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最後の戦士達

 

「王にも、ウォーアと同じ蜘蛛が巣くっていたのか」
 港への道すがら、ユメたちはエクシビシュンの王の事を話した。
「ええ。何だか、自分が自分でなくなるって。それで自分で何をしたのか分からない時があるって言っていたわ」
 セイが王の言葉を伝える。
「だとしたら、俺に命令していたのも、王の、王でないときだった、という訳か」
 カムが言う。
「その蜘蛛は、人の意識まで乗っ取ることができるってこと?」
 トライが尋ねる。だがその質問には、まだここにいる誰にも答えることができなかった。
 ナティが執り成すように、小瓶を取り出して言った。
「これを調べれば、きっと分かる」
 それで王の話は終わった。そしてアブソンスの話になる。スパアロウもハーリーもいい人で、アブソンスはこれから、もう二度と、ウォーアの時のような悲しい悲しい思いはせずに済むだろう。そんな話をした。

 フライディを出てから何日かしたある日、セイが思い出したように言った。
「カムの先生はどうしたの?助けられなかったんじゃ……」
 セイは心配そうにユメを見た。自分の危機に他人のことなど、すっかり忘れてしまっていたのだ。
「お前たちが蜘蛛を倒した後、俺とトライで捜して逃がした」
「だから大丈夫だよ」
 トライがセイの肩に手を掛ける。
 ユメが突然立ち止まって、カムを見た。
「カム、お前の先生から伝言だ」
 カムも立ち止まって、つられて皆が歩みを止めた。
「魔法とは心の力。心があれば、本や杖など要らない。逆に魔法を信じない者には魔法は使えない。それと同じで、仲間を信じない者には、仲間はできない。と」
 伝言を聞いて、カムは少し、その意味を考えた。仲間を信じろ、と単純に考えていいのだろうか。それ以外にも、伝えたいことがあるようだった。
「師匠の言う通りだろうな」
 カムは言った。いつでも、カムに取って、師匠の言うことは正しいのだ。魔法を見世物にして、カムは暮らしていた。両親はそれを修行だとか言っていたが、本当は、カムを持て余して魔法の先生に預けただけだった。だからカムにとって師匠は血の繋がった親よりも、親らしい人だったのだ。
 もう会えないだろうとは思うが、カムはそれでもいいような気がした。ユメから伝言を聞いたとき、自分の、師匠の元での修行は終わったのだと感じたのだ。

 ザッドデイの港に着いたとき、まだ出港までには時間があった。
「コヒの宮は島のどの辺りにあるんだ?」
 ユメがナティに地図を見せて尋ねる。島は周りの大陸に比べると小さいが、それでも小さな町なら一つ、余裕で入りそうだ。
「どの辺と言われてもちゃんとした説明は難しいが、島の港から一本広い道があって、それを行くと宮に着く」
 ナティが言う。
「まあ、宮自体へはそう行けば着くが、島全体がコヒの宮の庭のようなものだからな。人家がある訳でもないし、島に行きさえすれば、そこがコヒの宮、ということにもなる」
「そうか。セイ、出港までにどれくらい時間がある」
「もう一時間もないわ。港に行きましょう」
 セイが、部屋の時計と時刻表を照らし合わせながら言う。
 港は波が静かだった。風もあまりなく、海の生臭さが鼻をつく。濃い緑色をしたこの海では、どんなに暑くても誰も泳がない。人を拒んでいるように見えた。
 ユメたちは料金を払って乗船した。後から、数人乗って来る。コヒの宮に行く人など滅多に居ない。後から来た数人は、コヒの宮の祝らしかった。
 一時して、中の一人が、ユメたちの方へ歩み寄った。
「どんなご用事でいらっしゃるのですか?」
 彼らの内の代表者らしい、灰色の布を纏った、年とった女が話しかけてくる。
 窓から外を眺めていたユメだったが、女が来たのを知って、女を見た。
「父から、コヒの宮へ行くよう、命じられました」
 ユメの返事は簡単で、何の付け足しもなかった。そのことに、女は暫し驚いた様子だった。父親から、何のために命じられて来たのか、ぐらいは言うものではないか、と女は思った。しかし、自分の質問の仕方が悪かったのだと思い、女もそれ以上は尋ねなかった。
 セイが、女に尋ねる。
「コヒの宮はどんな所ですか?」
「宮の本道は石造りになっていますが、他は木でできています。宮の周りは庭園で、大抵の食べ物はそこで作っています」
「何をしにザッドデイまで来たのですか?」
 大抵の食べ物が作れるのなら、どうしてだろう、とセイは思った。
「宮では作れないものや、捕れないものがあります。川がないので川魚は捕れません」
 そう言って女は、セイを含む五人を見回した。四人は自分を見ているのに、一人、まだ一度も顔を向けていない者が居た。女はその少年に見覚えがあった。
「カムスティンではありませんか?」
 女がカムに向かって問いかけた。
 カムが諦めたように、女を見る。
「久しぶりですね。今度も私たちに楽しい魔法を見せに来たのですか?」
 皆の視線がカムに集まった。カムは弁解するように言った。
「違います。今度は……」
 カムが、一度コヒの宮に行っていたことは、皆にとって初耳だった。

 船が動き始めて、女は仲間の所へ戻った。
 船は半時も経たないうちに、島に着いた。

第二章 終 (第三章に続く)  

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