第129局「もどって来い!」。日本棋院の奥にあったのは、昔からの棋譜を保管した部屋だった。せっかくだから何かみていくかい?という係員に、ヒカルは秀策の棋譜をお願いする。係員がでていって、部屋でひとり秀策の棋譜を見るヒカル。ヒカルは秀策の棋譜をみたことがなかった。虎次郎は佐為に打たせていたはずだから、この秀策の棋譜は佐為のものであるはず。ヒカルは今の佐為を知っているから、昔の佐為の棋譜をみても…とはじめは思っていた。しかし読み進むにつれ、棋譜から伺える佐為の才能のすごさに驚くヒカル。
「アイツ…天才だ ……もっとアイツに打たせてやればよかった……」
「オレなんかが打つよりその方がよかった なんで今までそう思わなかったんだ そうだよ 佐為が打った方が塔矢だって喜んだだろうし! 佐為という天才棋士に全部打たせてやればよかったんだ!」
そのときヒカルは気付く。虎次郎は、佐為とあった時点で棋士を目指すくらい囲碁のことがわかっていたから、佐為が天才だと気付いた。だからこそ、天才である佐為にすべて打たせてやったんだと。一方、ヒカルは囲碁のことが何もわからなかったから、佐為のすごさに気がつかなかった。ヒカルが佐為の力に気付いた後も、自分が打ちたいから佐為を後回しにして。
「バカだっ!!」
棋譜の上に涙がぽとりと落ちる。棋譜を汚しちゃだめだと一瞬我にかえるものの、涙がとめどなく溢れてきた。
「佐為に打たせてやればよかったんだ はじめっから……」
「誰だってそう言う オレなんかが打つより佐為に打たせた方がよかった!」
「全部! 全部! 全部!」
「オレなんかいらねェ! もう打ちたいって言わねェよ! だから」
「神さま! お願いだ! はじめにもどして!」
「アイツと会った一番はじめに時間をもどして!!」
でも、もうどうにもならない。
あれだけ囲碁を愛していた佐為に、十分打たせてやることができなかった。
佐為が消えるという言葉をちゃんと受け止めてやれなかった。
かけがえのないものを失ってしまった。
とりかえしのつかないことをしてしまった。
…いろんな思いが溢れかえって、ヒカルは号泣するしかなかった。
二日後、日本棋院。大手合の日、対局室の入口で苛立ちを覚えながら待つ和谷とアキラ。時間になってもヒカルは姿をみせなかった。その頃ヒカルは学校で授業中、魂の抜けたような顔で、外をみていた。考えるのは佐為のことばかり。全部佐為に打たせてやるから、帰ってこい…と。
三日後、若獅子戦の初日。ヒカルはまたしてもこなかった。和谷は本田や奈瀬に、ヒカルが大手合にも森下九段の勉強会にも連絡なく欠席したことを話していた。そのとき、大きな音に振りかえった和谷がみたのは、苛立たしい思いを壁にぶつけるアキラだった。
神さまは残酷だ。この場合の「神さま」には「ほったゆみ」とルビを振ってもいいけども。
ヒカルが佐為を失ったことを実感して、佐為を信じてやれなかったこと、佐為に好きに打たせてやらなかったことを後悔して傷つくだろうという展開事態は予想がついていました。というか、ここまでの伏線からすると、こうならざるをえなかったんですが。ヒカルが佐為がどこかに行っただけだと思って必死で探しまわっていたときから、不可避な未来を想像してしまって、心が痛かった。そうならなければいいのにと思ってたけど、ほったさんは主人公を甘やかして主人公に都合のいい展開にしたりしない人だからなあ。
ただ。ヒカル、それは違うよ。ヒカルが自分の力で道を切り開きたいと思ったことは、悪くなんかない。いくら佐為が天才でも、ヒカルの人生はヒカルのものなんだから。逆に「楽な道」を選ばなかったことを誇ってもいいくらい。…もし私がヒカルの立場だったら、佐為にすべてを打たせて私は「神童」としてちやほやされる道を選んでるかもしれない。それは佐為を思いやるというよりも、自分で努力しなくても成果を得られる楽な道ということで。この「ヒカルの碁」の設定では、佐為はヒカル以外の人には見えないのだから実質プロ試験やそういうものも佐為に打たせても周りからはわからないわけです。ただし、読者にはそれをすると「ズル」と思われてしまうけれども。その部分、「ヒカルの碁」では「なぜヒカルが自力だけで打つのか」というのはヒカルのプライドとして描いてたわけです。ただし物語の初期では、ヒカルが「楽な道」を選ぼうとしてたことも表現されていました。佐為の力でおじいちゃんに勝ってお小遣いを貰おうとか、佐為の力で名人になってお金儲けをしようとか。そのヒカルが「自分の力で打ちたい」と思うようになったのは、まさにアキラと出会ったから。アキラの情熱に触発させて、ヒカルは囲碁の道へ。
