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●「多重人格探偵サイコTV MPD-PSYCHO/FAKE 第3巻」原作:大塚英志/許月珍[角川スニーカー文庫]419円(00/12/29)

WOWOWで放映されたドラマ版の「サイコ」のノベライズ。作者は大塚英志さんではないですが、このノベライズはデキが非常によくて、大塚さんの手による作品にも全然ヒケはとりません。
ドラマ版はこの3巻で一旦完結。それにしても、ドラマ版ではアレがああなって、あの人がああなっていたなんて。ひゃあ。マンガ版と小説版(2バージョン)とこのノベライズでの話が頭の中でごちゃごちゃになって分かったようなわからないようなふわふわした感じがするけど、それがこのシリーズのおもしろさでもあるわけで。多重露光したフィルムをみているような。でもきちんと完結するのかなあ。完全に割り切れる終り方はこの物語には似合わないだろうけど、わけのわからないまま増殖していくのならついていけなくなりそうで心配。きちんとクールにコントロールしてくれるんでしょうか。
ちなみに巻末には大塚さんの手によるドラマ版サイコの続編の話のさわりが載っています。


●「夏の鬼 その他の鬼」早見裕司[EXノベルズ]860円(00/12/28)

気になってた作家さんで、あらすじを読むと面白そうだったので購入。
霊や鬼などの日常に絡むオカルトものの連作短編。
季里は内気でひ弱な少女。家族を事故で亡くしてしまい、亡くなった姉の婚約者だった紘史とその弟の恭司と一緒に暮らしているが、李里は紘史たちに気がひけて完全にうちとけることはできなかった。季里はこの世でないものを感じる弱い力があったが、それがきっかけで事件に巻きこまれてしまい…
主人公の季里がけなげでかわいいし、彼女を取り巻く人たちの暖かさがじんわりと伝わってくる、繊細で優しい、素敵なお話でした。生き辛さを感じていた少女が様々な人との交流を通じて、生きることを受けいれてゆく様がほんわかします。正しい意味でのジュブナイルで、息苦しさを感じている中高校生にこそ読んでもらいたい話です。ティストとしては、谷山由紀に通じるものがありますので、そういうのが好みの人はぜひ読みましょう。これの続編もでてほしいなあ。
10年前にでた作品の続編だそうですが、新しく作りなおしてあるので今回から読んでも大丈夫。でも昔の話も読んでみたい。頑張って古本で探すしかないか。


●「肩越しの空 天上の光」菅野彰[EXノベルズ]840円(00/12/27)

エニックスから新レーベル登場。その最初のラインナップの一冊です。お気に入り作家の菅野さんの作品なのでもちろんゲット。
少女と、血の繋がらない弟の間に現れたひとりの少年。3人の、切ない夏の物語です。3人の視点からの三つのお話。
ちなみに、今回はボーイズラブではありません。でも魂はいつもの菅野作品と同じ。話の原型を作ったのは5年ほど前ということで、たしかにこのティストはすこし昔の菅野さんの作品に共通するものがありますね。
ガラスのカケラのような透明ですこしとがった、切ない恋物語。アダルトチルドレン→2重人格という展開はありがちではありますが、問題はどう描くかであって、その点はクリアしてるので気にはなりません。ただ、話をすべてみせるよりも、読者の想像に任せた方が余韻が残ったかも。
この作品を読んで菅野さんの他の作品も読みたいと思うなら、手に入れやすさから考えても「屋上の暇人ども」シリーズかなあ。これもボーイラズラブではないし、センシティブなお話です。
他は……私は「毎日晴天!」シリーズがすごく好きなんですが、これは完全にボーイズラブなんで。
またエッセイの「海馬が耳から駆けてゆく1(文庫版)」はとぼけた感じが愉快な作品です。


●「失踪HOLIDAY」乙一[角川スニーカー文庫]552円(00/12/26)

