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【アニメ ヒカルの碁 第59局「塔矢行洋引退!」】 02/12/01

今週のダイジェスト。
・塔矢名人引退の報に、日本棋界に衝撃が走った。塔矢名人は理由を誰にも言わずに引退をしたのだ。
・アキラは対局のために日本棋院中部総本部に来ていた。塔矢名人引退について職員に聞かれたアキラは、自分も理由は知らないが、母親も心配しなくてもいいと言ってるし、対局が減るどころか、多くの棋士が家にやってくるので対局には不自由をしていないと答えた。
・それでも納得できない棋院の職員に、アキラは「父の好きにさせてあげて下さい 代わりにボクが頑張りますから」と笑顔で告げるのだった。
・そこに現れた一柳棋聖との会話から、アキラは自宅に対局のためにきた倉田との会話を思いだしていた。倉田もヒカルに注目していたことを聞いたのだ。
・アキラはこの日名古屋で手合がなければ、東京で行われるヒカルの対局を見ることができるのにと考えていた。
・東京では、ヒカルの対局があった。相手の三段棋士はこの日実質初手合になるヒカルのことを嘗めていたが、落ち着き払ったヒカルの様子に動揺する。
・ヒカルは19路の碁盤を狭くすら感じていた。そんなヒカルに、佐為は複雑な思いを抱く。
・対局が始まった。ヒカルは対局相手の三段を圧倒する力を見せるが、それでも果敢に攻めるヒカル。そんなヒカルの強さを暗い瞳で見つめる佐為。そして、遂に対戦相手は投了した。
・一方アキラも余裕の勝利。アキラの対戦相手の石原は絶望的な力の差を感じていた。
・帰り道でアキラはヒカルのことを考え続けていた。
・その日の夜、ヒカルの部屋。佐為と対局をしながら、今日の手合いのデキを満足気にヒカルは語っていた。そんなヒカルに苛立ちを覚えて佐為は「ヒカルなんか私に勝てないくせに」と口に出してしまった。心の底では「もっと碁が打ちたい! 永遠の時間がほしい!」と叫びながら。そんな佐為にヒカルはついムッとして自分がいなければ佐為は碁石も持てないのに、と言い返してしまう。佐為はその言葉に傷つき、ヒカルは取り繕うとしたが答えてくれない佐為にヒカルはスネてしまう。
・翌日、ヒカルは母からじいちゃんの家の蔵に泥棒が入ったという話を聞いた。祖父母にはケガがなかったらしい。蔵の碁盤を心配する佐為におされて、ヒカルはじいちゃんの家に行く。碁盤は盗まれていなかったものの、蔵に碁盤を見に行ったヒカルは、自分にだけ見えていたはずの吐血の跡が昔に比べると薄く見えることに気がつく。驚愕する佐為。

この週は、原作2話分をアニメ1話に。作画は、アキラやヒカルは結構きれいでしたが、佐為がイマイチで… 残念でした。

名人の引退へのトップ棋士それぞれの反応がキャラの個性を見事に表していてうまいです。若手はオロオロという感じですが(ズルイって子供のように怒る倉田はとてもらしい)、オヤジたちの反応が深い。最後に桑原本因坊の何もかも分かったような感じのつぶやきでしめるあたりが、見事。
アキラは父親の引退に取り乱したりしなかったようです。詳しい描写はされてませんが、saiとのことでなにやら薄々感づいていたのでしょうか。それにしても明子さんはさすがあの名人の奥さんというべきか。ああやってありのまま受けとめてあげる度量というのはすごいですね。でも作中でも語られてましたが、生活に困っていないとはいえ年収1億円がふいになるのに。……お金にはあんまり執着してないんでしょうね、あの一家は。
アキラはあいかわらずというか、もうヒカルのことになったら盲目です。対局後の呟きも、ほとんどポエムにしか思えませんが…
で、そのアキラのポエム…自問自答にもありましたが、アキラとヒカルが「君の名は」ばりにすれ違っていること自体、単なる物語上の趣向というよりは物語の根本構造であるともいえます。普通少年マンガ、特にジャンプでの主人公と第一ライバルは戦いを通して友情や共感を育んでいくものですが(第一ライバルが固定ではなく、パワーインフレで代替わりしていくのもよくある話ですが)、「ヒカルの碁」ではアキラが別れを告げてから2年間、物理的距離は近いのに二人はロクに言葉さえ交わしていません。こういうことからしても、「ヒカルの碁」の物語構造自体はバトルマンガより「恋愛ドラマ」に近いのではないかと思っています。誤解と思い込みとすれ違いが物語を加速させる。アキラとヒカルのすれ違い、そして佐為とヒカルの齟齬。これが物語にもたらすものは…

