03年04月に読んだ本。 ←03年03月分へ 03年05月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「流血女神伝 女神の花嫁(前編)」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]476円(03/04/27) →【bk1】
架空歴史活劇寄りの異世界ファンタジーシリーズ「流血女神伝」の最新刊は外伝です。「流血女神伝」の中で最強の謎めいた美女・ラクリゼの過去話。今までは小出しにしていた「ザカリア女神」に関する伝承、ザカール人の独特な価値観、「女神の娘」のシステムと今までの謎に対する答えが示された、外伝ではありますが、本編同様に重要な話でした。
独特の宗教と文化・歴史から生まれた、ザカール人の考え方、行動原理の描き方が見事です。私にとっては到底受け入れることのできない価値観ではありますが、その価値観に裏打ちされた世界をリアルに感じさせてくれる筆力がありました。
あれだけ強くて美しく、しなやかで何も怖いものがないように思えたラクリゼにこんな過去があったとは。今回の話がおもしろかったので、「流血女神伝」シリーズの既刊を全部、ザカリア女神関連の部分だけをざっと読み返したんですが、当時はわからなかった会話の意味が解けてゆくのにワクワクしました。ネタバレ→ギウタ攻防戦の頃にはラクリゼは女神との契約をしているようですから、その前に「子供」を犠牲にしているんですよね。その子供の父親って……まさかサルベーン? サルベーンにしても、彼があれだけ女神に執着するのが不思議に思えてしまいますが、それは下巻の方で明かされるのでしょうか。カリエがラクリゼの「花嫁」なのがたしかとすれば、1000人目のクナムはどうやって生まれるんでしょうねぇ…←
「流血女神伝」の世界では、科学技術の発達による合理的精神の芽生えがある一方で、残酷で気まぐれな神様が本当に存在している世界。「人」は「神」に恋焦がれる一方で、「人」は「神」に与えられた運命に必死であがいている、そういう物語です。ジェットコースターのように激しく展開する物語に一喜一憂するだけでなく、見事に作りこまれた「世界観」に酔うこともできる、一級のエンターティメントです。オススメシリーズ。読むのなら、「流血女神伝 帝国の娘」から。
●「源氏がたり(三)宇治十帖」田辺聖子[新潮文庫]476円(03/04/26) →【bk1】
田辺聖子さんの「源氏がたり」シリーズもこれでラスト。
今回は宇治十帖の話です。宇治十帖は光源氏の物語に比べると華やかさでは物足りないのですが、その分しっとりとした味わいがあります。昔、高校時代に田辺聖子さんの現代語訳で宇治十帖を読んだときにはもうひとつピンとこなかったんですが、年齢で物語りに対する受け取り方は変わるんでしょうね。…年をとったんだなあ。
大阪リーガロイヤルホテルで、田辺さんが源氏物語に関する講座を持って、そこで話したことを文章にまとめた本です。小説文章というよりは日常の口語で書かれているので読みやすいし、ボリュームもお手ごろなので、「源氏物語」の初心者向けガイドブックにちょうどいい本ではないでしょうか。
私は現代語訳の「源氏物語」を、田辺聖子さんのと橋本治さんのを読んだだけの浅い読者ですが、読んだことも大昔だから、もう一度読み直してみたくなってきました。
●「色彩の世界地図」21世紀研究会編[文春新書]720円(03/04/23) →【bk1】
国や民族、宗教、知識によって同じ色をみても感じ方も違うし、それに対する意味づけも違ってくるそうです。それぞれの文化圏での色の名前の由来や色に関連する言葉、歴史との関係の話がたっぷりと詰まった本でした。今でも使われている何気ない言葉の裏に古くからの歴史があったり…元は差別用語であったものが意味が変化したり…と、雑学的なおもしろさだけではなく、文化の多様さを感じさせてくれた本でした。
21世紀研究会の本は、「民族の世界地図」も「地名の世界地図」もたしか買ってたはずだけども、どこにいったかなあ… 「人名の世界地図」は読んでたようですが、ほかにも「常識の世界地図」というのも出てたんですね。これは読んでみたいなあ。
●「囲碁心理の謎を解く」林道義[文春新書]690円(03/04/16) →【bk1】
囲碁好きな、大学の先生…専門は経済学のようですが、ユング心理学が好きなようで日本ユング研究会会長もやっているそうです。その方が、囲碁にまつわる心の動きを、ユング心理学を元に解説した本です。
冒頭の方に「ヒカルの碁」の話も載ってまして、ヒカルと佐為の関係を「自我」と「自己」に当てはめた解釈はひとつの説としてはおもしろいんですが、でも完全にネタバレになっているのはどうかと… また、全体的にもうひとつ配慮が足りないなあ、強引だなあという印象が。
