさせたのだ」という考えに繋がるのかも。

多視点を俯瞰する面白み。それが今回も際立っていたと思うのです。この「日常」がいつまでも続くと思ってるヒカルと、自分の時の短さに苦しむ左為、そして碁への純粋な思いを語る名人。この三者の感情ベクトルのズレをうまく表現し、神の視点にいる読者が一望できるようにすっきりとまとめてますね。バトル系の少年マンガというのは、感情のベクトルが一方向に同じか対立しているかしかないのが多いんですが、「微妙な気持ちのすれ違い」をうまく表現しているという意味では、「ヒカルの碁」は少女マンガ的な恋愛ものに近いものがあるかも。でもこの枚数であれだけの情報量を描写できるのは、さすがです。

名人は息子とは違って、「謎は謎のまま」受けいれることができる人なんですね。そういうところに人間としての深みを感じますが。で、これでやっと佐為と名人は「両思い」になれましたが、名人の口から「saiと打ちたい」という言葉を聞いても、それは遅すぎた告白なんでしょう。
佐為はいつかは消滅するだろうと思ってたけれども、この分では予想以上に早そうです。早過ぎるよ… 佐為は精神のみの存在ですが、それが今までこの世に留まっていられたのは、「神の一手を打つまで成仏するわけにはいかない」という強烈な思念ゆえだったんでしょうね。だからこそ、自分の存在意義が他人のためにあったという考えは、佐為をこの世に留めておく楔を外してしまうものだったのかもしれません。あの答で「私はヒカルの為に身を尽くそう」と佐為が考えるようにはならないだろうとは思ってましたが、こういう方向にきたとはねぇ。…どうするんですか、佐為とヒカルの葛藤やsai絡みの伏線やら。私は名人引退→本格的ネット参戦を受けて「場所も肩書きも超越した、力だけがすべてのネットバトル」が佐為メインで、「棋士としての戦い」がヒカルメインという二重構造で話が進んでいくかと楽しみにしてたのになあ… このまま佐為が消えるなら、今までの伏線の後始末はすべてヒカルが請け負わなくてはいけなくなります。その上でどういう展開をみせるかというのも、それはそれでおもしろいんですが。

saiと名人の対局は、その前後も含めていつになく物語の進行がゆっくりしていました。それは絵でじっくりみせるということと、佐為の「止まった砂時計」を示していたのかもしれません。だからそのゆったりと進む時間が終わって、いつものペースで話が進行しだすからこそ、「佐為の砂時計が動きはじめた」ことをさらに実感できるような気がします。それにしてもあの佐為の表情は切ないねぇ。胸が締め付けられるような感じがします。あるアンチ佐為な人がsaiと名人の対局の前に「名人はプロの立場をかけているが、佐為には何もリスクがないじゃないか。それはズルすぎる」という感想を書いてたんですね。…ほったさんはその不公平さをわかってたんでしょう。エピソードが一区切りついて、佐為に自らの存在という最も高い代償を支払わせたのですから。

でも本当にいいのかなあ。佐為って実質一番人気じゃないですか。ビジュアル的にも一番の華で、ある意味ではヒロイン代理。ほったさんも大のお気に入り。それを物語から消してしまうなんて… 私は「ヒカルの碁」のこういう「物語至上主義」というのがとても好きなんですが、人気とりという面ではそれでもいいんだろうか…?ということが気になりますねぇ。まあそれを言い出すと、伊角さんがプロ試験に落ちることはなかっただろうし。このマンガってヒカル以外のキャラ萌えファンだと読んでて辛いものがあるんですよ。人気によって出番増えたり、物語の中でよい待遇を受けることはまずないから。このマンガの場合は、キャラが好きで読んでる人よりも、物語が面白いから読んでる人の方が多いとは思うんですが…でも佐為を失うことで人気が落ちはしないかとか不安にはなります。私はたとえ緒方さんが物語からいなくなったりザコ扱いになったとしても、「ヒカルの碁」自体は好きでいると思いますが。今のように、物語が絶妙な構成で成り立っている限りは。ほったさんにはこのまま読者に媚びない展開を続けてほしいものだけれども。

