02年08月に読んだ本。 ←02年07月分へ 02年09月分へ→ ↑Indexへ ↓麻弥へのメール
●「暗闇の中で子供」舞城王太郎[講談社ノベルス]1200円(02/08/30) →【bk1】
「ある種の真実は嘘でしか語れないのだ」
第19回メフィスト賞受賞作「煙か土か食い物」に続く、壮絶な「奈津川血族物語」の第ニ幕。
今度は奈津川家の三男、ひきこもりなミステリ作家・三郎が主人公。あの西暁町を恐怖に陥れた事件の記憶がまだ生々しい頃、三郎はマネキンを抱えて歩く少女に出会う。少女はマネキンを土の中に埋め、それを何度も何度も繰りかえしていたのだった…
前作を読んでからしばらく間があいたのは、こっちの体力・気力が弱っていたので力のある物語を消化しきれなかったから避けていたのでした。最近、上向き加減になってきたのでやっと読むことができました。
相変わらずのたたみかけるような文体に乗って流れてくる暴力、狂気、悲しみ、やるせなさ。悲惨な事件のあまりの「くだらなさ」、圧倒的な暴力、それでいてどこかリリカルで。なんでこんな小説にしあがるだろう、不思議な作家さんだなあ。
物語に翻弄されつつも、読んだ人なら誰でも気づくあからさまな矛盾→橋本敬の死に方←が最後までひかかってたんですが、ネットで検索してみたところ、→THREEからは三郎の創作ではないのか←という意見を読みまして、納得。たしかにTWOのラストの方を読んだら、それを示唆してるように思えますし。
強烈な物語なので、誰にでもオススメできるものではありませんが、ハマる人はとことんハマるのではないかと思います。物語としては独立していますが、前作の「煙か土か食い物」のネタバレが冒頭からされていますので、読むなら一作目から。 …まあ、犯人やトリックや動機がわかったところで味わいが損なわれる作品ではありませんが。
でも舞城王太郎を試すなら「世界は密室でできている。」から読むのがいいかも。わりと短いし、物語として独立していますし、こちらはパワーはあっても物語の後味がわりとさわやかなので。
●「陰陽ノ京 巻の三」渡瀬草一郎[電撃文庫]550円(02/08/21) →【bk1】
「陰陽ノ京」シリーズ三冊目。一作目は第7回電撃ゲーム大賞金賞受賞作です。タイトルどおり、平安時代を舞台にした陰陽師モノですが、主役は安部晴明ではなく、彼の幼馴染にして弟子の慶滋保胤。彼は陰陽師に連なる家に生まれながらも、文官となった変わり者。糸目で人がよくて、鬼にさえ情けをかけてしまう優しい人。
今回の話は、かつて陰陽寮がかろうじて愛宕山に封じた化け百足の復活から始まります。小山ほどの大きさもある化け百足は強烈な毒を持っているために、殺してしまうとその毒で土地や水が汚染されるので封じることしかできません。化け百足が京の都を襲うまでに陰陽寮は封じることができるのか?…という感じです。
発売されたのは今年の5月で、そのときにすぐ購入はしてたんですが、その時期に読書意欲が減退していたせいで積読になってました。でも同じ作者の別シリーズ「パラサイトムーンIV 甲院夜話」が非常におもしろかったので、「陰陽ノ京」のシリーズの方も読んでみようかなあ、と手にとったら… いやあ、これはおもしろかった。そして切ない話でした。
見た目きれいだけどもちっとも水を吸収しない新品のタオルが、何回もの洗濯を経て濡れた肌に馴染んでいくように、この作者は書くたびに妙な力みが消えて物語があるべきところにしっくり落ちつくようになってきました。「陰陽ノ京」シリーズも昔の話を忘れてしまったので2巻を本棚で発掘して、1巻は見つからないので再購入して読み返したのですが、どんどんうまくなっていきますね。
このシリーズは一冊ずつ独立した話なので、この巻から読んでも大丈夫だと思います。
ちなみに晴明も重要な役ででていますが、タヌキっぽい中年オヤジですので、美形じゃないとイヤな人は読むべきでないと思います。
