第124局「さよなら」。「ごめんね ヒカル もうじき私はいく」
緒方十段についていって、ホテルの部屋にきたヒカル。緒方と芦原は同室だったが、芦原は既に眠りについていた。芦原を起こさないように、電気を消して窓際で打つことに。冷蔵庫から取り出したビールを飲みながら、緒方はヒカルのことを高く評価していることを話すのだった。酔ってるせいか、妙に素直で饒舌な緒方。十段になった嬉しさがやっと実感できるようになったとか、世間に認めてもらうためには来年防衛しなくてはダメだとか、今後の野望とかをなんとはなしに緒方はヒカルに話続けた。そして、「saiと打たせろ」と。「オレで我慢してよ」と笑うヒカルに、「まァいいか」とふたりは対局を始めるのだった。
皆が寝静まってる中、かすかな月明かりの元での緒方と「佐為」の対局。そして対局は苦りきった顔の緒方にヒカルが勝利を宣言して終わった。緒方の敗北は酔いのための単純ミスもあるが……それだけではない。ヒカルの練達な打ち方にsaiの影を緒方はみたのだった。でも酔いのためか、確信はもてなかった。
翌朝。緒方が起きた頃には、仕事が終わったヒカルは既に帰路についていた。家に戻ったヒカルは眠くて仕方ないが、「ヒカル一局打ちましょう」という佐為に、「ヘトヘトだぜェ〜」と言いながら付き合うヒカル。
「140年前 私にその身を貸し与えた 虎次郎」
「虎次郎が私のために存在したというならば」
「私はヒカルのために存在した」
「ならばヒカルもまた 誰かのために存在するのだろう」
「その誰かもまた 別の誰かのために」
「千年二千年がそうやって積み重なってゆく」
「神の一手に続く遠い道程」
「私の役目は終わった」
「ああそうだヒカル」
「ヒカル」
「ねェ ヒカル あれ?」
「私の声 とどいてる? ヒカル」
「楽しか―――――」
眠そうな顔で頬杖をついていたヒカルは、佐為がなかなか次の手を打たないのに焦れて顔をあげた…
そこにはただ、風が吹き込んでいるだけ。
「佐為?」と不思議そうな顔をするヒカル。
ついにその日が来ました。WEBジャンプの予告ページが水曜日に更新されていて、そこで表紙をみて知っていたから覚悟はしていたけれども。
物語の必然として、こうなるのは分かっていたけれども。
でも、さみしい。
先週の終わり、秀策が亡くなるときに佐為に「すまない」と謝っていたというエピソードがあったけれども。佐為も、自分が消えることを覚悟した時に、浮かんだ言葉は「ごめんね ヒカル」でした。大切な人において行かれることは辛いことだから。ヒカルにちゃんと取り合ってもらえなくて、一時は「ヒカルなんか 私が突然いなくなってオロオロすればいいんだ」と思ったこともあっても、でも佐為にとってもヒカルは大切な人で。だから謝罪の言葉に… 一番最後の言葉は「楽しかった」でよかった。色々と苦しい思いをしたけれども、最後は前向きな気持ちで。
綿々と続く人の営み。佐為は自ら生を断ち切り、そのために大きな流れからはぐれた形になってたけれども。バトンをきちんとヒカルに渡すことができて、自分は「神の一手」を極めることはできなかったけれども、それでも前に進むことができたと分かって。…佐為がそれで安らぐことができたのなら、それはそれでいいです。
ただ私としては、誰かのためとかじゃなくて、ひとりひとりが自分の力で立ってちゃんと生きてゆくこと、その大切さを(ジャンプ読者のためにも)分かってほしかったけれども。
今回の話は、佐為視点でカメラが動いているから、佐為の表情はほとんど見えてないんですよね。でも背中やネームだけでも十分気持ちは伝わってくる。特に最後の「いない」シーン、描かないことによる衝撃をあれだけ見事に伝えることができるとは。風の吹き込みや空気の穏やかさまで伝わってくるような、見事な絵でした。ほったさん、小畑さんお二人の力があればこそですな。消えるときの佐為の顔は見えなかったけれども……表紙のような穏やかな顔で微笑んでいたのでしょうか。ヒカルが、その佐為の顔をみることができなかったのが残念だけれども。…ヒカルの最後の記憶に残る佐為は笑顔でいてほしかったのに、苦りきった顔の佐為になっちゃったね。そのことがヒカルを苦しめるんだろうなあ。
それにしてもこの表紙は見事だなあ。穏やかな微笑みだから余計泣けてしまう。言葉にしづらい微妙な気持ちをよく伝えていると思います。3週前がカラーだったので、今週またカラーだと知ったときには頻繁すぎると思いましたが、このネームを読んだら担当さんも「カラーでみせなくてはっ」と思うに違いないですな。物語が一番のクライマックスに辿りついたのだし。ジャンプのカラーの順番がどうやって決まっているか知らないから私の邪推にすぎないんでしょうけどね。
佐為は自分の夢をヒカルに繋いで、最後は「楽しかった」と穏やかな気持ちで消えたことを、ヒカルは知らないから。佐為の辛さを分かってやれなかったことを、ヒカルは苦しむんだろうなあ。ヒカルは今まで大きな挫折を知らなかったと思うんですよ。多少友人(三谷)と齟齬があったり、なかなか棋力が伸びなくてヘコんだことはあっても、結果としてはプロ試験は一発で通過したし、色んな人に可愛がられているし。そして初めて本当に大切なものを失ってしまって。残ったのは「分かってやれなかった」という苦さだけで。
