00年6月に読んだ本。 ←00年5月分へ 00年7月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「天使猫のいる部屋」薄井ゆうじ[ハルキ文庫]720円(00/6/30)
1991年に発売された、薄井ゆうじ初の長編小説の文庫本化。
グラフィックデザイナーのツトムはサムの依頼で猫の手、耳、シッポなどのCGを作成していった。そして作成された画像をつなぎあわされてできたのは、コンピューターの中で飼われる「電子猫」。その電子猫は大ヒットしたが…
ヴァーチャルペットの話から、現実と虚構の壁が崩れてゆくような展開になります。今からすると「アクアゾーン」や「たまごっち」を彷彿させてしまうけど、この小説が書かれたときにはフロッピーが8インチでソフトはベーシックが全盛、MS-DOSが駆けだしだった頃。今読んでも、柔らかさを含んだこの方の文章を十分楽しむことはできますが、やはり概念的な面白さを味わうためには、10年前に読みたかった作品でした。10年前に書かれてるためか、どうしても齟齬があって、例えばフロッピー十枚くらいであんなすごいソフトが動いたら脅威だよね、とかつい思っちゃうんだなあ。
この方の小説では、「草の上の草魚」もよかったけど、一番好きなのは「くじらの降る森」。ストーリーの細かい部分は忘れたけど、道路一面に描かれたクジラのイメージは今でも頭の中に残っています。
●「漫画嫌い *枡野浩一の漫画評(朝日新聞1998〜2000)」枡野浩一[二見書房]1200円(00/6/29)
特殊歌人の枡野さんのマンガ紹介コラム。朝日新聞に連載されていたのをまとめたものです。枡野さんは、「君の鳥は歌を歌える」以来、この方の「言葉」のファンなのでもちろん購入。薄い割には値段は高いけれども、満足度は高いです。
マンガの紹介は、結構マニアックで少女マンガの割合が高いかな。私はマンガに関してはジャンプ系しか読まない薄い人間なのでこの中の本もほとんど読んだことないし、作者名も知らない人が半分ほど。でも、「ああ、明日にはマンガを買いにいかなきゃ!!」と思わせるおもしろい紹介です。
この方の文章って、フォルムがきれいな工業製品のような。ゴテゴテしていず、言葉の選び方、リズムが絶妙で、言葉のピースがピタリとはめられたジグソーパズルのように動かしようがない。ため息がでるなあ。
とりあえず、気になった作品をメモしておかなきゃ。…というか、サイトの方に巻末のオススメ作品リストだけでも載せてくれないかな。簡単に印刷できるから。
今年は本をたくさん出すようで、楽しみ。
●「星虫」岩本隆雄[ソノラマ文庫]571円(00/6/29)
10年前、第一回ファンタジーノベルズ大賞の最終選考に残り、新潮社より出版され、一部の人に熱狂的に支持されながらも長らく絶版だった作品の、リメイク出版。
(余談ですが、第一回ファンタジーノベルズ大賞の最終選考作品として出版されたのは恩田陸の「六番目の小夜子」。こちらも数年前にハードカバーでリメイクされました)
私は、「星虫」は当時買って読みました。イラスト、たしか道原かつみさんでしたよね。ただ当時は、この作品のあまりのまっすぐさや青くささが鼻について、イマイチ入れ込めなかったんです。今回もう一度買ったのは、この作者の別の作品が読んでみたかったから。
ネットによるとかなり加筆されてるとのことで、もう一度読み返すことにしました。
ちょっと未来のはなし。ある日、世界中に不思議な生き物が降りてくる。人の額についた「星虫」はその人の感覚器官を増幅するような力を持っていた。最初は好意的に受け入れられてきた星虫だが、成長しだしてからは…