囲碁をやることは頭によいというのはわかりますが、「ゲーム脳の恐怖」を持ち出されて語ると萎えます。
ただ、歴史の中の囲碁の話…清少納言や紫式部、江戸時代の川柳のあたりの話はとんがった部分もなくて、素直に楽しめました。
●「インフォアーツ論 ネットワーク的知性とはなにか?」野村一夫[洋泉社]720円(03/04/16) →【bk1】
メディアリテラシーについての本。日本でもここ数年で急速に普及した、ネットでのコミュニケーションと情報流通。でもそれは同時に「市民主義的ネット文化」の可能性があらわれて、あっという間に潰えてしまった数年間でもありました。「インターネット」という言葉にあった幻想が完全に剥がれ落ちた今、「祭りのあと」の気分でネットでの情報処理の心理的プロセスと問題点を構造的に解き明かし、そして今後どうあるべきかという「オプション」について一歩はなれたところから語っている本です。
作者は社会学者であり、そして個人的にもソキウスというサイトを運営してきたこともあって、「外側」だけからでなく「内側」からも冷静にネットについて語られています。私が今までに本やサイトで読んできたネット論(それほど数は多くないですが)の中では一番しっくりきました。
タイトルになっている「インフォアーツ」。ツールの使い方などについて学ぶ「インフォテック」ではなく、「ネットワークに対応した知恵とわざ」である「インフォアーツ」こそが、今後ネット上での膨大な情報と付き合うために必要なものである…ということが本書には書かれています。そしてそれを実現するには教育こそが重大であるが、高校で2003年から始まった情報教育ではまったくそれが実現できない、と。
私はネット黎明期は知らない「パソ通あがり」ですが、それでも(日本では)わりと早い時期にネット参加していること、それなりの人数が集まるサイトを運営して苦労した経験もありました。それで、「ネットの情報との付き合い方を知らない人たち」に苛立ちを覚えて、その人たちに向けた文章をいろいろと書いてきました。でも、最近、そういう自分には本当にちゃんとしたメディアリテラシー能力があるのか?と考えこんでしまうことがあります。「超常現象をなぜ信じるのか 思い込みを生む「体験」のあやうさ」を読んだときにも感じたんですが、結局私も自分の予測に沿った「望ましい情報」だけを処理しているのではないか?、と。
今後は自分の視野は狭くて歪んでいるかもしれない、その可能性を頭に置きながら考えてゆこうかなあ、と。
この本はネット歴が長い人ほど深いものが読み取れると思います。もちろん「昔」を知らない人にも有効。ネットでの巡回範囲が狭い人、2chどっぷりの人には特に読んでほしい本です。オススメ。
●「九十九十九 ツクモジュウク」舞城王太郎[講談社ノベルス]1500円(03/04/15) →【bk1】
清涼院流水のJDCシリーズのトリビュート小説を舞城王太郎が書く…というのを聞いたときは正直不安でした。元ネタが元ネタだけに、どんなのになるのかなあ、って。
清涼院流水は「コズミック」発売当時にいろいろな意味で話題になったこともあって手を出して、「ジョーカー」「カーニバル・イヴ」まではなんとくなく読んだのですが… イッちゃってる設定は楽しんだものの、物語のあまりの薄さに疲れてずいぶん遠ざかっていました。もう何年も前ということもあって、記憶に残っているのは「コズミック」の大ネタだけという状態。
で、「九十九十九」を実際に読んでみたら、予想を大幅に裏切られました。舞城が流水の小説の設定を借りて物語ったというよりは、舞城が流水を飲み込んだかのような、すさまじい物語に仕上がっていました。西暁町や、調布アルマゲドンという舞城作品で幾度となく使われてきた要素も出てきていますし、舞城作品の根幹を成すテーマがまたくり返されていて、暴力と息苦しいまでの愛情が織り成す、まぎれもない「舞城作品」でした。
タイトルにもなっている「九十九十九(つくもじゅうく)」は「美しすぎるあまり、素顔をみると失神してしまう人がでるので、警察からの要請でサングラスをしている」メタ探偵。元ネタのJDCシリーズでは、その設定も「少女漫画的美形表現を大げさにしたもの」というバカ設定にすぎませんでしたが(少なくとも私の読んだ範囲では)、それが舞城王太郎の手にかかると、この設定からとんでもない物語がつむぎだされました。
どんな物語なのかは説明のしようがありません。ミステリ的お約束の「虚構的なリアリティ」を高く積み上げた上で粉砕したかと思えば、突然舞城作品独特の肉体感覚にあふれた奇妙なリアリティが噴出して、それらがぐちゃぐゃと混ぜられて、その混沌とした強烈なエネルギーに翻弄されっぱなしでした。魂を吸い取られて、読み終えてぐったり。
