00年9月に読んだ本。   ←00年8月分へ 00年10月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「司星者セイン」ベニー松山[集英社スーパーダッシュ文庫]533円(00/9/29)

「小説版ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春」のベニー松山さん久々の小説。オリジナルは初??
魔女アグネスが大陸征服をもくろんで起こした対戦から15年後。女盗賊リリィはアグネスの配下の暗殺者に襲われているのを健氏フォウに助けられる。逃亡するふたりが出会った、この世のものとは思えない美貌の少年・セインは自らの名前の他はなんの記憶も持たなかった。しかし彼には不思議な力があり…
剣と魔法の世界を舞台にしたファンタジーですが、とにかく濃い。設定、どれだけ作りこんでるんだろ? ノリはRPGを彷彿させるものはありますが、どっちかというとテーブルトークの方の。
仲間キャラが魅力的なのは当然として、敵が特徴的でしかも強いというのがいいですね。そんな敵とのギリギリの戦いにはハラハラするものが。
シリーズ始まってまだ一冊目で、謎として残ってる部分が多いのですが、先が楽しみ。少し読み辛い部分はありますが、さらさらと舌触りのいい物語よりも、歯ごたえのあるお話を読みたい人にオススメ。


●「鑑定医シャルル 快楽の伏流」藤本ひとみ[集英社文庫]495円(00/9/28)

「鑑定医シャルル」シリーズ三作目。97年発行の作品の文庫本化です。壊れた犯罪者によって引き起こされる快楽殺人を、美形で性格の歪んだ鑑定医・シャルルが解決する…というようなお話。
フランスの郊外・ショレに住む名門の司法関係者一家。厳格な祖母のために息苦しいものの平和に暮らしていた彼らの生活が壊れたのは、夫がアメリカから孤児のフレデリックを引きとってからだった……フレデリックはひとり息子のアレクサンドルを誘惑し、悪の道に染めるが…
今回はオチは予測しやすかったですが、丁寧に描かれる残酷な犯罪に引き込まれるものがありました。異常犯罪やサイコな話が好きな方は読んでみてください。
話自体は独立していますから何冊目から読んでも大丈夫ですが、二作目の「歓びの娘」が一番おもしろいかな。


●「星に願いを」吉村夜[富士見ファンタジア文庫]520円(00/9/28)

第11回富士見ファンタジア大賞の淳入選の「魔魚戦記」の続編。
オオボケ少女・レスティの前に現れた「王子様」は全長3000キロメートルのイトマキエイ形宇宙人だった!!…というバカ設定SFコメディ。あいかわらずのノリのよさで、サクサクと読むことができます。今回もラストに大ネタがありますが(でもあれって本当に実現可能なの? 作中の説明だけではイマイチ納得ができなかったです)、前作ほどには爽快感がなかったかなあ。
次は帝国相手にもっとハデにやっちゃってほしいものであります。


●「ハリー・ポッターと秘密の部屋」J.K.ローリング[静山社]1900円(00/9/27)

大人気の児童文学・「ハリー・ポッター」シリーズ最新刊。魔法学校でのハリーの2年目の日々の話。一作目よりは二作目の方がおもしろいですね。世界観も安定して、キャラも生き生きとしています。前作では人間(マグル)に比べると魔法の世界は万能で何もかもが素敵なように描いていましたが、魔法の世界でもしがらみやらルールやら差別やら色々とあって。要は、科学に対して魔法がある世界という描き方はなかなか興味深かったです。
何気なく投げ出された伏線が収束していくさまは見事でした。
ロックハート先生のダメぶりがなんか最高っす。でもハーマイオイニーって頭いいのに、ロックハート先生に熱あげるなんて、やっぱり顔? 結局はそのあたり女の子ってことかしら。
児童文学でも大人が読んでもおもしろいです。でも1900円はちょっと高いかな。もっと買いやすく、文庫本になってくれたらいいんですけどね。
表紙の色合いが素敵。


●「西の善き魔女 外伝2 銀の鳥 プラチナの鳥」荻原規子[中央公論社C☆NOVELS]857円(00/9/25)

