03年02月に読んだ本。   ←03年01月分へ 03年03月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「キーリ 死者たちは荒野に眠る」壁井ユカコ[電撃文庫]550円(03/02/21) →【bk1】

第9回電撃ゲーム小説大賞《大賞》受賞作。
遠くの星から、聖人たちがこの惑星にやってきたのはもうかなり昔。そして超高純度のエネルギー資源のために争った戦争で、資源も技術も失われた世界。教会の寄宿学校に通うキーリは身よりがない孤独な少女だった。キーリにはなぜか霊魂が見えるのだったが、ある日キーリは自分と同じように霊魂が見える青年に出会う。その青年は人間ではなく、伝説の不死人だった…
死なない青年と、素直じゃない少女と、古びたラジオが列車で旅をするお話。
読んでて、昔の少女マンガSF(たとえば佐々木淳子)を思い出しました。ほろ苦さとノスタルジーの配分が心地よい作品でした。ただ、きれいにまとまりすぎていて、もうひとつパンチが足りないなあ。
イラストは表紙と口絵が雰囲気あってなかなか素敵でしたが、モノクロのは線がイマイチ。本のデザインは鎌部さんで、さすが手馴れています。


●「IX(ノウェム)」古橋秀之[電撃文庫]530円(03/02/13) →【bk1】

本当に待ちかねていました、古橋秀之の新刊。
武術の達人・趙五行とその一行は、隊商の護衛で森の中を通っていたときに、猿を率いて襲撃していた少年と戦った。その少年の右腕は、まるで鬼のような、6本指の異形をしていた…
今回の作品は、中華格闘ファンタジー…というより、あとがきによると「"武侠"小説っぽい感じ」の作品。とにかく、「きもちいいっ」作品でした。
漢字、カタカナ・ひらがなによるテンポのよい連なりで描かれた武闘シーンがリズミカルで、スピードがあって、日本語ネイティブであることの幸せを存分に味わうことができました。
敵味方、ちょい役も含めたキャラクターが魅力的だし(劉一諾が一番好み)、世界観にも深みがあります。物語はまだまだこれからという感じですので、続きがでてくれたらいいなあ…
それにしても何に驚いたかって、この本の読みやすさ。古橋さんの作品の中では、今までで一番すっきりして読みやすいかも。独特のアクは薄まったけれども、コクはちゃんと残っているような。
個人的に古橋さんの作品では「ブラックロッド」「ブラッドジャケット」「ブライトライツ・ホーリーランド」の積層都市・ケイオスヘキサ三部作が大好きなんですが、これは万人にオススメできるタイプの作品じゃないですもんね…


●「パラサイト・ムーン6 迷宮の迷子たち」渡瀬草一郎[電撃文庫]690円(03/02/10) →【bk1】

「パラサイトムーン」シリーズ6冊目。このシリーズは、「迷宮神群」と呼ばれる神々と、それらから影響を受けて「力」を持った人々が神群を狩るために作った組織《キャラバン》と、それらに巻きこまれて翻弄される人々を描いた、現代を舞台にした伝奇小説で、今回ついに4巻より続いた甲院編が完結。
今回はクライマックスにふさわしい、とにかく熱い話でした。今まで名前のみ登場していた、あの2大巨頭の対峙。幼い頃の約束を守って、自らの命をかけて仲間を助ける「実験室の子供たち」の切ない思い。自らの信念のために戦うオヤジのカッコよさ。物語に引きずり込まれて、途中で読むのをやめることができませんでした。おもしろかったです。
今回、この世界の成り立ちの謎…迷宮神群と異能者たち…についての刺激的な仮説がでてきましたが、まさに「世界がひっくり返る」ような感じを味わいました。今回は「世界の謎」については仮説どまりでありましたが、こっちサイドでももっと驚くような展開になるのではないかと期待しています。
特殊な固有名詞が多く、設定がややこしいけれども、物語が進むにつれてこの世界が見えてから、昔の話を読み返すと新たな「絵」が浮かび上がって見えるのがおもしろいです。今回もつい1巻から読み直してしまいました。
固有名詞のややこしい部分は、このシリーズのファンサイト迷月亭にこの世界の設定や用語についての詳しい解説があるのが助かります。
イラストがモロに「美少女萌え」なんでそっち系の作品のように見えてしまいますが、世界観・物語ともにしっかりと作られていて、伝記小説が好きな人にはかなりオススメです。
読むならシリーズ1冊目「パラサイトムーン 風見鶏の巣」から。ただしこれを読んだだけでは物語の意味はわかりにくいと思いますが、二冊目の「パラサイトムーンII 鼠達の狂宴」からどんどん世界がくっきりしてきておもしろくなります。オススメ。


●「玉響に散りて 封殺鬼シリーズ25」霜島ケイ[小学館キャンバス文庫]524円(03/02/06) →【bk1】

「封殺鬼シリーズ」の最新刊。
千年を超えて生きる鬼たちを主人公にした、(広い意味での)陰陽師モノです。
今回の話は、前作と違って派手なバトルはなかったのものの、物語の状況は大きくかわりました。主要登場人物たちもそれぞれの苦しみを乗り越えて、覚悟を決めて。「敵」の正体もはっきりしました。最終決戦に向けて準備は整いました。
ラゴウ編もあと2冊だそうです。次の話はいつ読めるのかなあ。夏までにでてくれれば嬉しいけれども。


●「阿修羅ガール」舞城王太郎[新潮社]1400円(03/02/05) →【bk1】

「熊の場所」以降、ミステリ畑以外からも注目を集めつつある舞城王太郎の新刊。今度は長編ですが、なんと「恋する女子高生」の一人称ということで、どんな話になるんだ一体…と思っていたら、やはり舞城王太郎は舞城王太郎だなあ、という感じの物語でした。
いまどきの少女らしい身勝手さはあるものの、これまでの舞城作品に比べたら「平和」な少女の心の呟きが続くので最初は肩透かしを食らった気分でしたが、「調布アルマゲドン」が始まったあたりから、世界の皮膜がボロボロと剥がれ落ちてゆくように物語は奇妙に変質してゆき、「ああ、舞城だなあ」としか言いようのない独特の世界に突入。ここからどんどんおもしろくなってゆきました。それからあとはマシンガンのように放たれる言葉とイメージの奔流に流されてゆくばかりで。読んでる間中、頭はぐるぐる。
特に、「森」のパートが心底恐ろしかった。底知れぬ悪意を持つ言葉の「冷たさ」が胃に染みてく感じで。でも、あの暗い森に通じる道は、自分の中にもあるんだよね…
舞城王太郎の描く作品では、世界というのはとにかく理不尽で、残酷で、悪意に満ちていますが、それを承知しながら逞しく生き抜いていく「力」が物語に感じられるから、読後感は不思議と悪くなかったりします。
舞城王太郎を読み始めるなら、中篇「世界は密室でできている。」か短編集「熊の場所」あたりがオススメ。最初はこのあたりで自分との相性を試して、もし気に入ったら奈津川家サーガの「煙か土か食い物」「暗闇の中で子供」にいくのがいいのではないでしょうか。この二冊はパワフルでパンチのきいた作品なので、その物語を受け止めることができる精神状態のときに読むことをオススメします。誰にでも薦められる作家ではないけれども、ハマるとズブズブになる作家さん。私もすっかりハマっています。


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