2
二人は並んで歩き始めた。
「あの、」
ファーシィが言う。
「リードラさんは、冒険者の方ですか?」
「いや、そんな大層なもんじゃないさ。卒業旅行ってやつかな」
リードラは先月上級学校を卒業したばかりだ。
ファーシィが不安げな表情を作ってリードラを見上げた。
「そんな、楽しい旅行気分で来るようなところではありません」
ファーシィの言葉に、リードラは一瞬答えに詰まる。
「……ん、ああ、知ってるさ。俺のご先祖様が、あの山に縁のある人だとかで、勉強ついでに来てみたんだよ。そう言うあんたはどうなんだ。冒険者って感じじゃねえし、他に仲間も居ないんだろ?」
今度は、ファーシィが言葉に詰まった。
「その……、言わないと、駄目ですか?」
「そりゃあな。財宝見つけて、横取りとかされたら俺も嫌だし」
もっともらしい理由を付けて説明する。
リードラには、急に現れたファーシィを信用することはできなかった。一人旅が危険だということは十分承知しているつもりだ。自分の目的の物を他人に取られては元も子もない。この女も、一人だと言いながら実は夜盗の仲間で、自分を殺して荷物を奪う気かもしれないのだ。
「そんなことしませんよ。ちょっと見てみたいだけなんです。伝説のディガーソードを」
「ディガーソード?」
リードラに尋ねられて、ファーシィはハッとしたように口を手で押さえた。
「えっと、あの……、その……」
ファーシィは困った顔をして言った。
「言わなきゃ、駄目ですか?」
リードラは問答無用で頷いた。
辺りが暗くなって大分経っていたので、理由を聞く前に寝る準備をすることになった。宿は未だに見つからないし、人に聞こうと近くの家の戸を叩いても誰も出て来ないので、野宿だ。
リードラは背負っていた大きなリュックから一人用のテントを取り出したが、ファーシィはそんな物は持っていないようだ。聞くと、いつも外套に包まって寝ているのだそうだ。
「案外、安全なんですよ。これにすっぽり入っちゃって丸まってる方が」
外套を地面に広げてファーシィが言った。
「テントとか重いですし、ここに人が居ますって言ってるようなもんじゃないですか。こうやって包まっちゃえば、外からは汚い、って自分で言うのもなんですが、布が転がってるようにしか見えないでしょ」
そう言って、器用に外套の中に収まった。
入る所を見たリードラからは、中に人が入っているようにしか見えないが、知らなければ確かに分かりにくいかもしれない。
「木陰でこれやって寝てたら、朝になって起きてみたら周りが生ゴミだらけでびっくりしたことがあるわ。ゴミと間違えられたのね」
そういって、外套から頭だけだして笑う。
リードラはテントを広げると、もう暗いからと、色の入ったゴーグルを外してテントの中に置いた。
ファーシィを見ていても、盗賊の仲間には到底思えない。いやしかし、油断させておいてこっちがぐっすり眠ったところで財産を持って逃げることも考えられる。
「おい、ファーシィ、あんたテントで寝ろよ。俺、外で寝るから」
女性を気遣うふりをしつつ、外で自分が見張る。なんて良い案だろうとリードラは思った。
「そんな。悪いです」
両手で結構ですの動作をしながら、ついでに首も左右に振る。
「でも、風も強いし、砂だらけになるぞ?」
「ああ、そうかも……、でもそんなお手数お掛けできませんし」
「その布団代わりの外套じゃ、体も痛いだろうし」
「う、まあそれは……。でも駄目です。リードラさんにご迷惑お掛けしたくないですし」
「俺は迷惑だとは思ってないよ。むしろ断られる方が迷惑って言うか」
ついうっかり、本音が出てしまう。
「あ……。ご、ごめんなさい」
ファーシィが謝る。
「その、リードラさんが親切で言ってくれてるのに、わたし、なんだかリードラさんを信用してないみたいな言い方しちゃって。本当に悪気はないんです。その、親切にしていただけたの、凄く久しぶりで。もう、わたしったら。本当すいません」
リードラの真意はばれていないようだ。と言うより、ファーシィは相当、天然が入っているようだ。
「いや、良いんだ。じゃ、ファーシィがテントで、俺は外で良いかな?」
ファーシィは頷いた。
ファーシィは起き上がって、布団代わりにしていた外套を叩く。外套の下は、熱い気候に合った袖なしの薄手の服だ。
|