「西の善き魔女」の外伝パート2。お気に入りのアデイル中心の話ということで楽しみにしていたけど、これでこのシリーズはとりあえずひと段落ということで寂しいな。
話は、本編4-5巻のフィリエルの冒険の間、アデイルが何をしていたかの話です。アデイルっておっとりして気楽に前向きに楽しんでるように見えたんだけど、結構屈折の根は深いところにあったようで。それでも困難を乗り越えてゆく強さがあるあたりが、荻原さんのお話のヒロインなんですよね。
今回のメインキャラのティガはいいキャラでした。からっとしてて、しなやかな強さがあって。アデイルにはおとぼけユーシスよりもティガの方お似合いだって!! いつかまたふたり、出会えるといいよね。
「西の善き魔女」シリーズはこれで終わりですが、またこの世界の物語を読みたいものです。
このシリーズは、異世界ファンタジーで少しSFティストが入ってます。女の子たちがたくましくて、さわやかなお話です。結構オススメ。


●「ラグナロク8 翡翠の罠」安井健太郎[角川文庫]590円(00/9/23)

格闘ファンタジー「ラグナロク」の最新刊。マリーナ救出編がひとまず一段落つきました。
話は相変わらず、戦いに継ぐ戦い。ヴァルハラとか闇の種族とか敵として設定されている組織(?)も実は一枚岩じゃなくて、色々な人が様々な思惑の元に動いていて、背景はかなりややこしいんですが、リロイの相棒のラグナロクの一人称で進むために、表面に出てくるものだけでは意味不明で、ただ目の前の敵をリロイが撃破してるって感じなんですよ。そういう部分、もう限界にきてるんじゃないかな?
次の短編はリロイとレナの出会い編ということで、楽しみしています。


●「光の帝国 常野物語」恩田陸[集英社文庫]495円(00/9/22)

3年前にハードカバーででた、恩田陸の名作「光の帝国 常野物語」が遂に文庫本化。
私は3年前にハードカバーで購入して読んで、深く感動したんですが、気楽に持ち歩けるサイズの文庫版も欲しくて購入。久しぶりに読み返したけど、くぅっ、いいなあ、恩田陸の世界は。このなんとも柔らかな色合いはなんて形容すればいいんだろう。ふんわりとしてほのかに甘くぴりりと苦い、美しい物語です。
「常野」という超能力を持ちながらも穏やかに生きている一族のオムニバス短編集。表題作の「光の帝国」と最後の作品がとにかく泣けます。ただ非常に大きな物語のプロローグのような感じなので、そういう意味では物足りなさも残るけど。…作者がいつかまた「常野物語」を書いてくれることを祈っています。
この時代の日本人に生まれて、恩田陸を読んだことがないのは人生の損失です。これを機会にぜひ手にとってみてください。


●「少年たちの密室」古処誠二[講談社ノベルス]820円(00/9/21)

「UNKNOWN」でメフィスト賞を受賞した作家さんの新作。帯の推薦文は恩田陸で、購入しようか迷ったんですがWEBでの評判がよかったので購入しました。
同級生の葬式に向かう途中、東海地震が起こり6人の高校生とその担任教師がマンションの地下駐車場に閉じ込められてしまう。暗闇の中、乱暴者で多くの人に憎まれていた少年が頭を割られて死んでしまった。事故か、他殺か? 極限状況で救出を待つ中、自体は思わぬ方向に…
ミステリとしてなかなかデキがいいし、テーマ性とミステリの部分がうまく融合しているのが更にポイント。なんとも苦く後味の悪い作品ではありますが、色々と考えられさせるものがありました。タイトルの「密室」とは、閉じ込められた地下駐車場のことだけではないんですね。


●「カラミティナイト」高瀬彼方[ハルキ文庫]800円(00/9/20)