「夏と花火と私の死体」「石の目」で今年はミステリ方面の書評サイトでプチブレイクした乙一の新刊です。短編の「しあわせは子猫のかたち」は人付き合いの苦手な少年が幽霊の女のコと同居する話。ほわんとした感じの優しくてほろ苦い、いい話に仕上がっています。
もうひとつの「失踪HOLIDAY」はワガママなお嬢様が親の愛を試すために狂言誘拐を企てる話ですが、こういうありがち題材なのに味付けが抜群のためにおいしく読めます。ヒロインは作中で「ジャイアンのような」と形容されるほど強烈な性格の女のコですが、なんだか憎めなくてかわいい。こういうキャラのバランスの取り方がうまいもんだ。
2篇ともミステリ的な見せ方がありますが今回はホラーではないですね。そういうカテゴリに囚われず、小説としておもしろいです。かなりオススメ。


●「スレイヤーズすぺしゃる16 スクランブル・グリル」神坂一[富士見ファンタジア文庫]480円(00/12/25)

本編は終わっても番外編の「スレイヤースすぺしゃる」はまだまだ続きます。今回もバカネタ。まあまあだったかな。でも本編の方の番外編的な内容もまた見たいな〜。


●「野蛮人との恋愛」菅野彰[キャラ文庫]514円(00/12/23)

お気に入り作家の菅野彰さんの新刊。ライトなボーイズラブ。単発でこれで完結です。攻が生真面目で思いつめがちなタイプで、受が能天気な天然バカ。大学の剣道部を舞台にしたお話です。
シチュエーション的にはコメディなんですが、菅野さんの作品だけあって途中の告白シーンとかじんわりときました。あと女のコキャラがいつもながらうまいです。こういうソツのなさはボーイズラブ作家にしておくのが惜しいのですが…
「ミクロンちゃん」の話がでてきたのがちょっと嬉しかったです。


●「アーバン・ヘラクレス2 ポセイドン・ランナウェイ」久保田弥代[ソノラマ文庫]571円(00/12/21)

第三回ソノラマ文庫大賞佳作入選作品の「アーバンヘラクレス」の続編。近未来ハードボイルドアクションもの。
近未来。情報屋であり、「賞金稼ぎ」である九条は、謎の殺し屋カメレオンを追って、海底の超豪華レジャー施設「ポセイドン海殿」にいった。そこの目玉アトラクションの最中、なんとポセイドン海殿が何者かにコンピュータをのっとられる事件が起こり、海底の中孤立したポセイドン海殿に九条は閉じ込められてしまったが…
おお、これはいい感じ。前作で気になった素人くささというかギクシャクした感じがとれて、いい具合に文章から力が抜けてさらりと読みやすくなっている。キャラも味のある陰影がついてきた。カメレオン・ザイオンがカッコいいですな。メインとなる危機と脱出もおもしろかったです。
読んで損はないかと。このシリーズは独立してるのでこれから読んでも大丈夫。


●「ライオンハート」恩田陸[新潮社]1700円(00/12/20)

恩田陸は私がベタ惚れしてる作家さんなので、ハードカバーでももちろん購入。
様々なティストのお話を書く作家さんですが、今回はSFメロドラマ。時を越え、様々な時代で一瞬だけふれあいながらも決して結ばれることのない男女の物語です。
ビジュアルイメージは「ポーの一族」の頃の萩尾望都さん。繊細なタッチで美しい色合いの物語を描いてくれます。ほんわりとした優しさと、すこしの苦さが素敵です。
私は恩田陸の描く世界の空気が好きだから満足ですが、よっぽどのマニアでもない限りは文庫待ちをしてもいいかもしれません。
リンク:この本に関する恩田陸のインタビュー(ネタバレ)


●「高機動幻想 ガンパレード・マーチ」広崎悠意[電撃文庫]570円(00/12/16)

