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最後の戦士達

第九章

約束

 実際にナティが眠っていたのは一ヶ月ほどの間だった。
 ピンや医者に礼を言って、五人は村を出た。
 故郷へ向けて出発するのだ。まずはユメやセイ、トライの故郷デイのシェアーを目指すことになった。
 シュラインからの情報で、五人は戦争のきっかけを作ったとして手配されているということを聞いた。しかし何を考えているのか、それとも考えていないのかはわからないが、五人の名前も人相も分からないということになっていて、各国でも上の者にしか伝えられていないということだった。
 シェアーへ向かっている間も戦争は継続しており、世界の状況もさほど良いものではなかった。まだウィケッドの軍がデイに上陸してきているわけではない。しかし、資源がどんどん軍需に持っていかれてしまい、様々な物が不足し始めていた。
 年が明けてから五人はシェアーに到着した。
 ユメがかつて暮らしていた道場から成人の男は老人を除いてほとんど居なくなっていた。兵役だそうだ。マイもおらず、ロウクと数人の男がユメ達を出迎えた。
 セイとトライは自宅へ戻り、ナティとカムは以前と同じように、道場と同じ敷地にある寄宿舎に部屋を借りることになった。
「今日中に、ウィケッドに向かって出発しようと思ってる」
 ナティがカムに言った。
「今日中? またえらく早いな。昨日やっとシェアーに着いたばかりだ」
「早いほうがいいと思って」
 ナティが笑った。
 いつも、ナティが考えていることはカムにはよくわからない。

 日が沈みかけていた。
「あ、ユメー」
 他の数人と一緒に道場の清掃をしていたユメに、セイが声を掛けた。
「ナティ、今日出発するのね」
 カムから聞いたことを、ユメに言う。当然、ユメは知っているものだと思っていたのだ。
 だが、ユメの反応はセイの予想とは違っていた。
「何のことだ。俺は聞いてないぞ」
「え。あ、わたしもカムから聞いただけだし……。あっ、ちょっとユメ!?」
 明らかに怒った表情で、ユメは歩いて行ってしまった。

「というわけで、ユメはまだ聞いてなかったみたいなのよ」
 セイはカムに言った。
「なるほど。てか、何考えてんだナティは。ナティが寝込んでる間、一番心配してたのはユメだぞ」
「そうよね。そのユメに、出発することをまだ伝えてないなんて」
「ナティに問い詰めてくる」
 カムはそう言って、ナティの部屋へ向かった。
「ナティ、入るぞ」
 カムは言ってから、返事を待たずにナティの部屋の扉を開けた。
 部屋の中は片付いていた。元々、来たばかりなのだから、あまり散らかっているわけもないのだが。
 鞄が二つ三つ、床に置かれていて、その前にナティは居た。
「なんだ、カム」
 顔を上げて、ナティが言う。
 カムは部屋に入って扉を閉じた。
「なんだじゃないだろ。お前、まだユメに出発すること言ってなかったのか」
 カムが言うと、ナティは困った顔をした。
「ああ、後で言えば良いかと思って」
「いや駄目だろ。好き嫌いとかそういうのは別としても、世話になってるんだから。今こうやって部屋借りられるのも、ユメ達のおかげだし」
 荷造りをやめて、ナティは椅子に座った。カムも適当に寝台に腰掛ける。
「もし、俺がユメに、一緒に行こうと言ったら、ユメは多分来てくれるだろう」
 ナティが言う。
「すごい自信だな」
 カムが言うと、ナティは首を横に振った。
「ユメは頼まれたら断れない性格なんだと思う。別に俺じゃなくても、言われれば一緒に行くんだろう。だから、言われたから行くとか、そういうんじゃなくて、ユメの意思で来るかどうか決めて欲しいんだ」
 ナティに言われて、カムはユメのこれまでの対応を思い出してみたが、特にそういう気質には思えなかった。
「それを俺に言うんじゃなくて、ユメに直接言えばいいんじゃないのか? 一緒に来て欲しいとかいうのは、言わなかったら、ユメにだって伝わらないだろ」
「それも何か違う気がしてな。まあユメの意思と言っても、同情だとか世界を救うとかじゃなくて、」
「ああ、もう良いよ」
 カムは言いかけたナティの言葉を切った。
「まどろっこしいな。お前が言う事はいちいち長いんだよ。お前がユメに言うことはこれだ」
 カムは立ち上がった。
「『好きだ。一緒に来てくれ』ってな」
 大げさな手振りを加えて言う。
「……お前は相手にそんなこと言うのか?」
「いや、言わない。俺ならもっとうまくやる。でもナティだからな」
 上からナティを見下ろして、カムは言った。
 カムはまた座った。
「まあ、台詞はともかく、気持ちを伝えるというのは大切なことだ。少なくとも、最初はな。要はきっかけだよ、きっかけ」
「ほう。それで、自分がちょっとでも良いと思った相手には声を掛けて回るのか、お前は」
 偉そうに話すカムに少し腹が立って、ナティは言った。
 今までも、カムが歓楽街で見知らぬ女性と歩いているのを目にすることがあった。それを目撃してもセイに言うつもりはないし、ナティには理解できないものの、そういう人間も居るのだと思って、見て見ぬふりをしていた。
「金を払う相手と一緒にするなよ」
 別に、カムはそれを隠そうとは思っていない。もちろん、セイに知られたら全力を上げて言い訳を考えるつもりだが。
「あれは、飲み代やら何やらを俺が使って、それで遊んでるんだ。ああいうのは後腐れがない方が良いし、そんな相手を好きになったりはしない。そりゃあ、どうせ金使うんだから、俺の好みの相手を探すけどな」
「わかったわかった。お前の主張を、まるでそれが正しいみたいに言うな。そんなのは人それぞれだろう」
 ナティが言う。
 カムは一瞬言葉に詰まった。
「まあ、そうなんだが」
「語るのは結構だが、カム、お前はうまくやってるのか」
 相手の名前は出していないが、当然セイのことだ。
「順調。だから、お前もうまくやれ」
 カムが言った。

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