宇宙への憧れを率直に語り、宇宙開発を是とするには、この10年の流れでズレを感じるけれども。だからこそ、今もう一度この作品がでるには意味があるのかもしれない。
私は前の作品を詳しく覚えているわけではないからよくわからないけど、テクノロジー周りの修正や、あとは文章やエピソードも相当変わったそうです。昔のときよりも今回の方がすんなり受け入れられる話に仕上がってるような気がするのは、文章がかわったせいか、それとも自分の変化のためか。…10年前よりも今の方がライトノベルズを沢山読んでるので、「まっすぐ」な話に対する抵抗感が減りましたもの。
アラもあるけれども、少なくない人達に深く愛されてきた作品だけのことはあるなあ、と思いました。「イーシャの舟」は未読なので、こちらも再販してほしいなあ。
●「アーバンヘラクレス」久保田弥代[ソノラマ文庫]533円(00/6/28)
第三回ソノラマ文庫大賞佳作入選作品。
近未来。情報屋であり、「賞金稼ぎ」である九条は、かつてその手で捕らえたことのあるテロリストに逆恨みされ、その復讐を受けるハメに。巧妙にしかけられた九条にしか解除できない4つの爆弾の爆発を阻止するためにかけずりまわることに…
ハードボイルドアクション、かな。設定まわりが少々ギクシャクした感じを受けますが、爆発阻止のために駈けずりまわるあたりの描写はなかなかにハラハラと楽しむことができました。ただ、私はハードボイルドがどうもあわないので、地の文にはちょっとなあ…「泣けてくる」はうっとおしい。
悪くはないけど、やはり「佳作」かな。もうひとつ突破の力に欠けます。次回作は、あらすじを読んでおもしろそうだったら買うかも。
●「夏と花火と私の死体」乙一[集英社文庫]419円(00/6/26)
愛蔵太さんのサイトでオススメされたので読むことにしました。
この作者名、どこかでみたことあるなあと思ったらジャンプJブックスだったのね。この作品がジャンプノベルズで出たときに、ミステリ系でマニアックに話題になったんですよ。そのとき本を探したんだけど、見つからなくて諦めたのでした。その文庫本化。
ホラーというか、ちょっとサスペンスぽい話です。ちょっと昔の田舎の夏休み。ふとした弾みで、9歳の少女が同じ年の少女を殺してしまう。犯人の少女と兄は、バレるのが怖くて、少女の死体を隠すことにしたが……という感じの話。
構成がうまいですな。無駄がない。小道具の使い方も上手。少年の無邪気で底知れぬ残酷さがいい味だしてます。死体が見つかりそうになってどんどん隠し場所をかえていくあたり、読んでてドキドキしました。これを書いたときに16歳だったのいうのはたしかにすごいかも。
良作。一緒に収められてる「優子」も技ありな作品でした。探してでも読むべきかも。
私の心の棚の、「要チェック作家さん」に移動。
解説は小野不由美さんなのでマニアの方は確認をば。
●「ウエディング・ドレス」黒田研ニ[講談社ノベルス]840円(00/6/23)
第16回のメフィスト賞受賞作。祥子とユウは二人きりでささやかな式を挙げるはずだった。挙式の日、指輪をとりに帰ったユウが事故にあったと電話がかかり、そして教会を飛び出した祥子を待っていたのは……
おもしろかったです。大森望さんが帯に書いていたように、最近のミステリには珍しく無駄な要素が全くない、ミステリのためのミステリ。私はあんまり深く考えずに読むから途中までは全体の謎はわからなかったですが、聡い人にはすぐにわかっちゃうかも。殺人のトリックについては、うーん、ちょっとなあ…私の好みの方向性からはズレてる。楽しく読みましたが、もうひとつ破壊力には欠けるかな。読んで損はないけど、読まなきゃ損というほどではなかったです。