「天魔の羅刹兵」の高瀬彼方の新シリーズ開幕。
智美は内気で、読書とインターネットが趣味の大人しい、普通の少女だった。元気少女の、親友の優子と平凡だけどそれなりに楽しい日々を送っていたが、通勤途中で不思議な少年と出会ってから「災厄の心臓」を巡る戦いに巻き込まれることになる…
話の基本構造はライトノベルスのフォーマットから大きく外れてはいないんですが、とにかく筆力があって読ませる話です。特にキャラ立ちが激しい。智美もかわいいけど、優子がほんといいヤツで。二人のやりとりが楽しい。前半で平凡だけども楽しい日常を丁寧に描くことで、後半でそれらがすべて崩れさってしまうのが切なくなるんですが、ただ分量からすると日常パートが多すぎたかも。実際に「災厄」が起こって、話が加速したらすぐに話が終わってしまうような感じがして、少々物足りなかったです。
智美のホームページを巡るごたごたは、ちょっと考えるものあり。…たしかに作者が自己陶酔をしているページはうっとおしいものではありますが、それを作っているのが智美みたいないい子で、ちょっと若すぎて社会経験が足りないがためにイタい状態になってるだけなのかも、ってふと思ったのでした。どんなにうっとおしくても、若そうな子にはもうすこし優しく接するようにしなきゃなあ…
敵の目的がなんだかよくわからなくてすっきりしないものはありますが、それは続編で明かしてくれるでしょうし、楽しみに続きを待ってます。
ちなみに「天魔の羅刹兵」は「戦国時代に巨大ロボットがあったら」という話で、かなりおもしろいですよん。探して読むだけのかちはあります。


●「NAGA 蛇神の巫」妹尾ゆふ子[ハルキ文庫]700円(00/9/18)

「魔法の庭」で独自の美しい世界を描いた妹尾ゆふ子の新作は、現代日本を舞台に、古代の神々が蘇るファンタジー。これ一冊で完結しています。
青磁の壷のような、作品。重量感はないものの、凛としたフォルムを描いていて、なんともいえぬ深い色合いで。Macのディスプレイから人が立体化して現れてくる冒頭のイメージが美しいですね。とにかく前向きな少女・涼子がかわいいです。口が悪く、人を小ばかにしがちながらも渉は魅力的に描かれていますし。でも作者が生粋の異世界ファンタジーの描き手さんだけあって、「向こう」の神々の世界の方が豊かな色合いで素敵ですね。
民俗学の薀蓄もわりと噛み砕いて書かれているし、読みやすいです。あと、ここに描かれてる神様のシステムはなかなか興味深い。
でもこのページ数の文庫で700円は高いよ…さすが角川春樹。まあ、この作品はおもしろかったから別にいいんですが。


●「双星記1 千年に一度の夏」荻野目悠樹[角川スニーカー文庫]619円(00/9/14)

最近は連続して出てますよねぇ、ってことで荻野目悠樹の新シリーズはライトなSF。
ベルゼイオンはもうひとつの太陽に近づき、千年に一度の「夏」を迎えた。気温の上昇や天災が予見されるため、滅亡を回避するため、ベルゼイオンは別の星系に侵略を開始した…紫水晶艦隊の提督は病弱で非常識なとんでもない青年。副官に配属されたルトガーは彼にふりまわされることに…
というような話なんですが、設定まわりがきちんと消化されてないような。ちゃんと伝わってこないし。<宝石>もなんだかよくわかんないというか、ご都合主義に見えちゃう。キャラが多すぎなのと、あんまり必要と思えないペンキ塗り達にはどんな役割があるんだろ。あとはバランスが悪いかなあ。壮大な物語になるんだろうけど、とりあえず一巻で読者をひっぱるにはエピソードが弱いような。出し惜しみ?
わざとライトな感じに作った話でしょうが、それが効果的にはなってないです。ただ伏線は色々とあるようですし、これからあっと驚くようにひっくり返しがあるかもしれないので期待しておきましょう。


●「木島日記」大塚英志[角川書店]1300円(00/9/13)

