02年06月に読んだ本。 ←02年05月分へ 02年07月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「マリア様がみてる パラソルをさして」今野緒雪[集英社コバルト文庫]438円(02/06/30) →【bk1】
「マリア様がみてる」シリーズ最新刊。カトリック系お嬢様学校を舞台にした、ほんわかしたソフト百合なお話です。
前作の「レイニーブルー」では祐巳ちゃんが失意のどん底状態で終わってたので続きを待ってました。タイトルと表紙でどうなるかはわかりますが、それで想像以上にしみじみといい話に仕上がってました。
雨降って地固まる。祐巳ちゃんも自分の視野の狭さに気がついて一歩前に進めたし、友情の話もじんわりとよかったなあ、と。
あとは茶色い傘の人の話も結構好きだったり。
●「閃光のミオ アグラファ2」三浦真奈美[中央公論社C★NOVELS]900円(02/06/27) →【bk1】
「蒼穹のシディ アグラファ1」の続編。
魔法なしの架空歴史ものです。起承転結の承というあたりなんでしょうか。展開は急変するものの、もうひとつ話が動いた気がしないんですが。
それにしても主人公のミオの礼儀しらずぶりにはつい反感を覚えてしまいます。アティスの上層部が腐りきった人たちとはいえ… まあそういう部分も含めて、ミオの成長を描いてくれるだろうとは思っていますが。
クマとヤギのコンビは結構好きです。彼らもこのままロクでもない運命に飲みこまれてゆきそうで、無事にそれを乗り越えてくれればいいんですが…
●「司星者セイン 魔都胎動」ベニー松山[集英社スーパーダッシュ文庫]514円(02/06/27) →【bk1】
「司星者セイン」のシリーズニ作目。ほぼ2年ぶりに出版です。続きを楽しみにしてたものの、もうでないかと思ってましたよ…
剣と魔法の世界を舞台にしたファンタジーですが、魔法部分のシステマチックな濃い設定が他のライトノベルのファンタジーとは一線を隔しています。今回は話自体は敵も味方も仕切りなおし、嵐の前の静けさという感じでしょうか。
今回は敵方の事情が詳しくでてきましたが、こんなに相手が強すぎてパワーバランス崩れないんでしょうか? この作者なら、そのあたりはちゃんと考えた上で物語を作っているのではないかと思いますが… それにしても悪役が魅力的。
シリーズものはできることなら半年に一冊くらいのペースで読みたいんですが、次に読めるのはいつになるでしょうか。現在の物語のペースから考えると、かなり長い話に思えるんですが。
●「樒/榁(しきみ・むろ)」殊能将之[講談社ノベルス]700円(02/06/25) →【bk1】
講談社ノベルス創刊20周年記念のメフィスト賞作家書き下ろしの「密室本」。関連する二つの短編です。「鏡の中は日曜日」とある意味で同じ話。今回もミステリ好きの「夢」に対する身も蓋もないお話というか…たぶん、トリックのしょーもなさもそういう意味なんだろうなあ。
ミステリにアンビバレンツな思いを抱いている人は自虐的に楽しめるでしょうが、そうじゃない一般の人には「なんだこれ?」になっちゃいそうな話かもしれません。
●「システム障害はなぜ起きたか みずほの教訓」日経コンピュータ編[日経BP社]1400円(02/06/24) →【bk1】
2002年4月、3銀行が合併してスタートした「みずほ銀行」、早々に起きたシステム障害。完全復旧までにずいぶん時間がかかり、マスコミにも随分叩かれましたが、一体何が原因だったのか?については新聞などでは表面的な扱いで終わったようなところがありました。それをこの件を合併発表当初から追いかけている「日経コンピュータ」の記者たちが今までの記事をまとめ、さらに日本の情報システムが抱える構造的な問題とプロジェクトマネージメントについての観点からの話が加えられています。
みずほがなぜ失敗したかだけではなく、成功した銀行合併のルポが結構燃えるので、「プロジェクトX」好きな人にはオススメ。