●「ジャッジメント・ワールド 歌え<ドミニオン>我がために」青田竜幸[富士見ファンタジア文庫]560円(00/6/22)
新人さんの作品ですが、一部で評判がよかったので読んでみることに。
富士見ファンタジア大賞の出身者だとか。(入賞はしてないようですが)
帯によると、「サイバー・ハード・サイキック・アクション」。必殺仕事人みたいな話かも。死刑が廃止された代わりに、一定の条件での「復讐」が合法化された未来。復讐のために雇われる「執行代理人」のショウゴは、執行代理人を抹殺する謎の組織との抗争に巻き込まれてゆくが…
新人さんにしてはいい感じ。アクションシーンもキャラも悪くないです。とりあえず今後もチェックかな。
ただ、主人公の力が強すぎ。主人公の強さは爽快感に繋がるけど、でももっと弱点を用意しておかないと、オールマイティになってつまんないですよ。やはりギリギリの状況を知恵と勇気で乗りきっていくのがおもしろいわけで。ラスボスはもっと強くしてほしかった。あと、ミユの動機がもうひとつしっくり落ちない。もうすこし練りこんでほしかったな。
とりあえず、次回作も読むつもり。
●「フルメタル・パニック! 同情できない四面楚歌?」賀東招ニ[富士見ファンタジア文庫]480円(00/6/22)
「フルメタル・パニック!」の番外編短編集。「戦争ボケ」の宗介とわけあり美少女・かなめのラブコメ。今回はお笑い度はイマイチかも…でも林水会長の過去話にはほろりときました。
書き下ろしはマオと宗介・クルツの出会いの話なんですが、ギャグの部分がちょっと空回りしてた感じ。展開としてはおもしろいんだけども、読者は彼らがどういう力を持っているかを知ってるだけに意外性や爽快感がもうひとつになったかな。うーん、これは描き方の問題かも。
トータルとしてはサクサクと楽しく読めました。
このシリーズは長編の方はかなりオススメですよー。
●「五体不満足」乙武洋匡[講談社 青い鳥文庫]670円(00/6/20)
有名だし説明する必要がない本ですね。去年の大ベストセラー。
で、なぜ今ごろこの本かというと、青い鳥文庫で廉価版が出されてたからです。ハードカバーでも本屋でぱらぱら読んではいたんだけど、私は文庫本派なので文庫本化を待ってたのでした。
とにかく、「人生を楽しんでいる」ことが伝わってくる、ワクワクに満ちたエッセイでした。この方って、たぶん手足があってもエッセイストとしてやっていけるじゃないかと思うけど。伝え方がうまい。
文庫本化で買いやすくなったし、まだ読んでない方はこれを機会に購入して損はない本だと思います。読んでて楽しかった。
今ででる「乙武レポート」もおもしろそうなんですが、ハードカバーは手が出しにくくて。はやく文庫本化してくれないかなあ。
●「DADDY FACE 世界樹の舟」伊達将範[電撃文庫]690円(00/6/18)
「DADDY FACE」の続編。バカネタアクションコメディ。どれくらいバカネタかというと、二十歳の大学生が12歳の娘の親で、その上娘は超天才で、世界的な企業のオーナーで、怪しげな組織「ミュージアム」と闘う凄腕のトレジャーハンター。マシンガンをブッ放すのは序の口、キラー衛星を使って建物を崩壊させちゃったり。話自体も、オーパーツとか「ちょー」な方向に特化。ちなみに今回は触れたものの望みをかなえるという、「回る水」をめぐる話。
バカ設定もここまでくるといっそ気持ちいいですね。バランスとしては悪くない。超能力の持ち主で、冷血な美少年・樫緒くんの活躍が今回は多かったのが嬉しいかなー。
ただ、母親のキャラと設定だけがうっとおしい。行動原理が気持ち悪いし。「吸血」のところが露骨なサービスシーンというのはわかるけどあそこって必要?