ヒカルの慟哭シーンは気持ちがビンビン伝わってきて痛いけれども、それ以上に学校でぼんやりと外を眺めている姿の方が痛々しい。眠れないんじゃないかとか、毎晩泣いてるんじゃないかとかそういう風に見えてしまって。…でもヒカルの場合は、佐為を失った悲しみを誰とも共有できないのが辛いよね。誰も佐為のことを知らないから。今更佐為のことを言ったって、妄想扱いされるだけでしょう。…でも個人的にはアキラだったら信じてくれるかもしれないと思っているのです。いや、願っている、か。「幽霊」は非科学的であっても、あの初期のヒカルの恐ろしい強さと不思議なほどの弱さは、佐為のことがあれば辻褄があうのですから。ヒカルがアキラに佐為のことを話すシーン、いつかみてみたいものです。
今後の展開予想。佐為の復活は、私はないだろうなあと思っています。このマンガはヒカルの成長の物語ですから。でもこのままではヒカルが救われないので、佐為が消えたときの気持ちをヒカルが知る機会がほしいものです。…夢枕でもいいから。
無断欠勤というのはプロとしての自覚にあまりにかけますが…気持ちはわかるけども。佐為を失ったことへの自分への罰、もしくは「神さまへの願懸け」として、ヒカルは碁を打たなくなるかもしれません。ひょっとしたらプロも辞めちゃうんじゃないかなあ、とか…このままヒカルがプロとして躍進すればアキラとの対局機会が多くなるのは必然ですし、この物語はヒカルとアキラの「すれ違い」をモチーフにしていることからも、ヒカルがプロを辞めるという展開もありえるかと。…で、そのあとなんらかのきっかけで碁を再開したヒカルは「sai」という名前でネット碁で名を馳せるとか。(←saiの名を継ぐ事を贖罪だと思って)
うーん、でも日韓戦や対中国戦などが予測される以上、プロの舞台から降りることはないかなあ。
あ、一度プロを辞めてしまった場合、もう一度試験を受けて合格するということはできるんでしょうか?
ほったさんは、いつからこの展開を用意してたのでしょうか。「ヒカルの碁」の話って、初めて読んだときには意外に思える展開なのに、一度読んでしまうと「それ以外の手はありえない」と思わせてしまうような必然的な物語にもなっていて。いやもう、すごすぎ。今の話を知った上で一巻あたりから読み返してみても、「おっ、これが伏線だったのかっ!!」と思えることもあって。一話を描いた時点で最後までの大体の構想が決まってたんじゃないかと思えて仕方ありません。佐為のワガママも、ヒカルの無神経な言動も、すべてこのエピソードのための伏線に見えてしまうし。これって妄想?
さて、来週は巻頭カラー…また? 小畑先生、大丈夫ですか〜。
予告によると、「一人暮らしを始めた和谷が伊角さんの情報を掴んで…」みたいな話になるそうです。おお、ついに伊角さん復活ですかっ。現在物語中の日付は5/12で、プロ試験締め切りが6月下旬。プロ試験予選突入が7月下旬。…ということで、そろそろプロ試験の話になるのかな。
今、ヒカルがどん底のときに伊角さんがでてくるって、ヒカルを救うきっかけが一度は地獄をみた伊角さんってことかしら? いや、ほったさんのことだから一筋縄ではいかないだろうなあ。それにしても和谷くん、一人暮らしですかっ!! いいんですか、まだ16歳(か15歳)なのにっ。親がよく赦したものだなあ。
情報あれこれ。
GBAのゲーム版の情報と、アニメ情報と。アニメの設定画が載ってたのですが、これをみる限りでは結構小畑絵してて悪くないです。動いたときにどれだけのクオリティが保てるのかは問題ですが。あと「ジャンプスェスタ」で放映されるアニメの特別編で、小畑さんの書き下ろしのゲストヒロイン(?)のイラストが載っています。めちゃかわいいです…