それにしても日頃「当たり前」だと思っている「引き出してすぐに残高がその場でチェックできること」「他銀行のカードでも使えること」が実は関係者の努力の元でなんとかできていることや、ATMでのサービス体制は日本が世界で一番進んでいることなども知らないことでした。GWや正月の長期休みでATMが止まって「お金がないのに〜」と焦ったことがありますが、ああやって数日に渡ってシステムを止めることができる日がシステムを開発・維持していく人たちにとってどれだけ大切なことだか知って、「それなら仕方ないなあ」と思えるようになりました。それでも銀行預金の利息に対する手数料の高さは心理的には納得いかないなあ…
●「フルメタル・パニック! あてにならない六法全書?」賀東招ニ[富士見ファンタジア文庫]520円(02/06/24) →【bk1】
「フルメタル・パニック!」の新刊は番外編の方でした。本編を楽しみにしてたので少し残念でしたが、今回はどの話もテンション高くて楽しかった。 ラヴ度も高かったですし。満足、満足。
微妙にネタバレ→たしかにどっちも受けだ。←
人型兵器+超テクノロジー+学園ラブコメ。本編は長編シリアス、番外編は短編のバカ話で、ノリがよくておもしろいシリーズですので、未読の方は長編一冊目「フルメタル・パニック 戦うボーイ・ミーツ・ガール」からどうぞ。
●「バーチャルネットアイドルちゆ12歳」ちゆ12歳[ぶんか社]1400円(02/06/21) →【bk1】
いまさら説明するまでもない、人気サイトちゆ12歳の単行本化。
ほとんどがネットでの文章の再録ですが、いつも楽しませてもらっているのでお布施だと思って購入。
結構忘れてるネタもあったし、結構楽しめました。それにしても白地にピンクの文字は読みにくい… まあ黒い文字でのちゆちゃんの文章はあんまりちゆちゃんって気がしないけれども。
●「めざめる夜と三つの夢の迷宮」松井千尋[集英社コバルト文庫]514円(02/06/18) →【bk1】
松井千尋さんは「ハーツ ひとつだけうそがある」や、「犬が来ました 〜ウェルカム・ミスター・エカリタン〜」など、物語のたたずまいがよくて、個人的に先を楽しみにしている、コバルト系の新人さん。一作ごとに力がついてきてる感じですが、今回のお話でさらなる可能性をみせてくれました。
新作はファンタジーの短編がみっつ。微妙に絡み合うお話です。
「辺境王の帰還」:街道がぶつかる町で宿屋『三つの杯亭』の無愛想な娘・リシの元にひとりの男がやってきて、彼女に頼みごとをした。町にやってきた辺境の王子・シェトゾーがホンモノかどうか、を教えてほしい、と…
「小さな夢の迷宮」:昔、世界に溢れていた魔法の力は弱まり、今は世界各地に少しばかり残るだけだった。ある日、小さな村の北にある魔法時代の遺跡から、獣とも人ともつかないうめき声が聞こえ出した。人々が悪夢に悩まされて3日、魔術師の血をひく少女がどこからともなく現れ、その声は聞こえなくなった。それから魔術師の娘はその村住みついたが、誰とも口もきかず、目も合わそうとしないまま、5年がたった。村で一番器量よしの少女・ロタはひそかに魔術師の娘の美しさに嫉妬を抱いていた。そんなある日、ロタの婚約者となる青年が町から村にやってきたが…
「トリシテの伝声官」:神に「言葉を指でしめす」ことを禁じられたトリシテでは、伝声官が歴史や様々な知識などありとあらゆることを覚え、代々の伝声官たちに伝えることで知識を守っていた。一位伝声官のシラは大臣の息子でもあり、苦労のない人生を送ってきた。自由がないことを覗いては…一位伝声官は国の知識そのものであるため、その身を守ることが第一、町からでることすら禁じられているのだ。
ある日、シラの先輩でニ位伝声官のイザクから、シラはひとりの女奴隷を預けられる。彼女はトリシテが10年前に滅ぼしたソの国の生き残りなのだ。ソの国は排他的な島国で、他国と一切交流を持たず、自国の情報や文化を一切もらさず、敗北が濃厚となったときには国民がすべて自決し、後にはソの国のものが何も残らなかった。ソの国は滅ぶ前にトリシテに呪いをかけたという噂があり、それに怯えたトリシテの人々はソの国を奉ることで呪いを避けようとしていた。…シラは一言も喋らない女奴隷の心を開こうとするが…
