Guitar Style of ZAPPA


ザッパ的ギター奏法

・Playing Method
 ザッパのギター奏法について少しだけ触れてみたいと思う。ザッパの奏法において、 勿論フレージングは独特であるが、そのピッキングなども、かなり特徴的である。ギターの持ち位置は、 胸より少し下くらいの位置で、これはまぁ普通である。問題は、ピックの持ち方と、ピッキングである。 ビデオなどで見ると、ピックは比較的小さめのものを使用し、ほとんど先端が少しだけ出る くらいまで深く持つ。そして、フロントピックアップよりも上、ネックにかかるくらいの位置で、 なめるようにピッキングするのである。
 「なめるように」と書いたが、ここらへんがザッパの奏法の面白いところで、ピックで弦をつまむように、 というか、引っかけるように、ちょんちょんと弾くのである。 これだと、おそらくそんなに強くはピッキングできないだろうし、実際、 弦に触れるだけでベストな音になるようにセッティングされていたのではないのだろうか。
 何でも、ザッパの使用していた弦のゲージは、普段から割とギターを弾いているようなときは 1弦が.008か.009で始まる、まぁ普通のセットを使っていたようだが、ツアーの最初のうちとか、 あまりギターになじまないようなときは、1弦が.007で始まるセットを使用していたそうである。 こんな細いゲージが存在するんですね。

 余談だが、(特に後年の)ザッパは、ツアー(とそのリハーサル)以外の時はほとんどギターを弾くことは 無いのだそうである。そして、ツアーが決まると、数ヶ月間、指の先の皮が剥けるくらい徹底的に ギターの練習をするのだそうだ。こういったエピソードからも、ザッパが他の多くのギタリスト とは全く異なるタイプのギタリストであることが分かる。ギターに対するアプローチの仕方、 ギターという楽器の捉え方が全く異なるのだ。

・Setting
 セッティングといえば、ザッパの場合、ギターのトーンのセッティングもかなり独特である。 ザッパのギターのトーンは、その年代によって大きな変遷を遂げるが、 それでも初期〜中期("One Size Fits All" あたりまでか)の頃のトーンは、まだ通常のアプローチであったといえるだろう。これが、 特に"In N.Y"のころから変化し始める。
 この"In N.Y"のジャケット写真にも写っているが、このころから(実際はもっと以前からかも知れないが) かなり大がかりなラックマウントのエフェクトが用いられている。 1980年に行われたインタビューの中で、ザッパは自分のエフェクトやアンプについて語っているが、 それによると、この当時は以下のようなシステムとなっている。
AMP:
100Wマーシャルヘッド
ブギーのキャビネット
ヴォックス・スーパービートル
 後には、
100Wマーシャルヘッド
アコースティック270
12"のJBLスピーカ4基搭載のヴォックス・キャビネット
12"のJBLスピーカ4基搭載のマーシャル・キャビネット

EFFECTS:
ハーモナイザー
MXR DDL(ディジタル・ディレイ)
MXR フランジャー
オーバーハイム VCF
 など

SYSTEM:
フットスイッチ24個
フットペダル(ボリュームとVCFコントローラとを切り替えて使用)
4OUTPUT(左右のディストーション系+左右のクリーン系)
ディストーション系はアンプへ、クリーン系は、直接PAへ
・Tone Making

 ザッパの場合、音作りに対するアプローチは、他の多くのギタリストとはかなり異なる。 バンド編成が少人数であった頃は、通常のロックギターのサウンドで充分である。 しかし、中期以降のザッパのバンドは大編成で、ホーンセクションやキーボードなどは序の口で、 ときには一つのステージにギタリストが3人、4人と立つこともあった。こんな中で、 他の音を押しのけ自分の音を前に出すにはどうするか。下手にディストーションなどを掛けてしまうと、 こんな大編成のバンドではすぐに音が埋もれてしまい、何がなにやら分からなくなってしまう。
 一つの方法としては、なるべくギターの原音に近い音を出すことである。 事実、例えば"Shut Up'n Play Yer Guitar"あたりでは、 このような音が多用されている。
 もう一つの方法は、イコライジングによる方法である。つまり、コンサート会場の状況などに合わせて、 必要な周波数をブーストしてやる。ザッパは、どういうときにどこの周波数を持ち上げれば、 自分の音が前へ出るか熟知していたという。
 つまり、ザッパは、他の多くのギタリストのように、「OK、このギターとこのアンプと、このセッティングが俺の音だぜ」 というようなタイプとは全く異なるタイプのギタリストで、科学的な視点から、必要な音を常に引き出せるのである。

 とにかくザッパの、特に中期以降のザッパのギターのトーンは、どれを聴いても素晴らしく美しい。 レコード・コレクターズ誌1994年3月号のザッパの追悼特集で、中村とうよう氏が、「エレキ・ギターで彼ほどつねに美しいトーンを出す人をほかに知らない。」 (日本公演についての感想で)と書かれているが、全く同感である。


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