個人的には、これは舞城作品の中でも最高傑作だと思うけれども、あまりにクセがありすぎるので人には全然勧められません… 舞城王太郎ファンで、特に「暗闇の中で子供」の終盤の展開がすばらしいと思った人で、メタミステリ好きな人で、かつ国産ミステリと「新本格派」にまつわる流れをある程度知っている人にはオススメ。流水作品は実際に読んでなくてもそれほど問題はないです。
舞城作品の噂を聞いて読んでみようかなあ、と思っている人は「世界は密室でできている。」か「熊の場所」あたりからの方がとっつきやすいのではないかと思います。
●「蛇行する川のほとり2」恩田陸[中央公論新社]476円(03/04/09) →【bk1】
「蛇行する川のほとり」三部作の真ん中の物語が発売されました。薄いけれども、装丁も物語も言葉も美しい、素敵な本に仕上がっています。
鞠子は美術部の先輩の香澄と芳野に、演劇祭の背景の絵を仕上げるために夏休みの終わりに香澄の家で合宿をしないかと誘われた。憧れの美しい先輩たちに誘われて有頂天になる鞠子だったが、それは鞠子にとって忘れた遠い夏の記憶を呼び戻される、残酷な9日間の始まりだったのだ…
子供でもなく女でもない、危ういゆらめきを持ちながらも凛とした、「少女」。そんな少女たちのきらめき、残酷さ、美しさ。その短い、はかない時間を閉じこめたような物語にすっかり酔ってしまいました。
ミステリアスな幕引きをした1巻に続き、今回も謎めいた展開。岩絵具で描かれた洋画のような美しくくすんだ色合いを持つ、言葉の美しさ。舞台設定、小道具、登場人物たちのかもし出す独特の空気。恩田さんの作品の中でも、「麦の海に沈む果実」が好きな人にはツボ直撃な作品ではないかと。
3作目は8月刊行予定。恩田さんのミステリものは、途中の雰囲気は抜群なのにオチがしおしおなのが多いので心配な部分も大きいんですが、完結編はどんな物語になるのか、今から楽しみです。
●「キャラクター小説の作り方」大塚英志[講談社現代新書]760円(03/04/08) →【bk1】
スニーカー文庫、コバルト文庫、富士見文庫、電撃文庫など、表紙にアニメ絵が描かれた、ティーンおよび「心だけはティーンエージャー」向けに出版されている一連の小説たち。私はNIFTY-Serve出身ということもあってそれらを「ライトノベル」と総称していますが、著者はこれらの小説群を「キャラクター小説」と定義。この本は、その「キャラクター小説」を作るための具体的なノウハウから始まって、「キャラクター小説」の本質とは何か、どうあるべきなのかの話に発展してゆき、最後は今の「ブンガク」にまで言及した「文芸批評」にもなっています。
もともとの文章は雑誌「The Sneaker」で連載されていたものですが、連載時といろいろと変わっている様子。雑誌では読者から実作品の募集したりしてたけど、そのくだりはカットされてますし。そういえば、今は読んでないんだけども、たしかまだ「The Sneaker」に連載されているんですよね。毎回あれだけ「スニーカー文庫」の悪口を書いているのに、よく編集者も載せているものだなあ、と。
中身ですが、「キャラクター」をどう肉付けしていけばいいのか、世界観と物語のかかわり方、そういうテクニック的な話がおもしろかったです。実践的な「うまいパクリの方法」の話も興味深いし。
ただ、「キャラクター小説」と「ブンガク」を対比させての最後の方の話については、最初に「結論」があって、そこに「問い」も「論」もぎゅうぎゅうに押し込めているような印象を受けました。
ミもフタもない、物語の幻想を取っ払った「小説を書くための実用書」としては「物語の体操 みるみる小説が書ける6つのレッスン」の方が具体例もあってオススメですが、4/15に朝日文庫から文庫としてでるようですので、興味があるならそっちを読むといいかも。
●「マリア様がみてる 真夏の一ページ」今野緒雪[集英社コバルト文庫]438円(03/04/01) →【bk1】
一部に熱狂的なファンを持つ、カトリック系お嬢様学校を舞台にした、ほんわかしたソフト百合なお話の「マリア様がみてる」シリーズ最新刊。
夏休みの終わり、紅白黄それぞれの姉妹たちの何気ないエピソードが収められています。今回はまったりとした、他愛もない話でした。
紅薔薇姉妹の話は、裕巳が祥子様の極端な男嫌いをなんとか緩和させようとあれこれ作戦を練る(?)話。裕巳の弟の祐麒がちゃんと男の子していて、とにかくかわいかったです。個人的には、花寺高校の話をものすごく読んでみたいんですが、このシリーズの読者にはウケないだろうしなあ。
白薔薇の話は、以前少し出てきた「タクヤくん」がらみの話ですが、話のオチがミエミエなのがちょっと。黄薔薇の話は短いけれどもいつもながらの強烈なラブラブぶりで、すっかりアテられました。
|