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【ヒカルの碁 第136局「不戦敗、不戦敗…】 01/10/15

第136局「不戦敗、不戦敗…」。葉瀬中で担任の先生にヒカルの母は相談をしていた。ヒカルの口から直接「プロを辞める」までは聞いていないものの、ヒカルは手合いを休んで学校に行き、性格が変わったかのように塞ぎこんでしまっている。プロになった以上いろいろなことがあるだろうし、とりあえずは様子を見よう…と父親とは相談したが、そうなると心配なのはヒカルの進路だ。進学するかどうかは本人に任せるつもりだったが、プロにならないなら真剣に進学を考えないと…と言い出したヒカル母の言葉に担任が顔を青くするのをみて、ヒカル母はヒカルが進学できるような高校はないのかと驚いた。
ヒカルは相変わらず浮かない顔をしていた。そこに週刊碁を手にしたあかりがやってきて、なぜ不戦敗になっているのか問い詰めた。ヒカルは「もう打たない」というだけであったが、あかりは以前に言われたその言葉はてっきり「ヘボな自分とは打たない」という意味だと思っていただけに戸惑ってしまった。「プロやめるの?」とつめ寄るあかりにヒカルは「やめるかも」と答えたが、そこに現れた三谷はヒカルのその言葉に「勝手だな」と怒りを顕わにする。ヒカルは囲碁部を捨ててプロになったのだから。これからのヒカルのことを心配したあかりに、ヒカルは「受験勉強しなきゃヤバいだろうから教えてよ」とあかりにいうが、それを三谷が「もうじき大会があるからヒマじゃねーよ!」と怒鳴った。「大会か」とぼそりと呟いて顔をそらしたヒカルに、バカにされたと感じたのか三谷は「打倒海王を目指していたオマエは今よりずっと熱かったじゃねーか!」という。その勢いのまま、三谷は「今度の大会にはオレも出るぜ 夏目と小池と3人でもう一度海王と勝負するんだ」と。いきなりの大会参加宣言はあかりにも初耳だったようだ。「うらやましくても二度といれてやらねーよ!!」との言葉を残して、三谷は去っていった。
三谷の言葉から、ヒカルは囲碁を始めたばかりで、打倒海王を掲げて、夢中で碁を打ってた日々を思い出していた。しかし、その熱い記憶は、自分が打ちたいばかりに佐為には全然打たせてやらなかった「身勝手な自分」を思い出さざるを得ない痛い記憶でもあったのだ…
とある工事現場で昼食をとっている作業員の中に椿の姿があった。椿は「週刊碁」を苛立たしく丸め、「どうしたってんだ アイツ!!」と怒っていた。ヒカルの不戦敗に苛立ちを隠しきれない。社長に呼ばれて一局打つためにブツブツ文句をいいながらも出て行く椿。
碁会所「道玄坂」。河合はヒカルが不戦敗を続けていることにすっかり腹を立てていた。碁会所の面々も、不戦敗続きでは応援したくてもできないと不満な様子。唯一碁会所のマスターの奥さんは「もうちょっと気長にみてやれないのかい」というが、常連のひとりは「気長にいっていっても、棋士は休み続けてクビにならないのかい?」と言い出す。しかしそんなことは誰もわからない。河合はクビなんて冗談じゃない、自分は1万円貸したままになってるんだ、踏み倒させやしなぇぜ!!」とビリビリに新聞を破く。
日本棋院の廊下、なんとか勝ち星を拾って安堵しながらポカリスエットを飲む和谷。そこに越智がトイレからでて通りかかった。「負けてトイレにこもってたか?」と和谷に聞かれた越智は、ただの生理現象で自分は連勝を続けていると切り返す。そこでふたりの話題はヒカルのことに。日本棋院の棋士会会長である室田九段がヒカルの家に電話して問い合わせしたが、休んでいる理由をヒカルははっきりとはいわなかったらしい。和谷は「あのバカ」と吐き捨てる。越智は「プロやめるのかな? 塔矢のライバルみたいなこと言われていたのに」と言うと、和谷は「打たなきゃ才能なんてなんのイミもねェぜ」と答えた。
夜。ヒカルは寝付けないまま、昼間の三谷との会話を懐かしく思い出していた。2年前の囲碁部の大会、大将は三谷、副将が筒井、ヒカルは一番ヘボだったから三将だった。あのときのことは今でもはっきりと思い出すことができる… 部屋の片隅にどけられてひっそりと置かれた碁盤に目をやる。ヒカルの頭に浮かぶのは、佐為のことだけであった。つい佐為を探しまわってしまうのが、どこにもいない。いないのだ。