「多重人格探偵サイコ」でメジャーになった大塚さんの新作。ハードカバーってことで「文庫落ちするまで待とう…」と思ってたんですが……「作者サイン本」というのに惹かれてつい買っちゃいました。サインとSD木島イラストハンコ付き。でも面白かったので元はとれました。
昭和初期を舞台にした、「あってはならない物語」。民族学者・折口信夫はふと訪れた古本屋で、仮面をつけた店主・木島平八郎と出会う。折口は木島から自分がこれから書く予定の物語「死者の書」を渡されてから、夢とも現とも区別がつかないような、不思議な事件に巻き込まれてゆくが…
ジャンルとしてはオカルト・ファンタジーというところ? 夢想が現実を少しずつ侵食していく感じがいいですな。ロンギンヌの槍、未来予測計算機、偽天皇、記憶する水…と手垢のついたテーマを、何度も語られて擦り切れていることを逆に生かした物語に仕上がっています。なんかじわーとくるおもしろさ。
これ自体は先にマンガがあってそのノベライズだそうですが、マンガは一巻を買ったけどどうも波長が合わなくて途中でやめちゃったんですが、小説の方がもっとダイレクトに伝わってくるかも。おそらくマンガとは微妙にバージョンが違ってるでしょうから、マンガと小説と両方読む方がそのズレを楽しめるんでしょうね。
この小説自体は実在の人物を虚実取り混ぜて描いていますが、折口信夫がホモっていうのは事実なんでしょーか。
あいかわらずのあとがき、ラスト1行が最高です。


●「野望円舞曲1」田中芳樹/荻野目悠樹[徳間デュアル文庫]676円(00/9/12)

原案・田中芳樹、執筆・荻野目悠樹のスペースオペラの開幕。銀河のオリオン腕とペルセウス腕を唯一結ぶ宙域を独占している商業国家オルヴィエートは長いこと平和を享楽していた。国は厳然たる階級社会で、国家元首の娘・エレオノーラは愛のない父親や兄たちを倒し、オルヴィエートを掌握する野望を抱いていた。そこに起こった、圧倒的な戦力を持つ軍事国家「ボスポラス」からの侵略行為。エレオノーラは逆境を生かそうとして…
ヒロインは女ラインハルト、その従者は女キルヒアイスって感じかしら。美形で女好きで、一見なまけもののボンボンながら実はキレモノのジェラルドとその副官はいかにも「田中キャラ」って感じながら、いいなーって思っちゃうんだよねぇ。
話はまだ序章って感じで、ヒロインはたいした活躍もしてないし。スケールの大きさは感じられないものの、老練な作りで、続きが楽しみ。読んで損はない作品かと。
カラーとしては田中色の方が強いかな。だって荻野目作品にしてはキャラはみんなまともだし(特にヒロイン)、主人公全然イジメられてないし。…なんか物足りない。
力はありながらももうひとつブレイクできなかった荻野目さんも、田中芳樹のネームバリューを背負うことで多くの人に読まれるチャンスができるのはいいことだと思います。田中芳樹にしても、この人ってシリーズを始めては完結させないからなー、だったらアイデアだけだして書いてもらった方がいいって。…個人的には「七都市物語」の続きを読みたいんですがもう無理だろうな。いっそのこと、それも荻野目さんに書いてもらうとか。
荻野目悠樹の作品なら、「シインの毒」、「暗殺者(アサシン)」シリーズ「六人の兇王子」「破剣戦鬼ジェネウ」あたりがオススメです。ライトノベルズとは思えないほどヒロインがひどい扱いで主人公がいじめられまくってるのが素敵なの。


●「海馬が耳から駆けてゆく1」菅野彰[新書館ウィングス文庫]600円(00/9/8)

二年ほど前にでた、菅野彰さんのエッセイ集「海馬が耳から駆けてゆく」の文庫本化。ハードカバーから文庫本になるにあたって、前書きとあとがき(結構分量が多い)がプラスされてます。イラストはちょっと減ってるのが残念。
ハードカバーのときに1度読んでますが、そのときの記憶があいまいになってるせいもあって、読みなおしても愉快です。この人の弟、なんか好きだなー。
群ようこのエッセイとか好きな人は読んでみても損はないかと。…アレよりももうすこし作者の行動がヘンな感じですが、でも笑えます。
この方、普段はボーイズラブを書いてるんですが、こっちのシリアスは切なくて本当にいい作品なんですよ。心に傷を持ってるけれどもどこがケガしてるかもわかってないまま育った青年が少しずつ愛することや色々な大切なことを分かってゆく…というのが繰り返しモチーフとして登場するような作品が多いです。個人的には「毎日晴天!」シリーズの勇太・真弓のカップルが一番お気に入りなのだ。


