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【ヒカルの碁 第137局「最後の大会】 01/10/22

第137局「最後の大会」。葉瀬中にて。放課後、ヒカルは金子に呼びとめられて、ヒマなら三谷の練習相手になってほしいと頼まれる。囲碁部には三谷の練習相手になれるようなレベルのメンバーがいないのだ。ヒカルが言葉を濁しているうちに通りかかった三谷がヒカルの力をいらないと怒鳴ったため、話はそこで終わってしまったが、ヒカルの去りぎわにあかりは「大会は日曜日だからせめて応援にはきてほしい」とだけ伝えた。大会を前にして囲碁部のメンバーは真剣に練習に励んでいる。しかも男子は今回の大会が最初で、最後になるだけに必死だった。そんな仲間を見ながら、あかりもヒカルはかつて燃えたのに…と考えていた。
日曜日。ヒカルは散々迷った末、大会の開かれる海王中に足を踏み入れた。「打たねェんだからオレは 佐為 みているだけだから」と言い訳するようにして。大会はすでに始まっていた。ヒカルの目に入ったのは、まず囲碁部女子の面々だった。手をとめて考えているあかりが気になって、つい近くに寄ってみてみる。ヒカルには一瞬でわかる簡単な死活問題だった。あかりがそれを乗りきったのをみてからヒカルが顔を上げると、三谷たち囲碁部男子が視線の先にいた。真剣に打っている三谷のとなりに、ヒカルは筒井、自分と並んで打っていたかつての大会の幻をみる。自分の力で勝利をものにして、3人で喜びあったこと。しかし、今のヒカルは…「思っちゃいけない 打ちたいと思っちゃいけない」と自分の中の何かを押さえつけようとするだけだった。その時、海王中の囲碁部顧問の尹(ユン)先生がヒカルをみつけ、声をかけようとしたのでヒカルは慌てて逃げ出した。ヒカルは自分の中の囲碁への思いを、封じ込めようとしていた。「オレが打ちたいって思ったりしたら もしオレがまた碁を打ったら 佐為は二度と戻ってこない そんな気がする」
季節はとんで、7月中旬。伊角は2か月ぶり日本に戻っていた。帰路につきながら、売店で購入した「週刊碁」を読んでいた。プロ試験予選まであと少し、今年のプロ試験には学生三冠王の門脇もでてくるらしい。伊角はさらに自分よりも一歩先ゆく仲間達の様子をしろうと紙面をくる。越智は真柴に勝った。和谷は手合いなし。ヒカルは…「不戦負?」


少しずつ、光明が見えてきたかなあという気がした回でした。でも最初に言わせてください。…回想で出てくる筒井さんがなんかニセモノぽいんですけども〜。筒井さんはもっと丸い感じなのに。なんか精悍になっちゃって… コミックスでは書きなおしをしてほしいなあ。あれはちょっと…あと編集さん、金子さんに対して失礼ですよ、あのハシラは。
さて。ヒカルが乗り越えるべき問題がはっきりしました。囲碁のために大切なものを切り捨てなければいけないことを自覚をすること、なんでしょう。佐為が戻ることよりも、囲碁を打つことを選ぶこと。
ヒカルはかつて一度、選択したのです。中学の囲碁大会のとき、アキラの情熱にほだされてアキラと佐為を対局させてあげたけれども、途中から自分で打った時に。それは、ヒカルが佐為の影武者にならずに自分自身の力でアキラを追うことを選択した瞬間でした。そのときから本当の意味でこの物語は「ヒカルの碁」になったのです。
そして、今、ヒカルはまた自分の手で選ばなきゃけいない。佐為が戻るかもしれない一縷の可能性を潰してでも、碁を打ちたいという気持ちを選ぶことを。

ヒカルの神の一手への道は、多くの犠牲の上で成り立っています。三谷くんのささやかな夢はもちろんのこと、プロに夢をかけた伊角さん、椿さん、片桐さん、飯島くんに本田くん、多くの人のプロになるという夢を踏み越えてまずはプロの土俵にあがった。プロになっても、多くの人を乗り越え、叩き落していくのでしょう。
「ライジング・インパクト」でよく使われる「GIFT」という言葉があります。これには「プレゼント」という意味だけではなく、天賦の才という意味もあるそうです。きまぐれな神様からの贈り物。