私が今年で一番ハマったゲーム「ガンパレード・マーチ」のノベライズです。こうやってマルチメディア展開されるのは嬉しいけれども複雑なものもあって。クオリティの問題もあるし、このゲームの場合は内容があまりにも自由度が高いですから、自分のやったゲームとは全然違う展開やカップリングに違和感を覚えてしまうこともありそうで。
さて小説ですが、失望したくなかったので全く期待してなかったのに、これがけっこういい感じ。愛があります。ゲームにわりと忠実で、ゲーム中のセリフなど丸々でてきたりします。ノベライズというよりはリプレイって感じかな。ゲームをやったことがない人には意味不明な描写が多数。…というか、この小説は莫大なゲームの世界観の上澄みだけをきれいにすくった感じなんですよ。それがいい風に成功しているとは思う。ゲームをやった人は「これはアレだな」とニヤリと楽しめるのは確か。でもゲームをやらずにとりあえず小説で内容を判断しようか、と思ってる方に「わけわからん」と思われたくないんだけどなあ…
ちなみに登場キャラは表紙からわかるようにパイロットに偏っていて、作者は壬生屋ラブらしい。あと王道の速水×舞はもちろんのこと、瀬戸口×速水ぽいノリも。愛しの来須とか茜がでてこないのが寂しいよん。
ちなみにイラストはゲームのキャラデザインの木村淳子さん。でもなんか顔が丸くなっちゃってて、ちょっと違う〜って感じに。スケジュール的に仕方ないとはいえ、もうすこしモノクロイラストほしいかったなあ。
幻獣のイラストは嬉しかった。戦闘中は一切映像流さなかったので、「こんなカッコしてたんだ〜」と初めて知りました。(授業でやったときはロクに見ずにとばしちゃったし)
今回のノベライズは結構満足でしたが、でもやはり小説化なら秋山瑞人版「ガンパレ」(しかもDランクエンディング)を読んでみたい!!ってつい夢みちゃいますねぇ…戦闘シーンだけでも書いてくれないかなあ。本人のは絶対に無理としても、文体模写が得意な人がやってはくれないだろうか。
さて、ネタバレ感想。→エンディングランクしてはBですか? 熊本城後半は読んでて燃えました。壬生屋があっけなく死んだのにはびっくりしましたが、きっとこの作者のプレイ中でも死んじゃったんじゃないかな?という気がしました。笑えないギャグだけを言って死んでしまった岩田が哀れ。あと、あの状況ではののみも死んだんでしょうか? 司令官が最後は瀬戸口になってるってことは善行も命令違反で処分された…ということかなあ? でもそういう悲惨な状況っていいですよねぇ。私のプレイでは戦死者がでたらリセットしてたんですが、今度は戦死者続出のもやってみたいなあ。


●「リングテイル3 グードゥー狩り」円山夢久[電撃文庫]530円(00/12/15)

電撃ゲーム大賞受賞作の「リングテイル」シリーズ最新作。魔道師見習いの少女の冒険もの。正統派ハイファンタジーです。
…困ったことに、前作の話をほとんど覚えてませんでした。シリーズモノの場合は前作のあらすじをさらっと流してくれるようにしてほしいものです。(かといってグインほどしつこく書かなくてもいいけど)
描写や構成もソツがなく、手馴れてるなあとは思うんですがなんかもうひとつ話にのめり込めないんですよね。次回作を読むのはどうしようかな…でもこれ鎌部さんのデザインなんだよねぇ…(←この人のだけはデザインで本を買ってしまう)


●「レディ・スクウォッター」都築由浩[電撃文庫]570円(00/12/14)

あらすじに惹かれるものがあったのでなんとなく買ってしまいました。
宇宙を舞台にした「ダイ・ハード」みたいな作品かと期待した…んだけどなあ。
未来。難破宇宙船観光ツアーの下調べに赴いたアルたちは、宇宙船の中でひとりの少女と出会う。そして、その宇宙船には人類の天敵である、恐ろしい怪物《リッパー》の巣と化していた…
うーむ。全体的にイマイチ感が。敵の特性が消化しきれてなくて、リアリティが感じられず、設定のための設定になっている。…今、あらすじを読んでみたんですが、古代文明の生物兵器って、本編にそんな説明あったっけ? てっきり謎の生命体かと思ってました。それにしても、あれだけ圧倒的な特性があって旺盛な繁殖力を持っているなら、もっと人類ズタズタにされてそうに思えるんですが?
あと、世界が薄っぺらいとか、キャラが浅いとか、細かい設定の傷(宇宙船の安全対策システムがあまりにもお粗末なのが特にひっかかる)が、ストーリーに安っぽさを与えてしまっている。まあ、平均的なライトノベルズといえますが。
個人的には、ヒロインの身勝手さにムカついてしまいました…
電撃の本なのにブックデザインした人の名前が載ってないのが珍しいですな。モノクロのイラストはわりといいです。


●「天使の囀り」貴志祐介[角川ホラー文庫]762円(00/12/13)

