02年10月に読んだ本。 ←02年09月分へ 02年11月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「ロミオとロミオは永遠に」恩田陸[早川書房]1800円(02/10/31) →【bk1】
未来、環境汚染された地球から人間たちは旅立っていった。残ったのは、廃棄物処理の責務を追わされた日本人だけを残して… 科学も経済も発展させることを禁じられ、決まった枠内から一生抜け出せない世界で前途を見出せる唯一の道は「大東京学園」の総代となって卒業することだった。少年達は厳しい「受験戦争」を勝ちぬいて大東京学園に入学したが、そこに待っていたのは…
恩田陸の新刊です。8月に出るはだった本がやっと発売されました。
地雷に囲まれた、巨大学園からの少年達の脱走劇。そこに郷愁としての20世紀末サブカルチャーがたっぷり練りこまれた作品です。
恩田陸の作品はイメージが先行して、後からストーリーやら世界観がついてくることが多いんですが、今回のも好きなものをたっぷりと鍋の中にぶちこんだスープでした。設定やストーリーにはツッコミどころも多数ありますが(「試験」にあそこまでお金や手間がかかることをやらなきゃいけない理由はないような…)、作品に漂う空気は好きで、一気読みでした。SFマガジンでのインタビューでは恩田さんはこの本の手直しをしているときに「摩利と慎吾」が読みたくなって…ということが書かれてましたが、たしかにアレと同じ空気。勢いもあって、おもしろかったです。
ただし、作中に出てくるサブカルは30〜40歳の人には懐かしいものでしょうが、それより若い人には意味不明の可能性が高いかも。元ネタ分からないと「なんじゃ、こりゃ?」になりそう。恩田陸の他の作品では、勢いがあるところが「ドミノ」に近い作品でした。あと、「バカ設定」が受け入れられない人はやめておいた方がいいかも。
●「イリーガル・エイリアン」ロバート・J.ソウヤー/内田昌之訳[ハヤカワ文庫]940円(02/10/29) →【bk1】
大西洋上に異星人の宇宙船が現れた。宇宙船から現れたのは、人間とはかけ離れた姿をした、トソク族というエイリアンだった。人間とエイリアンのファーストコンタクトは順調に行なわ、言葉を交わすことに成功した。トソク族たちの宇宙船は途中で故障したため、修理の間地球にしばらく留まることになった。そしてある日、トソク族たちの宿舎で、地球人の惨殺死体が発見され、トソク族の一人が犯人として逮捕された。そして彼はアメリカで裁判にかけられることになったが、裁判を行なうのであれば弁護士をつけなければいけない。そして選ばれたのは、マイノリティたちのために戦ってきた老弁護士だった…
ネットで評判がいいので購入。読み始めたら止まりませんでした。夢中で一気読み。
ファーストコンタクトもので、かつ法廷ミステリ。激しい法廷でのやり取りの過程で、トソク族の生態や価値観が少しずつ明らかになり、そしてそれがミステリとしてのどんでん返しに繋がるあたりが見事です。SFとしてのおもしろさと、ミステリとしての面白さを高い次元で融合させた傑作。SFとはいってもややこしい世界設定だとか出てこなくて読みやすいので、ミステリ好きな方にはトライしてもらいたいなあ。
●「青葉の頃は終わった」近藤史恵[光文社カッパノベルス]800円(02/10/27) →【bk1】
大学の頃から付き合いが10年続いた仲間の一人、瞳子が死んだ。リゾートホテルから飛び降りたというのだ。浮世離れして近寄り難い「ガラスの天使のような」彼女は何を苦にして死を選んだのか、仲間のうちの誰にもわからなかった。そして死後に彼女からハガキが届く。「私のことを殺さないで」、と…
透明でセンシティブな物語を描く近藤史恵の新作は、ほろ苦い青春ミステリ。柔らくてそれでいてかすかに痛い物語でした。傷みをやり過ごす大人になることを拒否した、少女のお話。
相変わらずとてもきれいで、悲しいお話で、私も登場人物たちと一緒に「彼女」の言動に揺さぶられ続けました。「彼女」のやり口は身勝手すぎると思う一方で、そういう行動を取らざるをえなかった気持ちも分かるんですよね… 私もいい年して、「分別のある大人」としての役割を課せられるのを怖がってる部分がまだありますから。
そういう、大人になりたくない気持ちをどこかに持っている人にはビタースィートな気持ちを味わえるお話ではないでしょうか。
●「熊の場所」舞城王太郎[講談社]1600円(02/10/24) →【bk1】
圧倒的なパワーを持つ奈津川家サーガ・「煙か土か食い物」「暗闇の中で子供」、さわやかな不条理青春ミステリ「世界は密室でできている。」の舞城王太郎最新作はハードカバーの短編集です。
雑誌「群像」に掲載された「熊の場所」(第15回三島由紀夫賞候補作)、同じく「群像」掲載作品の「バット男」、そして今回書き下ろしの「ピコーン!」の三つの短編が収録。