あまり深く考えずにハデに爆発する話を楽しみたい人にはオススメかも。
●「宇宙のみなしご」森絵都[講談社]1300円(00/6/18)
お泊りしたにしむらさんちの本棚を漁って読んじゃいました。児童文学かな。
仲のよい、中学生の姉弟。二人で考案してきた様々な遊び。ある日、ふと思いついて屋根に登った…
重苦しくもなく、軽くもない、優しさの中にすこしやるせなさが残るお話でした。泣けはしなかったけど、心にじんわりくるというか。冬の空をそうやって見上げたことがあったのはいつのことだったかな。
森絵都だったら、「つきのふね」、「カラフル」はすごくいいですよ。
●「機甲都市 伯林 パンツァーポリス1937」川上稔[電撃文庫]610円(00/6/16)
都市シリーズの最新刊。シリーズ第2期スタート。舞台はシリーズ一作目と同じベルリン。進化してゆく戦闘艦「疾風」が暴走。一方、G機関が追うのは「救世者」を移植された少女。予言の成就のために……って全然意味不明だ、これじゃ。
このシリーズ自体が説明が難しいんですよね。名前は同じだけれどもパラレルな世界を舞台に、巨大ロボットやら自動人形やらそういうのがごった煮の話。設定がかなり独特で、今回は少し解説が入っているけども、あれでもよくわかんないんだけども…あとがきによると「近作から読んでも問題のないように…」って、問題ありだよ〜。
でもま、こういう「わかる人だけがわかればいい」というカッとばし方がいいんだよね、このシリーズは。カッコいいから許す。
このシリーズ、私はまだ全冊読破してないから、どういう読み方がいいかのアドバイスは難しいですが…一応都市ごとに一話完結しているので、ストーリー的にはどこから読んでも問題ないのですが、設定が少々ややこしいからなあ。とにかく、一番最初の「パンツァーポリス1935」はデキがさほどではないので、これだけで判断しないでほしいです。「閉鎖都市 巴里」はなかなかよかったよ〜。
●「ドラゴンファームはいつもにぎやか」久美沙織[ファンタジーの森]940円(00/6/9)
評判いいし、気になってはいたんですが、設定を聞いて「馬をドラゴンに置き換えただけの「優駿」だろう」と勝手に思いこんで読んでませんでした。ごめんなさい。全然違いました。暖かくて、ほんわかとした、わくわくする上質のファンタジーでした。まっすぐな一筋の光を思わせるお話。
ドラゴンを飼育しているデュレント牧場の末っ子で一番の下っ端のフェンフ。彼が逃げ出したドラゴンを追いかけた先で出会ったのは勝気な美少女・ディーディー。彼女から、デュレット牧場の買収話があることを聞いたフェンフは…
人間キャラも生き生きしてますが、なによりドラゴンたちがいい味を出してます。とくにフェンフの相棒のシッポ。賢くて、健気で。
オススメ本なんですが、残念ながら版元が倒産してしまったために、新刊での入手はかなり困難。古本屋を気長に探すか、図書館で探すしか。
私もこれは版元倒産後に慌てて購入してもらったものですが、ちゃんとこの本がでたときに買えばよかったのに…インスピレーションを感じた本は、その場で購入しとけ!!←教訓 ってことですね。
●「恐怖のダーリンゥ」菅野彰[新書館ディアプラス文庫]560円(00/6/9)
ハートマーク、Windows以外ではちゃんと表示できないかも…ごめんなさい。
あまりにも仲がよすぎ、ふたりだけで世界が完結していたかのような偲・恵の兄弟。ある日、偲は交通事故で亡くなってしまう。ひとりでは生きて行くすべも知らない恵の面倒をゼミの後輩の亨がみるハメになるが、亨は次第に恵に牽かれてゆく。そして、どうしても偲のことが忘れられない恵は、民間伝承にしたがって蘇りの儀式を行うが…
オカルト・ボーイズラブコメディ。エッチ度はかなり低めですが、テンポよい会話、エピソードの見せ方がうまいし、寄る辺ない気持ちの描き方が切なくていいですねぇ。
今回の受は、不器用で愛し方を知らなくて、空気のような行き方をしてるはかなげなキャラ。ちなみに攻はブツブツいいながらも捨て猫が放っておけないタイプの世話焼きです。菅野作品の王道(?)ですな。
それにしても、3年ですかっ!!……いやあ、びっくりですわ。私も佐代子さんと同じ感想を思わず抱いてしまいました。大河といい(作品が違うって)、どうしてもこうも煮え切らないんだ〜っ。…でもま、本人たちは幸せそうだからいいんでしょうな。
それにしても、冒頭1ページの導入部、うまいですな…リズムがいい。この方の文章のリズムはすごく好き。
●「サイケデリック・レスキュー デッド・ライン」一条理希[集英社スーパーファンタジー文庫]571円(00/6/8)
「サイケデリック・レスキュー」シリーズ最新刊。水城財閥の私設特殊救助隊の話ですが、今回はいつもと毛色が変わってます。かなり重苦しい話に。
修学旅行の帰りの恭平がクラスメイトたちと乗った飛行機が遭難してしまった。救助隊がかけつけたときには、生存者はおろか、遺体すら一切存在しなかった。彼らは一体どこにいったのか?