「黒い家」「クリムゾンの迷宮」でお馴染みの貴志祐介のホラー。2年ほど前にハードカバーで出たときにかなり評判になってたので、文庫になって早速ゲット。
新聞社の企画でアマゾン調査隊に加わった作家の高梨は、アマゾンから戻ってきてから性格がすっかりかわってしまった。「天使の囀りが聞こえる」という言葉を残して、不可解な自殺を遂げてしまう。その死の謎を解明するために恋人の早苗は調査をするが、分かったのはアマゾン調査隊の面々が次々と異常な方法で自殺を遂げていることだった…
理系ホラー。クリアで理落ちなので、曖昧さゆえの恐怖は薄いですが、ううう、当分は生モノが口にできないよ〜〜〜。ひぃぃぃ〜〜〜
頭の中がもぞもぞするような気持ち悪さ。よく調べている上に、筆力がある人だけに、余計。
ホラーとしてはおもしろいですが、しばらく後遺症に悩まされてしまうかも。
…関係ないけど、途中の某エピソードを読んでて「…伊角さん…」と思ってしまいました。


●「グイン・サーガ76 魔の聖域」栗本薫[ハヤカワ文庫]540円(00/12/12)

「グイン・サーガ」シリーズの新刊。メインはパロ話の続き。久々にグインがでてますが、少々色ボケ気味のよう。助けに来てほしいんだけどな〜。あとはこれまた久々のリンダ。今回の話はわりと持ちなおしてきたかなあという感じでした。ラストがあんなところで終ってますが、あの人のことだからなあ、一筋縄ではいかないと思うけど。
末弥さんの表紙イラスト(今回はレムスでした)のできばえがすばらしいですね。
作者あとがきは…2ちゃんで言われたことにまともに反応してどうするんだ、って感じがするんですが。ああいう書き方をするから、NIFTYのFSF2のグイン会議室のことかと誤解されるわけで。
あとやおいは、そりゃ私は「真夜中の天使」も「終りのないラブソング」も読んでましたけど、姫連呼はうっとおしいんでやめてほしかったです。


●「ポケモンストーリー」畠山けんじ・久保雅一[日経BP]1400円(00/12/10)

「ポケット・モンスター」がどうやって生まれ、そして世界の「ポケモン」になるためにどうやって展開していったかを関係者の豊富なインタビューを元にまとめたビジネス書。力作。平易な言葉で書かれているので子供でも読めます。
ポケモンがらみの本はいくつかでてますが、ずっとこういうのを読んでみたかった。ビジネス書においては「成功したものが正義」ですからこの内容にしても一面的な部分しか描かれてないのは否めないですが、ゲーム黎明記のワクワクした感じやキャラクタービジネスの難しさなどを感じさせてくれる作品でした。
いい素材をどう調理するかが大切なわけで。
著作権の今のしばりや、企業側の頭の堅い対応は好きではないんですが、こういう本を読むとキャラクタービジネスを成功させるためにどれだけの投資を行い苦労をしたかが分かってしまって、キャラクターを守るために企業が神経質になるのも理解できなくはないんですよね。かといって、「子供が書いたキャラクターのらくがき」をWEBに置くことまで制限するようなことをされると息苦しいですし。なんか共存の道ってないのかなあ。
とにかく、この分厚さと読み応えでこの値段はお徳かも。ポケモンに興味を持っている方やビジネスマンだけはなく、キャラクタービジネスに興味のある方、またWEBで何かのファンサイトを運営されている方は読んでみるといいかもしれません。


●「日曜日の沈黙」石崎幸二[講談社ノベルス]740円(00/12/10)

20世紀最後の「メフィスト賞」受賞作。……ここしばらくのメスィスト賞はアタリが続いていたためについ買ってしまいました。
ミステリ作家・来木来人の謎の死から2年。地方のホテルでミステリイベントが行われた。その目玉は来木来人の未発表資料。来木来人は生前「究極のトリックを見つけたんだ。お金では買えないくらいのね。」と公言していたが、未発表資料にはそれが関わるのか…
久々にメフィスト賞らしい作品ですな。講談社ノベルス以外ではこの本は出版できないでしょう。
「ミステリィ」という表記や、作家と同じ名前の探偵(?)など「講談社ノベルスを読んで小説をかいた」んじゃないかと彷彿させるような雰囲気で。一発ネタの気配がプンプンしてます。
肝心のトリックは肩透かし。あと、女子高生ふたりのかけあいは正直いって苦痛。お話自体は軽いのでサクサクとは読めますが。
メフィスト賞の作品は人の感想を聞いてから買うべきだったなあと思いました、はい。


