04年10月に読んだ本。 ←04年09月分へ 04年11月分へ→ ↑Indexへ ↓高永麻弥へのメール
●「復活の地III」小川一水[ハヤカワ文庫]760円(04/10/29) →【bk1】【Amazon】
「崩壊した国家の再生を描く壮大なる群像劇」「復活の地」三部作の完結編。
50万人という多くの犠牲を出した未曾有の地震からやっと立ち直ってきたレンカ帝国。ところがその地震の原因は星代の兵器で、その兵器はまた戻ってきて同じ規模の地震が再び起こることが科学者達の手によって解明された。しかし、列強各国は自らの利権を考え、その事実を直接レンカ帝国市民に伝えることはしなかった。
一方、レンカ帝国政府と軍部も、列強に対抗することを優先するため、必ず起こる災害を市民に知らせず、市民を犠牲にするのはやむをえないと考えていた。そんな中、権力の座から降ろされていたセイオはその事実を知り、市民を守るために行動を起こそうとするのだが…
「おもしろかった」というのとは違うけれども、読んだことで多くのものが自分の中に残る作品となりました。
時期が時期だけに、作品をフィクションとして現実と切り離して読むことができませんでした。頭の中で、ニュースで流れていた映像や、ネットで読んだ色々な文章が重なってしまって。
二度目の災害は、一度目のときのように「スーパーヒーロー」が活躍するのではなく、普通の人々ひとりひとりが生き抜くために、大切なものを守るために行動して、それによって町や人々が助けられるという形になったことに、心が揺さぶられました。このあたりの描写は正直詰め込みすぎかなあと思わなくもないですが、逆にそのバランスの悪さゆえ、小川さんの気持ち…というよりも物語に対する意志かな、それがストレートに伝わってきたように思えました。
個人的には「復活の地I」では「愚かな官僚」として描かれていたシンルージの活躍がなんだか嬉しかったです。
今回の話は小川さんの作品としてはラブ度が高かったなあと思ったのでしたが、他の人の感想を読むと「あれだけ?」というのもありまして。期待水準の違いなのかもしれません。
●「女子大生会計士の事件簿 DX.1 ベンチャーの王子様」山田真哉[角川文庫]476円(04/10/26) →【bk1】【Amazon】
現役美人女子大生であり、敏腕公認会計士の萌実を主人公にした、会計監査にまつわる事件を集めた短編集「女子大生会計士の事件簿」の文庫本化。
新書版の方は読んでたのですが、今回2つ書きおろしの話があるということで購入。新書版の方は、ほとんど会話だけで進むので正直読み辛い部分がありましたが、今回文庫本化にあたっては"小説"寄りになるよう地の文を増やしたそうで、読みやすくなりました。
派手な事件が起こらないものの、微妙に不可解な状況を、ちょっとしたきっかけや帳簿などから原因を浮かび上がらせる展開がおもしろい作品です。
会計に関する知識を持っていて損はないですし、気楽に楽しむための本としてオススメ。
●「魔術王事件」二階堂黎人[講談社ノベルス]1800円(04/10/22) →【bk1】【Amazon】
あの文字通りの大作「人狼城の恐怖」以来の蘭子シリーズ最新作。3年前に発売された中編「悪魔のラビリンス」とも関わりのある話です。
北海道の資産家・宝生家に伝わる三つの宝石《炎の眼》《白い牙》《黒の心》。これを狙う《魔術王》は、不可解な犯罪を行い、宝生家の人々を恐怖に陥れた。北海道県警では手に負えなくなったため、名探偵として名高い蘭子の下に事件は持ち込まれたが…
前作の長編「人狼城の恐怖」もかなり無茶な作品でしたが、大技トリックを成立させるためのゴテゴテとした物語の飾りつけも含めて、好きな作品でした。でも、今回の長編はちょっと…「やりすぎ」感と「やっちゃった」感が同居する微妙な作品になってしまったような。大体、→宝石がほしいだけなら単にすりかえれば済む←だけの話だよなあ、と思ってしまうので。
まあ、犯人は→露出狂←みたいだから、ああいうことをしたのかもしれませんが… それだけであそこまでやった理由を全てを納得させるのはいくらなんでも無理ではないかと。
●「Hyper Hybrid Organization 00-02 襲撃者」高畑京一郎[電撃文庫]570円(04/10/14) →【bk1】【Amazon】
リアル路線の改造人間戦闘モノ「Hyper Hybrid Organization」シリーズに出てくる悪の秘密組織「ユニコーン」の誕生過程を描いた外伝の二冊目。
電撃文庫なのに萌え路線とは無縁(私には別の意味で萌えな本でしたが)の男臭い作品。男たちの意地、打算、暑苦しい信頼と、底知れない憎悪。そういうものがないまぜになっていて、読んでてぞくぞくしました。
血なまぐさいお話ではありますが、なぜか妙な爽やかさがある作品です。登場人物たちは打算的ではあるものの、ある意味一途だからなのかもしれません。続きを楽しみにしているシリーズなんですが、作者はあまり執筆速度が早くないのが残念で… 本編の続きも早く読みたいものですがいつになるでしょうか。せめて来年中には読みたいものです。
ここからネタバレ感想→ユニコーンの活動は、佐々木の研究のための原料集め(製薬会社を襲ったり)、資金稼ぎ、そして斜道組の対立組織の力を削ぐ…という感じでしょうか。