今回はいつもの特性ウルトラグッズは登場せず。このシリーズには珍しく、等身大のサバイバルとなっています。クラスメイトの宇佐美くん、いいキャラだなあ。ひょっとして表紙のメガネくんは彼なんでしょうか?おお、いいビジュアル的にもいい感じではないですか〜。…惜しい。
状況的には袋小路ですが、あとがきによると次が前から書きたかったエピソードになるとのこと。この状況を果たして打破できるのか、楽しみにしています。
●「殺竜事件」上遠野浩平[講談社ノベルス]880円(00/6/7)
「ブギーポップ」シリーズでお馴染みの上遠野浩平が、いよいよ一般小説分野に登場。(といっても講談社ノベルスは限りなくライトノベルズに近いですが)
ファンタジー世界でのミステリ。圧倒的な存在であるはずの「竜」が何者かによって刺殺された。その謎に仮面をつけた戦地調停士のエドワースは挑むため、竜に面会した6人の人々に会うために旅立つが…
買ってきてから一気読み。読みやすいなあ。「ブギーポップ」よりもよっぽど分かりやすい話だし。楽しく読めました。
これがまだ無名の方の作品であれば、手放しで誉めたと思います。そして、要チェック作者リストに連なったでしょう。でも、上遠野浩平の、ブギーポップ以外での初めてのシリーズで、しかも初めての一般向けラインナップということで、そりゃもう多いに期待してたわけです。そういう意味では物足りないところも。
まず、ファンタジーとしてはかなり薄い。道具仕立ての独自性が足りない。でもま、講談社ノベルズはファンタジーのラインナップではないので、これ位の方が普通の人でもついていけるだろうからいいのかもしれないけど。
あと、ミステリとしてはサプライズが少ないかな。初期設定が魅力的だったわりに、完結編がその期待を凌駕するものではありませんでした。悪くはないけど。準備にかなり手間暇をかけた殺害トリックはわりと好みですが。でも「ブギーポップは笑わない」の方がよっぽどティスト的にはミステリかも。
キャラクターの見せ方はさすがお手のものですね。私の好みのラインナップから外れたまっとうなキャラでありますが、ヒースがお気に入り。
講談社ノベルズとしては、十分及第点をクリアしています。ただ、突破するには力が足りない。読んで損はないと思うけど、この作者のなら「ブギーポップは笑わない」の方がおもしろいので、上遠野浩平が未読の方はそちらを読むべきかも。
このシリーズ、次回作は「紫骸城事件」で、廃墟となった城で魔術師達が次々と亡くなっていくという「館モノ」だそうです。主人公は今回の話にちょっとだけ名前が出てきた、双子の戦地調停士。キャラ的に結構おもしろそうな二人なので、楽しみですね。
イラストは「女神転生」シリーズでお馴染みの金子一馬さんですが、これが素晴らしい!! 独自の濃い世界を展開してくれてます。ただ本のデザインはちょっとうるさすぎるかなあ…イラストの素がいいんだから、もっと生で見せるような形にしてほしかったです。
●「イカロスの誕生日」小川一水[ソノラマ文庫]571円(00/6/6)
私、この人の作品はコメディの「アース・ガード −ローカル惑星攻防記−」しか読んだことないんですが、この作品はあちこちで名前を見かけたから気になって購入。
15万人にひとりくらい、翼を持ち空を飛ぶことができる人間が生まれる。彼らは「イカロス」と呼ばれ、異端であるために世間から迫害を受けていた。はるかはイカロスらしく気ままな生き方をしていたが、ある日を境にイカロスへの弾圧が激しくなり、自由に空を飛ぶことも禁じられてしまい…
どこかに書いてあったことだけど、私もこの作品を読んでて「星虫」(岩本隆雄)を思い出しました。
基本的にまっすぐな話で、空とぶシーンが気持ちよさそうでいいなあ。ただ、敵がいかにもって感じの「悪」で、深みに欠けるために話に奥行きがでない。もうひとつ付きぬけたところがないというか。惜しいなあ。