●「タツモリ家の食卓2 星間協定調印」古橋秀之[電撃文庫]510円(00/9/8)

「タツモリ家の食卓 超生命襲来!!」の続編。のんびりした兄としっかりものの妹の二人暮らしの家に、宇宙人たち(鉄拳皇女・怪獣幼児・大佐猫)が家にいついてしまうという、SFホームコメディ。
……私は好きだけどね。なんだかますます一般ウケのしづらい方向に走ってるような…
今回もあんまり話が進まなくて、まったりとしています。ホケホケとした団欒が楽しい。でもそういうノンキに思える場所が、全地球人の存亡の鍵となる場所なんだよね。設定はあいかわらず濃いです。バルシシアの子供時代の話などはなかなかおもしろかったです。
このシリーズって、作者の日記からすると3で完結、だっけ? でもその前に「ヒミツ企画」があるそうで、そっちが楽しみであります。また、「ブラックロッド」シリーズのような濃密な世界を描いてほしいものです。
ちなみにこの作者の作品では、「ブラックロッド」、「ブラッドジャケット」「ブライトライツ・ホーリーランド」というケイオスヘキサ三部作がすっごく、いいです。オカルトが発達して科学となった世界を舞台にした、サイバーパンクな物語。独特の造語、疾走するイメージの奔流、濃いキャラと設定がすばらしいんです。…余りに濃すぎるので、読者を選ぶ作品ではありますが、もし本屋でみかけたら手にとってほしいものです。あらすじと冒頭を読んでみて、自分にとって読めそうな作品ならトライしてみて。すごいから。


●「黄金の80年代アニメ」20世紀アニメ研究会[双葉文庫]571円(00/9/7)

92年に出されたムックの内容を加筆して文庫本化。「宝島」的な内容の本です。「80年代のアニメ」といいつつも、巨大ロボットものメイン。いっそのこと、「80年代のロボットアニメ」にするべきだったのでは? セレクトされているのは有名作品どころばかりで、一作あたりのコメント量がそれほど多くないので少々食い足りないところはありますが、80年代半ば、中学生だった頃、アニメにハマってたんで、なんだか懐かしくて、つい読みふけってしまいました。内容はおぼろげなのに、主題歌は歌える作品も結構あったり。あの当時はまだビデオが家になくて、好きなアニメをテープレコーダーをテレビの前に持ってきて録音したり、少ない小遣いからアニメ雑誌をせっせと買ったりしたもんなあ。懐かしい。
巻末のアニメリストはつい読みふけってしまいました。そっかー、こういう作品もあったんだねぇ。 マニアにとっては物足りない本でしょうが、ちょっとアニメファンだった人は懐かしい気分になること受けあい。


●「鵺姫真話」岩本隆雄[ソノラマ文庫]571円(00/9/7)

「星虫」の作者の、10年ぶりの新作。「星虫」のある意味続編(話は一応独立しています。)
宇宙へ出ていくためにプロジェクトシティで頑張っていたのに、視力の悪化のためその夢が絶たれてしまい、失意のまま日本に戻ってきた純。鵺姫伝説が残るその地では、ご神木に願えば、どんなことでも叶えてくれるという噂がある…ただし、25年の寿命と引き換えに。純はある夜、ご神木の側で少女の生首に追いかけられている少年をみかけ、そして…
うーむ。10年たっても本質が変わっていないというのは、いいことなのか悪いことなのか。今回はタイムトラベルものなんですが、この人は構成あんまりうまくないんですよね。そのために話がわかりにくい。ヒロインのキャラが「星虫」の友美とかぶってるとか、戦国時代のリアリティ(というより空気?)が感じられないとか、そのあたりが設定の壮大さに比べて物語を薄っぺらく感じさせてしまう。
あと、ヒロインは自己謙遜しつつも結局は全能の存在というのが、個人的には共感しづらいんだなあ。
テーマ性はストレートで、そういう意味では正しいジュブナイルなんですが、私が惹かれるのは、私は太陽ではなく月なので。