●「転・送・密・室 神麻嗣子の超能力事件簿」西澤保彦[講談社ノベルス]900円(00/12/10)

「夢幻巡礼」に続くチョーモンインシリーズの最新作。今回は短編です。
「チョーモンイン」というのは「超能力者問題秘密対策委員会」の略で、超能力者が起こす事件を解決するための秘密組織。その見習い相談員の嗣子とゴージャスな美女の能解刑事、売れないミステリ作家の保科に加えて保科の別れた妻の聡子らが事件を解決するというシリーズもの。コミカルな感じの話です。
例えばテレキネシスがあれば密室なんて簡単に作れちゃって、ミステリとして成立しない…はずですがこのシリーズの場合はその「超能力」があった上での本格パズラーとなっています。
今回のもなかなかおもしろかったです。シリーズ構成自体はSF寄りになっちゃったねぇ。シリーズ全体の謎とか。
このシリーズの場合は何も変わらずに同じ設定のまま話が続いてほしいものですが、そうもいかないんだろうなあ。少しずつ崩壊の兆しが見えるのが少し寂しいというか。
結構オススメのシリーズです。読む順番としては「念力密室!」(短編集)から入るのが一番よいかと。


●「夢界異邦人 眠り姫の卵」水落晴美[電撃文庫]590円(00/12/08)

電撃ゲーム大賞に最終選考まで残った作品の文庫本化。なんとなく本のたたずまいにひかれて手に取ったら鎌部さんデザインじゃないですか。鎌部さんは「ブギーポップ」や「キノの旅」のデザインもされてます。大ファンvなの。…というわけで、デザイナーで本を買いました。
現実の辛さに目を背け、夢の世界から帰ってこれず眠り続ける少女。サイコダイバーの紅美は少女を助けるために少女の夢の中に潜り込んだが戻ってこない。紅美を助けるために同業者の凛も夢の中に潜っていったが…
電撃らしくない、コバルトと見紛うようなイラストや本のデザインどおり、コバルトティストなお話でした。設定自体はありきたりですが、夢の世界のシステムや小道具、キャラ造詣などはセンシティブでセンスは悪くないですね。ひょっとしたら将来的に化けるかもしれない。編集者がうまく育ててくれれば。
一昔前のコバルトや少女マンガのようなお話が好きな人でなら読んでもいいかも。


●「ねむりねずみ」近藤史恵[創元推理文庫]520円(00/12/07)

「凍える島」に続くデビューニ作目の文庫本化。梨園を舞台にしたミステリです。
微妙な時期にいる少女たちの揺れを描かせるとすごくうまい作者ですが、それだけに終わらない人だったんですね。凛とした青磁のような美しさがありながらきちんと芯が通っているような話でした。
ミステリとしてはトリックや動機の作り方が必ずしも納得のいくような出来映えではないですが、話のたたずまいが素晴らしく、すべてを覆い隠すだけの魅力があります。愛憎を越えたところにある、役者の業を感じさせてくれます。
オススメ。ちなみに解説は完全ネタバレですので、本編より先に読んではいけません。


●「夢の宮 〜月下友人〜(上/下)」今野緒雪[集英社コバルト文庫]476円/495円(00/12/07)

「夢の宮」シリーズ最新作。しばらく積読になってました。
今回は、男女2×2のラブコメ。しかも男同士・女同士が大親友というパターン。多少の行き違いはあるものの、気持ちはきちんとクロスしているから、ラブストーリーとしては辛いものじゃないです。ほのぼの。
どうってことない話なんですが、でもこれが案外楽しかった。この作者って、生きるの死ぬのというような話より「マリア様がみてる」シリーズのように他愛のない話の方が向いてるんじゃなかろうか。
ちなみに「夢の宮」はそれぞれ独立した話ですのでどこから読んでも大丈夫。このシリーズは出来・不出来の差は大きいですが個人的には「夢の宮〜薔薇の名の王〜」「夢の宮〜十六夜薔薇の残香〜」がお気に入りです。