帯に「何が飛び出すか誰にもわからない最強の純文学!」で、表紙は鮮やかなイエロー、愛らしい熊をあしらった、表紙がふかふかしている本です。ふかふか。
わざわざ純文学と銘打たれているだけあってどんなのだろ?と身構えてたんですが、いつもの舞城王太郎でした。
偶然、同級生の鞄の中に切り取られた猫のシッポをみつけた小学生の物語「熊の場所」が完成度は一番高いのではないかと思いますが、逆にキレイにまとまりすぎて物足りない部分も。そういう意味では「ピコーン!」が一番勢いがあってよかったです。
でも「煙か土か食い物」「暗闇の中で子供」のエネルギーの奔流のような物語に比較すると、物足りない部分があるのは確か。長編はあのテンションであれだけのボリュームがありますから。
ちなみにこの本の一作目と三作目の舞台はあの西暁町。二作目のキャラも繋がりはある様子。
舞城王太郎の熱心なファンは当然購入しているでしょうが、舞城王太郎という作家が気になっているけれども分厚い本には手を出しかねている人にはこの本からはいるのもいいかもしれません。なんたってふかふかだし。
●「鵺姫異聞」岩本隆雄[朝日ソノラマ文庫]600円(02/10/22) →【bk1】
アニメ化も決まった「星虫」シリーズの最新番外編、2年前に出た「鵺姫真話」の裏になる話です。
私はこの人の作品とは波長が合わないんですが、今回は特にそうでした。「鵺姫真話」をおぼろげにしか覚えていないというのも辛かったし、何より設定の壮大さに比べてそれを支える世界観の構築なりの弱さが読んでて辛かったです。あんまり全能すぎるキャラも、なあ…
●「囲碁の力」石井妙子[洋泉社]720円(02/10/09) →【bk1】
棋士の方が書いた本ではなく、観戦記者が書いた本です。囲碁の生い立ち・古典や歴史に関わるエピソード・発展の歴史などを広く浅くまとめた本です。
歴史的な話だけではなく、わりと近年の囲碁界のドロドロした部分についてもさらりと言及されているので、「なぜ日本棋院と関西棋院という別組織があるのか?」など、「ヒカルの碁」を読んで疑問に思ったことの答えも少しわかったりしました。軽い囲碁エッセイに興味があるなら、どうぞ。
●「情報デザイン入門 インターネット時代の表現術」渡辺保史[平凡社新書]720円(02/10/08) →【bk1】
1年ほど前に出版された本ですが、ネットサーフィンで辿りついたページでの紹介文に惹かれて購入。タイトルに「インターネット」と入っていますが、ネットに限らず文章・映像・図示、ありとあらゆる方法において、如何にして形のない「情報」を「デザイン」することで、分かりやすくして、人に伝え、共有することができるか、その方法論のヒントについて書かれた本です。情報の分類の仕方、またユニークな切り口での情報加工方法の具体例が豊富にあげられていて、おもしろかったです。
あとがきに書かれている、「重要なのは技術そのものではない。自分たちの生き方に直結するものとしてメディアをいかに使いこなすか。つまり、広い意味での『使い方/意味付け方』の文化を自分たちの活動の中から創り出していくこと。」の言葉に納得。今はネットで簡単にいろんな「情報」を検索して大量の情報を得ることができますが、だからこそそれをどう活用すればいいのか、そこからどんな意味を見出せばいいのか、それを主体的に考えながらやらないと、「情報」に振り回されるだけに終わるだけですから。
それを実践するのが、一番難しいことではありますが…
●「きっとマのつく陽が昇る!」喬林知[角川ビーンズ文庫]419円(02/10/01) →【bk1】
「閣下とマのつくトサ日記!?」に続くシリーズ最新作。
平凡な元気少年・有利が水洗便所で流された先はなんちゃってファンタジーな世界で、有利は実はその世界を治める「魔王」だった…という設定から始まるハチャメチャコメディシリーズです。
基本的にはコメディのノリなんですが、今回のストーリー展開はシリアス色が濃かったです。1話完結のシリーズなんですが、今回は話が終わってないので、早く続きがでてほしいものですが。
今回はどうも影が薄かった三男、婚約者救出作戦ではぜひ頑張ってほしいものですが。
●「疾風のアイン アグラファ3」三浦真奈美[中央公論社C★NOVELS]900円(02/10/01) →【bk1】
「閃光のミオ アグラファ2」の続編。
魔法なしの架空歴史もの。今回は話が大きく動きました。そしていよいよ次回、ミオとアインの激突になりそうで楽しみ。
「腐りきった政治家」描写の底の浅さがひっかかりますが、こういう方が物語的にはわかりやすくていいのかもしれません。海戦シーンの描写は生き生きとしていて、読んでてワクワクしました。
それにしてもエル・ジェロはアインをみててもどかしいだろうなあ… 義姉のことでは読者に過ぎない私も一言いいたくなってしまいますもの。アインとエル・ジェロのコンビというのは好きなので、彼らが不幸にならなければいいんですが。
|