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最後の戦士達

第九章

約束

 ナティの従兄弟のインカムからの連絡は、翌日の昼になってやっと届いた。使いの男は書簡をナティに渡すと、すぐに帰って行った。
 届けられた手紙にナティは目を通した。インカムとは手紙で連絡を取り合っていたが、この距離に居ても手紙で連絡が来るとは思っていなかった。そんなことを考えながら読んだ手紙で、セラが外に出られなくなったことを知った。ナティに会いに行った事を、セラの従者がシドに伝えてしまったらしい。ナティがセトだとシドが知っているかどうかわからないが、本物のセトが現れると困るのはシドだろう。逆に知らなかったとして、王子の婚約者であるセラが他の男の所へ遊びに行ってしまうと、それはそれで困るだろう。それで、セラは現在城の自室にて謹慎処分中だということだ。
 インカム自身も、シドの命令で今は自分の領地である土地の警備に当たらされている。港にほど近い町だから確かに警備は必要だろうが、インカムがいちいち出なくても良いようなものだ。
「まずいな」
 ナティが呟く。
 ナティを城へ導く役が、誰も居なくなってしまった。
 ナティをナティとして慕う者は多いが、セトだと知っているものはごく少ないのだ。
「いつもみたいに強行突破するか?」
 事情を聞いたカムが言う。
「それか、いつもみたいにナティが女装して潜入するとか」
 セイが言う。
「お前ら、それ本気で言ってるのか?」
 ナティが呆れた口調で言った。
「もちろん」
 カムとセイが声を合わせる。
 隣で話を聞いていたガルイグが笑った。
 ナティは溜息を吐いてから、言った。
「仕方ないから、城に居るセラに賭けるしかないだろう。強行突破で行くしかない」
 その場に居た四人は頷いた。
 城までは馬車で移動した。
 城門は閉ざされ、城を囲む堀を渡るための跳ね橋は上がっていた。時期が時期なので仕方がない。
「どうすれば開くんだ」
 カムが言う。
「普通は、大声で名前と用件を言えば、そこの窓から衛兵が見ているので、それで開きます」
 ガルイグが説明する。
 しかし、衛兵に伝えるような名前も用件も、ナティ達は用意していない。ユメが、窓に向かって声を張り上げた。
「本物のセト王子をお連れした。宰相にお会いしたい!」
 突然の行動に皆は驚いたが、城の中に入るのが目的なのだから、それが一番良い案だと思えた。
 暫くして、重苦しい音を立てて跳ね橋が下りてきた。城門も同時に開く。
 門から兵士が数人出てきた。
「セト王子の名を騙る怪しい奴らめ。来い!」
 ユメ達の腕を掴んで引っ張るが、縛られたりはしなかった。こういうところをみても、甘いとしか言いようがない。
 兵士達に連れられて、ユメ達は城の中に入った。
 周りに、自分達を囲む兵士以外が居ないのを確認して、ユメは三人に目配せした。
 自分を掴んでいる兵士を殴って気絶させる。
 他の三人も、同じよう兵士を気絶させた。カムが魔法で眠らせた上、声を奪う。これで目覚めるのも遅くなるし、誰かが発見しても暫くは口を利けない。
「これで自由に歩ける」
 ナティが言う。
 城の中に入るのに大変だから、逆に城の中に居る人間は安全だという思い込みがあり、あまり警戒しないものらしい。
 まずはセラを見つけなければならない。
 城の内部については、ナティが詳しく知っている。しかし、そのどこにセラが居るかまでは分かるわけがなかった。
「セラ姫の部屋は、南の棟の角だそうです」
 ガルイグが言う。
「よく知っていたな。手間が省ける」
 ナティが感心すると、ガルイグは嬉しそうに笑った。
「以前お話した時に聞いたのですよ。部屋が移動したってね。それでうちの使用人を何人か引越しの手伝いにやりまして。ああ、ナティの許可も得ずに、申し訳ない」
「いや、別に良い」
 ナティは移動しながら、髪を結ぶ紐を解いた。長い金髪が肩に流れる。
 ガルイグがナティに、持っていた袋から外套を取り出して渡した。紫色のつやのある生地で出来た、見た目にも豪華な外套だ。ナティはそれを羽織った。
「どうだ。これでちょっとは王に見えるか?」
 ナティが皆を振り返って言う。
「ダメだな。お前には貫禄が足りない」
 カムが言って、皆が笑った。
 セラの部屋の前には、衛兵が二人、扉の脇に立っている。ユメが普通に扉に近付き、衛兵に止められたところで、そのまま殴り飛ばした。
「痛そうですね」
 廊下の角で見守っていたガルイグが言う。
「多少は痛いんじゃない? でもまあ、すぐに気絶するから大丈夫でしょ」
 セイがガルイグに言った。
 部屋に入る。セラが見当たらない。
「セラ姫」
 ユメが呼びかけると、カーテンの陰からセラが出てきた。
「もう。何事かと思いましたのよ」
 頬を膨らませてセラが言う。
「綺麗に気配を消していましたね。立派なものだ」
 ガルイグがセラを褒めた。
 褒められたことで機嫌が直ったのか、セラは微笑んだ。
「あらナティ、良い服着てきたのね。でももっとレースが多い方が良いわ」
 セラがナティを見て言う。
「勘弁してくれ。俺はこういう派手な服は好きじゃない」
「派手ではなくて、かわいいのよ」
 セラが言うのを聞いて、セイは吹き出してしまった。確かに、レースがたくさん付いた服はかわいいに違いない。
「冗談はさて置き、あなたをどうやってセトだと公表しようか、迷ってたのよ」
 セラが言う。
「父に会って証言するか、それとも、もっとたくさんの人の前で証言するか。騒ぎを避けるなら、父にのみ伝えるのが良いのですけど、父がそれで納得するとは思えません」
「なら、もう決まってるんじゃないか。公の場で証言してくれ」
「わかりましたわ。では、放送してしまいましょう」
 セラの案内で、ナティ達は会議室へ向かうことになった。城の第一会議室は元々公に公開するための場所で、放送機材も揃っているのだそうだ。
「一応、観客も集めておきましたの。今頃は皆さん、この国の記録映像でもご覧になっていると思いますけど」
 セラが言う。
 本当に手際が良い。ウィケッドに着いてからのガルイグ達の手際の良さは、この姫によるところが大きいらしい。
 会議室の扉を、セラが開いて中に入った。
「お待たせいたしました」
 セラの声に、スクリーンに映し出されていた映像が止まり、一旦会議室が暗くなる。それから、部屋の明かりが灯った。
 明るくなってから周りを見ると、なるほど、いかにも貴族と言った出で立ちの男女が席を埋めている。
「私の後援会の人達ですの。皆様、良い方ですわ」
 セラが小声で言う。
 いつの間に、これほどの人望を集めていたのだろうと驚く。これがセラの力なのだ。
 セラが大々的に発表した、本物のセト王子の登場は、その場に居た人々を驚かせ、また放送で全国にも知らされた。
 本物のセト王子は、その場の人々から歓迎の拍手を受け、高らかに宣言した。
「本日を持って、わたしはウィケッドの国王に就任する」
 より大きな拍手で、新王はウィケッドに迎えられた。

第九章 終 (第十章に続く)   

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