04年12月に読んだ本。   ←04年11月分へ 05年01月分へ→ ↑Indexへ ↓高永麻弥へのメール
●「闇の左手」アーシュラ・K・ル・グィン/小尾芙佐訳[ハヤカワ文庫]680円(04/12/27) →【bk1】【Amazon】

1969年に発表され、ヒューゴー賞・ネビュラ賞をW受賞した、SFの金字塔的作品。
雪と氷に閉ざされた《冬》の惑星・ゲセン。外見的には人類に似ているが、ゲセン人は両性具有のため、特異的な社会を築いていた。
他星との交流が全くないゲセンに、多数の惑星の参加で成り立っている同盟・エクーメンの使節ゲンリー・アイがたったひとりで訪問していた。彼の任務はゲセンにエクーメン同盟参加を促すこと。
ゲンリーはカルハイド王国で執政エストラーベンとよしみを結んだが、彼の尽力でアルガーベン王と対面が叶ったときに、エストラーベンは失脚してしまう。それからゲンリーは大きな陰謀に巻き込まれてしまい…

ただ雪と氷だけの世界を、自然の圧倒的な力にさらされながら、時間も方向も距離も感覚をなくして黙々と進み続けるシーンの描写が圧巻。読んでいるだけでも厳しい寒さが体にしみこんでくるようでした。
ゲセン人という、男でも女でもなく、また時期によっては女にも男にもなりうる種族の持つ文化・価値観、それを元にした社会の独特なシステムの描写がおもしろかったです。
他に印象に残っているのは、献身的な友情が、ある瞬間に別のものに変わりそうな危うい揺らめきをみせた描写でした。ぞくっとする色気を感じました。
ただ、おもしろく読みましたが、読み終わってもいくつか腑に落ちない部分が残っていたりします。ゲセンでは兄弟による性行為自体はタブーではないのに、なぜケメルの誓いをするのはダメなのでしょうか? それと、どちらかが子供を生んだらケメルの関係を続けることができない、というのももうひとつしっくりきません。作中でもなぜダメなのか?については描写されていなかったように思います。近親相姦という「タブー」のOKラインがなんか中途半端に感じてしまったので。
ゲセン人は私たちとは肉体構造も性的タブーもそれ以外の価値観がまったく違うから、説明のしようがないのかもしれませんが。
「異世界」がリアルに構築されているからこそ、他文化の価値観を解せないことがひっかかってしまうのかも。


●「マリア様がみてる イン ライブラリー」今野緒雪[集英社コバルト文庫]419円(04/12/25) →【bk1】【Amazon】

「マリア様がみてる」シリーズ最新刊。今回は番外編的な短編集です。
瞳子ちゃん視点のお話と、泥沼三角関係の話はよかったですが、番外編ということもあってか、全体的に話があっさりとした感じで、なんだか物足りなかったです。最近は本編も内容が薄いですし… でも、そろそろ由乃さんの妹選びのリミットも近づいてきているし、次こそは話が大きく動くことを期待しています。


●「そして彼女は伝説へ…」松原真琴[ジャンプ・ジェイ・ブックス]762円(04/12/19) →【bk1】【Amazon】

「そして彼女は拳を振るう」「そして彼女は神になる」に続く、シリーズ三冊目にして完結編。
代々長女に霊媒師としての能力が受け継がれてきた園原家。ところが八重にあったのは、「触れ合うと幽霊の気持ちがわかる」「幽霊を自分に憑依させることができる」と中途半端な能力だけ。才能ある霊の能力を借りて儲けてきた祖母と母親にならい、八重が拾ってきたのはAUBEという人気バンドのメンバー・十郎の霊だった。ところがサンドバッグを打ちながらでないと作曲ができないという十郎のために、八重は女子高校生離れした必殺パンチが打てるようになってしまうように。
八重は祖母の願いで、イケメンヒーロー番組のクイズ大会に参加するハメに。優勝してロケ見学権をゲットした八重だったが、そのロケ現場でとんでもない事件が起こって…

私はこのシリーズのまったりした部分が好きなのですが、今回の展開はいつもと違ってとても切なくて、別のおもしろさがありました。式神が紙になるシーンにはほろりときました。
小畑健さんのイラストは、「DEATH NOTE」の連載の方で忙しかったのか、あまり手間のかけてないものになっているのが残念でした。カラーは3ページ(表紙+ピンナップ表裏)、モノクロが8ページ。
このシリーズのまったりしたところはオススメなのですが、このレーベルはボリュームの割りには値段が高いのが残念ではあります。小畑健さんの絵が好きな人であれば、十分元はとれますので、興味があればどうぞ。