●「上と外(3) 神々と死者の迷宮 上」恩田陸[幻冬舎文庫]419円(00/12/06)

全5冊シリーズの隔月発行「上と外」の最新刊。
夏休み、考古学者の父に会うために中南米の某国に出かけた中学生の練とその義母の千鶴子、妹の千華子。その先でとんでもないトラブルに巻き込まれるが…
サバイバル小説やサスペンスとしての面白さと共に、ホラーやファンタジー的な要素も見え隠れする作品です。それにしても、こうきますか〜。終盤、もうわけがわかんない感じですが次刊ではそのあたりもはっきりするんでしょうか。とにかく次が待ち遠しいです。


●「かんたん短歌の作り方(マスノ短歌教を信じますの?)」枡野浩一[筑摩書房]1300円(00/12/05)

「てのりくじら」「ドレミふぁんくしょんドロップ」「ますの。」などを出している歌人の枡野浩一さんが雑誌で連載していた短歌教室を一冊の本にまとめたもの。
枡野さんは現代の今使われている言葉を使って、きちんと定型のリズムにのりながら散文のような短歌を作るヒト。そのマスノ流短歌指南の書です。あるアイデアを1つの表現にまで昇華するまでの様々なテクニックを具体的に教えてくれたりと結構実用的。さらりと読むと「私にもできそう」と一瞬思えてしまうけど、なにげない言葉の中からキラリと光る言葉だけを選び取るのはどれだけ難しいことか。
短歌に興味のある方は一読してみる価値はあるかも。この本に載ってる優秀な投稿作品もなかなか読ませるレベルのものだし。
枡野さんって文章もなかなかうまくて、エッセイ系の「君の鳥は歌を歌える」「漫画嫌い *枡野浩一の漫画評(朝日新聞1998〜2000)」もおもしろいです。リズムのよい「言葉」が好きな方はぜひ読んでみて。


●「悪意の街 闇魔術師ネフィリス」梅津裕一[角川スニーカー文庫]600円(00/12/05)

ビジュアルデザインが印象的だったので買ってみました。
放浪の闇魔術師・ネフィリスが辿りついた街・フェルヴァースは混沌とした状況に陥っていた。領主は病気で床につき、領主代理は頼りない少女、そして魔女が暗躍しチンピラが幅を利かせていた。ネフィリスは依頼を受け、魔女を討伐することとなったが、さらに恐ろしい事態が街を襲うことに…
設定といい、ストーリー展開といい、ここまでネガティブなのはライトノベルズには珍しいですな。文字通り「悪意」に満ちた話。
でも設定にしても文章にしてもサラリとしてサクサク読めちゃうんですよね。この手の話であれば、もっとどろっと粘性の高いものの方がいいんだけども。古橋秀之の「ケイオスヘキサ」シリーズみたいに。
かなり血肉が飛ぶ話ですが、読んでてもうひとつ痛さが伝わってこないなあ。そういう点とかキャラクターポジションとか少々カラ回りしている印象が。つまらないというわけではないんですが、うーむ。


●「ハイクスール・オーラバスター ミレニアムBOOK NEO」若木未生[集英社コバルト文庫]600円(00/12/03)

「ハイスクール・オーラバスター」シリーズ11周年記念本。短編「シャドウ・イーター」他、今までの歩みを振り返ったり、キャラインタビューやら対談や、作者インタビューとか。
私自身はこの作品にはあまり思い入れないんで、「ふーん」って感じで読み飛ばしてしまいましたが。このシリーズはコバルトの分岐点に当たる作品なだけに、リアルタイムでみてきたファンの方には感慨深いんだろうなあ。
この作家さんのだったら私はとにかく「グラスハート」の続きを書いてほしいです〜。あのシリーズは傑作だと思う。


●「富士見二丁目交響楽団シリーズ第4部 アポロンの懊悩」秋月こお[角川ルビー文庫]533円(00/12/03)

大人気「富士見二丁目交響楽団シリーズ」の最新作。留学編です。挿絵が変わってから二作目かなあ。まだどうも慣れない…
話の方は、悠季の思いこみからの圭とのケンカとその修復。じたばたしつつ前に進んでる感じ。サクサクと読めましたし、旅行記としておもしろかったかも。
このシリーズはバリバリのホモな話ですが、音楽モノとしてわりとしっかりしているのでホモが苦手な男性でも読めなくもないようです。読むなら一作目から。