藤岡に情報をリークしているのは佐々木ではないかと。理由は、ユニコーンのハイブリッドの力を削ぐことで自分の組織内の権力を維持するために。藤岡が死ぬならばそれもそれでいいと思っているのかもしれません。佐々木と藤岡の間にあるものは、単純な憎しみだとか嫉妬だとかそういうものでもなさそうで。博士が本編に出てないことからすると、これからまた何かあるのでしょうか。
一也の速水さんへの忠犬ぶりが胸きゅんでした。過去にそこまで心酔するような何かがあったのでしょうか。そのあたりのエピソードも読んでみたいものです。←
●「共犯マジック」北森鴻[徳間文庫]533円(04/10/13) →【bk1】【Amazon】
不幸な出来事を予言する謎の占いの本「フォーチュンブック」。それを手に入れた人々の運命と戦後昭和史が重なりあうように展開してゆく連作短編集です。
ただ、ちょっと詰め込みすぎたというか、ここまでの因縁は強引というか作為的に感じてしまいました。
昭和の空気をあまり覚えていない(もしくは知らない)若い人にはあまり楽しめない作品かも。ストライクゾーンは40代あたりではないでしょうか。私自身は「ホテル・ニュージャパン」の火災や「グリコ森永事件」はわりと記憶に残っていますが、それ以前の事件とかは後に知識として知ったものばかりなので、リアルな手触りを感じないんですよ…
●「ロカノンの世界」アーシュラ・K・ル・グィン/小尾芙佐訳[ハヤカワ文庫]600円(04/10/09) →【bk1】【Amazon】
友達に薦められて読んでみました。
全世界連盟からフォーマルハウト第二惑星に派遣された調査隊は、ロカノン一人を残して全滅してしまった。フォーマルハウトには全世界連盟に反旗を翻したファラデイの勢力がひそかに拠点を作ろうとしており、対抗勢力の殲滅を行おうとしていた。対抗するだけの武器も星間連絡ができる通信機も持たないロカノンは、母星に連絡をとるために、フォーマルハウトの地方のひとつ・ハランの王族モギーンと共に、風虎に乗って敵の基地へ向かうが…
おもしろかったです。美しい言葉の連なりと、それによって描き出される神話とSFと融合した世界の美しさを堪能しました。
この話が出版されたのは1966年(日本で翻訳出版されたのは1989年ですが)、それからすでに38年もの月日が経っています。SFを神話として描きなおすというのは現在では定番手法の一つとなっていますので、その原点となるこの作品が出版された当時の読者が感じたであろう新鮮味は残念ながら味わえませんでしたが、それでも年月の経過による劣化を全く感じることなく、繊細なレース細工のような物語と、詩情性に富む言葉を素直に楽しむことができました。
作者の他の作品も、これからゆっくりと楽しんで読んでいこうかなあと思っています。
●「マリア様がみてる 特別でないただの一日」今野緒雪[集英社コバルト文庫]419円(04/10/01) →【bk1】【Amazon】
「マリア様がみてる」シリーズ最新刊。
待望の学園祭編でしたが、タイトルどおりのあっさりとした話で拍子抜けしました。"トランプみたいに広げる"シーンにはウケましたが。
祐巳ちゃんの妹選びについては、私は特にどちらが贔屓というわけではないので、物語の行方を気楽に楽しめるのですが、気になるのは、どちらかといえば由乃さんの妹選びの方。期限が近づいているのにフラグが全く立っていない状態でどうするんでしょうねぇ。由乃さんにとっては令さまがあまりに絶対的過ぎるから、一目惚れ的な状態になってあっという間に姉妹関係成立…というのも考えにくいし。祐巳ちゃんの妹にあぶれた方を由乃さんが「戦力」ということで薔薇の館に引きずりこむために妹にする…ようなドライなことはロマンスを大切にしているこの作品では起こらない…とは思うのですが… 作者には申し訳ないのですが、なんだか微妙に不安が残ってしまって。どうなるんですかねぇ。
●「トランプ殺人事件」竹本健治[創元推理文庫]660円(04/10/01) →【bk1】【Amazon】
「囲碁殺人事件」「将棋殺人事件」に続く、碁の天才少年・牧場智久くんを探偵とする、20年前に出版された「ゲーム三部作」の新装復刊の完結編。
今回はトランプ(と呼ばれているのは日本だけで、欧米では「カード」と呼ばれているそうです)の「ブリッジ」がモチーフ。
《邪理》という共有ペンネームで耽美なイラストを発表している戸川雅彦と沢村詠子は、片時も離れたことのない、傍目からみて仲良くみえるカップルだった。彼らは熱心なブリッジ愛好家で、この二人がコンビを組むと互いの考えがまるで読めるかのような息のあったプレイをみせていた。あるとき、ふたりのブリッジ仲間の精神科の医師・天野の提案で、戸川と詠子は別の人とコンビを組んでのプレイを行うことに。なぜか異様な緊張が進む中ゲームは進み、ゲームの終了後に詠子は密室状態の部屋から姿を消してしまうのだった…
前二作もそうですが、今回もとても凝ったミステリでした。アイデア自体は特異なものでありませんが、それをこうやって形にしてしまったのがすごい。
断片的な情報しか持たないバラバラのカードが、切り札が場にでた瞬間に全ての意味が鮮やかになるかのような構成が見事でした。この後の牧場くんの話も読んでみたいんですが、今では少々手に入りにくいのが残念。復刊してくれればいいんですが。
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