アニメではヒカルを「悪く」描かないようにフォローをいれていたので、あのセリフはカットされるかと思っていましたが… 今回、ヒカルは絶対に言ってはいけない言葉を口にしてしまいました。佐為はヒカルを通さないことには、外部との接触を全く持てないこと。そのことについての佐為の悲しみは今までも何度も描かれているから読者は佐為の切実さを分かっているけれども、佐為はヒカルには直接ぶつけてないから、ヒカルはもうひとつ分かってないところがあるんですよね。かといってそれについてヒカルを責めることはできません。なぜなら中学生でそんな複雑な人の気持ちなんてわからないものでしょう。たとえば親がどんな思いで子供に接しているか、とか。人の気持ちがわからないことですれ違って、傷ついて、少しずつ相手の気持ちを思いやることを覚えてゆくものなのですから。
自負心が邪魔するから素直に気持ちをヒカルに告げることができない佐為。その苛立ちをついぶつけてしまう佐為も大人げないけれども。それでも、碁が好きなんだねぇ。気持ちは切ないほど伝わってくる。でも「永遠」なんて特権はたぶん神様は与えてくれません。「ヒカルの碁」という作品は、主人公たちだけに都合のいい世界を持つ作品ではないのですから。

さて、「ヒカルの碁」はある意味「オバケのQ太郎」「ドラえもん」の系譜である異界生物同居型物語であるとも言えます。もし物語世界がギャグで、作中での時間がループしているタイプであれば「主人公と友達」は「永遠に一緒」でもいいかもしれませんが、シリアスな作品であれば「依存関係の解消」と「主人公の精神的成長」がワンセットで乗り越えるべき壁として登場します。…その葛藤を避けて「仲良く暮らしました」に逃げちゃう作品もありますが、「ヒカルの碁」では物語中でも佐為とヒカルがいつかは別れるということは何度も示唆されているように、その葛藤を避けることはありませんでした。その物語上の必然の葛藤をどう描き、どう昇華させたのか。これから先待ちうけているのは、「気持ちいい」だけの物語ではありませんが、この一局の行く末をできることなら見守ってもらいたいなあと思います。

さて、先週の続きの作中での日付のまとめです。ちなみにすべて2001年の出来事です。
?/?(??) 倉田と名人の対局。アキラが倉田からヒカルの名前を聞く。
5/2(水) アキラは中部で対局。ヒカルは東京で大手合。
5/3 (木) じいちゃんちの蔵で、ヒカルは碁盤の吐血の跡が薄くなったことに気がつく。

アニメと原作との違いです。
(1)塔矢行洋引退に動揺する棋士たち。
原作では誰に言ってるのか描かれずモノローグに近い感じでしたが、アニメでは何人かの部分がマスコミの取材を受けての応答という形になってわかりやすいのではないでしょうか。
ただ、森下先生のセリフは、原作ではもっと思いつめてのセリフに見えたのに、アニメではわりと気楽に様子を見に行くような感じになっていたのが個人的には残念でした。
(2)一生勝てない
アキラの対局相手の石原さんがそれを呟くシーンの前後が少しカットされていました。石原さんにアキラの力を聞いた相手が、低段者の手合いは棋譜が残らないから強いという噂を聞いても具体的なものはわからない…というようなことを言う原作のシーンがアニメではカット。
またこのセリフを言うときの描写、アニメよりも原作の方がかなり深刻そうに見えました。
(3)ヒカルの部屋にて。
ヒカルのセリフがひとつアニメではカットされていました。今日の快勝を嬉しげに話ながらヒカルは「オレをなめてかかるからだ!ザマミロ!」と言います。このセリフがカットされたのは時間の関係ではないかと思います。ヒカルの「生意気そう」なセリフはその前のだけでも十分ですから。ちなみに佐為がヒカルにきつい言葉を投げながら、心の中では「もっと碁を打ちたい」「永遠の時間がほしい」と思うシーン、アニメでは原作そのままに気持ちが「文字で」浮かび上がってましたが、ここは声優さんのセリフでやってほしかったなあ。
(4)蔵に泥棒
原作ではヒカルにそのことを伝えたのは父親です。ちなみに手や足など体の一部しかでてきませんが。アニメではその役割も母親になっていました。正夫さん、ただでさえ出番の少ないのに。
あと、警察がきて、鑑識の人が指紋をごっそりとっていったというじいちゃんのセリフもアニメではカット。ここも時間の関係だと思います。


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