その上、ヒカルは佐為を失った悲しみを誰とも共有することができないから。自分の中だけにおさめておくにはあまりにも大き過ぎる悲しみを、ヒカルはどうやって乗り越えることができるのでしょうか。
その苦しさがヒカルを大きく成長させる糧になると思います。
そういう意味では、これからの物語が本当に「ヒカルの碁」となるのでしょう。
佐為復活の可能性はあるのでしょうか。またもとのように「ふたりいっしょに」なることはないにしても、佐為がヒカルに気持ちを伝える機会があればヒカルも救われるだろうに。もしくはめちゃベタな展開ですが、成長したヒカル元に弟子入りした子が佐為の生まれ変わりだとヒカルが気がつくとか……ベタでもいいから、そういう救いはほしいなあと思います。ただヒカルの成長やひとり立ちを描くのであれば、もう一度佐為が戻ってきてヒカルと一緒に暮らすという展開はまずありえないでしょうね。佐為が自分こそが神の一手を極めるという執着をなくしてしまった以上、霊体として存在するだけのパワーもなくなってしまっただろうし。
それにしてもほったさん、こうして佐為が消える展開はいつから考えていたんでしょう。6巻あたりでは確実だと思うんですが…「なぜヒカルに引き寄せられたのか」についての問いは1話からでているんですよね。そのときからこの構想を持ってたりして。…それだとちょっと嫌かも。準主役の佐為を最初からほったさんは消すつもりでいたとは思いたくないんですよ。「明日のジョー」の力石の死のように、初期設定から必然的に物語がそちらに転がってしまった、であってほしいのです。作者にもコントロールしきれなかった、物語の神様の手による悲劇であってほしい。もちろん、「ヒカルの碁」の魅力があの見事な構成にあり、ほったさんはいきあたりばったりでなく先々まできちんと構想をたてて書いているのはわかっているけれども。
「ヒカルの碁」が完結した暁には、ほったさんにはぜひそのあたりのこともどこかのメディアで語ってほしいなあ。
次週の予告は「意を決し、ヒカルが向かった先は…!?」となっています。「じいちゃんちの蔵」じゃ「意を決し」というのからなんかズレてるし…ほったさんが去年の夏に「京都・山陰、そして秀策の出身地である因島にまで取材で足を運んだ」と近況報告に書いてましたが、そのエピソードがくるのでしょうか。ヒカルが佐為の姿を求めての旅に。
さて、緒方さんの話。萌えな話は後回しにして、まずは「緒方さんのsaiがらみの伏線は一体なんだったのですかっ!!」と叫びたい気分。あなたが求めていたsaiは目の前にいたのに、酔っ払って無様な碁をしただけで終わっちゃって。…いやこれもまた長期的にみれば今後に続く伏線かもしれないんですけども、短期的に見れば緒方さんへの期待が裏切られた気分。いきなりの対局が決まって、これが何かのきっかけになるかと知れないと期待してただけに。あう。
…でも酔っ払ってるせいか、相手がヒカルためか、妙に素直な緒方さんがかわいいんですよぅ。アキラの前ではあんなにカッコつけてるのにねぇ。野心家でありながらヘタレな雰囲気をかもし出してるところもラブリーで。
外からさし込むほのかな明かりだけを頼りにした対局というシチュエーションも素敵だし。2年前から緒方ファンですが、ファンになった当時は緒方さんのこんな姿が見れるなんて思ってもみませんでしたよ。1年前の緒方日照りのときにも、まさか1年後にこんなことになるなんて…さあて、今後緒方さんは自らの野心をかなえることが出きるのでしょうか? あっさり倉田さんやアキラやヒカルにタイトルを奪われそうな気がして仕方ないんですが。
巷では佐為が消えたことで「最終回も近いんじゃないか?」という噂もちらほらありますが、まだまだ伏線が残っているからまだまだ続くでしょう。個人的にはこのあたりが折り返し地点じゃないかという気がします。
でも人気投票一位と二位のキャラが物語から消えたジャンプ連載作品なんて前代未聞じゃないかと思うんですが…第一回人気投票の二位キャラ(加賀くん)も消えちゃってるしねぇ。普通は物語としての完成度よりも人気とりの方が重要視されて、人気キャラを優遇し、物語をそれにあわせて捻じ曲げられることはよくある話なのに。ジャンプの体質も変わってきているのか。現に作家に定期的な休載を許すようになったし(ハンターとジャガーはそれは別ですが)。佐為がいなくなったことはとても悲しいけれども、ほったさんには物語至上主義をこれからも貫いてほしいと思っています。
人気キャラがいなくなったことで「ヒカルの碁」の人気は落ちるかもしれないけれども、それを跳ね返すだけの力強い物語を見せてほしいものです。
以降、クサレ話。→緒方さんがヒカルを部屋に連れ込むシーンはなんだか淫靡です。うわー、やらし〜と思ったのは私だけですか? これで芦原さんがいなかったらもっとシャレにならん雰囲気になってそうだ… 緒方さんも酔ってるせいか、なぜかヒカルには気を許してしまっていて。なんか緒方×ヒカルってすごくいいかも。クールにみせようとしつつも、無邪気なヒカルに振りまわされて感情を剥き出しにしてしまう、自分がコントロールできない緒方さん!! うわー、萌え〜。
ヒカルが緒方さんのマンションに出入りするようになって、偶然緒方さんの部屋でアキラと出くわし、嫉妬にかられる(どちらへの?)アキラというのもいいですなっ!! 緒方さんの物語での立ち位置はどうなるのかなあ、これから。
あと、芦原さんの生足につい目が… 色っぽいですな〜〜〜←