●「天翔けるバカ We Are The Champions」須賀しのぶ[集英社コバルト文庫]495円(00/9/6)

第一次世界対戦中のイギリス義勇軍航空隊を舞台にした、飛行機バカたちのコミカル青春モノ。「天翔けるバカ flying fools」の続編にして完結編です。
雑誌「コバルト」での連載を全部読んでいたんですが、まとめて読んでみたくなって。今回も路線的には前作と同じく、イキのいいキャラたちの愉快なお話なんですが、バックホーンが戦争だから、胸にぐーっとくる展開もあります。空の上にはまだ騎士道精神が残っていても、地上では無様な消耗戦が起こっていて。それでも、死と隣り合わせでいても、陽気に生きていく飛行機バカたちがなんだか愛しく思えてきます。リックもロードもピロシキもパードレもいいやつらだけど、リヒトホーフェン兄弟萌え!!
92ページ13行目のピロシキのセリフは、何気ないけれどもぐっときました。
コバルトではありますが、軍事関係もわりとしっかりしてるそうで、このあたりに詳しいMURAJIさんも前作のそのあたりを誉めてましたから。かといって、資料が前面にでてくる分けではないので、読みやすいですよ。
これは二冊で完結しているし、軽やかではありますがコクのある話なので、まだ須賀しのぶさんの作品を読んだことのない方は、おためし版として体験してみるといいかもしれません。気に入ったら、「流血女神伝」シリーズに手を出すといいかも。個人的には「ブルー・ブラッド」シリーズが一番好きなんですけどもねぇ。


●「見仏記3 海外編」いとうせいこう・みうらじゅん[角川文庫]590円(00/9/5)

みうらじゅん氏といとうせいこう氏がふたりであちこちの仏像を見て回るエッセイ集第三弾。今回はついに海外進出、韓国―タイ―中国―インドと仏像のルーツをたずねてまわる旅。仏像とはいっても、堅苦しいことも宗教がかったこともなくて、あるがままに「向こうの世界」の接点を楽しむような感じなのがいいんです。文化や風土の違いを味わえる、旅行記でもあります。
文化が伝わっていくことに先鋭化していく様子などがおもしろかったです。不謹慎な例えだとは思いますが、「オリジナルを知らないで、同人誌だけを読んで作ったキャプテン翼同人誌」に通じるものがあるかも。特徴的な部分だけ、本来の意味もわからないまま残っちゃって、オリジナルとは一見別物になってしまっても、それでもなんか共通認識があったりするあたりが。文化の伝来なんてそういう伝言ゲームなのかも。
色々な意味で読み応えのあるシリーズです。今まで全3冊、文庫本になってるので、興味をもったら読んでみてください。
さて、ここまでは(まだ)まっとうな感想。以下、腐りモードです。→前作のいとうさんとみうらさんの関係もほほえましかったですが、今回は強烈なラブラブっぷり。とにかく、いとうせいこうビジョンのみうらさんがキュートなんですよー。魂につながりのある二人の、絆というのを感じさせてくれるお話でありました。インドの最後の方がなんか泣けるったら。限りなく愛情に近い友情が好きな人にはたまらんものがあります。そういう視点でみるならば、一作目から読むこと。最初は互いにどう距離をとっていいのかわからないぎこちなさから、徐々にうちとけていく過程をみることができます。


●「昏き神々の宴 封殺鬼シリーズ21」霜島ケイ[小学館キャンパス文庫]524円(00/9/5)

現代を舞台にした、千年を生きる鬼たちと、それを使役する陰陽師たちの末裔たちの、怨霊との戦いを描いたサイキックアクションの人気シリーズ。もう21冊目になりますか。
長野編がやっと終って、ふたりの鬼がメインのエピソードに。鹿島で起こっていることの調査のために、中央は本家に鬼たちを使役させてくれるよう、頼む。そして鹿島に出かけた聖と弓生を待ち受けていたものは…
ラストがとんでもないことに。どうなるんだろー、次が気になります。とにかく、はやく続きを出してくれ〜。ハッピーエンドで終るそうですがなにやらあとがきで気になること、書いてますねぇ…


HOMEへ