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『Eden』番外編〜シーファ 2
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ルームメイトはわたしを含めて四人だった。授業が終わると各自の部屋に戻る。その部屋のメイトのことだ。 わたしを除く三人はすでに知り合いみたいで、わたしだけ、ういていた。 でも、クァラマダという発音しにくい名前の人が、わたしに話し掛けてくれた。 「シーファさん、よね。知っているかもしれないけど、わたしクァラマダっていうの。これから六日、仲良くしようね。」 元気そうな彼女は、そう言って握手してきた。 「よろしく。」 わたしも挨拶を返した。 同室のみんなは親切な人たちばかりだったけど、一緒に授業している人の中には、そうじゃない人も居た。 「シーファさんって、両親とも神社で働いているんでしょ?」 名前も知らないような人が、わたしに話し掛けてくる。 一人でくるなら良いけど、他に二人、引き連れていた。 直感的に、この人はわたしに文句を言いに来たんだと分かった。 「良いよね。コネがある人は。」 多分、この人はわたしよりも年上だった。自分にはコネがないから、試験に受からないとでも思っているのだろうか。 「無いよりは良いかもしれませんね。でも、そんなことで人から色々言われるくらいなら、コネなんて無いほうが良いかもせれませんよ?」 わたしは、彼女に向かってそう言ってやった。 わたしは、言われたままではおかない、言い返すタイプだ。 意外にも、わたしがそう言ったのをクラスメイトの数人に聞かれていて、わたしは逆に攻撃対象になってしまった。普通の学校で例えると、新入生いじめのようなものだ。 とは言っても、みんなでぐるになったりすることもなく、結論だけ言えば、無駄なおしゃべりをせずにすんだ、というだけだった。(だって無視されているから。) ルームメイトの三人とは、余計に仲良くなった。 午前中は授業で、午後はゲーム、というのが毎日のメニューだった。 ゲームの時に分かったんだけど、クレヴァス先生は、何が何でも不正を許さない人だった。じゃんけんの後だしすら、しつこく追及するのだ。 そんな人だから、授業中に手紙の受け渡しや私語をしようものなら、今時ありえないと思うかもしれないけれど、本当にチョークが飛んできた。 んー、わたしはチョークを投げられたことはないけれど、クァラマダ達は、一時間の内でもしょっちゅう投げられていた。しかも、コントロールがすごく良かったりするから驚きだ。 投げるのはいいけど、そのうち投げるチョークが無くなった時に、拾いに来るのには笑ってしまった。 先生の声は聞き取りやすかった。ただし、黒板の字はきたなかった。多分これは、チョークが短くて使いづらいからだろうと、わたしたちは話していた。投げたチョークは折れてしまうもの。 三日目に、一時間中ずっと演習問題を解いたことがあった。 わたしの席が一番前のせいか、先生はわたしの周りを何度もうろうろしていた。 (あーっもう、うっとうしい。わたしの視界から消えてよ) と思うけど、まさか言葉には出せない。 授業が終わってから、そのことをクァラマダたちに言うと、 「わたしも。」 と、言われた。みんな迷惑がっていたんだと分かって、何となくホッ。 「別の先生の方が良かったねー。」 一人が言った。 「そうよね。どうせこっちは女ばっかなんだから、先生も女の人が良かったのに。」 「でも今回、女の先生少ないよね。ほら、誰だっけ、クレヴァス先生とよく一緒に居る先生。」 「あー、あの人も女の先生よね。でも、本当に、名前なんだろ?」 みんなが話していた。 クレヴァス先生とよく居る女の人、といえば、あの人しか居ない。あの、黒い長い髪の、化粧の濃い先生。ちょっと口紅赤すぎない? って言いたくなるような、派手な赤い口紅が遠目に見ても目立つ。赤い色が好きみたいで、服も大体赤い色だった。 (クレヴァス先生と同じ学校の人かしら。) わたしは思っていた。 でも、その女の人はクレヴァス先生とは別の学校の人だった。だから、どうも彼女がクレヴァス先生にアプローチしているらしい、という噂が広がった。 授業が終わるのが嫌だ、そう思ったのは、五日目の午前だった。はっきり言って、授業内容はどうだったか、なんて聞かれても、わたしには答えられない。 だって、何も聞いていなかったから。ううん、聞いてはいたんだけど、理解しようとしてなかったから。聞いていたのは、授業の内容じゃなくて、先生の声。 赤い服の女先生は、名前が結局わからなかったから、そのまま、赤い先生と呼ばれていた。授業が終われば、すぐにその赤い先生がクレヴァス先生の所に来る。だから、授業に終わって欲しくなかった。 いきなりぶつかって、その相手と恋に落ちる、なんてバカげた青春ドラマ、起こるわけないじゃん、って思っていたのに、わたしは……。 それでもやっぱり授業は時間通り終わった。クレヴァス先生は本当に几帳面な人で、時間は完璧に守るのだ。そういう所も、わたしは好きなんだけど。 お昼休みに、わたしは思い切ってクァラマダに相談してみた。人を頼らなきゃならないほど、わたしは思いつめていたのだ。 「わかったわ。今日と明日のゲームの時間に、なるべく先生とシーファがペアになれるようにがんばってみるから!」 クァラマダはそう言った。 でも、当てにはできなかった。だって、ただ彼女は面白がっているだけだもの。 相談してから気付いても、もう後の祭り。 その日のゲームはカードゲームで、先生ばっかり見ているうちに終わっていた。大体、あの赤い先生は、何のつもりがあって、クレヴァス先生に付きまとうのか……。 |