●「しずるさんと底無し密室たち」上遠野浩平[富士見書房]540円(04/12/14) →【bk1】【Amazon】

クールな病弱美少女の安楽椅子探偵もののミステリ短編集、「しずるさんと偏屈な死者たち」に続くシリーズ二冊目です。
「月刊ドラゴンマガジン」に掲載されていた3つの話と、書き下ろしがひとつ。ミステリとしては飛びぬけていいわけでもないし、かといってダメな作品でもないのですが、私はこのシリーズの「解体された謎の実も蓋もなさ」が好。ただ、「7倍の呪い」は、謎を解体した後に残ったものがやりきれない陰惨なものなので、路線が少し違いますが、でもこういうのもそれはそれで好みなので…
キャラ萌えとしては、クールで神秘的なしずるさんもいいけど、よーちゃんがこれまた愛らしくて。ふたりのやりとりがほのぼのしてていいなあ。


●「ライトノベル☆めった斬り!」大森望・三村美衣[太田出版]1480円(04/12/10) →【bk1】【Amazon】

本が届いたとき、体調よくなかったのですが、読み出したら止められずに一気読みしてしまいました。
ライトノベルの35年史を、大森さんと三村さんの対談と、お二方による100シリーズの書評で解き明かした本。
読んでて、「愛」を強く感じました。ジャンル語りが目的というよりは、好きな本がいかに素敵なのかを語ることに心血を注いでいるところが、素敵でした。
ただ、ラインナップがSF寄りで、少々年寄り(30代以上〜)向けなので、若い人にとっては前半部分は知らない固有名詞ばかりになりそうで読むのが辛いじゃないかなあ…
私は世代的にジャストフィットだったためか、紹介されていたシリーズの既読率は65/100でした。ここしばらくライトノベルのガイドブックがたくさんでていますが、どれも電撃・スニーカー・富士見に偏っていて、「マリア様がみてる」以外の少女向けレーベル作品がスルーされることが多いのがに不満でしたが、この「めった斬り!」は少女向けレーベルの話が多かったのは嬉しかったです。
以下、思い出話。中学生の頃に「星へ行く船」シリーズが流行っていた世代なので(イメージアルバムも全部買った!! 「通りすがりのレイディ」とか今でも歌えます)そのあたりの話が懐かしかったです。氷室冴子は私的には「なんて素敵にジャパネスク」シリーズよりも、「なぎさボーイ」の方がインパクト大きかった記憶があります。クラス中でまわし読みしたものでした。ただ、なぜあれだけあの作品が好きだったのか、思い出せなかったりするのですが。
それと昔の話を読んでいて、昔は本がバンバン売れていたんだなあ、しみじみと。


●「生贄を抱く夜 神麻嗣子の超能力事件簿」西澤保彦[講談社ノベルス]840円(04/12/10) →【bk1】【Amazon】

「人形幻戯 神麻嗣子の超能力事件簿」から2年ぶりとなる、チョーモンインシリーズの最新作。超能者による犯罪を、ロジカルに解く本格パズラーなミステリのシリーズ。
今回は短編集で、番外編的な話でした。いつものレギュラーメンバーがあまり出てこなかったのが物足りなかったのと、エロシーンがオヤジくさいのと、どろりした話が多すぎたのが、ちょっと… ラストの「情熱と無駄のあいだ」がバカ話だったのが救いでした。


●「女子大生会計士の事件簿 DX.2騒がしい探偵や怪盗たち」山田真哉[角川文庫]514円(04/12/08) →【Amazon】

現役美人女子大生であり、敏腕公認会計士の萌実を主人公にした、会計監査にまつわる事件を集めた短編集「女子大生会計士の事件簿」の文庫本化2冊目。
新書版は読んでますが、書き下ろし部分があるために購入。印象的だったクリスマスの話以外は新書版の記憶がすでにあやふやだったのと、書き下ろしの監査ファイル7が「こういう会計トリックがあるだなあ」と感心したので、結構楽しんで読めました。
軽く読めて、ためになる本が好きな人にはオススメ。会計の知識は社会人なら持っていても損はないですし。地の文が多くて読みやすいし、値段も安いので読むなら文庫版の方を。


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