賛否両論ある表紙ですが、私はなかなかいい感じだと思います。
●「麦の穂を胸に抱き 足のない獅子」駒崎優[講談社X文庫ホワイトハート]520円(00/6/6)
「足のない獅子」シリーズ最新刊。
中世のイギリスを舞台に、沈着で頭脳派ながら優しさのあるリチャードと、豪胆で気のいいギルフォードの騎士見習いのやんちゃな二人の青年のささやかな日常の冒険談です。剣も魔法もでてこず、かといって歴史ものというほど堅苦しくなく、英雄談でもない。なんてことはない話なんだけど、けれがわりと楽しい。結構お気に入りのシリーズです。
今回は、リチャードとギルフォードの二人は騎士見習いとして、ウェールズ侵攻するイギリス軍に参加することに。しかし実際に闘いはなく、待機ばかりが続く日々。そんな退屈な日常に、突然不思議な殺人事件が起こって…という感じ。ミステリというには作りが甘すぎるかも。
今回は愛しのジョナサン司祭が出てこないのが寂しい。でもあとがきによると、次の話はジョナサン司祭メインということで、楽しみにしています。
このシリーズは1話完結なのでどこから読んでも特に支障はないですが、最初から読むにこしたことはないですね。
●「EDGE2 〜三月の誘拐者〜」とみなが貴和[講談社X文庫ホワイトハート]550円(00/6/2)
「EDGE〜エッジ〜」から半年ちょっと。待望の続編です。
「死」に強烈に魅せられ、いつ日常生活が崩れてもおかしくない精神状態の男が出会ったのは、大人のやりかたに憤りを覚えていた少女。ふたりは少女の無くした人形を探しに、川を伝って海に歩いてゆく。ふたりのその行動は、客観的には「幼女誘拐」と見なされるものでしかなかった…その事件に挑むのは美貌の天才プロファイラー・大滝。彼女はこの事件に、15年前自分の身に起こったできごとと重ね合わせてしまうが…
前作の連続爆弾魔のようなハデさはないものの、しみじみと味わいのある話にしあがっています。犯人の男のいかに「越えずに」踏みとどまれるかという葛藤や乾いた心の持ち主同士の交流、リアルな手触りがする。少し大人になった宗一郎の気持ちが切ないですなあ…
本当に惜しむらくは、(前にも書いたけど)これが講談社ノベルズじゃなくホワイトハートででたことでしょうか。この話のよさを一番わかることができる読者層はそこだと思うので。
シリーズニ作目ですが、話は一応独立してますのでこれだけ読んでも大丈夫。ただし、大滝と宗一郎の絆や過去の関わり、宗一郎の特殊能力などの事情がわかりにくいかも…一作目もミステリとして良作ですので、ぜひ読んでもらいたいんですが、ホワイトハートの半年前の本を置いてある本屋はあんまりないんでしょうね…
一般のミステリファンにも読んでもらいたいものなんですが。とにかく、この作者は講談社ノベルズにいった方がいいと思うんだけどなあ。椹野道流よりもよっぽど向いてると思うんだけども。
●「僕達の大逆転 泉君シリーズ10」あさぎり夕[小学館パレット文庫]467円(00/6/1)
人気ボーイズラブ「泉君シリーズ」の最新刊。
うむ。たしかに急展開ですね。瑠偉と伊達の絆といい、今までは普遍だと思っていたものがどんどん変わっていって。最近鼻についていた、泉くんの甘チャンぶり、すこしはまともになったかも。
それにしても今回はこのシリーズにしてはえっちシーンが少ない。たった一回、しかもいかにも申し訳程度にいれたって感じで全然力入ってません。後書きによるとえっちシーンを書くのに飽きてしまったようです。そりゃ、50冊もボーイズラブを書けばそうなるだろうなあ…ってそのうちこのシリーズ34冊だよ。うわー…いつの間にそんなに出てたんだか。
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