●「ミステリ・アンソロジーIV 殺意の時間割」赤川次郎/鯨統一郎/近藤史恵/西澤保彦/はやみねかおる[角川スニーカー文庫]648円(02/08/19) →【bk1】
「密室レシピ」に続くミステリ・アンソロジーシリーズの4冊目。今回のテーマはタイトル通り、「アリバイ」。
短編のレベルとしてはそこそこ。トリックは強烈なものはなかったものの、近藤史恵のリリカルな感じの話はなかなかによかった。双子美少女に萌えな人は一読の価値があるかも。
西澤保彦の短編は動機が強烈。でもその理由でそこまではやらないと思うよ、いくらなんでも… 後々まで色々なことがついてまわりますから。
●「綺羅の柩 建築探偵桜井京介の事件簿」篠田真由美[講談社ノベルス]1050円(02/08/12) →【bk1】
「建築探偵桜井京介の事件簿」シリーズ最新刊。1年ぶりの長編新作。
30年前にマレーシアで失踪したシルク王の謎に絡んで京介たちは軽井沢の弓狩家の別荘に招かれる。そこで起こった事件を巡って、タイ、マレーシアに飛んだ京介たちは…
誤解の積み重ねと愛するがゆえの執着のために歪み、すれ違った愛の悲劇。…ではありますが、今回の話はミステリとしてはかなり弱いかも。タイ・マレーシア観光記のウェイトが高すぎたように思えてしまいます。旅行気分は満喫できましたが。
好きなシリーズの長編新作ということで過剰に期待しすぎちゃったかなあ。
●「人形幻戯 神麻嗣子の超能力事件簿」西澤保彦[講談社ノベルス]880円(02/08/10) →【bk1】
「転・送・密・室」に続く、チョーモンインシリーズの最新作。今回は短編。
「チョーモンイン」というのは「超能力者問題秘密対策委員会」の略で、超能力者が起こす事件を解決するための秘密組織。その見習い相談員の嗣子とゴージャスな美女の能解刑事、売れないミステリ作家の保科に加えて保科の別れた妻の聡子らが事件を解決するというシリーズもの。コミカルな感じの話です。
超能力といえばミステリでは反則技ですが、このシリーズはその能力は「いつどこでどの程度の強さでどんな超能力が発揮されたか」がわかってまして、その上での本格パスラーになっています。
最近はこのシリーズ、「HOW」よりも「WHY」の部分というか、事件を通して見えてくる歪んだ人間関係の描写の方に力が入っているような。初期の頃とは別の味わいになってるかも。
結構オススメのシリーズです。読む順番としては「念力密室!」(短編集)から入るのが一番よいかと。
●「黒白の絆 封殺鬼シリーズ24」霜島ケイ[小学館キャンバス文庫]533円(02/08/10) →【bk1】
ほぼ1年ぶりの「封殺鬼シリーズ」最新刊。千年を超えて生きる鬼たちを主人公にした、(広い意味での)陰陽師モノです。
今回は異界に侵食された新宿を舞台に、久しぶりに皆が終結して闘います。ハデな展開で、「敵」の正体もおぼろげにみえてきて、主要登場人物それぞれが覚悟をきめて、物語は大きく動くようです。次が楽しみですが、今度はもうすこし早くでてくれればいいんですが。
●「パラサイトムーンIV 甲院夜話」渡瀬草一郎[電撃文庫]550円(02/08/09) →【bk1】
「パラサイトムーン」シリーズ最新刊。発売を楽しみにしていましたが、期待に違わぬ作品でした。
迷宮神群」と呼ばれる神々と、それらから影響を受けて力を持った人々が神群を狩るために作った組織《キャラバン》と、それらに巻きこまれて翻弄される人々を描いた、現代が舞台の伝記小説です。今回は、「実験室の子供達」ネタですが、この設定は好みなこともあって、萌え〜な展開でした。今までの微妙なキャラバン内派閥バランスを一気に突き崩す展開がおもしろかったです。
で、細かい部分の記憶があやふやなので1から3までまとめて読みかえしてみましたが、今までは意味不明だった会話の意味がわかり、全体としてするすると糸が繋がって新しい絵が浮かび上がって見えてくるような快感に。このシリーズの用語集とか誰か作ってくれないかなあ。