今はまだ固いつぼみだけれども、いずれは大輪の花を咲かせるであろうと思わせるような、そんな物語でした。凛として、ほろ苦いお話。
どの物語も少女たちのトンガリぶりがいじましくもかわいらしいかったし、物語の「匂い」が感じられてよかったですが、特に三つ目の話がすばらしい。文字が禁忌とされているトリシテという国や「伝声官」の設定もいいし、キャラクターの作りや単純なものではない関係性もよかった。こんな短い物語で終わるのがもったいないなあ…
とにかく、次の作品が楽しみです。
●「リヴァイアサン 終末を過ぎた獣」大塚英志[講談社NOVELS]900円(02/06/11) →【bk1】
新世紀に入った東京は、他国からの難民が溢れかえり、人種のるつぼと化していた。行方不明になって2年、三溝耕平は世紀末の終わりを告げに日本に戻ってくる。人種も性別も違う5人分の肉体がつぎはぎされてできた体で…
「多重人格探偵サイコ」シリーズの作者の新刊。といっても元々大塚さんが原作でマンガで出版された作品のノベライズという形になっています。1999年から2000年にかけて雑誌「メフィスト」で連載されていた話をまとめたもの。
大塚さんがよく使う「終わらない昭和」の世界のひとつですが、他の作品とは直接の繋がりはなさそうな感じです。話は「木島日記」に雰囲気は近い、オカルトファンタジーものの連作短編集です。
新世紀になっても漂う終末感、奇妙なものに静かに侵食されていくような不安、ホントがウソでウソがホントになるような「裏返った感じ」、そういう雰囲気の作り方は相変わらずうまいです。でもこの話は「世界がウソだってホントだってどっちでもいいよ…」と大人が酒飲んで管を巻いてるような、「どうでもいいよ、世紀末」になっちゃってます。好きな人は雰囲気を楽しめるだろうけども、「サイコ」のような尖った冷たい感じを求めてる人にはあわないんじゃないかと。
それにしてもこの口絵ってあからさまな「ブギーポップは笑わない」のパロディだと思うんですが、どういう意図があるのでしょうか。読み終わっての私の印象は「ブギーポップシリーズが好きそうな読者層に対する嫌がらせ?」…かな、と。誰も悪夢に終わりを告げにきてはくれないんだ、と。
●「真世の王 上 黒竜の書」妹尾ゆふ子[EX NOVELS]950円(02/06/05) →【bk1】
●「真世の王 下 白竜の書」妹尾ゆふ子[EX NOVELS]950円(02/06/07) →【bk1】
かつて、《銀の声持つ人》によって作られた世界。しかし作られてから長い月日がたった世界には歪みが生じ、魔物が跋扈する世界となっていた。東方月白領の前線で一兵卒として魔物と戦っていたウルバンは、なりゆきで領主であるソグヤムを救った。その後、ソグヤムと共に王都に赴いたウルバンは、幼馴染で行方しれずになっていたジェンと再会する。ジェンは竜使の地位を引き継いでいた。ウルバンは、ジェンから北方漆黒領の最後のひとりで心を閉ざしたエスタシア姫を守ってほしいと頼まれたが…
美しくて、力強い話でした。言葉によって紡がれた世界の魅力。避けられない滅びに絶望しながらも懸命に立ちあがり、闘う。こういう紹介の仕方では「よくあるRPG」という印象を与えてしまうかもしれないけれども、世界や登場人物たちが「厚み」があるから、物語が直接心に響いてくるのです。
妹尾さんの作品は「世界」の作り方が見事な反面、キャラクターがもうひとつ弱い部分がありましたが、今回の話はなかなかそちらもいいです。特にオヤジキャラたちがいい味を出してます。その中でもソグヤムとクルヤーグの関係が、いいなあ。
ファンタジー好きな人はもちろん、エンターティメントとしても値段以上に楽しめる作品だと思います。オススメ。
ネタバレ感想→ジェンの選んだ孤独があまりに痛ましすぎます。これからの彼の永遠に続く長い日々を、どんな思いで過ごすんでしょうか。でも彼には自分にとって大切な人が幸せに暮らすのをみてるだけで十分なのかも。たとえ自分のことを忘れられてしまっても。←
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