さて、次の展開は「緒方 vs sai」になるのでしょうか? 緒方さんと佐為については、今までもいくつもの伏線が張られています。アマ碁世界選手権での「神か? 悪魔か?」、そしてその後のakira vs saiのネット碁をみたあとの「その練達さは長久の歳月を思わせる」、「現代の定石を覚えた本因坊秀策」での意味深な緒方さんのアップ、若獅子戦でのsaiの悲しい一人芝居。…ここまで揃っていることもあって、「佐為の存在を最初に確認する外部の人は緒方さんだったらいいなあ」と私は思ってました。だからいつかはsaiと緒方さんの対局はあるだろうと思ってましたが、ここでいきなり。…緒方さんにとっては師匠の敵討ちというのもあるのかなあ。で、問題はこの対局が実現するのか否か、そして実現したとして物語上どういう意味を持つか?ということです。佐為が自分の時間が短いことを自覚している以上、ここでこの対局がお流れになると、最後まで実現することはないでしょう。だとしたら今までの伏線が無意味になる。ふたりの対局が実現したとして…緒方さんは明かに名人よりも格下ですから、佐為は当然勝つのは目に見えてます。問題はそれがどういう意味を持つか。個人的には、緒方さんとの対局で佐為が別の「答え」を見つけ、現世に留まれるようになる…のを希望。ああ、こんなご都合主義な展開をほったさんがするとは思えないんですが〜。

オマケ。
発覚。名人の奥様の名前は「明子」なんですね〜。でもこの人って、中学生の子供がいるようには見えないよなあ。若い、若い。明子さんはヒカルのことを知らなかったようですが、まさか息子がストーカーじみたことをしていた相手だとは思うまい。…名人からヒカルのことをアキラには話さないだろうけど、たぶん奥さんの方からアキラに「ヒカルが朝からやってきた」ことだけは伝わって、アキラの「ヒカル=sai」疑惑がまた膨らむのかなあ。
名人は棋士を引退するそうですが、息子がまだ中学生なのに(いくらプロとはいえ)、リタイアしちゃっていいんでしょうか? 今までの稼ぎだけで、あの広そうな家の固定資産税も払えるんでしょうか? …まあ名人クラスの有名人になったら、講演会だけでも十分稼いでいけそうですけどね。いいのかなー、本当に。
もう物語上どうでもよくなってきた十段戦なんですが、「名人が勝利し、十段のタイトルを保持したまま引退」では緒方さんがマヌケすぎます。…でも名人が最後まで打ってくれるので、不戦勝で緒方さんがタイトルホルダーにという最悪の事態だけは避けられそうです。ああ、名人にとって棋士としての最後の一局の相手は緒方さんになるのねっ!! でも勝てないだろうなあ、緒方さん…

さて、キャラ萌えコーナー。緒方ファンとしては、今週も叫ばずにいられなかったです。うぉぉぉ〜〜〜〜。 まず、エレベーターの中でもポーズをつけて立ってる緒方さん!!  怪しい!! 素敵過ぎます〜。 前に「ネームの日々」でほったさんと小畑さんのキャッチポールで「かわいい佐為ちゃんがスクスクと育っていきます」とかいてありましたが、きっと「怪しい緒方さん」もそういう過程を経て育っていったのよ… 一巻にでてきたときにはそんな人じゃなかったのになあ。まあ、そういうところも魅力なんですが。
普段はクールを装ってる人ですから、こうやって感情剥き出しにするような乱暴さを見せられるとドキドキします。特にラストページの構図にはたまらんものがあります。次回予告「執拗に食い下がる緒方に、ヒカルがとった行動は…」うおっ、来週も緒方さんが〜〜。あの8か月に渡る緒方さんの不在の日々、まさかこんなに緒方さんが物語に深く関わったり、女が出たり部屋がでたりするような日が来るとは思ってもいませんでした。でもあまりに幸せが続くと、そのあと反動がありそうで怖いです。




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