「なんで俺だと分かったんだ」
イーメルに聞く。
「すぐに分かった。体格とか……動作とか?」
最後が疑問系だ。
イーメルにもはっきりとした確証は無かったのかもしれない。
「なあお姫さん、一緒に来てもらうけど、これから起こることや見ること、誰にも言うなよ」
「わかった」
イーメルが短く答えた。
三日かかって、ルカ達は竜の洞窟がある山に辿り着いた。北へ随分来たから、砂漠地帯も抜けた。テリグラン−テリに近いのかと言われるとそうでもない。テリグラン−テリは山脈の中だから、まだかなり遠いのだ。
竜の洞窟は鍾乳洞だそうだ。今や観光名所となっている為、付近には小規模な集落が出来ていた。とは言え、この冬の寒い季節にわざわざ北方のこの辺りに来る観光客は居ないようで、誰ともすれ違っていない。
「ここは……ダイゴラス・トーチスか」
イーメルが言う。
「ああ」
ソルバーユと別れてから、イーメルは一度も『どこへ行くのか』とルカに聞いていない。
今更隠しても仕様がないので、ルカは素直に答えた。
「では、そなたはディガー・ソードを探しておるのだな」
「そうだ」
以前ソルバーユに言われたことが頭を過ぎる。イーメルが王に付くと言ったらどうするのだ、と。
まだわからなかった。考えたくなかった。
「ディガー・ソード、竜の剣か……。確か、竜の牙だか鱗だかで出来ているとかいう。普通の剣では歯が立たぬから、それを手に入れようというのだな」
「そうだ」
イーメルは反対するだろうか。もしはっきりと反対されたら、ルカはイーメルを敵とみなすしかなくなってしまう。
反対される前に、イーメルを追い返してしまおう。
思って、ルカはイーメルを振り返った。
「お姫さ――」
「わらわも行くぞ」
ルカの言葉は言い出しで遮られた。
イーメルが笑う。
「竜の剣、妖精族は触れるだけで死ぬという。危険な物であるが故に、それを造った賢者はこの鍾乳洞の奥にそれを隠し、その前に『真実を試す鏡』を置いて侵入者を阻むと聞く。面白いではないか。そなたがかの剣を手にすることができるかどうか」
『真実を試す鏡』? そんな話は聞いていない。
ソルバーユが、道を間違えると戻れないと言っていたが、それと何か関係があるのだろうか。
「なんだ、その鏡って」
「なんじゃ、知らぬのか。それも含めて観光名所だというのに」
「いや、今そんな観光とかほのぼのした話してるわけじゃないから」
「見れば分かる」
イーメルが言って、ルカの腕を引き、洞窟に入った。
「見るがよい」
洞窟の中に入ったというのに、外に居るのと変わらず明るい。
ルカは辺りを見渡して、言葉を失った。
壁一面に、ルカ達の姿が映っている。それはお互いに反射し合って、幾重にも重なって見えた。
「鏡?」
明るいのは、外の光を反射している部分がどこかにあるからなのだろう。
「の、ような物じゃ。岩壁の表面を流れる水分に、こういう効果があるらしい。毒らしいからな。妖精族なら長いこと居ても良いが、人族なら半日も持たぬであろう」
イーメルの話を聞きながら、ルカは天井を見上げた。鏡は天井までアーチ状に埋め尽くしていた。
地面を見ると、所々に反射する水が流れて糸のような水路を作ってはいるが、基本的には普通の土のようだった。
ルカはソルバーユに描いてもらった地図を広げた。自分の先に繋がる道と地図を見比べようとするが、自分達の姿を映す鏡が見えるだけで何も分からなかった。
そういう場合は片手を壁に付けて歩けば良いのだろうが、先程イーメルから毒だと言われたばかりだ。触ることはできない。
地面は分かるから、それを頼りに進むことにした。
「お姫さん、ついて来てくれ」
ルカは歩き出した。
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