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最後の戦士達

「城に入る坂の下で待ち合わせ、か」
 トライが独り言のように言った。
「カムはとっくに王との話を終わらせているだろう」
 ユメたちは道に迷い、町中を歩き回ってやっと、カムと別れた場所までたどり着いたところだった。スパアロウの家に行ったのはまだ明るい時間だったが、今は西の空に夕焼け雲が少し見えている位だ。つまり、もう日は山の向こう側に沈んでいた。
 カムは随分待っただろう。
 そう思って、誰ともなしに歩く早さが速くなっていく。城への坂道が見え始めたころには夕焼けなど消えて、代わりに星がきらめいていた。
 坂の下に人影が見える。
「カム」
 ユメが呼ぶと人影が振り向いた。
「ごめんなさい。遅くなってしまって」
 セイがカムに向かって声を掛ける。
「ああ、そうだな。もう随分暗くなった」
 カムは、夜になったことに今気づいたかのように、そう呟いた。
「考え事でもしていたか? カムに考え事は似合わないな」
 ナティがカムをからかって言う。
 カム自身はからかわれたことなど気にならなかったようだ。当然何か言ってくるだろうと思っていたナティはそんなカムの反応に驚いた。
「宿を探そう」
 ユメが言う。
「宿なら俺が案内しよう」
 カムはそう言って、そこから一番近くにある宿に皆を案内した。
 セイたちには知られたくなかった。そのためにはユメと二人になる必要があったが、それは無理だと思えた。
 だとしたら、別の方法を考えなければいけない。それとも、セイに分かっても、仕方がないのかもしれない。

 次の日、ユメたちはコヒの宮に向けて歩き始めた。カムの話では二十日前後でエクシビシュンの西の端、つまりコヒの宮のある島へ行ける船が出る町、ザッドデイに着くということだった。
「コヒの宮への船は一日に一本しかない。正午にザッドデイを出発して、夕刻には島を出る船だ」
 カムはそう言った。
 だが俺はコヒの宮へは行かない。
 カムは思った。王に言い付けられたことをエクシビシュンに居る間にする必要があった。勿論、それも王の言い付けだ。
 ザッドデイまでの道程は砂漠を歩くよりは楽だった。
 この道があの砂漠のようだったらいい。
 カムは思う。ザッドデイには行きたくない。もっと時間があればいい。
 だが時間があったからと言って、別に何も変わらない。
 カムの思いも空しく、ザッドデイには予定よりも速く着いた。
「コヒ行きの船が出るのは正午だったな」
 ユメが確認するように言う。日は西に傾いていた。
「ああ。もう無理をして歩くこともない。宿を捜そう」
 カムはそう言って、宿を捜すのに先頭に立った。
「五人の部屋はありませんが、二人部屋と三人部屋があります。それでいいですか?」
 ユメたちは宿の者にそう言われ、カムが頷くと鍵を渡された。
「二部屋とも二階です。階段を昇って左の部屋と正面の部屋です」
 三人の部屋にはユメ、セイ、トライが、二人の部屋にはナティとカムが入った。

「二人部屋、にしては広いな」
 カムがナティに言う。
「そうだな。結構いい所なんじゃないか?」
 ナティが暖炉の模型の上にある置き時計を手にとって言う。部屋は広いし、飾り付けもなかなか豪華だった。
「ナティ、お前寝てたから知らないだろ」
 ナティは自分が背負っていた荷物の中の薬草を調べている。
「アブソンスの宿に泊まったとき、俺たちが順の取り合いしてる間にユメが先に風呂に入っちまっただろ。あの後着替え持って行かなかった、とか言ってタオル一枚だけ巻いて出て来たんだ」
 カムはそこまで言って、ナティの反応を窺った。
「ユメはそういうことを気にしない人だよ」
 ナティはカムを見てそれだけ言うと荷物を片付けた。
 カムがおもしろくなさそうな顔をする。ナティは付け加えた。
「ユメのように気にしない人が羨ましい。俺は気にしてばかりだからな」
「女みたいだって言われる事をか?」
「……いけないか?」
「いや、いけなくないが」
 カムはそう言ったきり、黙ってしまった。
 カムはいつもと少し違う。何か焦っているような感じがする。
 ナティは思った。今の会話も、カムが自分の気を紛らわすための物だったという気がした。
「カム、お前いつもと違うな。何か変だぞ?」
「そうか?」
「そうさ。王と一体何を話した」
 カムは迷った。できれば言ってしまいたかった。言って、王の言い付けなど忘れて、コヒの宮に皆と行きたかった。だがカムは言わなかった。
「王にそれを話すことは止められている」

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