さて、先ほど書いた、「最初におそらくヒカルが次のステップに進むためには、自分の進む道が誰かの犠牲の上でできていることに自覚的になることではないか」という話に戻ります。
「ジャンプ」に連載されている作品の主人公は、「天才型」であることが多いです。バトル中心のマンガが多い「ジャンプ」では、読者が感情移入をして爽快感を感じるためにはそれがベストな選択なのだと思います。(この逆方向のベクトルに存在しているのが「全然冴えない普通の主人公なのに、女の子にはモテまくる」というタイプの話なんじゃないかと思うのですが…)
で、天才型の主人公の性格はなぜか同じパターンが多いです。ずばり、「天然バカ」。翼も悟空も、花道もルフィもゴンもガウェンも。彼らは総じて自分の才能とそれによって生み出される犠牲に無自覚であります。もちろんそれは悪いことではありません。そのカラリとした部分が彼らの魅力なのでありますから。
「ヒカルの碁」におけるジャンプ的な天才に当てはまるのは佐為でしょう。彼は碁を打つことが楽しくて、それだけがすべてで、他のことにはあまり関心が持てません。たとえば秀策にとりついたときに、ずっと佐為が秀策のかわりに打っていたことを悪いとはあまり思っていなかったことからも伺えます。また自分が碁で容赦なく切り捨てた相手をさほど気遣いません。浮世離れしています。…まあ霊ですから。それは佐為が天然系の天才であっこと、そして碁への執着だけで霊(というより精霊かな?)となって蘇った以上、盤外のことに関心が向かないのも仕方のないことでしょう。(名人との対局のときも相手は「プロをやめる」とまで言ってるのに、プロをやめて生活はどうするんだとかそういう相手の今後のことを全く考慮にいれてなかったあたりが佐為らしいですね。)
さて。物語上、「才能」については佐為の方が華々しく描かれていたことと、ヒカルは壁にぶつかってモタモタしてたからヒカルが実は「ギフト」の持ち主であったことは本人、周りの人だけではなく、読者にすらわかりにくいものでした。特に初期なんて、ヒカルの才能については「記憶力と集中力がすごい」「一見悪手が好手に」「カンはいい」程度にしか描かれてなかったですし。佐為やアキラが圧倒的な力で強い相手を一刀両断する描写はあっても、ヒカルの場合はそういうのなかったですもんねぇ…
よく考えなくても、碁を始めて2年もたたないうちにプロになってしまうというのはとんでもないことなんですが、ヒカルの力の描かれ方ってなんか地味でしたから… 私がやっと「おや?」と思ったのが、ヒカルvs秀英戦の頃という遅さ。そういえばこの一局はある大きな節目でした。この一局が物語上で果たした役目についてはまた深く語りたいのですが(この一局への伏線の収拾のさせ方とこのエピソードのその後の波及の仕方があまりにも見事で)、ヒカルと佐為の関わり方についてだけ。この一局を境にヒカルと佐為の精神的なバランスの傾きが変わっているです。微妙に。ヒカルが無意識上で佐為に感じてたコンプレックス(アキラが元々はヒカルを通して佐為を見てたことに端を発しているのでしょう)を少し払拭することができ、佐為は自分の存在の危うさを自覚してしまう。
そして、決定打が訪れたのは、佐為と名人の対局が終わったあとでした。「千年の答」ですべての意味がひっくり返ってしまう瞬間の鮮やかさ。そして、囲碁の神様の寵愛を一身に受けていたのがヒカルであることが明示された以上、ヒカルの才能と佐為の才能は両立することはできない。だから佐為は消えるしかなかった。佐為を失ってヒカルははじめて犠牲に気がつく。
…今からすると、(一部ではかなり批判されていた)佐為の無邪気な残酷さも、ヒカルのワガママ部分も全部計算した上でほったさんはエピソード組み立てていたんじゃないかと思えて仕方ありません。それとも初期設定がそういう性格のキャラだったからこそ、話が転がってこうなったのか。連載が終了したら、ぜひともほったさんに話を伺ってみたいものです。

予告によると、「ヒカルの家に向かった伊角だが、予想外のヒカルの言葉に…!?」となってます。ほう、伊角さんもからんできますか。でもここまできて伊角さんでヒカルが立ち直るための決定打になるとも思えないけれども… ヒカルは誰かに答えを教えてもらうんじゃなくて自分で気がつかないといけないんだけども、伊角さんがそのきっかけになるのでしょうか。

話戻って。囲碁部の大会の結果はどうだったのでしょうか。三谷くんはともかく、他の面々からすると海王中には勝てないだろうけども、納得ができるような結果になってたらいいのになあ。そういえば小池くん以外はみんな三年生だから、先輩たちが卒業したら彼ひとりなんですけども…大丈夫なんでしょうか。心配。
プロサイドでは、やっと門脇さんが再登場ですね。佐為と対局したことのある彼がどう話に絡んでくるのか楽しみであります。また「週刊碁」の一面が「緒方先勝」ではないですかっ!! 碁聖は塔矢名人でしたから現在空位、おそらく乃木さんという方と緒方さんで争ってたんでしょう。今まで乃木さんの名前はでてきてないし、これはきっと緒方さんが二冠になるのではっ!! …と期待をしています。裏面は「桑原防衛」…とかいてあるように思えるんですがどうでしょ? そうだとすると、時期からしても本因坊戦。あら、倉田さん勝てなかったのね。でも桑原先生は緒方さんの獲物なので、来年ぜひ緒方さんが叩きのめてくれないかなあ。
それと、ユン先生がみたってことは、ヒカルが囲碁大会を覗きにきてたことはアキラにも伝わるでしょうね。それでアキラは動くのでしょうか?

オマケ。棋戦のタイトルは主なもので七つ(もしくは八つ)あります。それぞれのおよその開催時期と「ヒカルの碁」の中でのタイトルホルダーをまとめると、
名人 空位(塔矢行洋) 9-11月
本因坊 桑原仁 5〜7月
棋聖 一柳 1〜3月
十段 緒方精次 3〜4月
碁聖 空位(塔矢行洋) 7〜8月
天元 空位(塔矢行洋) 11〜12月
王座 空位(塔矢行洋) 10〜12月
(富士通杯世界選手権 ? 4〜8月)
となります。

検索していたら日本棋院のオンラインショッピングのページをみつけました。あの「幽玄の間」の掛け軸の複製なども販売されています。でもあの文字を書いたのは文豪・川端康成だったんですね。それは知りませんでした。


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