イラストがいかにも「美少女萌え」なんで最初から敬遠する人もいそうですが、世界の作り方、物語の容赦ない展開もおもしろいので、興味があったら読んでほしいです。
読むならシリーズ1冊目から。でも1冊目を読んだ段階ではかなり意味不明だと思います。2冊目から世界が見えてきておもしろくなりますので。
●「神々の憂鬱 暁の天使たち2」茅田砂胡[中央公論社C★NOVELS]900円(02/08/08) →【bk1】
「暁の天使たち」の2冊目。金色と黒色と銀色の話。
ますます「同人誌のような」印象が強くなってきたなあ。完璧超人に虐待されたけど負けない過去を付けるのが好きなんですねぇ… ここまで大盤ふるまいされるともう何も言い様が…
パワーがある作家さんなので勢いはあってつい読まされてしまうんですが、読後になんだかもやもや〜、としたものが残ってしまいます。あと、今は「設定」だけが動いていて、「物語」が全く進んでいないに等しいのが、なあ。
キャラが好きな人には楽しいかもしれないけれども、そうじゃない人にはちょっと辛いです。
●「十二国記 アニメ脚本集1」會川昇[講談社X文庫ホワイトハート]550円(02/08/06) →【bk1】
小野不由美の「十二国記」シリーズがこの春からBS2でアニメ化されましたが、個人的には内容がもうひとつ…だったのでこの脚本集も読む気がしませんでした。でもおむらよしえさんのサイトで世界設定まわりの注釈(原作者による設定)なども載っているということを知って読むことに。たしかに、マニアには必読な一冊になっていました。
こうして初期の脚本を読むと、「こういう意図でやりたかったんだなあ」というのがわかります。実際、アニメにする上では時間その他の関係で色々と削られたり、もっと「わかりやすく」するために変更されることがありますものね。
ふと思ったんですが、原作未読者はあのアニメをみてどの程度世界観がわかったんでしょうか? 十二国記の世界の不思議な固有名詞も、漢字で書かれていればなんとなく意味がわかるものですが、音で聞くと分かり辛そうだし。
あとがきで「風の万里 黎明の空」のシナリオについての話もしてあるということは、この部分もアニメ化されるんでしょうか。恭の主従が好きなので、アニメでみれるといいんだけどなあ。
●「夏休みは命がけ!」とみなが貴和[角川スニーカー文庫]648円(02/08/02) →【bk1】
とみなが貴和さんは「EDGE」シリーズがすばらしかったので個人的に今後を期待している作家さんのひとりです。
そのとみながさんの新作読みきり作品は、「ミステリ倶楽部」というレーベル名と違ってあまりミステリーはしてませんが…
田舎の高校生・瓜生の夏休みが始まった。ある日、彼は現在は疎遠となった幼な馴染み・五郎丸の妹・綾と出会い、彼女にひきこもりとなった自分の兄を助けてほしいとお願いされた。その翌日、瓜生は電車で五郎丸と偶然出会ってしまう。彼が持っていたものが猟銃だと気が付いた瓜生は綾に電話をして、五郎丸が「大量殺人をしたあとに自殺をする」意志をほのめかした遺書を部屋に残して失踪していたことを知った。瓜生は五郎丸を止めるために、彼を追って東京に向うが…
夏の太陽の熱さ、田舎のヌルい空気、都会の息苦しさ、そのあたりの描写や五郎丸の「身勝手で暴走したお子さま理論」の描写はさすがとみながさん、という感じで見事です。ただストーリー展開はこの初期設定からすると少し物足りない部分はあるかなあ… 私があのとみながさんの作品ということで期待しすぎてたところはあるかも。
あまり多作な作家さんでないのは残念ですが、副業作家ならそれも無理はないし、社会と接点を持っていることがとみながさんの作品にはプラスになってるのではないかと思いますので、無理のない範囲でできるだけ頑張って本を出してほしいなあ、と。ワガママな読者の願いです。
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