●「作家の値うちの使い方」福田和也[飛鳥新社]1300円(00/12/02)

エンターティメント作家50名、純文学作家50名をとりあげ、主だった著作に100点満点で評価をつけて話題となった本「作家の値うち」の反響と影響をまとめた一冊。対談やインタビューが多かったので、何度も同じ主張を読むのは少し苦痛でした。あと話としては純文学寄りのものが多かったために、その方面が苦手な私にはよくわからない内容が多かったです。
「作家の値うち」自体は、商業出版でああいうことをやるのは度胸があるなあと思いますが、この人と私は趣味合わないのでブックガイドしてあまり参考にならなかったです。
新本格派を買かぶりすぎてるのもなんだか。いや私もそのあたりのミステリのとんがった感じ、好きでしたが。ミステリだけエンターティメントとして勘定にいれてるのが気に食わないだけかも。SFとかファンタジーにもいい作品はあるんだけどなあ。
あと重箱の隅つつきですが「アルジャーノンに花束を」がブームになったきっかけは小室哲也ではなく、氷室京介だったのでは?


●「空想主義的芸術化宣言」森村泰昌[岩波書店]1800円(00/12/01)

…うーん、なんか買ってしまいました。作者はセルフポートレートを中心に活動している芸術家なんですが、それが名画のパロディ場面だったり有名女優だったりする人なんです。結構それがおもしろい。2年ほど前に行われた京都国立近代美術館の展覧会もいったけど、なかなか愉快で。視点と、2重構造の面白さというか。
文章も結構イケる方です。「踏みはずす美術史」「芸術家Mのできるまで」もなかなかおもしろかったしね。今回は、「空想」をテーマに芸術論、オリジナルとモノマネの関係と価値、「見る←→見られる」関係と美術の在り方などの他、大阪論や高村薫論などなど柔軟に語っています。
特にオリジナルとモノマネについての話は興味深かったですね。文化というのも結局は他者からの模倣や引用、オマージュなどで成り立って来ていることを考えると、今の自作の著作権を声高に主張することが多く、一方で安易なモノマネが氾濫している状況では表現がいずれ閉塞してゆく危険もあるかもしれません。
この本には森村さんの作品の写真が多数収録されてますが、この方って足のラインきれいだよね〜。だからこそ女装がサマになるんだろうけど。


●「多重人格探偵サイコTV MPD-PSYCHO/FAKE 第2巻」原作:大塚英志/許月珍[角川スニーカー文庫]419円(00/12/01)

WOWOWでテレビドラマ化され、現在DVD発売中のドラマ「多重人格探偵サイコ」の脚本を元にノベライズした「多重人格探偵サイコTV MPD-PSYCHO/FAKE 第1巻」の続編。
今回もいいですなー。ひょっとしたら許月珍って、大塚さんよりも言葉の選び方やイメージの作り方、うまいかもしれない。このサイコシリーズの読者で、「TVのノベライズじゃなあ。大塚さんじゃないし」と思っている方はぜひ読んでください。失望することはないでしょう。
話は1巻以上に思わせぶりで意味不明。でも意味を求めるよりも、このサイコシリーズ全体の少しずつずれて重なってバラバラな、多重露光された写真のような構造のおもしろさとイメージの奔流を楽しむんでいます。
大江朔ってどこかで聞いた名前だけど…と思ったら、マンガ「東京ミカエル」の主人公じゃないですか。キャライメージは全然違うけども。
このシリーズを一番楽しむためには、最初はクリアなものから入った方がいいかと。基本的には発刊順ですね。後になるほどチンダル現象を起こしているので。
マンガ版サイコ1,2→スニーカー小説版「サイコ No.1情緒的な死と再生」「サイコ No.2阿呆船」→マンガ版3,4→講談社ノベルズ版「多重人格探偵サイコ 雨宮一彦の帰還」→マンガ版5,6→「多重人格探偵サイコTV MPD-PSYCHO/FAKE 第1巻」→本書
が一番楽しめると思います。間違ってもこのドラマ版ノベライズから読まないで。意味がわかんないと思いますから。


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