今週もヒカルの表情が切ないですなあ。三谷くんが登場!!と予告でみて、それがヒカル復活のきっかけになるかなあ…と思いましたが、その程度ではヒカルの心の穴を埋めることはできなかった様子。ただ、ヒカルの失意ももう底は打ったんじゃないかという気がします。まわりの人たちは苛立ちながらも、ヒカルのことを心配している。ヒカルも、佐為がいなくなったショックで心がマヒしちゃってるだろうけども、囲碁を打つ楽しさを、情熱をいつかは取り戻せるはず。…ただ、今のヒカルにとっては「打たない」ことは佐為を取り戻すための唯一の祈りですから、ヒカルがもう一度碁石を手にとるには、ヒカルが佐為の消失を受け入れ、それを乗り越えてゆく覚悟を持つようにならないと…それのきっかけになるのは一体誰なんでしょうか?

それにしても、今回のエピソードの見せ方もうまい。キャラ本人がベラベラと告白することなく、何気ない台詞と情景描写で状況や人物の気持ちを伝えることができるんですから。
例えば、久しぶりに登場の椿さん。もう椿さんはストーリー上の役割を終えて退場したかと思ってましたが、この分だとまだ何かの役割はあるかも。そういえば彼も、ヒカルに夢を託して自分は舞台から降りた人間のひとりなんですよね。 プロ試験を受けるためにやむをえなく仕事をやめた椿さんでしたが、プロ試験が終わって再就職先を探したときに、たぶんその建築会社の社長が囲碁好きってことで気に入ってくれてなんとか就職を果たしたんでしょう。この不景気な世の中に30すぎで仕事を見つけるって大変ですもんね。 相変わらず蕎麦が好きなんだなあ…でも力仕事なのに蕎麦で大丈夫なのかしら?
そういう生活のにおいまで伝わるような、小畑先生の描写が見事です。もちろん、ほった先生のネームのレベルの高さもあるから、これだけの表現ができるわけで。
少年マンガ、特に「ジャンプ」では、より「強く」なることが一番の価値となることが多いですし、「ヒカルの碁」でもプロの世界では強さがすべてを支配するサバイバルな世界として描かれています。その一方で、今回のエピソードのように、ヘボでも碁を楽しみ、生活の一部にしている人たちを暖かく描く時もあって。誰もが佐為や名人、アキラやヒカルのような高みに到達することができるわけじゃない。でも、強いことだけがすべてじゃなくて、ヘボでも碁を楽しむ大勢の人たちがいるからこそ、プロの生活が支えられているんですよね。
ほったさんは「囲碁未来」で3コマ漫画を連載していましたが、そこにでてくるのは10級くらいのまだまだ下手な人たち。そんな人たちへの愛情が感じられるいい連載でした。あれ、単行本化してくれないのかなあ。
2年前のヒカルはヘボだったものの、楽しく碁をやっていた。そこからヒカルは今の位置まで来るのに、本当に多くのものを犠牲にして、たくさんの人を踏み越えてきたけれども… なんか、今週の「スピリッツ」に載っていた「昴」(曽田正人)の中のセリフがタイムリーに響きます。「ある一線を越えた人たちは、何ものか(神?)にやらされているような感じがある」というの。(記憶に頼ってますので細部が違ってます、すみません) 本当に才能があるのなら、本人の意志だけで勝手にやめることはできないのですから。 ただヒカルは佐為の人形になるのではなく、自分で碁を打つことを選び取ったこと、だからこそヒカルは打たなければいけないこと…をいつ分かるかなあ。

三谷くん、なんだか成り行きで大会にも出場することになりましたが、この囲碁大会がヒカルが自分を取り戻すきっかけになるんでしょうか? 予告では、「失意のヒカルは葉瀬中囲碁部の面々に会い…!?」となってますが、現囲碁部だけなかなあ。元囲碁部の人にも会いたいけれども。
あと、椿さんもこうやって出てきた以上、なんらかの関わりは持つかもしれないと思うし。それにお金のやりとりにはうるさいほったさんですから、ヒカルは河合さんに1万円を返す日は必ず来るでしょう。はやくその日になるといいのにね。

梅沢由香里さんがNIKKEI NETの囲碁のコーナーで連載をやっているんですが、その第1回 マンガ恐るべしに「ヒカルの碁」関係の話がでています。マンガのおかげで碁を始める子供たちが多くなってきたこと。そして何より驚くべきことは、マンガではヒカルが驚異的なスピードで強くなり、碁を始めて1年半程度でプロになってしまったが、マンガを読んでる子供たちはそれだけ強くなることが「当たり前だ」と思い込んでしまった。その思い込みの力で、どんどん強くなっていく子供もいるんだそうです。
きっと十年後には、「マンガがきっかけで碁を始めた」という若手のプロがたくさんでてきそうですね。


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